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緑が近くにある環境を求めてファッションディレクターであり料理家としても活躍する内山しのぶさんが、2匹の愛犬と家族と暮らすのは、等々力渓谷の近くに建つ2階建ての家。この家が完成したのは2001年のこと。「緑に囲まれて暮らしたい」「当時の愛犬・チャイがのびのびと過ごせるように」と願い、東京のオアシス・等々力渓谷に近く、四季の自然を感じる環境に惹かれ、建築をオーダーした。「桜、ハナミズキ、マキの木が元から植わっていて、それが素敵だったんです。家を建ててからミモザも植えたので、春はピンクと黄色で息をのむほどに綺麗なんですよ」。設計をお願いしたのは、日影良孝建築アトリエの日影良孝さん。「日影さんとは長い付き合いの友達で、趣味やライフスタイルをわかってくださっているから、安心してお任せできましたし、どんな家になるかとても楽しみでした」。この家の間取りはシンプルだ。1階に寝室やバスルーム、書斎などのプライベートなスペースをまとめ、2階はフロア全体を開放的なリビング・ダイニングとした。そして、緑に囲まれたのびのびとした暮らしを生み出しているのが、リビングにつながる約16畳のウッドテラスだ。家を建てた時に居たチャイちゃんも、現在の愛犬・ルウルウちゃんとロンちゃんも、このテラスが大好きで、自由に駆け回ったり日向ぼっこを楽しんでいる。外観の3本のシンボルツリーは20年前よりだいぶ大きくなった。2階のテラスには外からも上がれるようになっていて便利。駐車場の屋根としての役割も併せ持つ。テラスでくつろぐロンちゃん(取材時4カ月の男の子)。見晴らしの良いテラスは、ルウルウとロンちゃんお気に入りの場所。暮らしに馴染んだ明るいリビング2階に上がると、そこはたっぷりの光と窓外の緑を心地よく感じる空間が広がる。南東のコーナーはL字型の掃き出し窓になっていて、開け放つと外のテラスと一体化する。視線がすっと抜け、室内でありながら空間の制限を感じないのは、設計の妙だ。しのぶさんは「本当に気持ちの良いリビングで、冬も太陽の光がたっぷり入るので暖かいんです」と笑顔で話す。また、内山さんは家づくりの打ち合わせ時に、好きな建築家として吉村順三氏の本を日影さんに見せ、理想とする空間を伝えたという。それを受けた日影さんは、シンプルで洗練されたデザインを追求。壁や天井の「白部」と床や建具の「木部」のバランスにこだわり、吉村順三氏が愛した暖炉をリビングに設置した。温もりや安らぎを感じるインテリアは、ほとんどが20年前の竣工時より前から長く大切に使い続けているもので、家具に合わせて設計。毎日の暮らしにしっくりと馴染んでいる。「犬の脚に負担をかけないように」と、床は無垢のカラマツに。20年の時を経て、味わいのある飴色になってきた。ルウちゃんとロンちゃんは、窓際の特等席でゆったりくつろぐ。リビングからは、ウッドテラスのグリーン、そして3本のシンボルツリーを望むことができ、四季の移ろいを感じられる。木製建具にはラワンをチョイスして、明るい雰囲気に仕上げた。リビングの一角には、白いポルトローナ・フラウのソファやジョージ・ネルソンのベンチを配したくつろぎコーナーが。白い梯子を登るとロフト。奥はキッチンになっている。ルイス・ポールセンの照明はヴィンテージ。20年前からずっとリビングを照らし続けている。奥の鏡は目黒通りのアンティークショップで見つけたもの。ローテーブルとして使っているネルソンベンチには花やキャンドルを飾り、インテリアの一部に。花の匂いを嗅いでいるのは、好奇心旺盛な4カ月(取材時)のロンちゃん(男の子)。白を基調としたモダンなデザインの暖炉。炉台は耐火性に優れたトラバーチンという石材。冬には火を入れて、揺れる炎や薪のはぜる音でリラックスする。アットホームな料理教室をスタート大手出版社の女性誌の編集長を歴任してきたしのぶさん。3年前に会社を辞め、今はフリーランスでEコマースや編集の仕事をしている。「これから迎える60歳から先の人生を考えた時に、何か軸がほしいと思ったんです。それで思い切って会社を辞め、自分らしく生き生きと過ごすにはどうしたら良いか考えました」そこで頭に浮かんだのが料理だった。『編集長のお家ごはん』(世界文化社、2013)というレシピ本を上梓したほど料理好き・もてなし好きのしのぶさんは、退社後に中国伝統医学を取り入れた薬膳料理、マクロビオティック、オーガニックなどについて勉強。調理師の免許を取得し、2018年の6月から自宅で月に2回の料理教室を開催している。「この家があったことが、背中を押してくれた部分もあると思います。この家を訪れる方は皆さん『居心地が良い』と言ってくださるので、生徒さんを迎えるのにもいいかなと思いました」。編集者として忙しい日々を送ってきたしのぶさんが教えるのは、素早く簡単につくれるけれど、おしゃれで、体に優しい料理。さらに2019年には国際中医薬膳師の資格も取得し、「体にパワーをくれる・体を整えてくれる食材を、シンプルな料理法で美味しくいただく」ことをテーマとしている。生徒さんからは「料理教室の日の翌朝は体の調子が良い」と、うれしい感想が届いている。また、友達の家に遊びに来たようなアットホームな雰囲気も特長で、教室が終わった後もゆったりとくつろいでいく人が多いという。慣れ親しんだ自宅で新たな挑戦を始めた内山しのぶさん。この家はこれからも、住まい手と愛犬たち、そして訪れるゲストを心地よく包んでくれるのだろう。ダイニングテーブルは、以前の住まいの時から愛用している「IDEE」のもの。手前のテーブルは、教室を始める際に買い足した。シャンデリアはオランダのブランド「moooi」のもので、料理教室を始めるにあたり、新しく購入した。白を基調としたキッチンは、緑が見える窓もあって明るい。ミーレの食洗機、AEGのオーブンなど、しのぶさんが厳選した機器がおさまる。壁面はモザイクタイルにしてあり、素材のグラデーションが楽しい。ガスコンロは、フランスの老舗キッチン機器ブランド「ROSIERES(ロジェール)」のもの。4口あって使わない時は蓋ができるので、とても使い勝手が良いそう。中医学薬膳料理教室SHINOBUTEIお問い合わせインスタグラム shinobutei内山邸設計日影良孝(日影良孝建築アトリエ)所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階建延床面積87.01㎡
2020年03月09日吹き抜けの開放感を楽しみたいECメディア「北欧、暮らしの道具店」でバイヤーを務める竹内敦子さん。のどかな住宅街の日当りのいい角地に、1年程前一軒家を設けた。「両親も兄も建築関係の仕事をしていることもあって、建物を観るのが好きだったんです。夫も戸建て派で、将来は家を建てたいねと話し合っていました」。見つけた土地は第一種低層住居専用地域にあった。閑静な住環境と日当りが保障される一方、土地に対して建てられる面積は制限される。ここにあえて螺旋階段のある、贅沢な吹き抜けのリビングを設けることに。「100%LIFEで螺旋階段のある家を見て、ヒントになったんです(笑)。大工さんの押しもあり採用したのですが、良かったなと思っています」。ネット検索で見つけた地元の工務店が、設計から施工までを担当。「決して広くはない土地でも明るく開放的に暮らしたい、光が差し込む家にしたい、とリクエストしました」。外側からは中が伺い知れない、閉じた白い箱のよう。ところが中に入ると、光いっぱいの抜けのある空間が広がっていた。2階からリビングを見下ろす。4mあるブラインドを通して、光が室内に届けられる。螺旋階段がLDKの中心に。コロナのストーブが冬は大活躍。ステンレスのケトルは「北欧、暮らしの道具店」でも販売しているもの。日当りのよさからか、ウンベラータ、エバーフレッシュなどグリーンがよく育つ。床は無垢のオーク材で。光の入り方を大切に「北欧を特に意識したわけではないのですが、もともと持っていた家具から、必然的に北欧の雰囲気になりました」。白い壁に明るめの色味を選んだ床。シンプルな空間には、4mの高さのある大きな開口から光がたっぷり降り注ぐ。「光がどう入るかは気になりましたね。特に水回りには窓が欲しかったので、キッチンは南側の庭向きに設置してもらいました」。当初のプランでは窓がなかった2階のベッドルームにも、リビングを見下ろすようにガラス窓を設け、北側の玄関には光が届くよう、リビングの引き戸をガラス戸に。「仕切りがほとんどないので、冬はコロナの石油ストーブ1台で、家中が暖かいんです。エアコンはほぼつけないですね」。2階のフロアも、ベッドルーム以外には仕切りを設けずオープンに。いずれ家族が増えたら部屋をつくれるよう、可変性のある間取りにした。「当初のプランではもうひと部屋あったのですが、工事中にやっぱり要らないな、と思って中止してもらったんです。だから柱にその名残りがあります(笑)」。ひとつながりとなった空間を、暖かい光と空気が回遊する。天井高はさらに高く取ることもできたが、工務店の提案で“落ち着ける程度の高さ”に設定したそう。2階ベッドルームにはガラス窓を取り付けてもらった。玄関とリビングの間にはガラスの引き戸を。シンプルを大事にしたベッドルーム。奥にウォークインクローゼットを設けた。窓からはLDKが一望できる。ガラス窓の右側ははめ殺しに。いずれは仕切って子供部屋をつくる予定。机はIKEAの引出しと脚に、ネットで購入した天板を載せたもの。本を読んだりするのにも心地よい2階のフリースペース。カーテンの向こうにはベランダがある。庭を眺めながら調理を「キッチンはお料理しながら緑が眺められるので気持ちがいいです。春先には木々が芽吹いてくるのも見られますよ」。キッチン台は、ステンレスの天板をリクエストして造作。“業務用感”が気に入っていたリンナイのコンロと、“予洗いが要らない”ミーレの食洗機をビルトインした。「全体的に白っぽい空間なので、キッチンと洗面にはタイルを使ってアクセントにしました」。空間になじむよう白いタイルをセレクト。目地は汚れをカバーしつつ、“強すぎないよう”グレーで。床はキッチンまわりだけ、グレーのタイル調の素材を張った。「汚れや水ハネも気にならないし正解でした。使いやすさを考えて設計したキッチンなので、お料理も楽しいですね」。機能的でシンプルなキッチンを、グリーンやお気に入りの雑貨が彩っている。キッチンには窓が欲しかった、という竹内さん。身長に合わせて高さを設定。窓辺には季節の花やグリーンを欠かさない。ダイニングテーブルはACTUS、イスはMOMO NATURALで。カゴを収納に活用。家具は試行錯誤ののち、現在の配置に。キッチンのみ床を切替えた。タイルをアクセントに。コンロ下は使いやすいようオープンにしてもらった。掃除のしやすいステンレスの天板に、扉ではなく引出しの収納をリクエスト。ワイヤーラック、マグネットフックなど、「北欧、暮らしの道具店」で販売している小物を活用。洗面はモルタル仕上げに、キッチンと同じタイルがアクセント。上部にも開口を設けて光を通している。北欧ソファーが似合う家に学生の頃から北欧にはまっていたという竹内さん。新築時には揃えたいソファーがあった。「ハンス・J・ウェグナーのデイベッドを新築記念にしたくて。そのために建築予算を残しておいたんです(笑)。置く位置も設計する時にイメージしました」。ストライプの柄をセレクトしたデイベッドは、リビングの壁沿いにちょうどよく収まっている。北欧家具を中心とした空間に、さり気なく飾られたダーラナホースやヒンメリなどの雑貨が、温かな雰囲気を添える。「雑貨が大好きなのですが、どこに置くか考えてからでないと買うことができなくて。意外とものが少ないね、と言われます」。延床面積約82㎡の空間を好みのもので彩りつつも、すっきりとしているのは、余白が大切にされているから。開放感あふれる日溜まりのような空間で、お気に入りのものとの暮らしが営まれている。ハンス・J・ウェグナーのデイベッドがきれいに収まるようリビングの壁を設定。こちらは引っ越し前から持っていたハンス・J・ウェグナーのハイバックチェアー。ディスプレイを楽しむコーナー。下の方は化粧品などの生活用品、目線のいく上には雑貨を。余白を残しつつ壁と同化する色のものを飾るのがポイントだそう。「北欧、暮らしの道具店」バイヤーの竹内敦子さん。休日は“昼間の明るい感じを味わっておきたい”と、家で過ごすことが多いそう。白い箱のような外観。庭にはたくさんの植栽を。「これから育ってくるのが楽しみです!」
2020年03月02日壁は自分たちでペイントグラフィックデザイナーの吉本多一郎さんが暮らす家は、埼玉県入間市の平屋の米軍ハウスが並ぶ『ジョンソンタウン』と呼ばれる地区の中にある。吉本さんの家は米軍ハウスの作りはそのままに、新たに建て直された平成ハウスと呼ばれるロフト付きの平屋住宅だ。米軍ハウスと平成ハウス、外から見たところ違いはわからない。「見分けるポイントがあります。米軍ハウスは瓦屋根なのですが、平成ハウスは屋根の素材が軽量化されています。平成ハウスは床暖房など、設備が近代化されているのが魅力です」家を探していた時におもしろい物件があると教えてもらったのがジョンソンタウンに住むきっかけになったそう。「僕も妻もアメリカの匂いがする住まいが好みです。幸いここは妻の職場には近かったのですが、僕は家で仕事をすることが多いとはいえ、都内で打ち合わせや撮影等が週の半分以上ありますので、通えるかなと最初は不安でした。けれどもう約6年住んでます。慣れると平気なものですね(笑)」白い壁は友人にも手伝ってもらいながら自分たちで塗装したのだそう。「以前は集成材の合板そのままの色の、山小屋のような雰囲気の家でした。梁や階段はもともとの木の色を残し、バランスを考えながらペイントしていきました。柔らかな白にするため、白に少し黄色と赤を混ぜてオリジナルの色を作っています」もともとはモルタルの床だったが、まちちゃんが誕生してから、転んでも痛くないようにカーペットを敷いた。「玄関の部分だけカットして靴を脱ぐスペースを作りました」たっぷりとした天井高いっぱいまで伸びた存在感のあるグリーンは、ジョンソンタウン内にあったグリーンショップで購入。「ブラインドは以前の住人が残していってくれたものです。ありがたいです」アンティークのロッキングチェア。「僕は気に入ってるんですが、奥さんはあまり好きじゃないみたいです(笑)。後ろのシェルフは大塚家具。母が大塚家具のファンで引越し祝いにいただきました」吹き抜けからリビングを見下ろす。ダイニングテーブルは、足場板を使った多一郎さんのハンドメイド。左奥にあるのがアンティークの視力検査のセット。レザーのソファはACTUSで。このローテーブルも多一郎さんがDIYしたもの。仕事場はロフトにジョンソンタウンの家は、一軒づつ間取りが違うのだそう。「アメリカの住宅のように住人がDIYをしてもよいので、個性的な家が多いですね」吉本さんの住まいは、築10年の平屋。リビングに大きな吹き抜けがあり、ロフトの部屋を仕事場にしている。「今はネットがあるので、どこでも仕事ができます。都内から距離がある場所でも、住環境を優先できるのがありがたいです」1階から見上げると、ロフトに正方形の窓が……。窓の向こうが多一郎さんの仕事場だ。入り口にCAVE(洞窟)と書かれて部屋が多一郎さんの仕事場。低めのドアをくぐるようにして入る巣ごもり感がたまらない。中二階のCAVE内が吉本さんの仕事場。ソファは大正時代のアンティーク。抜群のコミュニティも魅力ジョンソンタウンの魅力は、緑豊かな美しい街並みにもある。「お隣との間の塀も物理的にありませんし、住人同士のお付き合いが親密で、とてもよいコミュニティが築けています。BBQをしたり一緒にキャンプに行ったり、DIYの手ほどきをしてもらったり。同業者も多く、世田谷に住んでいた時より、仕事の幅が広がっています」仕事の手を休めて、近くの公園に息抜きに行くこともおおいのだとか。「子どもと一緒にすぐに公園に行けるのも楽しいです。子育てには抜群の環境だと思います。近くの子どもたちがよく家の前の道で缶蹴りして遊んでます。うちに『缶ください〜』って突然来たり。最近、こういうおつきあい、なかなかないですよね。平屋の家に惹かれて住みはじめましたが、今はコミュニティがかけがえのないものになっています」キッチンの床はモルタルのままにして、カーペットを敷いた。裏口もある。「棚板は自分でつけました」ポーチでBBQを楽しむことも。お隣の家のと間に塀や仕切りはない。
2020年02月26日5人家族のための家「前はこの近所のマンションに住んでいたんですが、夫婦と子ども3人の5人家族だと分譲型マンションのつくりでは間取り的に住みづらい印象がものすごくあって」と話すのは田中さん。「でも戸建てであれば、狭い土地でも5人家族が住みやすい家ができるはず」と考えたという。設計は友人のつてで吉田州一郎・あい夫妻が主宰するアキチアーキテクツに依頼。彼らの自邸兼事務所のYY house・office・kitchenを訪れた時に「狭い敷地ながら空間を縦方向にうまく使っていて快適な感じ」を受けたという。妻のマミさんも「たまたまですが敷地がほぼ同じ規模でこんなに広く住めるのかと思った」とその時の印象を話す。ダイニングは家族の集まる場所。衣食住をそれぞれ別々の空間にするようにリクエスト。ここはもちろん食べる場所。衣(服類)は1階の主寝室の前のスペースにまとめた。個室をたくさんつくる「マンションのときは5人の行動範囲が一緒で窮屈に感じていた」とマミさん。田中さんは「そうした中で個別の部屋をたくさんつくりたいという思いが出てきました」と話す。吉田あいさんは「今は、空間を開いたつくりにするのが主流ですが、家族それぞれの性格も違うわけだし、そういう流れに反してやはり個室や自分の居場所がほしいというのもわかる。田中さんからのリクエストを聞いて、個室をたくさんつくるというのも面白いなと思いましたね」と話す。2階のダイニングとキッチン。左はキッチンの上の長女の部屋へつながる階段。長女の部屋からはライブラリーを通りテラスへ行くことができる。マミさんは回遊できる空間に憧れていたがこの家の面積からすると無理だろうとあきらめていたという。「役割をまず決めたうえで、各自が使い方を考えればいい」と話す田中さん。「この階段はみんな椅子みたいに使ってます」。キッチン側からダイニングを見る。右上の長男の部屋のトップライト越しに空を見通せる。キッチンの天板は料理好きのマミさんの希望で熱いままの鍋も直に置けるセラミックトップに。コンロ周りの壁は清潔に保てるよう黒目地に白のタイルにした。ループ状につなげる結果的に個室空間を6つ設けることになった田中邸。特徴となっているのは全体が回遊できるつくりになっていることだ。「個室をつくったときに5人家族がどういう距離感で過ごしていくのか、どういうふうにつながるかを考えていったら動線がどんどんループ状になっていった」と吉田州一郎さん。そして「家族が集まるメインの場所も大きなテーマになった」とも話す。そうして家族みんなが集まれるダイニングがループ状の動線で各個室につながるつくりになった。2階のダイニングから見上げる。長女の部屋から突き出した円形の場所が小さいながらも空間のアクセントとなっている。本が大量にあったためライブラリースペースを設けた。長女の部屋は外のテラスともつながる。長男の部屋より見る。テラスも階段状で続いていく。吹き抜けを長女の部屋から見る。ループ状の構成と同時に階段での上下動の移動もテーマになった。「5人家族の距離感みたいなものを立体化して断面で切るとどうなるのか、そのような感覚でつくっていった」と州一郎さん。あいさんはまたこう話す。「敷地面積が限られているので人と人との距離感はほぼ決まっていますが、そのなかで動線を長くしただけでも心理的には少し距離ができる。部屋同士は実は近いけれどちょっと遠くに感じさせることもできるわけですね。そうすることで家族が変化し、またいろんなものが変わってくる。そんな中でそれぞれが幸せというか心地良くなればいいなというのも田中さんたちとの打ち合わせの中で話題になりました」長男の部屋の床は畳にした。ねじれた位置関係にある階段が空間の回遊性を高めている。2階ダイニング側から見る。奥が次男のスペース。階段が造形的にも見ごたえのあるデザイン。半地下にある田中さんのスペース。机の天板が地面レベルにある。奥が玄関。1階は「お風呂とトイレと玄関とワードローブの動線がなるべく近くなるように」とリクエストした。ワードローブの奥には主寝室がある。体育館の床のようなビニールを貼った。水洗は子どもたちのサッカー靴も洗える深さのあるものに。この家に越してきてから2カ月経つ田中一家。4月には家の向かいに立つサクラが咲き、素晴らしい風景が窓に広がるだろう。それも楽しみにしているという田中さん。サクラの季節には特等席になるであろう2階道路側の階段についてこんなことを話してくれた。「この階段が思っていた以上にいろいろ使える階段だというのがわかってきました。前に進むごとに外の風景が変わるということもそうですが、家族との会話も階段のどこにいるかで変化するので、その都度自分に心地のいい距離感を選ぶことができるのがいいですね」。家族との距離感が大きなテーマだった田中邸。この階段もそれにうまく応えているように思われた。窓が通常よりも低く、地面が近く感じられる。上るにつれ地面から離れていくように感じられる階段は花見の特等席となる。電動で開け閉めできるブラインド。マミさんの実家が建築の板金業を営んでいたことからトタン張りを選択したという。「増築の結果こうなった」ような、あるいは「ブリコラージュでつくられた」ような面白い印象を与える外観だ。田中邸設計アキチアーキテクツ所在地東京都世田谷区構造木造規模地上3階延床面積89.23㎡
