"惰性の世界" から抜け出すために必要なたった1つのこと〈タイタニック〉【洒脱なレディ論】
ローズがジャックのスケッチブックを見る場面だ。描かれていたのはジャックがそれぞれの旅地で出会った女性たち。下半身不随だが手がものすごく美しい女性、帰らぬ恋人を待つためにありったけの宝石を身にまとう老婆、そのなかでローズが目に留めたものがフランス人女性をモデルに描いたヌードデッサン。「パリの女はすぐ服をぬいでくれるから助かる」とジャックがいう通り、ここでフランス人女性は〈 自分で選択する意思をもち生きる Liberté のアイコン 〉として、描かれていた。その時は顰めっ面をしジャックを蔑んだローズだが、翌日、ジャックに一つのお願いをする。フランス女のように一糸纏わぬ姿を描いてほしい、と。物語ではジャックの "遺作" となったローズの絵画が現代につながるストーリーの鍵になるわけだが、さて、ジャックとの悲恋を乗り越え "惰性の世界" から抜け出すために必要だったもの、それがこの "遺作" に象徴されてはいないだろうか。
一見華やかに見える社交界、だがそこは、親の政略結婚のコマにされ婚約者からは愛ではなくお飾り扱いをされ、同じ面々により同じ会話が繰り返されるーーー、誰一人として助けてくれない "惰性の世界" であった。