高橋文哉は何のために働くのか「自分のために頑張るだけでは限度がある」
平凡な配達員だったはずの丸子は、思いもよらぬ事件へと巻き込まれていく。
「テクニカルな部分がたくさんある作品だ、というのが僕と監督の共通認識でした」
本作の難しさを、高橋はそう表現する。本作のような展開が二転三転する作品では、観客を引っ掛けるためにもあえてミスリードを誘引するような芝居を求められることがある。主人公である丸子もまたシーンによっては何を考えているのか読めない表情を見せている。
「ここは別のシーンの引っかけになるところだから、申し訳ないんですけど、あえてこういう表情をしてください、と監督からオーダーをいただくことが何度かありました。たとえばですけど、本当なら笑っているはずなのに、あえて沈んだ顔をするような表現をしなくてはいけない、という場面がこの作品の中ではよくあるんです。そうすると、俳優はその表情をするための感情を自分の中から持ってこないといけない。自分の中で違和感なくそのシーンに合った表情をするための感情の筋道を見つけることが、とても難しかったです」
観客を欺くための嘘。
けれど、俳優はカメラの前で役として生きる以上、嘘はつけない。嘘を真実に変えるのもまた俳優の重要な技術の一つだ。