2020年02月24日全館空調を実現オーストラリアから来日して30年というマーク・ホドビーさんがご家族と暮らすのは、格式高い街並みが広がる、“城南五山”(東京)のひとつ島津山エリア。2年半ほど前、傾斜地に建つ築40年の外国人用賃貸住宅を購入し、フルリノベーションした。空が広がる高台ならではの景色を楽しんでいる。「それまでは同じ敷地に建つお隣に6年くらい住んでいました。隣人とは親しくしていて家を行き来していたので、この家の眺望の良さはよく知っていました(笑)。売却の話を聞いてリノベーションを前提に購入することにしたのです」(マークさん)設計は、近所の友人宅のリノベーションを手掛けた建築家の森吉直剛さんに依頼。ホドビー夫妻がまず希望したのは、「どこにいても暑すぎず寒すぎない家」で、全館空調にすることだった。「築年数が経っていたため、一度スケルトン状態まで解体し、内装も外装もすべてやり直しました。耐震補強をしつつ、ズレていた床レベルも調整。そして、全館空調にするには高気密高断熱が必要なため、開口部分は断熱サッシに交換し、耐熱材を隅々まで吹き付けました。さらに、温度調節だけでなく調湿機能ももった機器を設置。築40年の木造住宅のリノベーションで、全館空調を実現したのです」(森吉さん)住まわれて2年を過ぎたご夫妻は、「部屋も廊下もすべて適切な温度で管理されているので、季節に関係なく常に心地よく過ごせます」と大満足。最後まで悩んだ床暖房は、「入れない選択をして正解だった」(並子さん)という。木造2階建ての地上部分をリノベーション。屋根は太陽光パネルが取り付けられるよう補強済み。玄関ドアの脇にはブラックボードがあり、子どもたちが描いたイラストで客人をお出迎え。玄関ホール。上履きと下履きを分けられるように、墨モルタルの土間とカーペットで変化をつけた。崖側から見る。住居部分の下のスペースは、セキュリティ会社の会長を務めるマークさんの事務所。玄関脇の作業ルーム内に、全館空調機『デシカホームエア』(ダイキン)を設置。調湿換気機能付き。崖地が生み出す絶景のアウトドアリビングホドビー邸の最大の特徴は、都心の崖地という立地を生かした開放的な空間である。ご夫妻が口を揃える、「気軽に人を呼べる家」というコンセプトにもつながっている。以前は、2部屋に分かれていたリビングとダイニングだが、内壁を取り除いて広々としたワンルームにした。また、「オーストラリアではバーベキューを日常的に行うので、広いテラスは必須でした」というマークさんの希望から、リビングから続くテラス部分は倍に拡張。建具は木製の大きな窓から網戸まで壁に収納できる引込戸を採用し、ブラインドも天井のブラインドBOXに収納できるようにした。フルオープンできることで、室内と室外が一続きになり、アウトドアリビングとして活躍している。東側に開いたこのテラスで過ごす時間がお気に入りというマークさん。日の出を眺めたり、朝食を取ったり、コーヒー片手に読書したり、昼寝したり・・・と、テラスを満喫している。「そのままキャンプ用のテーブルを出して、ここで仕事をすることもありますよ(笑)」明るく開放的なLDK。目の前には東京・品川の街並みが広がる。四季折々の緑も楽しめる。フルオープンのサッシを開け放てば、LDKとテラスが一体化し、より開放的に。バーベキューグリル(右)は日常的に大活躍。ダイニングの椅子は広島の家具屋でオーダーしたもの。照明はイタリアの『ルミナベッラ』。強化ガラスを用いた手すりが視線を遮らず、景色を堪能できる。屋根もあるため、多少の雨でも大丈夫。人が集まるアイランドキッチンテラスと対面に配したキッチンはアイランドをセレクト。『キッチンハウス』で出会ったヴィンテージ風の木目のキッチンは、並子さんのイメージ通りだったという。「キッチンは家族や招いた人たちが囲めるタイプがいいなと思い、アイランドにしました。カウンター付きということもあってキッチンまわりには人が集まってきます。キッチンからの眺めも最高で、料理をしていても楽しくなりますね(笑)」(並子さん)つい先日も子どもから大人まで30人近くが集まり、バーベキューパーティをしたという。「大人たちはテラスやキッチンまわりでお酒を飲みながらおしゃべりしていて、子どもたちは暖炉の前のソファで遊んでいる・・・。大人も子どももそのときの気分で自由に寛げる居場所があり、それぞれが心地いい時間を過ごしているのが、見ているこちらも嬉しくなりますね」(並子さん)ヴィンテージ風の木目のキッチンを引き立たせる、ピュアホワイトの壁側収納も『キッチンハウス』でオーダー。オーブン料理が得意な並子さんのリクエストで、ミーレのオーブンが2つ。ワイングラスは専用のラックをつけて収納。「地震のときも安心です」(並子さん)食器洗い機もミーレ。「大型なので、フライパンやボウルなどまで入り、とても便利です」(並子さん)キッチンの奥はパントリー、サニタリールームと続く。水回りの動線を考え、回遊性をもたせた。手前の冷蔵庫は マーベ。前面にあるカスタムディスペンサーからウォーターフィルターを通した氷と水が出る。元は外国人用の賃貸住宅だったため、各ベッドルームにシャワールームがあるだけでお風呂はなかった。「老後を考えて、1階で生活が完結するようにお風呂を造りました」(並子さん)キッチンから玄関へと回遊できるようになっている。左の赤いタオルウォーマーはタオル以外も乾かせて重宝しているとのこと。2階のマスターベッドルームに併設したウォーキングクローゼット(左)と書斎。奥はトイレになっている。2階のマスターベッドルーム。左側の窓はリノベーションのときに設けた。ここからの眺めも絶景。減築して生まれた吹き抜け「パチパチという音や薪が燃えるにおい、また炎を見ていると癒されますね」という並子さん。広いリビングのアクセントにもなっている暖炉は、もともと設置してあったものを再利用。もとの壁は取り除き、耐震補強をしてレンガ調タイルを貼って仕上げた。リビング上部の吹き抜けは今回設けたもの。2階の一室を減築し、吹き抜けにしたことで光を取り込み、より明るく開放的な空間となった。1階と2階で会話をすることも楽しく、子どもたちが2階で過ごしているときでも気配を感じられるのが良いという。築40年の木造住宅を大々的にリノベーションし、マークさんご一家の生活スタイルに合わせた空間が誕生した。「今後は屋根に太陽光パネルをつけたり、新鮮な飲料水も確保できる貯水タンクを設置することも考えています。災害の多い日本では、ライフラインは自分たちで支えるようにしなければいけないと思いますからね」(マークさん)既存の住宅からあった暖炉。大きなソファは『IKEA』。家族4人で、だれが寝そべるか、取りあいだそう。吹き抜け部分。既存の梁をそのまま生かし、空間のアクセントに。斜めに入る光が心地よい。2階の寝室をひとつ減築して吹き抜け(右側)を造った。天井まで延びた書棚には子どもたちの楽しい本が収納されていた。インターナショナルスクールに通う花ちゃん(14歳)と海くん(12歳)の部屋。仕切るのはブラックボードの板で、遊び心満載。花ちゃんの部屋。勾配天井を生かし、可愛らしい空間に変身。海くんの部屋から花ちゃんの部屋を見る。2人ともラグビーに夢中とのこと。設計一級建築士事務所森吉直剛アトリエ所在地東京都品川区構造木造規模地上2階延床面積224㎡
2020年02月17日公園の緑を見たい目の前に公園のある敷地をみつけて即、購入を決めたという林夫妻。「以前に住んでいたところが早大通りの並木道の緑が借景で見える場所だったので、同じように緑が見えたらいいなと思っていました」と話すのは夫の公太郎さん。設計は妻の宏美さんの友人だった山田紗子さんに依頼したが、山田さんへのリクエストのひとつは当然ながら公園の緑が見えることだった。50.6㎡とコンパクトな上に奥に細長い形状の敷地のため「家が広く見えるようにしてほしいというのもすごく言っていた気がします」と宏美さん。加えて道路側以外は隣家が迫る状況ながら「大きな開口がほしい」とも伝えたという。構造の関係で前面に大開口を設けられなかったため、インナーバルコニーをつくりその内側に大きな開口を設けた。リビングからインナーバルコニーを通して公園の緑を見る。木の素材感がほしいというのも夫妻からのリクエストだった。インナーバルコニーから公園を見る。螺旋階段の途中からリビング方向を見る。リビングの壁にはピクチャーレールが付けられている。家の真ん中の螺旋階段それらのリクエストを中心に家づくりが始められた林邸。出来上がった家には道路側の2階にインナーバルコニーが設けられて目の前の公園の緑を眺めることができる。中心部分には2階分ほどの高さのある大きな開口が設けられていて部屋の隅々にまで光を供給しているが、この開口の横につくられた螺旋階段がとても特徴的だ。ちょうどその頃同時並行的に進められていた山田さんの自邸の模型を見て「うちもこういう感じがいいかも」と伝えていたスキップフロアをこの螺旋階段がつなぎ、また壁を設けていないために階段を通して斜め方向へと視線が抜けていく。「山田さんからいちばん最初に提案をいただいたとき“ ウナギの寝床のように細長い敷地だから端に階段を置くとそのスペースが無駄になってしまう”と。さらに“この階段は廊下であり部屋であり庭でもある”という説明を聞いて、ああなるほどなと」(宏美さん)大開口から光がふんだんに注がれて明るく中庭的な存在ともなっているこの階段。宏美さんは「庭がほしかった」がこの敷地で庭をつくることは物理的に無理だと思っていたので、この“階段=庭” という考え方に思わず納得しての「なるほど」でもあったのだろう。リビングから下にDK、上に子ども部屋を見る。右の踏み板はリビングとレベルが揃い連続している。左が室内を明るく照らす大開口。子どもたちにはこの階段がテーブルにもなる。階段にはトップライトからもふんだんに光が注がれる。その下の小スペースはひとりでほっと一息つくためにつくられた場所。子ども部屋から見る。奥の上が寝室で下がリビング。階段での工夫この螺旋階段にはまた建築家の工夫がこめられている。「段をあまり細かく刻まず、踏み板の1枚1枚をなるべく広く取って各フロアの床となじませていきたかったんです。そうすると踏み板の数が減るので1段が少し高くなりますが、22cmという、ふつうにもあり得るような段差で納めています」(山田さん)ふつうの階段より1段が少し高めでまた踏み板が広いため、余裕で座ることができるし2人のお嬢さんはテーブルにするなどして子どもながらの活用もしているという。寝室には宏美さんの希望で扉を付けたが、このようにオープンにすることもできる。寝室側から子ども部屋側を見る。奥には小窓しかないがトップライトと大開口の光で十分に明るい。当初屋上をリクエストしていたが、インナーバルコニーの方が生活空間と連続していて使い勝手が良いという判断となった。家の最高レベルから子ども部屋を見下ろす。リビングが4、5畳程度と狭いがまったく狭さを感じさせないのは、階段を挟んで向こう側にある空間も一体として感じられるからだろう。この家に引っ越してきてから8カ月ほど。暮らしてみての感想を聞くと、夫妻ともに「広い」との答えが返ってきた。「リビングに座っていると上にも下にも視線が抜けるので、実際の畳数よりも広さを感じる。私の希望だった塗り壁の白い壁面が続いているので、DKまで含めてひとつの部屋のように感じられる。DKの奥の壁がリビングの壁のようにも感じられるんです」(公太郎さん)公太郎さんの希望で白の塗り壁にした。奥の広い壁面にアーティストに絵を描いてもらうことも考えているという。天井が高くて気持ちのいいDKにぶら下がっているのはトム・ディクソンがデザインした照明。リビング自体は狭いが視線が奥の壁まで抜ける上に、階段の1枚目の広い踏み板が同じレベルにあるため広く感じる。家のサイドに設けられた玄関を入ると左に水回り、右にDKがある。洗濯などの家事動線も設計では重要な課題だった。宏美さんは最後に「暮らしていて楽しい」と話してくれた。「山田さんがこの家の設計の途中で“生活をしている人たちのライフスタイルはいつまでも一定ではないので、建築家の仕事はつねにこういう生活はどうだろう、あるいは・・・と問い続ける仕事なんだ”と話したことがあって、それは私の議員という仕事とも似ている部分があって、社会が変われば当然必要なものも変わってくるので同じだなと思ったことがありました。家に関しても、子どもたちも成長していくし私たちもいろいろと変わっていく。この家はそれに合わせて変えられる余地があるようにも感じられるのがいいなあとも思っています」。「暮らしていて楽しい」という宏美さんの言葉には、そのように家族と家がともに成長変化するという将来への期待感も込められているのではないか、そのようにも感じられた。踏み板の面積があるので床が切り分けられ高さを変えて続いているようにも見える。リビングからは1階のDKの奥の壁までが同じ空間のように感じられるという。林邸設計山田紗子建築設計事務所所在地東京都新宿区構造木造規模地上3階延床面積54.8㎡
2020年02月12日デレク・ジャーマンに憧れて東京の立川市で手仕事品を扱う店「H.works」を営む園部由貴さん。以前は駅近くのビルの一室で12年ほど店をしていたが、家を建てるのを機に、職住一体の暮らしに。駅からは遠くなったが、大きな通りから少し入り、畑などに囲まれた緑のある敷地に小さな家を建てゆったりとお客様を迎えている。「デレク・ジャーマンの家と庭がすごく大好きで、あんな家がいいなあというイメージがありました」。そう話す園部さん。デレク・ジャーマンとは、原子力発電所の近くの何も無いだだっぴろい土地に小屋を建て、庭造りをしながら暮らしていたイギリス人の映像作家だ。確かに、畑や大きな木が植わっている広い敷地にさりげなく建つ小さな家は、デレク・ジャーマンの家と通じるものがある。正面から見た1階の店部分。右奥がダイニングスペース。正面棚の裏がキッチンスペースに。店、ダイニング、キッチンを回遊できる動線となっている。吹き抜けからの見下ろし。奥のダイニングスペースは店ともキッチンともつながっている。扉をしめればプライベート空間に。限られた面積で使い勝手よく1階が店で、外から中が見えやすい木枠のガラスドアを開けて中に入る。建物は「家」だが、店としての入りにくさもなく、家と店の中間という絶妙な雰囲気を感じさせる。店には園部さん厳選の器や料理道具などが並べられている。決して広くはないが、見ごたえのある量とバラエティで展開されており、かゆいところに手が届くような品ばかり。奥にはキッチンとダイニングスペースが。ここは普段の食事にはもちろん作家さんを招いたり、出張カフェをしてもらったりするときにも使うという半プライベート空間。奥の階段前が玄関で、靴を脱いで2階へ。ここを扉で仕切り、将来的に小さな二世帯住宅としても使うことも考慮されているそう。2階はリビングと寝室のプライベートな空間。小さなキッチンもあるが、ここではお湯を沸かす程度だという。ご自身の使い方と器の寸法を熟知した園部さんが望んだコンパクトかつ収納力もあるキッチンスペース。道具類は見えるように扉などはつけなかった。ダイニングから見たキッチン。この小窓からお皿の出し入れもできる。キッチンは以前から愛用していたワゴンが収納できるよう大工さんにつくってもらった。ダイニング奥にある玄関スペース。食事の器、暮らしの器家の設計をお願いしたのは、国分寺の設計事務所「straight design lab」を営む建築家・東端桐子さん。「雑誌の狭小住宅特集で東端さんの手がけられた記事を見つけて、サイトを見たらすごく心にひっかかる部分があったんです。木も好きなんですが、素材によってはスチールのシャープな感じなんかも好きで。東端さんのご自宅の記事も拝見して色使いや使っている材質、細部のちょっとした工夫がまさに私が求めているイメージと重なったのでお願いしました」と園部さん。東端さん曰く、「色使いなどに関しては本当にスムーズに決めることができました。また、プランなどは園部さんが熟考されたスケッチをいただいたので、私は整える程度でしたね。特にキッチンまわりは完璧なスケッチでした」。「私の器選びの基準は、自分の心にぴたっとくるものかどうか。つくり手の思いや実際の使い勝手など、見た目以外のことも重要なので、作家さんとも対話を重ねています。家も器も似たようなところがあると思います。今の家はほんとうにちょうどいいもので、デザインも使い勝手も居心地もとても満足しています」。店へのアクセスは決してよくはないが、長居していく方も多いそう。少しずつ庭づくりも楽しんでいきたいと話す。2階のリビング。奥が寝室とクロゼット。寝室は屋根の形がそのまま現しの落ち着く空間。シンプルな白いタイル貼りの清潔感ある水周り。ところどころに使われているスチールのブラケットは、東端さんが家具製作をするご主人とつくる「SAT. PRODUCTS」のもの。
