2019年6月8日 16:00
劇作家・渡辺えり「認知症親と行った旅行が舞台執筆の糧に」
それで必死に10日間休みをつくったんです。そのときはまだ両親も元気で、移動の際も私のトランクを持って走ってくれて、すべて時間どおり、間に合ったんです。母親と一緒に露天風呂に入って背中を流し合ってね。本当によかった。当時の写真は母もいまだに喜んで見ています」
今夏、渡辺が主宰するオフィス3○○の舞台『私の恋人』はその旅行体験が生かされているという。
「両親と広島の原爆資料館に行ったときのことです。私も初めてでした。私は劇作家ですから、人間のしでかした所業は人に伝えなくちゃいけない。
これは見なくちゃと思って、目を見開いて全部見て出たんですけど、途中で両親を見失ったんですよ。おかしいなと思って外に出たら、噴水の前のベンチに2人でうなだれているんです。とてもじゃないけど見てられなかった、と2人で泣いているんです。戦争経験者ですから、心が傷つきすぎて5分で出てきたんです」
渡辺はドイツのミュンヘンでナチスがユダヤ人を隔離するため造ったダッハウ収容所にも足を運んだそう。
「今度の舞台『私の恋人』もダッハウがモチーフなんです。ガス室の隣に焼却炉が3つ並んでいて、ここで亡くなったという部屋もすべて見て色も覚えてます。