岡部たかし『虎に翼』寅子の父語る元妻への感謝「彼女の一言が僕に翼をくれた」
幼子を抱え、美容師の仕事も休んでいた妻は和歌山の岡部の実家で暮らし、別居する時期もあった。妻は東京に戻っても、生活費を稼ぐためパートの日々。時給のよいラブホテルで勤務したことも。その間も夫は家に帰ってこない。
岡部はこのころ「子供と過ごす時間はほとんどなかった」と呟く。
やがて、息子が6歳になるとき、妻は一つの決断を下す。
《離婚してください。子供の養育費はちゃんと払ってください》
「33歳で息子を産み、当時は高齢出産といわれた時代でした。
美容師の職もあるし、将来のことを考えて決めたんだと思います」
妻と息子は、地元・和歌山へと帰っていった。
30代半ばを迎えた岡部にも変化が訪れていた。
警備員、テレホンアポインター、デリバリー業とバイトは続いていたが、芝居での新たな出会いを求め、小劇場のオーディションを受け続けるようになった。
「落ちてもいいから以前と違うことをやりたい衝動にかられました」
離婚したことで他力から自力へと“自立”したのかもしれない。
芝居ではさらに“面白い”を追求するようになっていた。
「喋るのが下手なので、飲みに行って相手に向かい『お前、おもろない!』と言いすぎて、ケンカになることもありました。