くらし情報『【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第1話)』

【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第1話)

「汐里に役職で呼ばれると壁を感じる」

「前妻にも役職で呼ばれていたくせに」

「やめろよ、3年も前の話だ」

新実さんはバツイチで、前妻は取引先の部長の娘さんだった。

別れる時はかなりの泥沼だったと聞いたけど、それも過去の話。

私とは何の関係もない。

「なぁ、俺ら付き合うようになって、どれくらい経った?」

「2年くらいかな」

「そんなになるか……汐里の歴代の彼氏の中では長い方じゃないか?」

「それって自慢?」

「汐里のそういうところ、好きだな」
満足そうに微笑んで、ワイングラスを合わせる仕草をする。先輩・後輩という関係を、越えて2年。

そろそろ次のステージを意識しても良いかと思う時期ではある。

上司である彼がその相手なら、「仕事が何より大事」という私の思いを尊重してくれるはず。

「お待たせしました、こちらデザートです」

好きな歌に、『人生をフルコースで例えるなら』という歌詞がある。
最後に甘いデザートを食べるためには、理想を1つ1つ叶えていくことが大切だと思う。

ガトー・オ・ショコラ。

大好物のデザートを頬張りながら、彼はこう言った。

「俺さ、もうすぐ結婚するんだ」

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