綾野剛が見た一筋の光「息苦しくなったら、空を見上げてみればいい」
そんな豪士を、見つめてくれる人がいた。
「それが、少女失踪事件で消息を絶った愛華ちゃんと、その友人の紡〈つむぎ〉(杉咲花)です。見つめられることは、自分はここにいるんだという存在証明になる。12年前、誰にも見つめられたことのなかった豪士は、初めて愛華ちゃんに見つめられた。そして12年経って、今度は紡が見つめてくれた。ふたりに見つめられた瞬間だけ、ずっと“生かされている”だけだった豪士が“生きている”という気持ちになれたんだと思います」
それは、ずっと暗がりを歩いてきた豪士にとって、一筋の光だった。
「体温が上がってくる感じというか、自分の中にちゃんと血が流れているんだと体感できた。つまりそれは明日が来るということ。
それこそが、豪士にとっての“楽園”だったんじゃないかという気がします」
事件直前まで愛華と一緒にいた紡は、誰とも分かち合えない罪悪感を抱えたまま、12年の時を過ごしてきた。豪士は、愛華ちゃんがいなくなってからの12年を、どのように過ごしたのだろうか。そう尋ねると、綾野は間髪入れずに切り出した。
「何も変わらないです。T字路で車から降りるシーンで、紡から『どこか行きたいですか?』と聞かれて、『どこへ行っても同じ』と答えるところがあります。