2020年02月10日大胆な発想のプランに驚いた「通勤に便利かどうかが大事だったので、狭くても都心がいいね、というのがふたりの一致した意見でした」。新宿の高層ビルが間近に望めるエリアに、宮本さんご夫妻は南向きの土地を見つけて購入。「敷地面積44㎡、北側斜線制限のある土地をどう活かしたらいいか、半年程かけて毎週打ち合わせを重ねました」。設計を担当したのは一級建築士事務所「.8 / TENHACHI」の佐々木倫子さん。妻・直子さんとは小学校からの幼馴染で、建築士である夫・将毅さんとは大学院の同窓だったそう。「私たちのキューピットでもあるんです(笑)。当初、出してもらった別の2社のプランはどちらも同じような図面だったのですが、彼女が出してきてくれたプランが驚きで」。そのプランはまず、「ガレージなし、バルコニーなし、玄関なし」というもの。「ガレージはなくてもいいし、バルコニーも、夜洗濯物を室内干しする私たちには合っていました。でも玄関なしというのは想定していませんでしたね(笑)」。誕生したのはガルバリウム鋼板のファサードを持つ、牛乳パックのような箱型の“ミルクカートンハウス”。無駄を削ぎ落としながら、開放感と広がりが最大限に感じられる空間が、そのパックの中には広がっていた。ロフトを設けた2階のLDK。トップライトから明るい光が入る。壁は9㎜のラーチ合板を仕上げに張り、クリアなウレタン塗装を施した。ミルクカートン(牛乳パック)のような外観。正面には屋根からつなげてガルバリウム鋼板を斜め張りに。技術が必要とされる職人泣かせの仕上げ。室内の内装は白、木目、グレーで統一。隣家の視線を避けるため、LDKには横長の窓を少し高めの位置に設けた。壁のウレタン塗装は友人に協力してもらい、DIYで。家全体を3日間で塗装した。ロフトを2カ所設けて4層に玄関という明確な区切りのない1階は、土足のまま入ってもいいモルタル敷きの土間。そこに、白い箱に囲まれるように水まわりが設置されている。「壁を設けるのではなく箱にすることで、現しの天井がそのまま奥まで続いていきます。それによって連続性が生まれ、奥行きが感じられるんです」。その白い箱の上は、なんとベッドルーム。「建ぺい率、容積率から計算すると、ここには65㎡までしか建てられないはずなんです。そこを71㎡迄取ることができたのは、延床面積から外すことができるロフトを設けた結果です」。1階の水まわりの上と2階のLDKの上にロフトを設け、4層の構造にすることで広さを確保。階段は1階から北側を回り込んで2階に到達する設計で、斜線にかかる空間が活かされている。「佐々木さんは、“空間に高低差の抑揚のある方がいい”ということと、“長くいる空間に贅沢な高さがあるといい”ということを提案してくれました。だから寝るだけの寝室は天井が低いのですが、それでもセミダブルベッドを2つ置ける広さがあるので快適です」。土間やLDKの天井高に対して、ベッドルームはコンパクトに。メリハリのある空間が、無駄なく生活にフィットする。玄関を入るとすぐに現れる土間は、多目的な使用が可能。現在は、ニットデザイナーである直子さんの仕事場でもあり、スタジオとして貸し出すことも。水まわりを収める白い箱は、PORTER’S PAINTSのザラザラ感のある白い塗料を選び、ふたりで塗装した。貸しスタジオに対応するため、ロックのできるガラス戸を設置。白い箱の中にはゲスト用の洗面と、こちらの家族専用の洗面&ランドリー&バスルームのふたつのブースが。洗面台の天板はグレーのフレキシブルボードにウレタン塗装をかけた。木と白い壁に挟まれ2階へ。オランダ人のX線写真のアーティストALBERT KOETSIERの写真を飾る。階段にも天窓を設けて明るさを確保。右手がベッドルームへの入り口になっている。階段側からベッドルームを見る。手前のカーテンの奥には分電盤があり、収納としても使用。スポットライトが幻想的。ベッドに入る時間に差があるためロールカーテンを。照明選びは、佐々木さんにも相談して特にこだわった。こちらはヨーロッパから取り寄せたPLUMEN。コストカットのため、木釘と丸棒の組み合わせで取り付けた階段の手すり。これも大工さん泣かせだったそう。白、木目、グレーで空間を統一LDKに到達すると、トップライトから落ちてくる光に包まれる。壁材のラーチ合板の木目と、キッチンや収納棚の白、光に囲まれたナチュラルで居心地のいい空間が広がっている。「リビングが小上がりになっているのも落ち着けますね。ここでゴロゴロしている頻度が高いです(笑)。小上がり下には収納や本棚も設けてくれました」。小上がりがあることで、キッチン台からテレビ台へと天板が同じ高さでつながる。「完全な造作だとコストがかかるので、引出しや扉、棚板などをIKEAで揃えて、それに合わせて設計してもらいました。クッキングヒーターや水栓などもパーツを選んで、はめ込んでもらいました」。設備もインテリアも、セレクトには佐々木さんからの指令があったそう。「白、木、グレーの3色で統一したい、と。だからオレンジだったIDÉEのソファーはグレーに張り替え、水栓も探しまわってやっと見つけたBRIZOの白を取り付けました(笑)。でも感覚が似ているので、私たちも全面的に信頼しているんです」。小上がりから階段をあがると第二のロフトが。ここは将毅さんが籠って過ごすことが多い場所。「狭小住宅にもかかわらず、色んな居場所があるのがうれしいですね。どこで何をするかというのは決めていません。その時々の気分で場所を変えられて、どこにいても気持ちがいい。贅沢な空間ができたと思っています」。キッチンから小上がり側のテレビ台まで、フレキシブルボードにウレタン塗装をした天板がひとつながりに。オーダーして造った白い鉄製の片持ち階段でロフトにあがる。IKEAの引出しに合わせて設計したキッチン。“この空間のイメージにぴったりだった”toolboxの吊り戸棚も採用。ロフトには愛読するマンガを揃え、リラックスタイムを楽しんでいる。「暖かいので、冬は特にお気に入りの場所です」。ロフトからリビングを見る。たくさん持っている本を収納するスペースも工夫してもらった。ソファーはIDÉEのAO SOFA。佐々木さんおすすめmenuのBollard Lamp。コードの使い方でライトの向きが変えられる。木口を見せるデザインが特徴的。モダンさの中に自然な風合いが感じられる。将毅さんは病院の設計を担当する建築士。休日は自転車に乗り、ふたりで都内のあちこちを回るのが楽しみだそう。“色と木口の出ているところが空間にぴったりだった”ダイニングテーブルと、椅子はHAYのもの。小上がり下には本棚も設けられている。宮本邸設計一級建築士事務所「.8 / TENHACHI」所在地東京都渋谷区構造木造規模地上2階延床面積71㎡
2020年02月03日煙突から煙が昇る家神奈川県内の自然豊かな場所に建つ山小屋風の家。人気作家の個展時には朝から行列ができる東京・神宮前のギャラリー『うつわshizen』の店主、刀根弥生さんと、ご主人の刀根淳さんの住まいは、挿花家の雨宮ゆかさんのお宅のすぐお隣。刀根さんのお花の先生でもある雨宮さんから隣の土地が売りに出されたと聞いても、決断までは少々時間がかかったのだそう。「素晴らしい環境だということはわかっていましたが、果たして毎日都内のお店まで通えるだろうか、と。でもいざ住んでみると体が慣れるようで、心配には及びませんでした(笑)」都心では煙の出る薪ストーブのある生活は難しいが、周囲を緑に囲まれたここならば気兼ねなく火を囲むことができる。アトリエブンゴのハンドメイドの薪ストーブに、淳さんが薪をくべてくれた。釣りが趣味の淳さんにとっては釣ってきた魚を家の外で捌き、薪を割る休日がとても贅沢なひとときなのだとか。開放感のある大きな吹き抜け。「薪ストーブ用の薪は近くの木材の処分場で分けてくださいます」。薪割りの仕方は木工作家の須田二郎さんに教わったそう。アトリエブンゴのハンドメイドの薪ストーブは、下でオーブン料理を楽しめる。薪ストーブで作る出来たての料理は格別。オーブンにも入れられる器が大活躍。キッチンは建築家の手作り建築家の中村好文さんが設計した隣の雨宮邸を担当した入夏広親さんが、刀根邸の設計も請け負ってくださったのだそう。「できるところはなるべく自分たちでやりたいという無理なお願いにおつきあいいただきました。たとえば壁の塗装はたくさんの方に協力していただきながらDIYしました」壁材は吸湿性や消臭機能に優れたゼオライトが配合されたものを使っている。「キッチンは入夏さんの手作りです。初めての試みだったそうです。ホームセンターで資材を買って作ってくださいました。キッチンが完成する前に入居したので、まるで家の中でアウトドアライフを送っているような日々でした。その生活が新鮮でとても楽しかったです」ガラスの花器の透明感が、凛とした冬らしさを感じさせる。「氷柱のような李慶子さんの作品です。カサカサっとした花によく似合います。夏は涼しげに使うことができます」調布の神社の境内で開かれていた骨董市で手に入れた桐製の茶箪笥。「やすりをかけて塗装を落として使っています」左が吉岡萬理さん、右が小野哲平さんの湯のみ。急須は角掛政志さん作。使い込むほどに味わいが増す素敵な銅のやかん。「ほんとうは鉄瓶を使いたかったようですが、お湯をわかすたびに錆びないように中を乾かす作業は僕には無理だと諦めてもらいました(笑)」と淳さん。器はキッチン横の小部屋のオープン棚にも収納。器のためのウォークインクローゼットだ。吹き抜けを囲んでひとつにまとまる家木造2階建ての刀根宅は、リビングが2階までの大きな吹き抜けになっている。2階には和室と寝室の2部屋があるが、吹き抜けに面した大きな室内窓があるので見通しがよく、家全体が大きなワンルームのような設え。冬は薪ストーブの暖かさが家全体に広がり、夏は風通しがよく快適に過ごすことができる。「ホームセンターで材料を買って庭に柵を作りました。暖かくなったら、庭造りを楽しみたいと思っています」吹き抜けをはさんで反対側が寝室。2階の廊下には本棚を設えた。吹き抜けの階段。奥のドアの向こうが洗面室。2階から見下ろすと、入夏さんが製作したグリーンのソファが見える。「2階に畳の部屋を作っていただきました。ここでストレッチするのが気持ちいいです」杉板張りの外壁。アプローチには浅間石を敷き詰めた。
2020年01月29日東海道沿いの三角の家「ニューヨークからの帰国後、妻に“すごくいいから”と言って自分の地元の藤沢で土地を探し始めたんです」と話を始めたのは画家の乙部遊さん。「でも最近人気が出てきたせいか街が変わりすぎてしまって、あと、土地自体もピンとくるものがなかった。それで二宮ぐらいまで広げてみようかということになって探してみたら3つほどあって、建築家にも相談して国道1号沿いのこの土地がいちばんいいのではということで購入しました」江戸時代までは東海道だった国道1号から数m退いた場所に立つ乙部邸。設計は遊さんの中学の時の同級生とその友人のお2人に依頼したという。「植物が好きなので、まずは窓が多くて家の中に光がいっぱい採り込めること。それと絵を描くので壁も広くしてほしいという相反するような依頼をしました」。「壁も広く」というのは制作した作品を飾れる壁がほしかったから。「さらに、作品をつくるのでインスパイア、刺激してくれるような環境がいい、ふつうの家にはない面白味のある空間にしてほしいというのも伝えましたね」こうしたリクエストから家づくりが始まった乙部邸は断面がほぼ三角形。入口部分が少し欠き取られた形になっているが、国道1号を車で走っていても思わず目を引く外観だ。乙部邸のデザインについて、建築家の齋藤さんは「まずは“東海道で一番カッコイイ家つくろう”という話がありました。またあの屋根の勾配にすると、北側の東海道にも日が落ちて、ふつうの建て方をするよりも道路が明るくなる。平面を対角線のプラン、断面も斜め天井とすることで、“高い”“低い”と“狭い”“広い”のたすき掛け、つまり4種類の空間性がひとつの単純な住宅プランで構成できると考えた」と話す。入口の部分が欠き取られてガラス張りになっている乙部邸。目の前の1号線を車で通っても目を引く。ニューヨーク生活からの影響この「たすき掛け」した空間が内部では要望であった「インスパイアしてくれる環境」をつくり出している。2階では三角形断面の斜線の部分が壁=天井となり「ふつうの家にはない」ダイナミックな空間を生んでいる。そして、南側に開口を広く取りまた北側の白壁を切り抜いて吹き抜けから入口まで視線が抜けるつくりにしたことから面積以上の開放感を体感することができる。白い壁の部分は奥さんの京子さんと塗ったのだという。「壁は最初から塗ろうと思ってました、費用が安くなるならというので。ニューヨークのギャラリーで展覧会をやったときに壁に絵を描いたりしたんですが、そのときにも自分で塗り直したりしていたので、壁を塗ることに関して抵抗がなかったんですね」ニューヨークでは家の壁をパテで粗く塗りかつなんども塗り直す。それですごくモコモコした壁が多いのだが、そうしたニューヨークで経験した空間の影響もあり塗りムラのあるほうが逆にしっくりとくるようだ。キッチンの壁をブリックタイルにしたのもそうだという。京子さんは「ニューヨークのカフェみたいな雰囲気にしてほしいということでタイルにしてもらいました」と話す。表面がフラットなものと凹凸のあるものの2種類をうまくばらけるように張ったのもリクエストだった。2階東側から奥のキッチンを見る。遊さんが好きだという緑がとてもセンス良く配置されて空間の雰囲気をさらにコージーなものにしている。キッチン部分の壁は京子さんの希望でブリックタイルを張った。右の木の壁は遊さんが明るい色を選びシナ合板にした。存在感のあるライトはブティックで使われていたのを譲り受けたものという。2階の壁が一部切り取られていて、そこから1階と道路を見下ろすことができる。遊さんの描いたドローイングが並ぶ。道路側の壁の角度が内側へと振られているのがわかる。キッチンから見る。東に向かって空間が徐々に狭まっている。階段上部から見下ろす。玄関部分がガラスのため道路側から壁に架かる作品を見ることができる。内部からは右前方の山の緑を眺めることができる。大きく取れたギャラリー「もっと狭くて小さくなるかなと思っていたんですが、妻の理解もあって想像以上に広く取れたしすごくいいものができてよかったと思っています」と遊さんが話すのは1階のギャラリースペース。外からも見られるように白壁には乙部さんの作品が並ぶ。「ニューヨークでは展示をいろいろとやらせてもらったんですが、日本に帰ったら細々と自分のペースで作品をつくっていければいいなと思っていました。つくったものを見せる場所があったらなおいいなということでギャラリーをつくらせてもらって、自給自足というか、これがすごい良かったなと思います」。吹き抜けになっているため、ギャラリーとして見ても特徴的な空間だ。展示の際にはプライベートの部分にまで拡張ができるつくりにしている。入口近くのコーナーは遊さんがアクリル画などの制作に使う場所にもなっている。1階奥から玄関方向を見る。遊さんがアクリル作品を制作するのはこのあたり。壁の棚には絵の具などが並ぶ。玄関から土間部分に入るとギャラリースペース。真ん中に架けられている作品はこの家のオープンハウスをした際に描かれたこの家をモチーフにしたドローイング。土間から見る。遊さんと京子さん、娘の生愉(きゆ)ちゃん。手前は主寝室。このように扉を開けるとギャラリーにすることもできる。いちばん右の作品はニューヨーク・クイーンズ地区で発行されている雑誌の表紙となり、また個展を開くきっかけにもなった。遊さんはNYのバスルームがタイル張りなのが好きだったので、「タイルにしたい」とリクエストした。洗面所の左手がトイレ、向かいが浴室で水回りがこの場所にまとまっている。「ふつうにはない、変わった家ですが、ほんとにいいものをつくってもらったという気がします」と遊さん。暮らし始めてまだ間もないが夫妻ともにリビングの開放感が気に入っているという。視線が2方向に視線が抜けるうえに天井も高い。「斜めのパースが効いている空間だからかそんなに狭い感じもしない」と画家らしいコメントをしてくれた。「プランを見たときは狭めに感じたのでパーティをやるときとか大丈夫かなと。でも住んでみると狭い感じがしないし、パーティをしたときも問題なかったしみんなが“空間がいいね”って言ってくれて」遊さんの好きな緑もとてもいい感じで配置された2階は、「ふつうの家にはない」空間ながらとてもコージーで快適な生活ができそうな印象を強く受けた。屋根・壁・床のすべてを105角のベイマツで構成することなどによりそれらの厚みを抑え、その分居住スペースを広く取った。乙部邸設計齋藤隆太郎/DOG+井手駿/日建ハウジングシステム(協働設計)所在地神奈川県中郡二宮町構造木造規模地上2階延床面積87.23㎡
