きっと樹木さんって、『私のことなんていいのよ』と言いつつも、全部自分の話にしてしまうような、面白さと愛おしさのある方だったと思うんです。そういう方をモデルに、さらに駅の売店がクルクル回る美術をやってみたいと思って作ったのが、この『夢ぞろぞろ』なんです」
駅の売店で働く60歳の女性を小沢が、突然電車に乗ることが出来なくなった青年を田中が演じる本作。改訂を予定しているかと聞くと、「1文字も変えていません」と小沢は言う。「僕の『鶴かもしれない』という舞台はどんどん練って、変えていく作品だと思うんですが、『夢ぞろぞろ』は変えちゃダメな作品ではないかと思っていて。僕が期待しているのは、2019年とは状況が変わっていることで、お客さん側の捉え方が変わること。今回そこが面白いんじゃないかと思っているんです」
取材前に初演の映像を見返してきたという宮崎は、メモをめくりつつ、「こんないいセリフあったっけ?って忘れてたのがいくつもあって。たとえば青年を励ます時の『とりあえずチョコレート食べよう』」。またも「嬉しい」と微笑む小沢の口調からは、そこに至った苦労もにじむ。
そして宮崎はこう続ける。
「演劇を語る上で『わかりやすい』『間口が広くて誰でも楽しめる』は必ずしも誉め言葉ではないのですが、小沢くんの作品は非常にわかりやすいのに、すぐには言語化できない深い感動もじわじわ味わえる。