2022年3月11日 11:00
夫・椎名誠も舌を巻く“冒険家”で作家の渡辺一枝さん「チベットの鳥葬に父の最期を重ねて」
「毎朝、祭壇のお水をかえて、五体投地というチベット式のお祈りをするんです。コロナ前は、チベットのお正月になると入りきれないくらいの在日チベット人を招いて、お祝いしていたのよ」
50歳を迎える年には、チベットの標高4,500メートルのチャンタン高原を半年かけて馬で行くという前代未聞の旅を成功させた。
「クルマだと道路があるところしか行けない。馬でなら、道がない場所も行けるから、テントや小さな集落を訪ねて地元の人たちの話を聞けると思ったんです」
馬でチベットを旅していた半年間、一枝さんと音信不通になった椎名さん。
人づてに「日本人女性がチベットを馬で走り回っている」と噂を聞き、「おっかあは生きている」と胸をなで下ろしたという逸話もあるほどだ。この体験は『チベットを馬で行く』(文藝春秋)に記されている。
チベットでは、忘れがたい経験をいくつもしたが、なかでも心に残るのが友人の“鳥葬”に立ち会えたことだった。
「チベットでは、人が亡くなったら鳥葬するのが一般的なんです。
三日三晩お祈りをして霊魂が体から抜けたら、亡きがらはお寺の鳥葬場に運んで、ハゲワシたちに“布施”として分け与えるの。