念願の青春を手にした“81歳の高校生”人生で初めて夢を持てた
教科書が入った重いリュックを背負って、軽い足どりで京阪電車に乗り込むと、さっそく赤いカバーの電子辞書を開いた。
夜間中学に入学してから10年、肌身離さず持ち歩いている電子辞書。使い込みすぎて、表の赤い塗料のところどころが剥がれている。
「これがないと困るんよ」
と、いとおしそうになでていた。
「母が買ってくれたんです。私が夜間中学に行くことに、いろんな思いもあったやろけど、何も言わん。それが、入学が決まって、突然、黙ってこれを渡してくれたん」
その母は、生き生きと通学する村田さんを見届けて、6年前、94歳で他界した。
「ほんま母には感謝しかないです」
子ども4人に、孫は10人。
「ひ孫は5人まではわかっとるけど、たぶん、増えとる(笑)。たまに家族が集まると、見たことのない子がいてな。もういちいち覚えられませんわ(笑)。今の夢ですか?高校へ行って大学進学は大変とわかりましたから、卒業後は編み物の機械編みにチャレンジしたい。30代で講師の資格まで取ったけど、勉強し直して、仕事を探したいですね」
そんな話をしているうちに、高校に到着。正門で、たまたま一緒になった同級生に、村田さんは声をかけた。