2020年01月27日それぞれの飼い猫が大集合「一緒に住めばいいのに」と夫の一言から始まったという吉田邸の建て替え計画。妻・沙織さんの祖父母が亡くなったあと空き家になっていた神奈川県横浜市の家に住んでいた吉田さん夫妻は、県内の他市に住む沙織さんの母・小原清美さんと妹・千春さんに同居話を持ち掛けた。同時に、それぞれの家で飼われていた猫6匹も集結することになった。「母の家としょっちゅう行き来していて、そのたびにお互いの猫たちも連れて移動していました。その様子を見ていた夫からの思いがけない提案で、えっ、いいの?という感じでした(笑)」大人4人と猫6匹が快適に暮らせる家を求めて、家づくりがスタート。設計は、ペットと暮らす家をいくつも手掛けている建築家の石川淳さんに依頼した。「石川さんの作品に興味をもっていた、いとこから教えてもらいホームページを見たのです。シンプルで流行り廃りのないデザインと、キャットウォークがさりげなくリビングと一体化しているところが素敵だなと思い、早速コンタクトを取りました」(沙織さん)。2階リビングに設えたキャットウォーク。猫たちが自由に行き来する姿に癒される。旗竿敷地に建つ。縦スリットの2階窓から猫たちが外を見下ろしていることも。沙織さんが書かれた文字をモチーフにした、オリジナルのアイアン表札が目を引く。シェアハウスのような心地よさまず、こだわったのは、4人それぞれの部屋を確保すること。1階には清美さんと千春さん、3階には沙織さんと夫の部屋として、コンパクトな4つの個室を配置。共有スペースとはしっかり分けた造りになっている。「将来、家族の形も変わるかもしれないし、好みもそれぞれなので、個室はシンプルな造りで各自がアレンジできるようにしてもらいました」(千春さん)。1階の廊下には、天井までの壁面収納を造り、各自に振り分けた。また、女性専用の大型クローゼットも設置。女性3人で洋服をシェアすることもあるため、1か所にまとめることで使い勝手もよいという。収納をたっぷり設けたことで、各自の部屋はコンパクトでもすっきりとした空間を保つことができる。家族が集まる2階のLDKは、南側の採光をたっぷり取り込んだ吹き抜けのある大空間。みんなでキッチンに立つこともあるため、キッチンは回遊できるアイランドを採用し、通路も広めに設定した。「なんとなく2階で一緒に過ごしていることが多いのですが、個室があることでプライベートをしっかり確保でき、程よい距離感で過ごせます。シェアハウスのような心地よさがありますね」(沙織さん)2階リビングは3階まで吹き抜けに。3階に設えたブリッジ状の廊下から、リビングでくつろぐ人間たちを猫が見下ろしていることもあるそう。猫が物を落としにくいように立ち上がりを付けたアイランドキッチン。IHクッキングヒーターのスイッチは猫の肉球にも反応するため、カバーを造ってもらった。壁側の収納は造作で、食器や調味料、調理具など収納。3階の夫の部屋。ゲームをするときには個室に籠るそう。沙織さんの部屋には小さなウッドデッキが併設。小さなテーブルが置かれ、まるで“猫用アウトドアリビング”。3階のシャワーブース。1階にバスルームがあるものの、朝の忙しい時間帯などに使用。階段下は収納として活用。1階に向かう階段の一角は、まろくん(オス、6歳)のお気に入りスペース。自ら扉を開けて入るのだそう。1階廊下に設えた天井までの壁面収納。4人それぞれ専用の収納スペースを持っている。1階に設置した大型クローゼットは女性専用。収納グッズを上手に利用し、整理整頓されていた。基本的に、猫は立ち入り禁止。猫が喜ぶ仕掛けが満載「猫が快適な“お猫様御殿”です」と清美さんが笑うように、自由気ままな猫たちの暮らしやすさも重視。猫の習性や行動を考慮し、室内飼いでも飽きない工夫が随所に見られる。まずは、2階リビングのテレビ台から3階の廊下まで巡らしたキャットウォーク。リビングを見渡しながら家族と一緒に過ごせるため、猫たちにも大人気。壁の白と統一したデザインは、インテリアにさりげなく溶け込んでいる。リビングの床に開いた穴は猫専用階段の出入り口で、1階と続いている。人間用の階段と合わせて2つのルートを用意したことで、6匹の猫たちのトラブル回避にもつながった。キャットウォークも猫階段も、行き止まりをなくした動線を考えた設計で、家中を回遊できる。猫たちが自由に動き回れ、運動量のアップにもつながり、ストレスの軽減にもなっている。床暖房の入ったリビングの床では、猫たちがゴロゴロと横たわっていることも。太陽の動きに合わせて移動し、自然光に包まれながらお昼寝タイムを満喫している。外を眺めることが好きな猫たちのために、小さなベランダや窓を所々に設けた。それぞれの猫の特性にあったキャットタワーも置かれ、猫それぞれがお気に入りの場所で過ごしている。3階の渡り廊下からリビングを見下ろす。ひと続きにつながるキャットウォークのラインが美しい。左から、千春さんと春太くん(オス、8歳前後)、清美さんとももちゃん(メス、13歳)、沙織さんと久太郎くん(オス、3歳)。右側のベランダ前の穴が1階へ続く猫用階段の出入り口。1階から猫用階段を昇り、春太くんが登場。リビングで寛いでいるときに、突然猫が床から現れる光景はユニーク。1階廊下の奥に設けた猫用階段。階段を昇るとリビングへ続く。チョコくん(オス、3歳)と久太郎くんの若い3歳コンビが活発に昇り降りするそう。3階の渡り廊下。リビングが見下ろせ、大きな窓からはあたたかな日差しも入るため、猫の日向ぼっこスペースとして最適。3階のキャットウォークの到達点には、猫が通れるトンネルを用意。唯一の女の子・ももちゃんが可愛らしいお顔をのぞかせていた。1階の千春さんの部屋。ちょっぴり臆病なくろくん(オス、6歳)は、この部屋のクローゼットに籠り気味。運動能力の高いくろくん用のキャットタワーを設置。坪庭を介して猫が自由に行き来できるように、千春さんの部屋と清美さんの部屋の双方に猫専用出入り口をつけた。清美さんの部屋。窓の外にあるウッドデッキは、2階のベランダ下に位置する。高齢のももちゃんが愛用するキャットタワーは段差が控えめになっている。人と猫が楽しく共存多頭飼いで気になるのは、トイレ問題。「独立した猫のトイレ室を希望しました」と沙織さん。LDK脇に設けた猫のトイレ専用スペースは、半透明の引き戸でしっかり閉めることができるため、来客時などにもさっと隠せて便利。奥にはサービスバルコニーを設置し、汚物を取ったらすぐに外に出すことができるようにした。また、室内に設置した換気扇を24時間まわし、空気清浄機も置くなど、臭い対策は万全である。6匹分のトイレがズラリと並んでいるが、臭いは全く気にならなかった。大人4人と猫6匹が共存する吉田邸。空間が広く、人も猫もそのときの気分によって過ごせる居場所がたくさんあり、ストレスのない穏やかな時間が流れている。猫たちの愛くるしい姿とお茶目な行動に癒され、笑いに満ちあふれていた。床暖房の入ったリビングは、猫にとって最高の心地よさ。季節や時間によって降り注ぐ太陽の位置が変わり、それに沿って動く猫の姿も楽しい。右側の半透明の引き戸内が猫のトイレ室。6匹分のトイレが並ぶ、猫のトイレ室。奥にはゴミが置けるサービスバルコニーを設置。キャットタワーからは玄関前の様子が見える。リビングから一続きになったウッドデッキ。猫も自由に行き来できる。奥の下が、清美さんの部屋。吉田邸設計株式会社 石川淳建築設計事務所所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上3階延床面積132.81㎡
2020年01月20日つながり感のある空間井岡邸が建築面積約40㎡とコンパクトながら空間に開放感が感じられるのは、まずひとつは1階から中2階を経て2階に至るまで水回り以外の場所を壁を立ててきっちりと仕切ることはせずひとつながりのつくりにしたことにある。「“全体的につながりがある感じの空間がいいです”というのは最初にお伝えしました」と奥さん。さらに「ある程度プライバシーも守りつつも、子どもが大きくなったときにまったく話もしないで自分の部屋にこもってしまうようなのも避けたいということもありました」と話す。そして井岡さんが「“どこにいても気配が感じられる”というのも要望にありましたね」と加える。いつも開放性を重視して設計をしているというIN STUDIOの奥村さんは「中2階をつくる案を提案したときに奥さんが“ちらっと見えるという感じではなくて、中2階をつくるならしっかり見えるようにしたい”とおっしゃったのがとても印象的で、そういう発言もこの家全体のつながりをつくるというコンセプトにつながっていったのかなという気はします」と話す。正面側にフルハイトの開口があり、またほかの三方とも開口があるためどこにいても明るい室内。ダイニングからリビングまでベンチが続く。手前の天井高1950㎜に対してリビング部分は3100mmと高めに設定。光を浴びたいそれともうひとつポイントになったのが奥さんの「光を浴びたい、日光がすごく入るようにしたい」というリクエストだった。「以前住んでいたアパートが東向きで、朝は明るいものの午前中のうちに暗くなってしまっていたので、“電気を付けなくても明るい空間”にあこがれていました」このリクエストに応えるために1階のリビング部分の天井高を3.1mと高く取り、さらに正面(東南)側の開口を大きく取った上で、隣家に接したほかの三方には縦長の開口をつくっている。「正面以外は囲われていて前面にだけしか開けられないのはもったいない。お隣の中庭のあたりからも光が入れられるので、うまく開口を取ってほかの三方からも光をもらうようにしました」(奥村さん)プライバシーの問題もあり玄関部分を仕切る話もあったが、開放性とのせめぎ合いで玄関ドアを開けた程度では部屋の奥までは見えないこのようなかたちに。収納家具を目隠しに使っている。少し間を開けてマツ材が張られた天井。バーチ材のフローリングともに夫妻の希望でナチュラル感のある材が選択された。外のコンクリート平板が中にも続き、天井が外へとそのまま続いている。内と外をつなげる開口は壁に縦長のものを開けたように見えるが、建築的には壁柱のあいだにできた隙間を開口としているのだという。「壁柱をつかったピロティのような感じで、壁柱と壁柱の間が開口になったり玄関になったりというふうなつくりになっています」と奥村さん。その壁柱にスラブを載せて2階に寝室を設けるという構成だが、そのスラブが外部へと抜けて庇になっている。また1階の床はフローリングが途中からコンクリート平板に変わりこれも外のコンクリート平板へとつながっている。「開放的というのをコンセプトにしていたので、外のものが中に入ったりあるいは中のものがそのまま外に出たりというかたちで連続感をつくっています。庭をつくるので庭との距離を心理的に近いものにしたかったというのもあります」(奥村さん)正面に棚をつくったためテーブルの上はすっきり。細々とした生活用品はテーブルの下の部分に収納されている。ダイニング上のライトは奥さんが気に入って購入したもの。空間のアクセントとして効いている。キッチンからダイニング、リビング方向を見る。キッチンは奥さんの希望で作業をしながらお子さんの様子が見られるようにこのかたちに。IN STUDIOからの提案だった中2階の机の置かれたスペース。現在、パソコンの作業や読書に使っているが将来は娘さんの勉強室にもなるという想定で、夫妻ともに気に入っているという。「家で子どもと2人でいてあそこで作業しているときに娘が下にいても何をしているのかがわかる感じがいいですね」(井岡さん)。奥さんも「この子が下にいても何か言えば顔を合わせられるし会話もできるので一人にさせている感じがしないですし、子どものほうもママがいないという感じにはならないのがいいですね」と話す。半年ほど住んでみて「“もっとこうすればよかった”ということがないね」ってよく話すという井岡夫妻。コンセントの位置など細かいところまでよく考えこまれた設計のおかげもあるが、希望であった開放性とともにつながりや気配を感じるということがうまく実現されているところからの発言でもあるのだろう。中2階から1階を見下ろす。右が将来娘さんが勉強する際に使うことも想定している机の置かれた中2階のスペース。現在はパソコンの作業をするときや読書の際に使用しているという。2階の寝室から見下す。青の扉の奥には浴室などの水回り収められている。中2階から寝室を見る。上部が開いていてつながり感が切れていない。2階は今のところ左の寝室と収納棚のある右のスペースに分かれている。将来は寝室を2つに分けて2階を3部屋にすることも想定している。左の空間にV形レールが埋め込んである。左に1室+真ん中に廊下+右に2室という形にすることができる。寝室側から見る。壁や天井の青は奥さんの好きな色。どこかに青色を入れたいという要望からこの住宅の構成の中で壁柱よりも一段階軽い扱いの壁に塗られた。正面の壁の角度が振れているのは眺めの確保のほかに、道路から玄関近くまで延びている階段を避けるためでもあった。井岡邸設計IN STUDIO所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積72.28㎡
2020年01月15日文化交流の小さな窓口に東京都品川区にある駐日コロンビア共和国大使館。同じ敷地内にある公邸に暮らしているのは駐日コロンビア特命全権大使のサンティアゴ・パルド氏だ。元々、コロンビアコーヒー生産者連合会のアジア事務局長(東京駐在)として2011年8月から日本で暮らしていたパルド大使。駐日大使に着任した2019年4月よりこの公邸での生活が始まった。「訪れた人にコロンビアのことを知ってもらえるように、大使としてはこの家をコロンビアの小さな窓口にしていきたいと考えています。コロンビアの文化と日本の文化の融合を目指したいですね」と語るパルド大使。その言葉どおり、公邸ではイベントやパーティが頻繁に開かれ、多くの人が訪れる。「直近では、日本コロンビア友好協会の会員をお招きしてカクテルパーティーを予定しています。ビュッフェスタイルでの食事や歓談を通じて、両国の親睦を図るイベントです。国の代表として、こうしたイベントを開催し、プロモーションを行えることは非常に楽しいですし、光栄に思っています」(パルド大使)。1984年の竣工より、代々引き継がれてきた趣きのある洋風建築の公邸。開放感あふれる吹き抜けのエントランスホール。窓から差し込む光が空間を心地よい明るさに。公邸1階の応接間を兼ねたリビングルーム。主にこの場所でイベントやパーティが開かれる。コロンビアの名産品であるコーヒーと、本物の牛の角をあしらったコロンビアの伝統工芸品。黄金伝説(エルドラド)を生んだ先コロンブス期の先住民による金細工のレプリカ。コロンビアの太平洋沿岸にあるチョコという地域に伝わる工芸品。乾燥したヤシの葉で編まれている。主にフォーマルな食事会に使用されるダイニングルーム。家族と過ごす時間が増えたパルド大使は、奥さまと10歳のご長男、7歳のご長女の4人家族。駐日大使となり、職場と家が同じ敷地内となったことは、パルド大使にとっては大きなメリットだという。「家族は非常に大切な存在なので、一緒に過ごせる時間が増えたのはとてもうれしいですね。子どもが学校へ行くときも、バス停まで送ることができますし、スケジュールの都合が合えば、大使館から家に戻って子どもたちと一緒に食事することもできます。そういう意味では恵まれた環境と言えますね」(パルド大使)。家族で使用するダイニングルーム。ガラステーブルはコロンビアから持ってきたという15年前からの愛用品。飾られているのは、コロンビアの若いアーティスト、レオナルド・ピネダの作品。コロンビア料理を盛り付ける伝統的な食器。パルド大使が結婚祝いでもらったという銀細工のティーセット。パーティなどの催しに対応できる広いキッチン。専属シェフがいるが、大使自身も週末はキッチンに立ち、料理をするという。2階は家族の居住空間1階部分は靴を履いたまま過ごすが、2階に上がる階段からは靴を脱いで過ごす日本式に。2階はフォーマルな雰囲気の1階部分とは違い、暮らしぶりを感じさせる家族の居住空間となっている。「私も妻もアートが好きで、大使としてもコロンビアのアートを広めていきたいという気持ちがあります」と話すパルド大使。代々の大使によって集められてきたコロンビアの絵画や工芸品が飾られている1階に対して、2階にはパルド大使の私物のアート作品が各所に飾られている。2階にある書斎。絵本作家の奥さまと共同の仕事場となっている。パルド大使が気に入っているという吹き抜けの窓。季節によって変わっていく木の葉の色づきを眺めるのが特に好きだという。最近東京でも展覧会が行われたコロンビアの現代アーティストの作品。2階の家族用のリビング。ソファーは20年以上前にアルゼンチンで買った牛革を使って、コロンビアで作ったもの。奥さまが描いた絵本『EQUIS(エキス)』。リスのキャラクターが各国を調査するというシリーズ物。光がたっぷりと入る寝室。私物のベッドは、コロンビアから持ってくるのに苦労したそう。飾られている絵はコロンビアのロレンザ・パネロというアーティストの作品。ご長男の部屋。大好きなスターウォーズのポスターが貼られている。パステルグリーンを基調としたゲストルーム。普段は子どもたちが楽器の習い事をするときに使用しているという。日本とコロンビアの関係をより深める来日以前、パルド大使は日本についてまったく知らなかったという。「以前一度だけ日本に来たことがあったのですが、その後、自分が駐日大使になるとは想像もしていませんでした。来日してからは日本の文化も食事もすぐに好きになりました。治安も良く、住み心地も良いので、子どもたちにとっても、非常に良い環境だと感じています」(パルド大使)。家族とのプライベートの時間と国の代表であるコロンビア大使としての時間をこの家で両立させているパルド大使。最後に今後の展望について伺った。「古い伝統と最先端を走る現代的な側面、日本はその2つが融合する国だと思っています。そんな日本とコロンビアの関係を、大使として、政治や経済をはじめ、科学技術や貿易の面で、より深めていきたいと考えています。プライベートでは旅行が好きなので、日本のまだ行ったことのない地域に家族で行ってみたいですね」(パルド大使)。公邸と同じ敷地内にある日本家屋。コロンビアからの来客の際はゲストハウスとしても使われている。和室から日本庭園を眺める。「コロンビアから来るお客様に日本の畳を体験していただけるのはうれしいです」とパルド大使。
2020年01月13日「スタイルのある家と暮らし」をテーマに情報発信する『100%LiFE』。クリエイティブな感性で暮らしと空間を楽しむ人たちのライフスタイルメディアとして2012年にスタート、8年めを迎えています。毎週、個性的な戸建て住宅を紹介。人気建築家の最先端の設計から、人気のアウトドアリビングを取り入れた家、築数十年の日本家屋のリノベーション物件まで、ほんとにいろいろ。そんな中で『100%LiFE』に集う読者の方々は、どんな家、どんな暮らしに興味を持っているのでしょうか。2019年中にアップされた家のアクセス数ランキングを公開します。第1位2階レベルに平屋をつくる居心地の良さを生む多方向への抜けの良さ73坪とゆったりとした敷地が購入できたため、伊藤さんは平屋の家をリクエスト。以前の後輩に設計を依頼してできた上がったのは、平屋が壁柱で2階レベルに持ち上げられた家だった。第2位鎌倉の平屋をリノベ築60年の味わいを楽しみながら暮らす「すべてが見渡せるのが平屋の魅力」と語る濱さんの住まいは、なんとここが3軒目の平屋だそう。緑豊かな敷地に建つ築60年の家をリノベした。第3位多摩川のほとりに暮らす光、風、緑を取り込む癒しと心地よさに満ちた家「目線の高さに緑がある、ここは理想的な場所でした」。スタジオCYの堀内犀さん・雪さんは、3年前多摩川のほとりに自宅兼アトリエを建てた。第4位まるで登山道!犬専用階段も3つの庭が心地よさを生む愛犬との生活をとことん愉しむ共に暮らす小さな犬たちが心地よく過ごせるように、マンション暮らしだったNさん夫妻は一軒家を新築。犬への愛が詰まった工夫満載の家となった。第5位大型犬が駆けまわる人にも犬にも優しいスロープハウス大型犬2匹と共に暮らす横田さん姉妹。車椅子のお母さまと老犬の介護のために、階段や段差が一切ない“スロープの家”にこだわった。第6位漫画の世界にも通ずる住空間リビングが外にあって、直接空を望める家で暮らす高橋邸が立つのは中央線沿線の「安くて小さい土地」。そこで設計者で漫画家の高橋さんが建てたのはリビングが外部にある家だった。第7位人が集まる家をつくる玄関を入るとそこはキッチン……玄関を入るとすぐキッチンのあるつくり。これは「みんなが集まってくる家」にしたいという奥さんのリクエストから生まれたものだった。第8位見たことないつくりのRC住宅都会の狭小地で街とつながって暮らす建築家が正方形の敷地にほれ込んで建てた家は、梁と床・天井のスラブを大胆にずらしてつくられた、今までにない体験のできるコンクリート住宅だ。第9位店舗と住宅一体の都心でも光と緑あふれる温かい空間を都心のビルが多い地域に建ちながらも、光を取り入れ緑を感じられる空間をつくって人を迎えられるよう工夫された店舗兼住宅。第10位築45年の木造家屋を再生当たり前を変えてみる独創性に満ちたアイデア空間祖父母が暮らした築45年の1軒家をほぼDIYでリノベーション。デザイナーの家は、古さと斬新なアイデアが同居する。
