「汐里に役職で呼ばれると壁を感じる」
「前妻にも役職で呼ばれていたくせに」
「やめろよ、3年も前の話だ」
新実さんはバツイチで、前妻は取引先の部長の娘さんだった。
別れる時はかなりの泥沼だったと聞いたけど、それも過去の話。
私とは何の関係もない。
「なぁ、俺ら付き合うようになって、どれくらい経った?」
「2年くらいかな」
「そんなになるか……汐里の歴代の彼氏の中では長い方じゃないか?」
「それって自慢?」
「汐里のそういうところ、好きだな」
満足そうに微笑んで、ワイングラスを合わせる仕草をする。先輩・後輩という関係を、越えて2年。
そろそろ次のステージを意識しても良いかと思う時期ではある。
上司である彼がその相手なら、「仕事が何より大事」という私の思いを尊重してくれるはず。
「お待たせしました、こちらデザートです」
好きな歌に、『人生をフルコースで例えるなら』という歌詞がある。
最後に甘いデザートを食べるためには、理想を1つ1つ叶えていくことが大切だと思う。
ガトー・オ・ショコラ。
大好物のデザートを頬張りながら、彼はこう言った。
「俺さ、もうすぐ結婚するんだ」