シンガー・ソングライター小椋佳 もう燃え尽きた…でも、余生も愛燦燦
「コンサート前は、いつも“今日は声が出るのか”と心配になるです」と小椋さん
「どうも、お疲れさまです。はい、よろしくお願いしますね」
NHKホール(東京都渋谷区)の通用口に姿を現したのは、白い作務衣に黒いダウンジャケットを羽織り、ベージュのハンチング帽をかぶった高齢男性。
ゆっくりとした歩みで、楽屋へと続く通路を歩いていくと、ステージのメンバーがお辞儀をするのを見て、軽くあいさつをする。
「人生、もう生き尽くしたなって感じで、いつ死んでもいいと思っているんです。だからこの白い作務衣も、ボクにとっては死 装 束のようなもの。こうした大きなホールで演奏する音楽活動も、今日で最後です」
希代のシンガー・ソングライター、小椋佳(79)が語る。
東京大学法学部を卒業後、日本勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行してエリートコースを歩む一方、表舞台に出ないアーティストとして活躍。甘い歌声が魅力だが「楽譜は書き起こせないし、楽器も苦手」という異色の音楽家だ。
にもかかわらず、紡ぎ出した楽曲はのべ300人以上の歌手に提供され、代表曲には美空ひばりの『愛燦燦』、梅沢富美男の『夢芝居』、布施明の『シクラメンのかほり』など、枚挙にいとまがない。