子宮・卵巣を全摘出、脳に腫瘍…大病の末に北新地放火殺人事件で兄を亡くした伸子さん
(撮影:塩川真悟)
「あなたも、しんどいことがあったら連絡してくださいね」
穏やかな口ぶりで、本誌記者に語りかける伸子さん。放火事件で兄を亡くした過去を持つ。「なぜこんな目に」。自らを襲った不条理に苦しんだ。
そんな彼女は、1年前から僧侶となるための修行を始めた。自らもやり場のない悩みや怒りを抱えたからこそ、人々の心に寄り添える。
晴れやかな表情を浮かべるようになるまでの道のりとは──。
奈良県大和高田市にある「ワンネス財団」の会議室で、20代の青年がとつとつと自身の胸のうちを話し始めた。
伸子さん(47)はうつむきがちな青年の目を見つめ、彼の話に真剣に耳を傾けた。
「彼は母親がある事件で亡くなり、犯人も死亡。怒りの矛先を失って、荒れた時期があったようです。怒りが高じて自傷することもあれば、犯人の家族に仕返ししようと考えてしまったりと、怒りが収まらない自分自身に苦しんでいるようでした」(伸子さん)
「ワンネス財団」は、社会から孤立しがちな元受刑者や、精神疾患・依存症などで生きづらさを抱えた人の“生き直し”を支援する専門機関だ。
伸子さんは今年2月から月2回ほどのペースでここを訪れ、入所者との対話を続けている。