孤独な遺体を受け入れ続ける夫婦2人だけの葬儀社の覚悟「身寄りがない方も私たちがお見送りします」
その瞬間、きみ子さんのなかで「夫を会社勤めのストレスから解放してあげたい」「もっと安価な葬儀を実現したい」、この2つの思いが掛け合わさった。
「そうだ。だったら二人で新しい葬儀社、始めればいいんだ!」
きみ子さんいわく「そこからは、起業のノウハウを猛勉強、二人で独立の準備に奔走した」という。ところが、妻の話を横で聞いていた夫は苦笑いを浮かべていて。
「いえいえ、全部妻がひとりで勝手に決めてしまって。私は『会社、辞めたい』なんて一言も。それに、このかた、勉強もなんも……、ただただ私に『葬儀社、やっから』って。それだけですよ(苦笑)」
夫のこの言葉に、妻は笑顔をはじけさせた。
「あれ、そうだったっけ?ま、私としては、夫の経験さえあれば、どうにかなんだろって(笑)」
こうして2010年2月1日、小さな葬儀社「いしはら葬斎」は、その産声をあげたのだが。起業したものの、仕事はなかなか入ってこない。充さんはひたすら事務所で電話番。きみ子さんは居酒屋のアルバイトをして、糊口をしのいだ。
■生活保護者の「福祉葬」から行政とのつながりが……
最初の依頼が舞い込んだのは、その年の6月。バイトの合間にきみ子さんがせっせと配ったチラシを目にした人からの電話だった。