【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
ゆっくり目を開けると、帰ったはずの伊野さんが男の腕を掴んでいた。
「何してるんですか? 警察呼びますよ」
「お前……さっき、こいつと一緒にいた奴だな。どういう関係だよ」
「失礼な人ですね」
不愉快そうに眉をひそめた伊野さんは、おもむろの私の肩を抱き寄せた。
「彼女の恋人です」
え……? 思わず伊野さんの顔を見上げると、「ね?」って目で合図を送られる。そうか、なるほど。
「そう、この人は私の彼氏よ」
「なっ、何だよ、彼氏がいたのかよ」
「分かったなら、もう付きまとわないで」
「言われなくても、嘘つき女なんかこっちから願い下げだ」
男はそう言うと、毒づきながら帰って行った。男が完全に見えなくなってから、伊野さんが短い溜息を落す。
「行きましたね」
「ええ……あの、ありがとうございます」
「いえ、諦めてくれて良かったです……あっ、すみません」
伊野さんは慌てて、私の肩に回していた腕を下ろした。
「助かりました。でも、どうして戻って来たんですか? 帰ったはずでは?」
「あ、それはですね……」
言いにくそうに頭を搔く。
「夕食を一緒にどうかと思いまして」
「え?」