橋爪は「所属する劇団は、かつて英・米・仏・北欧といった海外の演出家を招いた創作に熱心で、ひと通り手合わせした中でも、フランス人演出家は1番“言葉だけでは分かり合えない”印象が強かった。自分のスタイルが明確にあり、簡単には他人の意見に賛同しない。徹底した個人主義の文化圏から来る有能な若手演出家と、今の自分との間でどんな創造ができるのか楽しみですね」と、“はじめまして”から起こる化学反応を心待ちにしている様子だ。
場が進むごとにアンドレの記憶や意識は混乱し、時間軸や彼を囲む人々の役割も曖昧になっていく構成は、演者にとってハードルになりそうだが「長く生きていると、前夜何時間も悩んでいたのに、寝て起きたらスッと楽になるようなことがある。人はそうやって自分の中に蓄えてきた経験や知識、後悔の念などを、老いと共に今度は希釈することで命を長らえる生き物。そう考えるとアンドレの身に起こることは自然だし、本人にとって苦痛だけでもないはずだけれど、家族にはそれが“父親が壊れていく”という恐ろしい現実として映る。一方向に時間が流れず、場面やせりふが行ったり来たりするので覚えにくさはあるけれど、人間特有の、生き物としての変容を演じることは興味深いですね」