くらし情報『作家・渡辺一枝さん「3.11後の福島で見た『ふるさと』の喪失」』

2022年3月11日 11:00

作家・渡辺一枝さん「3.11後の福島で見た『ふるさと』の喪失」

そういう複雑な事情が、その言葉の裏にあることがわかってきたんです」

ふるさととは何か、を考えさせられるこんな方もいた。

「仮設住宅にいる間からずっと『帰りたい、帰りたい』とおっしゃっていたおじいちゃんがいて。避難指示が解除されたあと、すぐリフォームした家に戻られたの。さぞ喜んでいるだろうと思って訪ねたら、『こっちの家も、あっちの家も人が戻らない。寂しくてしょうがないから、昼時は窓際に座って、通り沿いの食堂に来るお客の姿を眺めてるんだ』って……」

テレビのニュースでは伝えられない現実がそこにあった。

「こうして福島の人々の話を聞かせてもらうなかで、ふるさとがどういうものかストンと腹に落ちた。土地じゃない、家じゃない、お祭りじゃない、そういうものをぜんぶ含めたそこでの暮らしがふるさとなんだ、って」

原発事故でふるさとを追われた人たちと、戦争という理不尽な力で流浪を強いられた自分や両親の姿を重ね合わせることもあった。

「浪江町(福島県双葉郡)の津島という地域は、千年も前からこの地で暮らしてきた人たちと、敗戦後に満州から引き揚げて身ひとつで入植した人たちが、一緒に山野を開拓してきた場所なんです。

関連記事
新着くらしまとめ
もっと見る
記事配信社一覧
facebook
Facebook
Instagram
Instagram
X
X
YouTube
YouTube
上へ戻る
エキサイトのおすすめサービス

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.