孤独な遺体を受け入れ続ける夫婦2人だけの葬儀社の覚悟「身寄りがない方も私たちがお見送りします」
お口からちょっと、よだれかな、出てきちゃってるから」
声をかけられたのは夫の充さん(68)。「どれどれ」と棺の脇にしゃがみ込むと、小さな道具箱の中から脱脂綿を一つつまみ出し、丁寧にAさんの口元を拭い始めた。
石原さん夫妻は、福島県いわき市で小さな葬儀社「いしはら葬斎」を営んでいる。Aさんが横たわっていたのは、この葬儀社の遺体を安置しておくための部屋だ。
もともと、二人は大手の葬儀社に勤めていた。立派な祭壇にたくさんの花、大勢の参列者に豪華なお斎(食事)……見栄えのいい葬儀は、当たり前のように高額の料金が設定されていた。そんな葬儀を間近で見てきたきみ子さんは「もっと安価にできないのか?」と長年、疑問に思ってきた。そして、充さんを巻き込むようにして’10年、独立を果たした。
以来、スタッフは夫婦二人だけ。だから、余計な人件費はかからない。祭壇や香炉台などは、手先の器用な充さんがホームセンターや100円ショップで材料を調達、自作した。徹底的にコストを抑えた結果、破格の料金の家族葬を実現、提供してきた。
すると、思いがけないことに、地元市役所や警察署から、ちょっと“訳あり”な葬儀の仕事が舞い込むように。