宿敵・頼朝とその妻政子に舞を所望され、その席で義経の身の安全を祈願したことから頼朝の不興をかった故事に由来した人気曲目のひとつ。哀愁の中にも繊細な情趣や華麗さがある。玉三郎は「静御前が現実にどれだけ悲しんだかというよりも、その風情を見せるのが大事」と極意を語る。衣裳は格調高い唐織着流し。以前『船弁慶』の静御前で着用したものが3枚あると言い、公演中はそこから「その日の気分で自由に選んで着ようと思います」。
『傾城雪吉原』は、恋人を思い春を待つ傾城が、四季折々の風情と共に、古風な趣と格式で魅せる幽艶な舞踊劇だ。玉三郎は長唄の名曲『高尾懺悔』から恨みの歌詞を抜くなどして改曲、新作『傾城雪吉原』として魅力も新たに蘇らせる。「能楽でも世阿弥らがお客様に楽しんでいただくために、昔からあったものを改曲し、目新しく華やかに見せていくことがあったと思います。
長唄『高尾懺悔』が名曲ながらあまり上演されなかったのは、亡霊が四季を踊るという地味なものだったから。それを華やかにしたいと『傾城雪吉原』に仕上げました。冒頭の雪景色は『鷺娘』のような雰囲気もあり、最後は「春は来にけり」の歌詞で終わらせました」。
9月からコロナ渦での公演を再開させた玉三郎。