くらし情報『『ふたりの人を愛し…』歌人・永田和宏語る故・河野裕子さんとの青春』

2022年5月22日 06:00

『ふたりの人を愛し…』歌人・永田和宏語る故・河野裕子さんとの青春

「河野は左乳房3分の2の切除術を受けた後、放射線療法に入りました。幸い経過はよく、その時点で再発の恐れはないという。僕らは日常に戻りつつありました」

こう話す永田さんだが、もっともストレスを感じていたのは裕子さんだったと気づかされる。

「術後の左側の痺れやこわばり、痛みがありました。それを誰もわかってくれないという不満。その矛先が僕に向けられたんです。どれくらいいたわってくれるか、わがままを聞いて耐えてくれるか、僕を試しているようでした……」
裕子さんは永田さんの言葉尻をとらえて、責めてきたという。

「がんがわかったとき僕は『俺にも半分責任がある』と言いました。
夫として気づくべきだったと。しかしその言葉が独り歩きして、僕への非難になりました。『あんたのせいでこうなった』と」

しかし、どんなに体がいうことをきかなくても、夫の食事だけは欠かさず作ってくれている妻に、永田さんは慈しみがまさるのだ。そして裕子さんは、そのころの出来事をこんなふうに詠んだ。

《あの時の壊れたわたしを抱きしめてあなたは泣いた泣くより無くて》(『葦舟』より)

「この一首で、僕は、それまでの河野の激情も、罵言も、すべて許せると思いました」

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