2020年01月12日LDKの向こうに絶景が広がるリビングからつながるテラスの向こうに、息を飲むような大パノラマが。ビュートリアム鎌倉小町店に勤めるヘアスタイリストの増山大輔さんは、4年程かけてこの土地を見つけた。「抜けのいい場所を探していたんです。グーグルマップを見て自分で調べて、この土地良さそうだな、と思ったらバイクであちこち回っていました。ここにも一度来ているのですが、その時は売られていなくて。とうとうほかの土地に決めようと、サインすることにしたちょうど1週間前に、売りに出されたんです」。鎌倉の小高い山の上。向こう側の山の緑と、山沿いに建つ家々が見渡せる立地に、開放的でいて都会的なセンスにも溢れた、レッドシダーの家が建つ。2階の吹き抜けまで大開口を設けた。明るい日差しが家中を包む。吉村順三の和風建築も好きだという増山さん。日本家屋で用いられる引き込み戸も取り入れた。リビングからなるべくフラットにテラスに出られるように、とリクエスト。時間の経過とともにグレーに変わる、経年変化が魅力のレッドシダーを外壁に。内と外の境界線のない家に「小さい頃から家に興味があって、小学生の時に『渡辺篤史の建物探訪』とか観ていました。そんな子どもいませんよね」と笑う増山さん。家づくりにはイメージがあった。「中と外の境界線がない家にしたいというのは、一番の希望でした。リビングからフラットにテラスに出られることと、大人勢で集まれること、吹き抜けがあることなど、もともとの知り合いでもある建築家のSTUDIO・LEONの河村さんと打ち合わせを重ねました。でも会うと、飲んでしまってなかなか進まなかったんですけどね(笑)」。同じくヘアスタイリストの妻・千明さんの希望は「キッチンの広い家」。「家づくりはキッチンから始まったと言ってもいいかもしれません」と、おふたり口を揃える。LDKの中央に、テラスに面して設けられたキッチンは、シンクに立つと眼前に向こう側の景色が広がる。「洗いものなどをしているときも、気持ちがいいですね。キッチン台は2列にしたのですが、パーティーなどを開くことも多いため、大人数で立つことのできる広さにしました。こんな広さいる?と言われたけれど、正解でしたね」。珪藻土の壁の白とオークの明るめの床に、真鍮の照明の金をあえてミックス。リビングの照明は目黒のCOMPLEX UNIVERSAL FURNITURE SUPLYで選んだもの。千明さんの希望で和室も設置した。ダイニングのペンダントライトはNEW LIGHT POTTERY。ミッドセンチュリーの家具は、本物とリプロダクトを混在させて。和室の反対側はオーディオスペース。半オープンの明るいキッチン。左奥には勝手口のあるパントリーも。テラスからLDKを見る。テラスでの朝食、BBQなども楽しい時間。キッチンには、千明さんの希望で野菜洗い用の浄水のシンクも設置。当初、白×紺だったのを、80年代の映画を見て“かわいい”と思い、黄色にチェンジ。吹き抜けの2階レベルには、ベッドルームへの渡り廊下が設けられている。千明さんは北鎌倉にヘアサロン「モダーン」をオープン予定。生活まわりの動線を一括に吹き抜けの空間を渡り廊下でつなぐ2階には、書斎とベッドルームが。そしてバスルーム、洗面、クローゼット、ユーティリティが一体となった大空間も設けられている。「ベッドルームは東南に面していて、朝の目覚めが最高に気持ちいいですね。ここからクローゼット、そしてバスルームへとつながる動線を確保したのも大正解でした」。細かく分けると狭くなるところを、一体にすることで広々とさせ、かつ動きもスムーズに。中央には古い柱を1本、あえて色を塗らずにむき出しにすることで味わいを出している。「河村さんのアイデアなんです。ドアなどもすべて古いものを用意してくれました。私たちの方では、取っ手やバスルームの目地の色など、細かなところをリクエストしました」。洗面台には、パリのホームセンターで買ってきたというゴールドの照明を。屋根裏のような古めかしさの中に、華やかさが添えられている。吹き抜けの2階。奥に書斎を設けた。階段を上がるとロフトへ。ベッドルームのドアはムラのある微妙なブルー。反対側はピンク系に塗り分けられている。見晴らし最高のベッドルーム。ここの壁だけはDIYで珪藻土を塗装した。ベッドルームからクローゼットを通って洗面台へ接続。このスペースは洗面、バスルーム、トイレ、ランドリーが一体となっている。中央の古い柱が味わい深い。サンワカンパニーのシンクにオイルステインで古っぽく仕上げた棚を造作。ゴールドの照明が華を添える。ガラス張りのバスルームは中庭も設けて開放的に。タイルの目地は薄いグリーンで柔らかな雰囲気。ロフトから1階まで、吹き抜けでつながる。どこにいても家全体の雰囲気を感じることができる。カリフォルニアにモダンをMIX「スタイルを決めたくはなかったんです。サーフィンが好きでこの立地を選んだというのもあるのですが、カリフォルニアに寄りすぎるのは嫌で、都会的なモダンな感じも足したかったんですね」。増山さんのもうひとつのこだわりは「形容するのが難しい家」。アンティークのドアもあればモダンな照明もある、そんなミクスチャーが独創的な空間を生んでいる。「家を建てるにあたって、ポートランドに行って来ました。ホテル、カフェなど色んなところを訪れ、ハンドメイドやクラフトなどを取り入れて、それぞれ工夫して空間を楽しんでいるスタイルを見て、いいなと思いましたね」。玄関を入ったところから、出迎えてくれるのはフォークロアな雑貨や、コンテポラリーな写真など、色んなテイストがミックスされたディスプレイ。「色々と考えるのが楽しいですね。今はDIYで外構にピンコロ石を敷いてみたり、テラスの植栽もこれからもっと育てていくところです。自分で手を加えることで、プロには出せない味も出ると思うんです」。色んなテイストをミックスし、独創的にディスプレイした玄関。たたきには使いたかった大谷石を敷いて和の雰囲気に。増山大輔さん。アアルトなどの建築洋書も研究。机はヤフオクで見つけた北欧のもの。階段は上部にくるほど幅を出すことで、広がりを持たせた。手すりはアイアンでオーダー。玄関からテラスにつながる小径には、DIYでピンコロ石を。不揃いな雰囲気を楽しんでいる。海まで徒歩10分。外シャワーや納戸、サーフボードラックも設けた。テラスの両サイドは土を入れ、アカシア、レモン、ハーブなどを育てている。これから増やしていく予定。
2020年01月06日落ち着ける家を作りたい埼玉県入間市に、樹々の間に平屋の米軍住宅が並ぶ『ジョンソンタウン』と呼ばれる地区がある。広告やメディアの制作を行うクリエイティブディレクターの曽根原興史さんは、撮影の下見のためにここを訪れた際、いつかは住んでみたいと思ったそうだ。「とはいえ都内からは距離がありますし、妻はヘア&メイクなので、重いメイク道具持ってここから仕事場へ通うのは厳しいと反対するだろうと思っていました。ところが、以前住んでいた世田谷区の保育園問題で頭を悩ませていたのですが、ジョンソンタウンのすぐ側にある保育園には空きがあるとわかりました。さらに近所のスーパーマーケットや美味しい野菜が買える場所、自然豊かな環境などをリサーチして、ここに住むメリットを妻にプレゼンしました(笑)。めでたく採用となり、念願の米軍ハウス暮らしの夢が現実になりました」ジョンソンタウンの米軍ハウスは、賃貸でありながらリノベーションが可能なのも魅力なのだとか。「入居を決めた際、この家はちょうどリノベーションの途中でしたが、天井を抜いて欲しいというリクエストは間に合いました」そしてDIYで壁や扉を塗ったり、キッチンの扉を変えたり、好みの内装に仕上げていったそう。「この街の住人は、みなさん米軍ハウスが好きで住んでらっしゃる方ばかりなので、趣味が似ていることもあって、コミュニティの良さは抜群です。住民のカメラマンやロケバスの方と一緒に仕事をさせてもらっていますし、プロップ用にクルマを借りたり、大工仕事を手伝っていただいたりと、公私ともに仲良くさせていただいています」「アメリカのアンティークショップで、集合写真をたくさん買いました。その中に自分たちの写真をさりげなく混ぜています」リノベーションの際、天井を抜いた。「米軍住宅は、木造でも空間を広く取れる梁の構造になっています」曽根原さん一家は、興史さん、絵理子さん、7歳の翌太くん(登校中でこの日は不在)、2歳の百嶺ちゃんの4人家族。窓の向こうは以前のオーナーが増築した部分で、今はストックルームとして使っているそう。キッチンはリフォーム済みだったが、扉を曽根原さんの好みの木目のものに変えた。ドアをDIYでペイント。ペンキがところどころ剥がれてきて、いい感じの味が出ている。念願の平屋の米軍住宅。ファサードは以前の住人が増築している。庇に伸びたモッコウバラなど、植栽が素晴らしい。テラスには大きな屋根がかかっていて、アウトドアリビングとして気持ちよく過ごせるスペースになっている。玄関の扉はDIYでブルーにペイント。扉ののぞき窓のカーテンがかわいい。鍵は玄関入ってすぐの場所にとりつけたフックへ。仕事場の壁は自分でブルーにペイントひと部屋を曽根原さんの仕事場にしている。壁は自分でブルーにペイントしたのだそう。「漆喰にすることも考えたのですが、この時代のアメリカの住宅はペンキが似合うよとアドバイスいただきました。ペイントにして正解でした。ここで物撮りの撮影をする機会があるので、小物が映える色を選びました」米軍ハウスはDIYを楽しめる家でもあるのだとか。「DIYで家に手を入れるのが好きな方が向いていると思います。ありがたいことにDIYが得意な方が多く住んでらっしゃるので、いろいろと相談に乗っていただいてます」両袖のデスクに、レザーのイームズのアームシェルチェアを合わせて。「この事務所スペースも、前に住んでた方が増築しているようです」キャビネットの上の弾薬箱は小物の収納用に。「ミリタリーものには目がないです」横に長いデスクと、軍ものの折りたたみ式チェア。事務所スペースの外側には枕木が敷き詰めた。「枕木をネットで120本買い、自分で敷きました。引き取りに行って、運んで、敷いて……重労働でした(笑)」レンタルスタジオをリノベーション曽根原さんは、家から徒歩1〜2分、同じ『ジョンソンタウン』内にある撮影用のレンタルスタジオの運営もしている。「ここに越してきて5年が経った頃、以前もスタジオとして使われていたこの建物に空きが出まして、スタジオ経営に名乗りを上げました。内装デザインを新たに行ってリノベーションし、スタジオ『TACOMA』としてオープンさせました」日本の住宅は“センチ”を単位にして設計しているけれど、“インチ”を使うと、どこかしらアメリカらしい建物になるのだそう。「家具の制作や内装をお願いした『リクレイムドワークス』の岩田さんに、そんな重要なヒントをいただきました!」スタジオは撮影以外にも様々な使い方をしているのだそう。「ホームパーティをすることもあります。卓球台を持ち込むとかなり盛り上がります(笑)」「アメリカ西北部、ポートランドをイメージしてスタジオを作りました」「トラス構造は内部空間を広くとれることが特徴です。右側に見える柱2本は不要なのですが、スタジオとして空間を分けるために敢えて立てています」アメリカの古材で作ったダイニングテーブル。スツールで座ってちょうどいい高さにしている。トラス構造がよくわかる梁。壁を黄色に塗り分けた高さもインチで決めた。「バスルームはNY風のデザインにしました」
2019年12月30日“素材と動き”を追求「家を機能的にしたかった」と語るのは中村圭介さん。妻の奈保子さんともにグラフィックデザイナーである。「動線を生活するうえで使いやすいものにしたかった」という。中村家での家づくりに関しては明確に担当分けがあった。動線など家の機能面に関しては奈保子さんと話をしながら中村さんがまとめ、素材やデザインのテイストなどは奈保子さんが決めていったという。敷地の面積は考えていたよりも狭めだったが目の前が公園で視線が抜けるという立地が購入の決め手となったという。この2階の大きな開口は木のフレームも含め夫妻がリクエストしたもの。設計を依頼された建築家の佐々木達郎さんはお2人のこの担当分けについてこう話す。「中村さんが白くてミニマルなキャンバスをつくって、奈保子さんがそこに自由にモノを置いていく。そんなイメージを持っていました」奈保子さんも重要だったのは「素材と動き」だったと話すが、夫妻と佐々木さんとの間でかなりのやり取りが交わされたという。「けっこうやり取りをしましたね。初期のらせん状のプランもすごく面白かったのですが、僕らの考える動線とは違う考え方、暮らし方で家ができていた。それに対して、もうちょっとここをこうしたいああしたいといってオーダーを出していったら中途半端な感じになってしまった。次案も同じようにオーダーを出していってそれで決まりそうだったんですが、最後に佐々木さんが“これどうですか”とバンと出してきたのがほぼ今の形のもので“あっ、こういうことです”みたいな感じでしたね」(中村さん)2階のスペースを公園側から見る。左の箱の中は奈保子さんの仕事のスペースで、その上がロフトになっている。キッチンは「木の種類をこれ以上増やしたくなかった」ため、ステンレスにした。奈保子さんの仕事場を階段側から見る。大量の本を収める棚はLDKから見えない部分につくった。すっきりとした印象のキッチン。冷蔵庫は奥の左側に置かれている。収納家具の素材には合板を使用した。“気持ちのいい場所”をつくるこのプランはやり取りの中で佐々木さんがお2人の志向されている方向・内容を把握した結果、出来上がったものだが、これには中村家のライフスタイルが大きくかかわる。「僕が仕事で帰りが遅いので平日は朝だけごはんを3人で一緒に食べる。あとは彼女が家で仕事をして、娘が保育園から夕方帰ってきてからは彼女たち2人の生活になる。土日のメインは3人でご飯を一緒につくって食べてる。こういう必要なことだけ、重要なことだけを快適にしたいというのがありました」(中村さん)「ふつうにリビング、ダイニングを取っていくのではなく、仕事をしてちょっと休憩してご飯を食べてっていう一番長い時間を過ごすこの2階のスペースがいちばんいい場所、気持ちのいい場所であってほしかった」。こんな中村さんの思いから発して出来上がった2階のスペースはダイニングに平行して奈保子さんの仕事のスペースがあるというつくりになった。ロフトから見る。「好きなものだけを置いて、雑多なものが目に入らないようにした」という室内は、この通り、すっきりとしたスペースになっている。表と裏収納の考え方も特徴的で、壁1枚を間に挟んで“表”と“裏”に分けて、裏、つまりふだんは隠れて見えない場所にほとんどのモノを収納してしまい、表側はきれいすっきりに保つ。2階は“裏”である仕事部屋と収納スペースにほとんどのモノが収められて、テーブル、イス以外にはモノがほとんどない状態だが、1階も同様だ。服類は廊下の裏側、寝室とユーティリティを結ぶ通路の両脇にまとめられている。このウォーク“スルー”クローゼットとユーティリティの関係がユニークで面白い。室内干しにすることを強く望んだ奈保子さん。中村さんの北海道の実家のやり方を見習って洗濯物をそのままハンガーにかけて干すようにした。そして乾いたらたたまずにそのハンガーごとクローゼットに収納する。「洗濯物を抱えて家を横切って行ったり来たりみたいなのはいやだなっていうのはずっとありました」という奈保子さん。このつくりでずいぶんと手間が省けただけではない。このスペース自体が「非常に快適」という。「干していて苦にならないだけでなく、誰に見せるというわけでもないんですが、非常に満足感がありますね」階段室に吊り下げられたライトは佐々木さんがむき出しのオブジェ的に見えるものがいいのではと選んだもの。階段の素材を上下で変えるアイデアは奈保子さんからのもの。奈保子さんお気に入りのスペース。手前を左に入るとウォーク“スルー”クローゼットでその奥に寝室がある。洗面の左側が浴室になっている。寝室側から見る。階段前から見る。室内干しを前提につくられたスペース。洗濯したものをハンガーにかけて干し、乾いたらそのまま右のクローゼットに収納する。動線に無駄がないうえにたたむ手間も省ける。「空間がつながっている感じにしたかった」ため、戸はすべて引き戸にしている。室内に「オランダのギャラリーみたいにざっくりした感じ」を求めた奈保子さん。写真を置いたこのスペースはまさにギャラリーの空気感。1人だけで部屋にこもることはないと思い自分の部屋をつくらなかった中村さん。左がキャンプ道具や釣り道具などを置いた唯一の自分だけのスペース。奈保子さんがオランダで気に入って購入したというペイパーホルダー。トイレの扉には娘さんの描いた絵がサインがわりに貼られていた。子どものための空間中村さんのつくった白いキャンバスに奈保子さんの目に適ったモノを置いていく。それにさらに加わってこの家の空気感をつくり出しているのが娘さんの描いた絵だ。これがよく描けているだけでなく1階の壁に貼られたものは場所場所のキャラクターを絶妙にとらえている。「あれは本人が勝手に描いたものですが、よく描けているなあと思って貼りっぱなしにしている」(奈保子さん)という。実はこの中村邸のプラン、生活動線の面から検討を重ねただけでなく娘さんのことも考えたものという。「プラン的に回れるような感じにすることも考えましたね、子どもには面白そうだろうと。実際、初めてここに来たときもすごい気に入ってくれて」。「ぐるぐる回って追いかけっことかしていますね。2階だけでなく下でもぐるぐる回ってます」「僕が小さいときに遊びに行った親戚のうちがぐるぐると回れるつくりになっていてそれがとても面白かったという体験があるんですが、この家はその家とは違うタイプの空間だからどうなるのかなという楽しみはありますね」。2階につくった奈保子さんの仕事場とダイニングを仕切る壁には扉がなくぐるぐると回ることができるようになっている。そしてダイニングに面した壁面のほうには娘さんの絵が貼られている。自分たちの思いを実現できた中村夫妻はもちろん、彼女も大満足の家になっているのではないだろうか。ダイニングに面した壁には娘さんの絵が飾られている。キッチンから見る。ライトはプルーヴェの「Potence」で佐々木さんのセレクション。外観のミニマルな印象はサイドに玄関をつくったことにより強まっている。中村邸/House-NA設計佐々木達郎建築設計事務所所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積87.76㎡
