2018年5月7日 11:00
角野栄子さん 5歳で別れた母が「魔法の世界」をくれた
「人生で最初の記憶が、病院のベッドで横たわる母の姿。真夜中にタクシーで東大病院に駆けつけましたが、臨終には間に合いませんでした。姉とまだ乳飲み子だった弟を残して母が病死したのは、私が5歳のときでした」(角野さん・以下同)
暗い病室で、3歳年上の姉が「お母さんを返して!」と叫んだ。すると医者は、泣き続ける姉妹に向き合い、「ごめんね。世の中には、どうにもならないこともあるんだよ」と言った。続いて、納骨式で目にした墓石の下の深い暗闇。とめどない不安が、このとき角野さんに覆いかぶさってきた。
角野さんは’35年(昭和10年)1月1日、東京は深川で、質店を営む家に生まれた。
「母の死以来、また大切なものを突然奪われるのではないかと、いつもおびえていました。情緒不安定、いったん泣き出したらヒステリックで、ご近所からも“サイレンの栄子ちゃん”なんて言われて。夜中に泣きながら父の布団に行くと、『お入り』と招き入れてくれて。すると温かくて安心するんです」
“見えないものの大切さ”を日々の生活の中から教えてくれたのも、父親だったという。