【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
「(それもこれも、自分で蒔いた種だよね)」
仕事を退職してから2週間くらいが経ったある日、家のインターフォンが鳴った。平日の昼間に誰だろう?恐る恐る玄関のドアを開けると、赤城さんが立っていた。
「突然ごめんね、今いいかな?」
「あっ、はい。でも部屋の中は散らかっているので、外で……」
びっくりした。まさか赤城さんが訪ねて来てくれるなんて……。天気が良いので駅前のカフェでドリンクとサンドイッチをテイクアウトして、近くの公園へ移動した。手頃なベンチを見つけて腰を下ろしたところで、赤城さんが私に尋ねる。
「部屋の中を片付けているみたいだったけど、引っ越しでもするの?」
「……はい。
祖母がいる田舎に帰ろうと思いまして」
「あのことが原因?」
「それもあるけど、実はずっと体調を崩してて。田舎でゆっくりしたいなって」
「そっか」
うん、と頷いた赤城さんは、私の手を握った。
「藤川さんが退社したとき、あまりにびっくりして。冷たい態度を取ってごめんね」
「いえ、私の方こそ嘘を吐いていて、ごめんなさい」
「正直、ガッカリしたけどね……。でも、それでこれまでの信用が変わるわけじゃないしね」