子宮・卵巣を全摘出、脳に腫瘍…大病の末に北新地放火殺人事件で兄を亡くした伸子さん
事件を起こした谷本容疑者も、クリニックに通う患者の一人だった。容疑者死亡で不起訴となり、事件につながる動機や原因を知るすべは永久に失われてしまったが、いちばん無念だったのは、患者のためにと精いっぱい尽くしてきた弘太郎さん自身だったろう。
「ずっと多忙で、お正月に家族で集まっても、兄はいつも父とふたりで仕事の話ばかりしていました」
それでも、高校生だった伸子さんが、進学で家を離れた弘太郎さんに書いた手紙が15?16通、遺品のなかから出てきたときは驚いた。
「私の手紙を大事に持っていてくれたなんて。兄はやっぱり優しいと思いました。私が病気をして、入院したときもお見舞いに来てくれました。長居はせず、さっさと帰ってしまうけれど、いつかはゆっくり思い出話ができるんじゃないかなって思っていたんです」
40代に入るころ、伸子さんは続けざまに入院、手術を受けている。
「子宮筋腫で子宮の全摘手術を受け、翌年には卵巣を全摘。
さらに脳にできた腫瘍の手術と、3年連続で入院が続きました。4年目は何も病気が出なくてよかったなと安心していた矢先の年末に、あの放火事件が起きたんです」
■ニュースのコメント欄に、兄の患者の書き込みが
中学生だった長男の懇談会に備えて、学校近くのレストランでランチを注文したときだった。