エリート医師が選んだ自給自足「マシーンから人になれたよう」
それは40歳のときだった。
同病院で助産師をしていた妻・リエさんはこう話す。
「すごく仕事のできる医師でしたね。でも、一方では人間離れした、精密マシーンのような人とも思われていました。いざ新婚生活を始めてみると……、会話が成り立たないんです。夫は自分が興味を持ったこと以外、話に乗ってこないというか。間違ったことは一切、言わないんですけど、それこそ、まるでAI、マシーンと暮らしてるみたいでした」
そんなとき、夫から切り出されたのが「大学を辞め栃木に移住したい」という話だった。リエさんは、これで何かが変わることに期待していた。
「だから、『本当はしたいことがある』と打ち明けられたとき、ホッとしたというか、そちらに進むほうがいいと思えたんです。驚くほど、夫は変わりました。いまは些細なことも笑いあえるし、彼との会話がとても楽しいんです。血の通った人間と暮らしているという実感がちゃんと持てるようになりましたね(笑)」
マシーンから人間へ、何が本間さんをそこまで変えたのか。すると当人、少し照れ臭そうな笑みを浮かべると、こう言葉を続けた。
「論文が評価されてアメリカに留学したり、大学内で出世して教授を目指そうとした私というのはきっと、他人に見せている自分だったんです。