【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
『それより、あんたまだ風邪が治ってないの? 酷い声だけど』
「大丈夫だよ。ごめん、切るね」
1番のダメージは職場だった。所長室に呼び出された私は、苦い顔をした所長にこれまでのことを説明した。重々しい雰囲気と緊張からめまいと吐き気が催してくる。
「大変なことをやってくれたね……」
呟くように言った所長は、目の前にある内容証明郵便に視線を落とし溜息を吐く。
「申し訳ありません」
「こうなってしまった以上、うちも厳しく対処しなくてはならない」
「……クビですか」
「調査員が対象者に手を出すなんて前代未聞だよ。自分がやったことを分かってるよね」
「はい。すみませんでした。
お世話になりました」
当然といえば、当然だ。つい先日まで冗談を言い合いながら一緒に働いていた同僚からも、冷たい視線を向けられる。
所長室を出て、自分の荷物をまとめる間も空気が重い。去り際、みんなに向けて一礼をしたけど、赤城さんは最後まで視線を合わせてくれなかった。
「藤川」
エレベーターでビルの1階まで降りると、咥え煙草の仲西さんが立っていた。
「仲西さん……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「やめろよ、お前らしくない」