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戸惑い
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この土日は、英会話教室に通う予定だった。
気力があれば部屋の掃除もしたかったし、撮り溜めしていたドラマや映画も見ようと思っていた。
なのに、ボッーとしたまま48時間が経過し、気が付けば月曜日の朝。こんなどんよりとした気分で出社するのは、いつぶりだろう?
仕事中は、余計なことを考えないようにしないと。
「高杉先輩~、このデータなんですけど」
困り顔をした旭日が近づいて来た。どうやら入力が終わっていないデータがあるらしい。
「それは、雪村さんに頼んだ分だから彼女に聞いて」
「ですよね~、でも雪村さんは知らないって」
「どういうこと?」
視線を動かして雪村さんを探すと、彼女は泣きそうな顔をしながら新実さんのデスクの前に立っていた。
その姿を見ながら、不意に新実さんの言葉が脳裏で再生される。
『俺さ、もうすぐ結婚するんだよね』
『……だ、誰と?』
『雪村 理来(りく)』
『ゆきむら……』
『知ってるだろ? あいつ常務の姪っ子だからさ。こんな良い縁談、逃す手は無いだろ』
結局データの入力忘れは、私の指示不足ということで片付けられた。