2019年12月23日建築家に土地選定の段階から相談20年住まわれた東京・江東区を離れ、昨年世田谷区内に家を建てたUさん夫妻。「以前の自宅の目の前が再開発地域にあたり、タワーマンションの建築計画が入っていたんです。それを機に移ることにし、土地を探しました」(夫)家を建てるにあたり、夫が以前勤務していた会社のオフィスデザインを手掛けた建築家の庄司寛さんに依頼。土地選定の段階から相談した。通勤や地盤などを考慮し、出会ったのがこのY字道路に面する三角形の敷地だった。「庄司さんに“この土地、どう思いますか?”と見ていただいたら、庄司さんがサラサラと家のイメージを描いてくださってね。それが、20代の頃、2人で留学していたときに住んでいたシアトルのコンドミニアムと重なって、懐かしい気持ちになったんです」(妻)スキップフロアや高い天井の開放的な雰囲気が当時と重なり、ともて気に入ったという。仕上がった家は、その最初のイメージどおりだと話す。Y字道路に面する。角地に建つため、道を曲がってくると、大きな開口を設けた片流れの外観が目に飛び込んでくる。玄関前の三角スペース。妻が育てているバラがお出迎え。ガレージの奥には、近くを走る電車が時折見えるという遊び心も。2階のリビングダイニング。奥行のある、明るく広々とした空間。三角形の敷地の個性を活かす「土地のポテンシャルを最大限に活かすことを考えました」とは建築家の庄司さん。三角形の土地でできるだけ長く取れる軸線を意識したという。北東側にとれた軸線に沿って奥行のある建物を配置。南西側に目線が広がるように大きな開口やベランダを設けた。また、奥に向かって徐々に下がっている高低差のある土地であるため、傾斜を活かすスキップフロアを採用した。三角形の土地ゆえに、所々に残った三角形の部分は、玄関の前庭、寝室前の中庭、バスルームから見える坪庭、裏の勝手口などとして無駄なく活用。敷地の個性によって生まれたスペースが、生活に豊かさをもたらした。また、「今回家を建てるにあたり、老後を意識しました」と話すご夫妻。災害等のときに避難しやすいよう寝室は1階に配置し、階段の段差は20cm以内を希望した。さらに、1階は割れにくい強化ガラスを採用し、ライトは自動やタイマーで灯るようにするなど、防犯面にも配慮した。寝室脇の中庭は、妻のリクエスト。四季折々の花が植えられている。1階の寝室。南側の窓から、1階とは思えないたっぷりの日差しが入る。寝室の隣の部屋。近々、妻が営む事務所が移転してくる予定。玄関から見る。階段の段差は低めに設定。数段降りた奥がサニタリールーム、その奥が勝手口へと続く。バスルームは開放的なガラス張りにこだわった。ホテルライクなバスルームがお好みの夫のリクエスト。坪庭(奥)を眺めながらゆったりとくつろげる。階段下は収納になっている。換気扇付きの猫用トイレ(左奥)も設置。勝手口には、裏のシンボルツリーとしてトネリコを植えた。大勢が集うワンルームUさん夫妻は広島県の出身で、高校の同級生。当時、夫が所属していた吹奏楽部の先輩や現役生までつながる後輩たちとともに、毎年夏にコンサートを開いているという。「年に数回、その仲間たち20数名や留学時代の友人たちがうちに集まるため、大きなワンルームを希望しました」(夫)広々とした2階のリビングダイニングは、その人数をもてなすにも十分な広さ。「人を招くのが大好き!」という夫が中心になって料理をふるまうとのこと。普段は中華料理に凝っているというが、パーティのときはイタリアンが多いそう。「けっこうイケますよ」と妻も太鼓判を押す。ダイニング脇のキッチン(右)は動線を考えた造り。中華料理に凝っている夫の希望もあって、火力の強いガスレンジに。自然と窓に向かって並んで座ることが多いというお2人。華奢でシンプルなテーブルは庄司さんのデザイン。イスは『柏木工』のもの。2階もスキップフロアになっている。勝手口の上にあたる(奥)部分にはサービススペースを設置。広めに設計した2階のトイレ。うっすらと透けたガラス張りがお洒落。階段状に設えた収納は無駄のない造り。裏のキッチン側に収めるものによって、階段側の収納部分の厚みが異なる。音楽が趣味のお2人。クラシックを中心としたCDコレクションが。パーティ用のグラス類もたっぷり収納。愛猫たちも満足この家に暮らし始めて1年半。「私たちももちろん気に入っていますが、猫たちが1番喜んでいるかも」と笑うご夫妻。スキップフロアは猫にとって楽しく、ベランダへと続く猫用扉により、外へも自由に行き来できる。また、1年中たっぷり日差しが降り注ぐ2階のリビングは猫にとっても快適空間。季節によって異なる変化を敏感に感じ取り、心地よい場所を見つけてはお昼寝や日向ぼっこをしているという。愛猫たちとともに過ごす何気ない時間を楽しんでいるお2人。今後は植栽にも力を入れていきたいと話す。「四季を意識した花木を少しずつ植えてきて、やっと根付いてきました。イングリッシュガーデン風の庭に憧れているので、少しずつアレンジしていきたいですね」(妻)『柏木工』で購入したソファで過ごすひとときは、お2人のお気に入りの時間。奥の開口が道路側。夜は、天井の梁が幻想的に光り、外から見ても美しい。2階のウッドデッキ。低めの手すりがポイント。左下が猫の出入り口。下には、寝室前の中庭がある。キッチンの下に設けた猫の出入り口。ご夫妻が留守のときでも自由にベランダと行き来できる。下から上に調節できるブラインド。道路からの視線と日差しを避ける。先代猫のリリくんとトームくん。日本画を学んだ妻の妹さんの作品。U邸の猫たちは皆、捨て猫や保護猫だった。現在飼っているモモちゃん(5歳、メス)。もう一匹の黒猫のハナちゃん(6歳、メス)はシャイな性格で一瞬しかお目にかかれなかった。モモちゃんを描いた妹さんの作品。御覧のとおり、そっくり!U邸設計庄司寛建築設計事務所所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階延床面積105㎡
2019年12月16日壁がぐるりと巡る「切妻屋根が好きではないので四角い家がいいと思っていました」。こう話すのはHさん。しかし道路レベルからはH邸の屋根の形を確認することはむずかしい。建物にぐるりと壁が巡っていて屋根の形どころか、そもそも住宅なのかどうかさえもわからないのである。このデザインは住宅密集地ながら三方が道路に開かれた角地にあり、かつ、隣にアパートが立つという敷地条件から導き出されたものだった。道路に面した3面には窓はなく壁が部分的に切り取られたところがある。下はガレージ、上はテラス部分の壁が切り抜かれている。左の壁面の真ん前にはアパートが立っている。「人の目線が気にならないように配慮してこのような形にしていただいた」と話すのはHさんの奥さん。設計を依頼したのは森清敏さんと川村奈津子さんが共同主宰するMDSだ。テレビ番組で見て気に入った住宅がMDSのデザインによるものだったという。周囲を同じく壁で囲んだその神楽坂に立つ住宅は「コーナーの部分が曲線でつくられているのが素敵でした」と奥さん。森さんは「あの家は周りがとても立て込んでいて窓をつくると内部が見えてしまうため3層を壁で囲いました」と話す。さらにこの住宅も「周囲に住宅が立て込んでいるうえに、隣にアパートがあって不特定多数の人が住んでいる。アパートは将来建て替わる可能性もあるし高さもどうなるのかわからない。こうしたことを考えるとある程度閉じていくことを考えざるを得ない状況でした」と説明する。左下の扉を開けると吹き抜けていて玄関ドアが右側にある。この扉はパンチングメタルを組み合わせてつくられたもの。壁を切り取るHさんからも「MDSが設計した神楽坂の家は囲われていていいな」という話を聞いていたというが、しかし、同じようにすべて囲ってしまうのではなくどう開くいてくのかも同時に検討していったという。壁で囲ってしまうと当然ながら採光の問題が出てくる。H邸の外壁を見ると、玄関やガレージの壁が部分的に切り取られているほか上部にも切り取られている部分があるが、そうすることで内部へと光を導き入れまた視線の抜けも確保している。そして内部では、同じく壁を切り取るという操作によって、内外に対して開口をつくり出している。手前が1階リビングで奥がダイニングとキッチン。オープンキッチンにするのは夫妻の強い希望だった。ダイニングの左手を奥に進むと玄関へと至る。この1階スペースにいることが多いという奥さんのお気に入りはキッチンで、パネルの色にこだわりブルーグレーにしたという。ダイニングキッチンからリビングを見る。ダイニングキッチンからも視線が外へと斜めに抜ける。開放感と視線の抜けそれとともに、天井も、これは切り取るのではなく、取り払ってしまうことで、外光をふんだんに内部に採り入れるとともに開放感と空に対しての視線の抜けを確保している。具体的には、リビング上部を吹き抜けにしたり、2階の寝室の隣にテラスをつくったりということだ。奥さんはこのようにデザインされた空間を模型で見て「かっこいいなと思った」とその時の感想を語る。Hさんは「想像していなかったような形が出てきました」。夫妻は内部でもいろいろと要望を伝えた。Hさんは「オープンキッチンや階段についての要望など」を伝えたという。階段は他のMDSの住宅の写真を見て気に入っていたもので「絶対譲れなかった」ものという。左手のキッチンの床は一段低くなっていてダイニングに座った人と目線の高さが近くなるようにしている。キッチン近くから見る。奥に浴室。浴室側からキッチンを見る。キッチンの開口はエントランス部分の吹き抜けに面している。Hさんの希望で浴室の扉と壁をガラスにした。扉と鏡のフレームを木にしたのは奥さんのリクエストだった。見せない収納2階にはテラスの近くに木のボックスがつくられているがこれもリクエストしたもので、実は中に洗濯機が入れられている。「洗面所に洗濯機があると生活感が出てしまう」ためそのようにしてもらったというHさん。「モノを見せない収納にしたかった」と、1階のキッチン部分でも冷蔵庫を収納の中に入れて隠している。これが雑多なデザインが混在しがちな住空間をすっきりとした印象にまとめて落ち着き感をもたらしている。落ち着き感をつくるのに寄与している要素としてその収納家具の色味も挙げるべきだろう。その濃い目の木の仕上げ色は、MDSから提案されたサンプルから選んだものという。森さんはその濃色の部分について「白い壁面以外はすべて家具扱いにしていて、白の部分とはっきりと差をつけるためにこのような色にしました」と説明する。過去のMDSの住宅で気に入った階段と同じものを希望したが、デザインは「微妙に変えて進化させている」(森さん)。天井から吊り下がるシーリングファンは森さんのリコメンドからこの製品に。「これは良かったです」とHさん。2階から1階のリビングとダイニングキッチンを見下ろす。左の木のボックスには洗濯機が入っている。テラスが隣にあるので洗濯したものをすぐ干すことができる。2階和室から見る。すぐ前の壁には間接照明が仕込んであり、下からの反射でほんわりと空間が明るくなるようにしている。日差しの強い時期には右のテラス上部にオーニングを取り付ける。ウォークインクローゼットの扉上部のアールのラインが空間の雰囲気を和らげている。奥は将来の子ども部屋。陰をつくるさらに室内空間の明暗のメリハリも落ち着きをもたらしている。全体を一様に明るくするのではなく陰を意図的につくり出しているのである。「明るいところをつくるということは同時に暗い部分をどうつくるか、陰をどうつくるかという話になる」と話す森さん。その結果生み出された明暗のメリハリが空間の高低のメリハリとあいまって歩くごとに風景が変わっていくような印象を与えることに。天井高がダイニング部分で2.1m、奥のリビングが4.6mと、明暗だけでなく高さのメリハリも効いている。この家に住み始めて2年。Hさんは「とても静かで、かつとても住みやすい」という。プライバシーへの配慮から壁で四囲を包むつくりにしたことで外部からのノイズが大きく取り除かれて都市部では珍しいほどの静けさがもたらされた。そして、この静けさが落ち着きのある家具の色と意図してつくり出された陰をほどよく抱え込んだ室内にマッチして心地良い空間をつくり出している、そのように思われた。H邸設計MDS所在地東京都構造木造規模地上2階延床面積113.83㎡
2019年12月11日仕事と暮らしをひとつに都心にもアクセスがいい、静かな住宅街。そこで龍光寺建築設計一級建築士事務所を営む、龍光寺眞人さんと池守由紀子さん、そして二人のお子さんが暮らし始めた住まいを訪ねた。事務所兼住宅の建物の入り口は大きなガラス張りで、いわゆる戸建という感じはしない。「ここはなんだろう?という感じで見ながら通り過ぎる人もけっこういますね」と話す龍光寺さん。以前もこのあたりに家を借りて暮らしていたという。「ただ、仕事場が別だと子どものことも心配で仕事にも集中できなかったので、職住を一緒にしたいと思い土地を探し始めました」。なかなか空きが出ず、2年ほどかかったという土地探しも、やっと古い家屋のある24坪ほどの土地を購入し、自分たちで設計を始めた。そしておよそ8カ月の工事を経て今年完成した。打ち合わせスペースの土間は基礎をそのまま現しにした。その下には床暖房が埋められている。半地下の仕事スペースは、壁に向かって仕事はしたくないと、中央に円形のテーブルを置いた。内と外のいい関係設計にあたってまず考えたことは、自分たちの生活と街との距離感だったという。「この敷地内で事務所は別棟にする案もあったのですが、そうすると壁が増えてコストもかかるし、何より仕切って別世界をつくるようなことはしたくなかったんです。このあたりに長年住んでいますから近所の人などの雰囲気もわかっているので、街に向けてオープンに暮らした方が気持ち良さそうだな、というイメージがありました」と龍光寺さん。入り口にガラス張りのサッシを選んだことや、入ってすぐの打ち合わせスペースは土間で外との段差がほとんどないことからも、内と外との境界がいい意味であいまいになっていることを感じる。「家の中は下から上に向かって徐々にプライベートになっていきます。壁をつくると狭くなるのでなるべく仕切らず、窓は大きく取りました」。ドアを開けると土間の床と高い天井の開放感のあるゆったりとした打ち合わせスペース。その奥の半地下が夫婦の仕事場。土間から階段を上がるとダイニング、さらに階段を上がるとプライベートなリビングや子ども部屋や水周りとなっており、各スペースが壁ではなく階段によって分けられている。ダイニングスペースからは階段下、その向こうの外の通りへの見通しもよく、子どもが遊んでいる気配も感じられる。ダイニングから上がったフロアにはテレビを観たりする小さなリビングスペースを。奥が子供部屋で、梯子の上のロフトは夫婦の寝室。ダイニングからの気持ちの良い見下ろし。天井には木毛セメントボードを貼った。階段はスチールで見通しを邪魔しないすっきりさ。リビングスペースの窓は大きく取るために、ビル用のサッシを入れた。さりげない親しみやすさをこうして考えられた家には、近所の子どもや友人たちもよく遊びに来るという。そんな時は土間の打ち合わせスペースがパーティー会場に。「近所の子はガラス越しに中が見えるから遊びに来やすいみたいですね。それに若い人は共働きなどで日中家にいる人が少ないから、なんとなく安心感もあるのかなと。自分たちとしてはやっと仕事と生活を一緒にすることができて、子どもも見ながら仕事もするというのは効率としてはあまりよくないかもしれませんが、精神的な面では安定しましたね」と池守さん。「子どもたちには、私たちの設計した家をいろいろと見せていたので、早く自分の家がほしかったみたいですごく喜んでくれています。でも、家の写真を携帯電話の待ち受け画面にしている僕がいちばん気に入っているかもれません」と龍光寺さんは嬉しそうに話す。空間が狭くならないよう、照明器具は最低限のものを。電球ソケットは思ったよりも明るく、灯りをつけないときは存在感もさりげない。ロフトの寝室は子ども部屋ともつながっており気配も感じられるので、大人も子どもも安心して眠れる。バスルームも建具はつけずにシャワーカーテンのみで仕切る。メンテナンスも簡単。大きなガラスが印象的な外観。手前の駐車スペースから入り口ドアまでの動線も親しみやすさを感じる。
2019年12月09日窓から開ける景観を活かして「子どもが生まれたこともあって実家に近い鎌倉で探していたのですが、この土地を見て即決しました」。都心のマンションに暮らしていたインテリアデザイナーの新谷憲司さんが、緑深い鎌倉の山の中腹に一軒家を構えたのは約1年半前。曲がりくねった坂道を登っていく途中に、焼スギの外壁に囲まれた瀟洒な家が現れる。「この場所を見て、ここに3階建ての家を建てたらおもしろいものができるな、と思いました。森に囲まれた平坦ではない土地なので、フロア毎に違う景色が開けてくるイメージが思い浮かんだんです」。“坂から登ってくる家”をスケッチで描いて建築家に相談。間取りなど自分で考えたものを基にプランニングを進めた。坂の途中に建つ焼スギの外壁の家。鎌倉の静かな森に、寄り添うように佇む。ガレージにはストレージも。庭の手入れも楽しみのひとつ。庭を眺める作業スペース1階から3階まで、それぞれの開口が違った景色を切り取る箱のような家は、フロア毎に違った雰囲気を持つ。「1階は何かができるスペースにしたい、と考えました」。外から土間のようにつながったモルタル敷きの空間に、仕事場、DIYスペース、水まわりを設置。2階につながる階段には、壁一面に書棚を造作した。「本棚は前に住んでいたところの1.5倍欲しいと思っていたんです。オフィスは都内にあるのですが、ここでも仕事ができますし、このスペースがあることで生活に余裕が生まれますね」。大きな開口の向こうには庭の緑が広がり、外からの光を室内に運び込む。「もともとここには昭和30年代の古屋が建っていて、庭には古い大木もありました。その木を残しながら、この場所で育ちやすそうな木を調べて、新たに植栽したんです。今は育っていくところを見守っています」。豊かな自然を切り取る1階の開口。まわりを散策してはどんな木が育っているのかを研究したそう。モルタルがクールな水まわり。洗面には実験用のシンクを使用。窓からの景色が心地いいバスルーム。緑を眺めながらの朝風呂も。土間のような1階のスペースでは、仕事をしたり、本を読んだり、庭を眺めたり。仕事机の向こうのDIYスペース。有孔ボードにツールを吊るす。古道具屋で見つけたという、時代を感じさせる背負子が風情たっぷり。薪ストーブありきで考えた広々とした2階のLDKは、大人数で集まることの多いライフスタイルに合わせて設計。3方向の開口から眺められる緑と、黒を主体としたインテリアがコントラストを生んでいる。「最初は箱のような家にしようというだけで、イメージは決まっていなかったんです。その後、長野の中川村に薪ストーブを見に行って、具体的になっていきました。薪ストーブからデザインしたと言ってもいいですね」。夫婦ともに外せなかったというイエルカワインの薪ストーブの黒に合わせて、キッチン台に黒皮鉄をあしらい、ダイニング側には大きな黒皮の壁を立てて空間のアクセントに。「天井も最初は木を現していて山小屋風だったのですが(笑)、黒く塗装しました。黒い家にするつもりは当初なかったのですが」。書棚のある階段側は、黒いアイアンの柵が仕切りになっている。工業的なマテリアルを使いながら、どこか和の意匠も感じさせるのが落ち着くところ。「考えたのは日本家屋の再構築です。和の曖昧なものを現代的に解釈して取り入れられたらと」。細かなところに和の素材を用い、“交換”により繕っていく、そんな日本の昔の暮らしも踏襲されている。書棚をバックにしたリビングは、バルコニーや開口からの光で陰影が美しい。夜はスポットライトとウォールランプでほのかに灯す。ソファーはデイベッドのようなサイズ感で造作したもの。黒皮鉄をあしらったキッチン&ダイニング。引っ越し前から持っていたザ・コンランショップのダイニングテーブルがきれいに収まるように設計した。現しにした天井を黒く塗装。キッチンは大勢でのパーティーにも対応できるよう2列に。2階キッチンの開口は、道行く人の目線と同じ高さになっている。長野県上伊那郡中川村にあるイエルカワインの薪ストーブが鎮座。これ1台で冬もエアコン要らず。料理好きな憲司さんがキッチンもデザインした。使い込んだ調理器具がずらりと並ぶ。黒皮鉄の壁の前でブルテリアの谷氏と。イスはアルミニウムを原材料としたネイビーチェア。アイアンのフェンスは藤沢のさいとう工房にオーダー。書棚との組み合わせが独特の世界観を構築。オリジナルで考案したワゴン式収納。奥の方の食器も楽に取り出せる。2階の凹凸のある床はフレンチパイン。階段〜3階は無垢のナラ材で。吹き抜けが温かな空気を運ぶ「吹き抜けは戸建てならではのものですから、絶対に設けたいと思っていました。光が下に落ちていく具合も計算しました」。3階の南側に設けたスリットから入る光が、2階のLDKに届く。吹き抜けを介して、それぞれのフロアの気配も感じることができる。「3階の居室にも仕切りをつくるつもりはなくて、真ん中を解体できるクローゼットで仕切っているだけなんです。建具などもほとんど使っていないので、実はローコストで建てられましたね」。薪ストーブを炊けば、真冬でも3階まで暖かい空気が流れる。居心地のよさからか、自宅で過ごす時間が長く、鎌倉に来てから外食することなどもほとんどなくなったそう。「最寄りのコンビニまで10分、レストランも早く閉まってしまったりと、決して便利ではないですが、ここに来て暮らしを楽しむようになりました。デザインを考えるのも楽しかったし、今は終わっておもちゃを取り上げられたみたいで(笑)。これからはDIYで少しずつ変えていくのが楽しみですね」。手すりには竹をDIYで取り付けた。スリットから光が差し込み、吹き抜けを介して家族の気配が伝わる。クローゼットも以前の1.5倍の容量に。現在は妻・朋子さんの仕事机などを置いている部屋。こちらの開口からは崖が望める。「入居当初は朝、鳥の鳴き声がうるさいくらいで…」というベッドルーム。鎌倉の空気にしっくりとなじむ家。バルコニーではハーブなどを育て料理にも活用。新谷邸設計・建築アーク・コンストラクトインテリアデザインa3所在地神奈川県鎌倉市構造木造SE工法規模地上3階延床面積120㎡
