綾野剛×大友啓史が掴んだ映画の可能性「観たことのない映画ができた」
状況や、環境や、置かれている立場が変われば、いかようにでも変容できることを表現すべきだと思って、あえてそうさせてもらいました」(綾野)
近年、役づくりを語る上で、体重の増減など外見上の話題が先行することが多い。実際、それも役に近づく重要な手立てではある。綾野自身、2017年に公開した『亜人』では、4ヶ月に及ぶ肉体改造で「亜人」という特殊な設定に説得力をもたらした。その経験を踏まえた上で、今はまたまったく別のアプローチから「役を生きること」に向き合おうとしていた。
「髪型を染めたり変えたり、体を大きくしたり痩せることで、役者は役づくりをした気分になれるんですけど、それって作品づくりにはならないんですよね。どれも頑張れば役者じゃなくてもできることだから。
そうではなくて、役者だからできることは何か考えたとき、もっと心の変異に目を向けてみようと思ったんです」(綾野)
その成果は、スクリーンに焼きつけられている。きっと多くの観客が、そこに今野がいるとしか思えない綾野の姿にため息をこぼすはずだ。そして、そんな実験を経て、綾野はもうすでに次のステージへと向かっている。
「この『影裏』をやったことで確実に大きく変わっているはずなんですけど、それが何なのかは現場に行かないとわからないし、『影裏』でやったことが他の現場で活かせるかと言ったら、そうでもない。