2020年9月14日 11:00
“あしなが”設立の玉井会長「早世した妻が背中を押してくれた」
玉井さんとの年の差は25歳!
「由美は形にこだわらず、大胆でしたが、結婚となると話が違うと考えたのは僕のほう。年の差とは僕が先に死ぬことです。これは『越えられない神のハードルだ』と、僕は由美に言ったんです」
それからしばらくたったある日、由美さんは突然、こう告げた。
「私はあなたを愛しています」
思わず、「からかっているのか?」と、問う玉井さんの瞳をまっすぐ見つめて、由美さんは言った。
「私、真面目です」
神のハードルをひらりと飛び越え、由美さんは玉井さんの心にまっすぐ飛び込んできた。
残酷な運命が待ち構えていることなど気づきもせずに――。
その少し前から、右手の痺れを感じていた由美さんは、大学病院で検査を受けた。頸椎に、がんができていた。
由美さんは、玉井さんには動揺を見せなかったが、日記には「辛い、怖い」と書いていた。「独身でよかった」とも――。
今度は、玉井さんが神のハードルを飛び越える番だった。
「結婚しよう」
85年11月、山王日枝神社で簡素な式を挙げ、高輪に新居を構えた。由美さんは、すでに包丁も握れなかったが、幸せだった。
由美さんは気丈な人だった。しかし、結婚から1年もたたずに、日常生活がままならなくなり、実家で療養することになる。