2019年12月02日落ち着ける家を作りたい著名な写真家の夫と、夫の事務所スタッフでもある妻、そして愛犬のルルちゃんの、2人と1匹が暮らす鎌倉・極楽寺の住まいは、周囲を緑に囲まれたとても静かな場所にある。「祖父の家が鎌倉にあり、この家に越す前は同じ鎌倉の浄妙寺に住んでいましたので、住まいはやはり鎌倉で探していました」写真家は御殿場にスタジオを構えている。その仕事場は有名な建築家が腕をふるった設計ということもあり、自宅はゆっくりと過ごせる落ち着ける空間にしたいと考えていたそう。その話を知人にしたところ、建築家の宮田一彦(宮田一彦アトリエ)さんをご紹介いただいたのだとか。「宮田先生にぜひ中古物件をリノベーションしていただきたいと考えていたのですが、なかなか物件が見つからず、頭を新築に切り替えてようやく作ることができたのがこの家です。ここは車もほとんど通らない奥まった場所なのですが、さらに旗竿敷地ということもあってとても静かです。朝は鳥の声で目覚めるのがとても気持ち良いです」ちなみに、元の地主さんはアーティストに土地を譲りたいという希望があったそうで、格安で譲り受けたのだとか。こういうことが起きるのも鎌倉という土地柄ならではかもしれない。障子越しの柔らかな光が美しい。リノベーションを得意とする宮田一彦さんが手掛ける新築物件は、構造体をなるべく見せるように設計されている。ソファとダイニングチェアはハンス・ウェグナー。ぶ厚い天板のガッシリとしたダイニングテーブルはTRUCK FURNITURE。等間隔の壁の間柱が美しい。間柱にかけた額装は、モリソン小林の彫刻作品。天井や壁のリズミカルな構造体が美しい。手前は薪も使えるペレットストーブ。「311の際の鎌倉の計画停電を経験し、なるべく電気に頼らない自然エネルギーで暖をとれるようにしておきたいと思いました」リビングから玄関への目線。裸電球の連なりが美しい。そして、天井付近のモルタルの塊がアクセントに。ここは上階の書斎の部分にあたる。そして天窓から明かりを効率的に取り入れている。タイル張りのキッチン。天板はステンレス。「プロパンガスを使う地域なので、コンロはIHにしました」ダイニングテーブルの上のアンティークの照明は、フィリップス社のインダストリアルなランプシェード。ガラス作家の安土草多のランプシェード。「若い作家さんの作品です。以前から気になっていたのですが、照明器具を探していた時にちょうど鎌倉で展示会をしていて、縁を感じて購入しました」テーマは“新築に見えない家”「階段を登れない犬と同じ部屋で寝たかったので寝室は2階ではなく1階に、そして書斎は2階へという間取りの希望だけお伝えして、設計はほぼほぼ宮田先生にお任せしました。悩んだことといえば、壁は縦の間柱を見せるのか漆喰の白い壁にするかだったのですが、”新築に見えない家”というテーマに沿って、間柱案に決めました」照明器具にはこだわったのだそう。「リビングに裸電球を吊るしたのは初めてだと工務店の方に言われました(笑)。電球にもこだわりました。実験として実際に旧来の電球とLEDを使い比べて、LEDを選択しました。LEDは食わず嫌いだったのですが最近はかなりよいものが出ているんですね」壁一面の本棚。その横にLINNやJBLスピーカー、そしてコロンビアのSP盤を聴けるレコードプレイヤーが柔らかな気持ちの落ち着く音を奏でる。仕事で使うカメラは事務所にあるが、湿気に強いブリキ缶の中に除湿剤とともに趣味のカメラが収められている。「このブリキ缶は無印良品のものです。以前から持っていた棚に偶然ピッタリと収まりました」書斎のデスクはアーロンチェア。ブラインド越しの光が美しい。2階の廊下。建具は古いものを使っている。左上の窓は星見櫓の出入り口。「柵のない星見櫓を作っていただきました。この辺りは夜は真っ暗になるので、星を見れたら綺麗だろうな、と」階段の目線の先にメープルソープのリトグラフを飾る。手すりは無骨な異形鉄筋。経年変化が味になる自然素材を使う2階には、見晴らしの良い星見櫓と、書斎を作った。「家を作る前は、自分の部屋を持つのであれば、今の4倍くらいの広さの部屋があったらよいなと想像していました。しかしできあがったこの部屋はとても居心地がよく、これはこれで悪くないと思っています」この家には今年の2月に越してきたのだそう。「住んで1年経っていない新築の家にはまだ照れがありますが、経年変化が味になるような自然素材を使っていただいていますので、だんだんと自分の家らしく馴染んでいくだろうと期待しています。どんなふうに味が出てくるのか、楽しみにしています」L字のアプローチに物語が感じられる。旗竿敷地は演出次第で特別な気持ちよさを設えることができる。「玄関の大きな沓脱石は、工務店の社長さんが探してきてくださいました」トイレと洗面台の間はコンクリートブロックで仕切った。洗面台の下の扉はガラスの引き戸にしている。【建築家データ】設計宮田一彦(宮田一彦アトリエ)所在地神奈川県鎌倉市構造木造規模地上2階
2019年11月27日好条件の敷地での家づくり静かで子育ての環境に良く緑が多い場所――これが加藤夫妻が敷地を探すときのコンセプトだった。現地を見て即決したという敷地は、歩道と合わせて幅12mほどの道路に面しているとはいえ気になるような騒音もなく、周囲には緑もあって子育てには良さそうな環境にある。さらに加えて角地で敷地もゆったりめ、隣家との距離もある程度確保できるという敷地条件の中で、加藤邸の家づくりが始まった。ダイニングからリビングの方向を見る。斜めに架けられた垂木が天井にダイナミックな印象を与えている。コアの階段室を見る。右のリビングからはコアに開けられた開口を通して空を見ることができる。走り回れる2階プラン周囲の家のリビングが1階に置かれていて、2階を外部に対して開いても目線が合わないこともあり、リビングを2階にしてコーナー部分にガラス面を広めに取った開放的なつくりとした。2階をリビングにした理由はもうひとつあった。「2階にもっていったほうがリビングが広く取れると言われたので、そうすると子どもが走り回ったりと自由に使えるんじゃないかと思った」と奥さん。出来上がった空間も、コアの部分に階段室をつくってその周りをダイニング、リビング、スタディスペース、キッチンがぐるりとめぐる構成になっていて、コア部分以外には仕切りとなる壁のないひとつながりの空間ゆえ、奥さんの思った通りに、子どもが自由に走り回ることのできる空間になっている。リビングスペース。加藤さんはこのソファがお気に入りの場所。奥さんは、息子さんと奥のコーナー部分でよく遊ぶという。左の開口からは近くを走る道路を通して遠くまで視線が抜ける。構造材を斜めに架けて見せるコアを軸にして回遊できるこのプラン上の特徴に加え、高さのある天井も目を引く。「木の家がいい」とも伝えていた加藤夫妻は、木の構造材をそのまま見せるアイデアにも前向きに応じた。「最初は梁だけ出そうという話もあったんですが、垂木もすべて見せようということになりました」と奥さん。3人でチームを組んで設計にあたった建築家の石村さんは「垂木も特徴的で、ふつうはまっすぐに架けることが多いんですが、コアの周りをぐるりと回る平面のため、天井のほうも動きをつけようということになりました」と話す。しかし、通常の架け方と比べ斜めに架けると費用がかさむ。「コストの減額検討時に加藤さんに確認をしたところ“動きの感じられる方がいいと思うのでこのままやりましょう”と言っていただいた。空間のアクセントになっているので実現できてとても良かった」という。スタディスペースからリビングの方向を見る。右の壁面にトイレと収納が仕込まれている。リビング/スタディスペースのコーナーからも道路を通して視線が抜ける。建物の1辺の端から端までキッチンの天板が延びる。気持ちよく料理ができるだけでなく、そのほかの用途にも使用できて便利だ。キッチンの置かれたコーナーからも視線が遠くへと抜ける。キッチンでの作業時に外が見えるので気持ちがいいという。トップライトの下はシルバーの階段室友人に「“美術館みたいだね”ってほめられることがある」と奥さんが話すのがシルバーに塗られた吹き抜けの階段室。夫妻からのリクエストにはなかったものだが、この空間も加藤邸の大きな特徴になっている。全体がシルバーのため、トップライトから落ちてくる光を壁面の途中に開けた開口から2階の空間へともたらし、また1階へも光を供給する。「加藤さんがバイクがお好きなのでメタリックな感じもいいのではないかとか、反射するため壁っぽく見えないというのもありました」と設計意図を語るのは石村さん。共同で設計にあたった根市さんは「せっかく空に開いている場所なので、いろんな場所から空を見たりできたらいいのではと考えました。それと、シルバーの壁に空が鈍く映り込むので、天候の変化によって時間の流れが感じられる」と話す。素材感のある戸と素材感の薄い階段室壁面とのコントラストが面白い。ダイニング側から階段室を見る。右の小さな開口はトイレのもの。階段室を見上げる。トップライトから落ちる光が2階の各スペースにも光をもたらす。階段室から見る。左が玄関。トップライトからの光で1階の中心部分も十分に明るい。1階はフレキシブルにプランが変更可能「1階に関しては、子ども部屋を2部屋と主寝室、あと広いウォークインクローゼットがほしいというリクエストを出しました」と話す加藤さん。これに応じて設計側が考えたのが、全体を9グリッドの平面にして引き戸の位置を自由に変更できるというものだった。「その時々の生活のスタイルに合わせてフレキシブルに変えられるように自由に仕切れるつくりにしました」(根市さん)広めの土間にした玄関にはガラス戸を通してバイクや自転車が置かれているのが見える。このようにしたのは、ガレージ兼用の玄関にすれば面積的な面でも合理的でいいし、玄関を閉じたつくりにするのではなくガラス戸にすれば、窓として使えて光も採り入れることができるとの考えから。手前のスペースには戸は付けられるが今ははずされている。戸を付ける場所を変えることで、ライフスタイルの変化にフレキシブルに応じることができる。右がウォークインクローゼット。左奥が玄関。バイクが玄関内部に置かれているため、家の中で手入れができまた盗難の心配もない。ガレージ兼用の玄関部分を道路側から見る。カーテンは手前に付ける予定だったが、「こちらにすればショールームみたいになってカッコいいのでは」との夫妻の意見から吹き抜け側に移動した。根市さんは「生活が自由にできる家がいいのでは」との思いをもって設計に臨んだと話すが、この家を訪れる息子さんの友人も含め子どもたちは思い切り自由気ままにこの空間を享受しているようだ。奥さんは「“みんなで走ろう”って追いかけっこをして大変です」と笑いながら話す。「みんな楽しそうに走り回って汗をかくから、最後はお風呂まで入って帰っていきます」「今年は長梅雨でしたが、これが以前だと大変だったんです、“外で遊びたい”って言って」と加藤さん。奥さんが「でもここでは家の中で走ったりできるから」と続ける。「遊びに来る子も前に住んでいたマンションの友だちだから、梅雨とかに呼ぶと喜んでくれて。暴れても大丈夫なのですごく喜ばれましたね。特に子どもたちに好評のようですが、みんなに愛される家だと思います」と加藤さん。ライフスタイルの変化にも柔軟に応じるキャパシティをもつ加藤邸。加藤さんが最後にこう話してくれた。「住み始めてまだ8カ月ほどですが、これから子どもが大きくなって家を出てしまったときにはまた違う使い方ができる家だと思うので、その時々を楽しんでいければなと思っています」ダイニングでくつろぐ加藤夫妻と息子さん。2階は天井の最高高さが4.1mと高く、開放感を感じるうえでも貢献している。構造用合板を使った壁は「ラフな素材を使いながら白色塗装の拭き取り仕上げにして、ラフにもならずスタイリッシュにもなりすぎない中間を目指しました」(根市さん)。道路側から見た外観。1階右の壁面の開口が玄関。2階はコーナー部分が開口になっている。加藤邸設計根市拓+石村大輔+橋本光秀所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積114㎡
2019年11月25日会員登録・応募はコチラからー応募要項ー賞品名/当選人数Amazon ギフト券 1000円分/100名様(Eメールでお届け)※本キャンペーンは株式会社マガジンハウスによる提供です。 本キャンペーンについてのお問い合わせはAmazonではお受けしておりません。※ Amazon、Amazon.co.jp およびそれらのロゴは Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。応募期間2019年11月1日 (金) ~ 2020年1月31日 (金)応募方法 本キャンペーンお知らせページ内「会員登録・応募はコチラから」ボタンから会員登録いただき、キャンペーンへご応募ください。ご応募は、期間中お一人様1回限りとさせていただきます。当選発表 ご当選者には2月中旬頃、ご登録いただいたメールアドレス宛てに当選メールをお送りさせていただきます。※登録いただいたメールアドレスに不備がありメールが送付できない場合、当選の権利を無効とさせていただきます。ご注意事項 やむを得ない事情により、本キャンペーンは予告なく賞品、対象期間等を変更する可能性があります。携帯キャリアのメール等ですと、受信拒否・ドメイン拒否の設定になっている場合がございます。@magazine.co.jpと@magazineworld.jpを受信可能に設定をお願い致します。お問い合わせ 本キャンペーンのお問い合わせは、こちらからお願いいたします。 100life@magazineworld.jp会員登録・応募はコチラから
