岡部たかし『虎に翼』寅子の父語る元妻への感謝「彼女の一言が僕に翼をくれた」
「面白いとは何か?」に取りつかれるように、岡部は脚本作り・芝居に没頭していった。
「それまでの芝居は楽しい・軽い=面白いだけでしたが、このときは自分を突き詰めないといけなかった。それまで自分は、ずっと苦しみから逃げていただけやったと気づきました。芝居をやっていても誰にも褒められない。でもバイト先でなら『面白い!』と言ってもらえる。楽なほうへと逃げていたんです」
岡部が大切にしている、作家・町田康の言葉がある。
《面白いことはただ面白さだけでそこにあるのではなく、悲しみや苦しみとともにそこにある》
自らの家族との日常を脚本のネタにしたこともある。芝居へ精魂を注ぐ彼の舞台を観た妻は「むちゃくちゃ面白い!」と爆笑していたという。
「自分のこともネタにされても『こんなに面白いのは世に出るべきやで!』と言ってくれた。それ以降は、ずっと『面白い』と言ってくれています」
役者としての修業時代、着実に力をつけていくのと反比例するかのように、夫・父としての役割は遠く、薄くなっていった。
「正月に『サイゼリヤ』にこもってネタを作っていたこともあります。それまでは途中でいろいろとやめてきた僕が、それでも芝居をやめなかったのは、苦しいけれど“面白い”からでした」