高橋文哉は何のために働くのか「自分のために頑張るだけでは限度がある」
「丸子としてはこう思っている。だけど、観客のみなさんから見ると別の意味に受け取れる、というふうにしたくて。そのバランスについては結構気をつけました。監督が感情の面でも技術の面でもアドバイスをくださる方だったので、いろいろと助けていただきながら、なんとか乗り越えたという感じです」
それが、高橋の言う「針の穴に糸を通すような作業」だ。役の感情と、芝居としての見え方。その両方がぴたりとハマる落としどころを探っていく。
「サッカーでよく針の穴に糸を通すパスだって言うじゃないですか。あれと同じ感覚だと思います。
ずっと心地が良くなかったはずなのに、ぷちっとハマった瞬間、するすると逃げ道ができたような気がして、気持ちが晴れるんです。今回の撮影は、その逃げ道を見つけるためにひたすら模索し続けた毎日でした。でも、その試行錯誤も含めてすごく楽しかったです」
俳優にとって、感情こそが表現の源泉。だが、その感情を自在に操るには職人的な技術が求められる。照明部や音響部と同じように、俳優部もまた専門的な技術職だ。高橋は、ギミックのつまった本作に挑戦することで、また一つ俳優としての技術を身につけた。
「デビューしたばかりの頃は、感情が正義だと思ってやっていました」