2018年4月21日 11:00
芥川賞作家・若竹千佐子「家族に尽くす人生で幸せにはなれねぇの」
夫・和美さんが就いた建築関係の仕事は順調で、生活も軌道に乗り、長女も誕生する。
「都会に出てきたら、すごく自由を感じました。夫は一生懸命働いたし、私も夫を支えて、4年目には千葉に家も建てました。子育ては忙しかったけれども、合間を見つけて家庭菜園をしたり、お隣さんと旅行に行ったり、バーベキューをしたり。楽しかったし、とても幸せでした」
当時を振り返り、自然と笑みがこぼれる若竹さん。「幸せな家庭の主婦だったんですよ」と何度も繰り返す。
「ただね、ひとりになったときに、ふと寂しくなることがあって……」
徐々に子どもの手が離れ、時間に余裕がでてくると、どこか遠くから声が聞こえてくるような気がした。
「よき夫に巡り合い、かわいい子どもに恵まれ、私は妻として、母として、幸せな生活を送っている。
それなのに……なんて言うんだろう、幸せだけど、幸せじゃない。どこかに、ちょっとした寂しさ、満たされない思いを感じていたんです」
少女時代は寂しいとき、いつも図書館に行っていた。