2019年11月21日街の一角に建つ癒しの空間「街の中の庭となる、そんな家にできたらなと思いました」。古谷デザイン建築設計事務所の古谷俊一さんのご自宅は、昭和の風情の残る街並みに、まるでオアシスのように緑を湛えて佇んでいる。「子供の頃から田舎というものをもっていなかったので、緑を渇望していたところがあるんです。20年くらい植物を育ててきた経験を活かして植栽のプランを立てました」。1階の外構から2階、3階のバルコニーまで、緑の溢れる外観は、古谷さんがリノベーションを担当した、向かい側の「大森ロッヂ」との連続性も考えられている。「8棟の木造住宅が並ぶエリアに、庭のようにつながる建物にしたいと考えました。ちょうど真向かいに建てた店舗付き住居と相対する形で、フロアのレベルや意匠も揃えています」。改修した長屋の立ち並ぶ路地の入り口にある、街に向けて開かれた建物は、住居でもありサテライトオフィスでもあり、グリーンのナーセリーでもある。敷地をぐるりと取り囲むようにグリーンが生い茂る。それぞれの方角に適したグリーンを植樹。住宅街の路地の一角に、向かい側の店舗付き住居と対峙するように建つ。3層の木造住居。3階までグリーンが連続し、街の中にひとつの景観を生み出すかのよう。日本の建築物を踏襲したいむき出しの軒柱に、建物の隅にそれぞれ設けられたバルコニー。空間に“欠け”のある独特の外観が開かれた印象を与える。「この辺りは準防火地域なので、柱を現しにはできないんです。そこを、通常より太い燃え代設計にすることでクリアしています」。現しにこだわったのは、親しみやすさ、分かりやすさ、だという。「今は何でも包み隠してしまうけれど、建物がどういう構造で建っているのか、現しにすれば分かりますよね。お寺や昔の日本家屋の良さを、できるだけ踏襲したいという思いがあります」。軒柱のあるバルコニーは、書院造りの濡れ縁のイメージ。ここを介して、中と外が曖昧に区切られる。そして家全体を、頂点から四隅へ同じ角度で傾斜する宝形屋根が包む。「向かい側の家のデザインに合わせているのですが、御神輿をかついでいるような雰囲気で、縁起がいいじゃないですか(笑)。雨よけにも合理的なんです」。軒柱を現した設計は、縁側のある昔の日本家屋を思い起こさせる佇まい。自邸の玄関側。自然な木目の外壁は“選びに選んだ”サイディング。「縦に張ったことでつなぎ目が目立ちにくくなっています」。玄関には京都の「BOLTS HARDWARE STORE」の照明を外灯に使い、カッティングボードで名前を貼ることで表札代わりに。内でも外でもない廊下1階のサテライトオフィスとグリーンのナーセリーから、外階段でつながる2階には、居室とバスルームが。ここは廊下を外部テラスに見立てた。「外構の延長として、外からつながっている感じにしたいと思いました。天井に照明をつけたり、ドアノブを取り付けたりすると一気に室内の感じが出てしまうので工夫しています」。照明の代わりに、床の上に小さなライトを行灯のように配置。夜にはほのかな明かりが、3階につながる階段まで誘導する。取っ手の形状にこだわったドアノブとモルタライクの床も、室内という雰囲気を和らげている。「室内でも外でもない、そういう曖昧な空間が好きなんです。できるだけそんな場所をつくりたいですね」。玄関脇にはマンガの書庫を設けることを決めていた。家族全員の愛読書は2000冊程。「ここにあるのは2軍なんです(笑)」。シューズインクローゼット。奥の鏡は扉のように手前に引くことができ、外出前に全身をチェックできる。「BOLTS HARDWARE STORE」の照明を行灯のように点在させて。廊下の床はモルタライク。半室内のような空間が3階LDKヘとつながる。天然の素材感が心地いい2階の主寝室。緻密に計算して棚を取り付けたクローゼットを、カーテンで仕切っている。バスルームはFRPで。床には冷たさを感じにくいLIXILのサーモタイルを使用。洗面、バルコニーに接続させて動線も確保。生活のしやすさをベースに「妻が“ルーフバルコニーは絶対に欲しい”と言ったことが、設計のスタートです。コンセプトは実は後付けで(笑)。住宅は生活しやすいことがいちばんなので、そこから入っていかないと」。空中庭園のようなバルコニーの先に街が広がる3階のLDKで、そう語る古谷さん。「とってつけたようにしたくない」と設計したバルコニーにより、結果、室内はジグザグの形状になり、リビングとダイニングキッチンが緩やかに分かれている。「これによって隣家との距離感が保たれる、という効果も生んでいます。ただ、すべて居心地のよさを考えた結果なんです」。上を見上げると屋根の稜線の先に青い空が広がる。外から見ても癒されるグリーンの建物は、中にいても心地よく、開放感を味わえる空間だった。宝形屋根の欠けの部分から光が差し込む3階のLDK。リビングにはセルジュ・ムーユのシーリングランプを。LDKからフラットにつながるバルコニーでは、南側北側の二隅に無機の土を盛って屋上緑化を図り、空中庭園を造園。保水力が高いためプランターよりよく育つそう。南側にはエゴノキやアメリカハナズオウ、北側にはハギやヤマボウシなどを植え、四季折々の表情を楽しんでいる。バルコニーの配置により、LDKはジグザグに分かれる。奥のダイニングキッチンは、カウンターが緩やかな仕切りに。システムキッチンのまわりにカウンターを造作したことでコストもカット。収納の扉はグレーとブルーのリバーシブルで、アレンジが可能。リビングには、あぐらをかいて座れるIDÉEのソファー・AGLASを。たくさんの本を整然と収納できるよう、予め本のサイズを計って棚を造作。飾り棚にはスリランカ、北欧、台湾など旅先で買ってきた雑貨をディスプレイ。ブラインドは斜めになった開口の形に合わせ、スイスの「CRÉATION BAUMANN」社にオーダーしたもの。古谷デザイン建築設計事務所代表の古谷俊一さん。1階のサテライトオフィスで。古谷邸設計古谷デザイン建築設計事務所所在地東京都大田区構造木造規模地上3階延床面積142.05㎡
2019年11月20日普通の家では面白くない東京・世田谷の閑静な住宅街に建つ加納邸。2年半ほど前に建て替えたというその家は、ガルバリウム鋼板の黒い外壁と、2階が浮いたように見えるキャンティレバー状の構造が異彩を放っている。「長年住んでいた以前の家は、中庭を囲むように建つユニークな構造でした。とても気に入っていたのですが、雨漏りや設備が老朽化したため、思い切って建て替えることにしたのです」と幸典さん。「普通の家では面白くない」と、感性の合う建築家を探したという。もともとインテリアが大好きで、ライフオーガナイザーの資格も持つ奥さま。愛読している住宅雑誌で目に留まったのが、設計事務所『ステューディオ2アーキテクツ』の住宅だった。「段差をうまく利用した住宅で、限られたスペースの中での空間使いが巧みで面白いと思ったのです。依頼すると、以前住んでいた家をじっくり見ながら、私たちの思いを聴いてくださいました。以前の家で気に入っているところは活かしつつ、住みにくい点はクリアするといった感じで家づくりが進んでいきました」(奥さま)。切妻の屋根なりの天井が開放感をアップ。ルーフテラスに続く“リビング階段”は奥さまのリクエスト。住宅が密集しているため、窓を最小限にした。道路からはルーフテラスが全く見えない。上がり框のないフラットな玄関ホール。墨を混ぜたモルタルがシックな印象。車が眺められるギャラリー風ガレージ。多様なニーズの高床“パレット”加納さん夫妻の要望は、まずは、広い2階リビングと大容量の収納。「収納を多くすると空間が狭くなると思ったのですが、“パレット”を提案してもらい、どちらも実現することができました」(奥さま)“パレット”とは、多様なニーズに応えるための高床になった仕掛けのこと。2階の中央部分には、70cm高く上げたステージのような“パレット”を配置。約18畳のその床座は、家族が寛ぐリビングでありながら、ルーフテラスやロフトに連動した子どもたちの遊び場であり、時には食事をする大きなテーブル、家事をする作業台などさまざまな目的に対応している。さらに、床座の下部は巨大な床下収納になっていて、季節行事やイベントのグッズ、客用の布団などから日常的に使用するものまで何でも収納。また、来客時にはさっと仕舞える一時保管のスペースとしても重宝しているという。3段ほど高くなった“パレット”。「アイロンをしたり、洗濯物を畳んだりするのも便利です」と奥さま。床暖房も入っている。リビングの下はすべて収納になっている。使用頻度が少ないものは奥に入れるなど工夫が見られる。床座はデスクスペースにもなる。キッチン側に大きめの引き出しが2つ。頻繁に使用するものを中心に収納している。一時保管場所としても便利。引き出しを外すと奥のワークスペースまでつながる。トンネル状になり、子どもたちの格好の遊び場に。空の眺めを日常に取り込む「以前の家では、中庭を眺めながら暮らしていたので、今回も周囲からの視線を気にせず、空を感じて暮らしたいというのがありましたね」と話す幸典さん。その要望は、屋根の一部をくり抜くようにして設けた広いルーフテラスにより叶えられた。高さ制限ぎりぎりまで上げた天井高は5m。テラスに面した大きなガラス窓にはカーテンやブラインドは一切つけず、大開口からたっぷり入る自然光を楽しんでいる。周囲の家が目に入ることなく空へと視界が広がり、光や雲の動き、季節の移ろいを感じられる空間となった。「キッチンに立ってリビングを見ると、家族の様子とともに空が視界に入り、気持ちいいですね」と奥さま。最もお気に入りの場所というキッチンは、奥さまの憧れのブランド『クッチーナ』を設置。幸典さんの知人を通して、モデルルームで使用していたものを格安で購入したという。「現品のみのため、もとはペニンシュラタイプだったものを大工さんの力でアイランドタイプに変えてもらいました」ダイニングキッチンのスペースは、このキッチンに合わせて設計された。アウトドアリビングとしても活躍するルーフテラスは、“空庭”と呼んでいる。周囲の視線を気にせず寛げる“空庭”。「月を見ながらビールを飲むのが至福の時です」と幸典さん。『クッチーナ』のキッチンと横並びに配したダイニング。テーブルはコンクリート製をセレクト。「けっこう無機質なものが好きなんです」(奥さま)キッチンに立つと、目の前に大開口が広がる。「料理の合間に椅子に座り、ボーッと空を眺めていることもありますね」(奥さま)キッチンの奥がサニタリールーム。家事動線を考え、水回りをつなげた。洗面台もモデルルームで使用していたものを購入し、持ち込み、設置してもらった。それぞれの居場所でコンサルティング会社(株式会社CAN)を経営する幸典さんは、自宅を仕事場にしている。1階に書斎はあるものの、ほとんど2階のワークスペースで仕事をするという。基本的には、早朝から子どもたちが留守の間に仕事をするそうだが、帰宅した子どもたちの近くで仕事をすることも楽しいという。「子どもたちが大きくなっても、部屋に籠るのではなく、勉強などもなるべく2階でしてくれたらいいなと思っています」(幸典さん)2階にはロフトもあり、現在は主にお嬢さん(5歳)の遊び場に。息子さん(9歳)はオモチャを広げて遊ぶことから卒業し、“パレット”をデスクにしてゲームをしていることが多いという。家族が同じ空間で過ごしながらも、それぞれが自由に好きなことをしていられる2階の“パレットリビング”。家族のほどよい距離感が心地良い時間を運んでいる。“空庭”と同じ高さのロフト。リビングから死角のため、オモチャを広げっぱなしでもOK。仕事、宿題、ゲーム、お絵描きなど、ワークスペースでは各自が好きなことをしている。1階の玄関奥は、家族の寝室とプレイルームがある。子どもの成長に合わせて部屋を分ける予定。玄関からウォークインクローゼットあるいは書斎を通って奥の部屋へ。1階は回遊できる設計に。コピー機等を置いた、1階の書斎。玄関から寝室への通路にもなっている。ほとんど2階で仕事をするが、家族がいる時間にスカイプでの打ち合わせが入ったときなど使用。2階から1階の玄関ホールを見下ろす。「手で触るところは黒にしてもらった」と、アクセントカラーは黒をリクエストした奥さま。上部の黒い収納は、安全面を考えた柵との兼用。加納邸設計ステューディオ2アーキテクツ所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階延床面積117.25㎡
2019年11月18日正面にスチールの骨組みと緑山田邸を訪れてまず目を引くのは、その外構部分だ。スチールで組み上げられた骨組みに階段が組み込まれ、それらの間から緑が顔を出す。そしてその背後にある住居部分が半ば隠れていてその全体像をつかむことができない。設計したのはこの家に住む建築家の山田紗子(すずこ)さん。この家は夫と息子、そして自らの両親とともに暮らす住まいとしてつくられたものだ。「環境さえつくれば家はどんな感じであってもある程度いいものになるのではないかと楽観的に考えました。なので、その環境の部分――外構というか庭というか――をいかにつくるか、そして家のほうはそれに向かっていかに生活できるようにするかが出発点となりました」と話す。「適度に都市と細かくつながりながら見え隠れしているようなあり方が面白いのではと思った」(紗子さん)。玄関周りの外壁面を正面から見る。2つのテラスを結ぶ階段がダイナミックに宙を飛ぶ。そして「土地の広さが109㎡ほどなので、その半分は庭にしないとそのようにはならないだろう」と、まずは敷地の半分程度を庭にあてて残りを住居のために使うことに。外構部分のテラスと階段についてはこう説明する。「住居部分のボリュームスタディを進める中で、地上3層プラス半地下にすることでようやく求められている居住空間を収めることができたのですが、その3層に対してどのように緑を配置しても、上の方のレベルでは庭にアクセスできない。それでは外構が借景のような感じになってしまうので、テラスを張り出して、さらにそのテラスに行くための階段をつくろうということになりました」反時計回りに階段が地上の1層目につくられた書斎の前のテラスを経て最上層へのテラスへと至る。外構部分の緑とスチールがプライバシーを守るバッファ的な役割も担っている。階段がぐるりと円弧を描いて最上層のテラスへと至る。地上1層目につくられたテラスから最上層のテラスの方向を見る。最上層に設けられた寝室とテラス。このテラスは夫のマサシさんのお気に入りの場所。マサシさんは「緑に水をあげたりなどの手間はかかありますが、気持ちのいい生活の場がそういうものをぜんぶ押しのけている」と話す。自由な空間スチールの骨組みと緑が無造作に混在しているように見える前庭を横切って内部に入ると、こちらもまた庭に劣らぬおおらかな自由さのようなものが横溢した空間が現れる。この自由さの印象は、表層部分をきれいに仕上げてソフィスティケートされた空気感をつくり上げるのではなく、その真逆を行くような、素材の即物的ともいえる扱い方や一見無頓着そうにみえる素材の混在のありようなどから受けたのだが、紗子さんが設計しながら考えていたのは次のようなことだったという。「あまり計画的にきれいにゴールを決めてしまうよりも、生活の中で必要だと思ったことや欲求にたいしてぱっと動けるような設計のアイデアを考えて積み上げていくほうが面白いし、永続的に使っていける家にもなるのではないかというイメージがありました。またある意味、即物的にやっていくほうが、住みながら住まいと住んでいる人が対話しているような部分も生まれるし、建築自体も変わっていって、住んでいる人もまたそれにかかわることができるのではないかと」室内に“外部”が入ってくるような感覚をつくり出すべく、主寝室の壁に外壁と同じガルバリウム鋼板を使用した。ダイニングとキッチンを見る。天井は骨組みだけでなく配線なども表に出して視覚的にわかるようにしている。外を見ながら料理ができるキッチン。この配置は家族皆で料理ができるようにするためのものでもあった。即物的なあり方とモノの混在即物的ともいえる扱いには「モノとモノがどう組み合わさってつくられているのかがわかるにほうがいい」という紗子さんの考え方も反映している。「建物の骨組みがつねに見えているほうが、何によって囲われていて何によって守られているのかが体感できて特に子どもにとってはいいのではないか」。この考えは2011年の震災の体験も踏まえてのものだという。「震災の時に見えないものに対する恐怖みたいなものを強く感じて、自分を支えているものがいったいなんなのか、どこからきているのかがわからない現代の生活に対して、もうちょっと可視化していけないかと」一見無頓着な素材の混在については「基本的に外も中もモノがなるべくバラバラに混在しつつ一個に成り立っているような状態をつくりたかった」と話す。たとえば階段の手すりが左右同じ素材だと、一個にまとまりすぎてボックスのように確固とした存在になってしまう。そう見えないように、なるべくモノがただそこに集まってきて、結果的に階段になっているくらいの存在感であってほしいという思いがあったという。左は高さ4mあるスチールの開き戸を開けた状態。今夏の朝と夜はだいたいこのように開けていたという。「朝と夜、25度くらいに下がった時にこのドアを開けると家の暖気がぜんぶ逃げていってすごく涼しかった」(紗子さん)という。リビングを見下ろす。階段の手すりにスチールパイプを使ったのには「なるべく外の風景とつながるように」との思いもあった。即物的にモノとモノがただ組み合わさって出来上がっている状態をつくるべく現場に通って直接職人さんと話し合ったという。ドアの前に斜材設計に関して夫のマサシさんからのリクエストはほぼゼロだったというが、マサシさんは「ドアの前に木材が斜めに入ると聞いて、そこは“ホントに?”と思った」という。しかし「実際住んでみると些細な問題で、ドアの前に木の斜材が入っていても生活にはなんの支障もない」と話す。。さらにこの家では「場所の区別がないかもしれない」とも。「場所がすべてひとつながりになっているような感じで、かつ個室が互い違いに置かれているので、家全体に家族の気配が下から上まで感じられるようになっている」このように語るマサシさんのお気に入りは最上層の寝室前に設けられたテラスだ。「あのテラスで椅子に座ってお茶飲んだりとか、ヨガマットを敷いて本を読んだりして」適度に外のざわめきを感じながら過ごすのがいいという。リビングでくつろぐ山田さん夫妻と息子さん。奥の書斎前に座っているのは紗子さんのお母様。山田邸は2世帯住宅だが、もともと一緒に暮らしていたため、「2世帯」であることは設計時には特にテーマとはならなかったという。リビングの奥から見る。玄関から見上げるとダイナミックな風景が目に入る。リビング方向を見る。左は開き戸を開けた状態。開けることで中を外へとぐっと誘導するような空間の質が生まれる。玄関部分を見下ろす。半地下につくられた紗子さんの事務所。手前は設計途中につくられたこの家の模型。事務所側から玄関と紗子さんのお父様の寝室を見る。原始の生活?「人が自由になれるきっかけみたいなものが家の中にあるだけでいい」とも住宅設計の理想を語る紗子さんの好きな場所は地上の1層目につくられたリビング。「設計中からたぶんここがいちばん気に入るだろうと思っていたんですが、その通りになりました。ダイニングは木のいちばん上のような場所にいてパーンと外に開け放たれた感覚がありますが、リビングのほうは少し森の中にいるような空気感で、適度な暗さもあって居心地がいいですね」ソフィスティケートされた空間を追求しがちな現代住居とは反対方向を向いているように思える山田邸での生活は「原始の、自然の中での暮らしの感覚に近いのかもしれない」とふと思い至ったが、この家の自由さのようなものをはらんだ居心地の良さからそのように思えたのかもしれない。紗子さんお気に入りのリビングスペース。2、3年後に緑のボリュームが増えるとさらに森の中にいるような空気感が増すだろう。山田邸設計山田紗子建築設計事務所所在地東京都世田谷区構造木造規模地上2階+地下1階延床面積138.5㎡
2019年11月13日土地探しは神楽坂に絞って地元の人や観光客で賑わう神楽坂通りから1本入った閑静な住宅街の一角。控えめな木の看板を目印に竹垣に囲まれた細いアプローチを進むと、「神楽坂和茶」の入り口にたどり着く。引き戸を開けると、店内には4畳半の茶室があり、周りを囲むようにL字型の土間が広がっている。ここは、店主の塚田玲実さんが、茶室のある空間で気軽にお茶を愉しんでほしいという思いから生まれたカフェだ。「『どうしてみんなお茶を習うんだろう?』と疑問に思ったことがきっかけで、30代から茶道を習い始めました。その後、茶道の先生の茶室をお借りして、茶会や茶事をまったく知らない人に体験してもらう催しを開いていたら、それが楽しくなってしまって」と話す塚田さん。次第に、いつか気軽に茶会を体験してお茶を愉しんでもらえる場所をつくりたいと考えるようになったそうだ。その思いを実現する場として選んだのは、東京・神楽坂。「大人の街で、飲食店が多くて、お店を出す規模としてもちょうどいい場所かなと思って。最初からピンポイントで探しました」と振り返る。不動産関係のお仕事に就くご主人とともに、1年ほどかけてインターネットや不動産屋で情報を収集。そうして出会ったのが、賑やかな通りから奥へ入った隠れ家のような場所。「もうここしかないよね、とすぐに決めました」(塚田さん)。1階が店舗。4畳半の茶室を、テーブル席のある土間がL字型に囲むという配置。床の間には知人から譲り受けた「花月織」の軸や、鳥の形の香合が。季節ごとのしつらえも、訪れる人の目を楽しませる。茶事に欠かせないつくばいを土間の一角に。茶室に入る前に、手や口を清める役割がある。熊本産の和紅茶と、米麹100%・砂糖不使用の甘麹「米の花」。発酵マイスター市村和美さんの手作りで、旬の果物とともに味わうお店の人気スイーツ。徳島県の阿波晩茶と湯布院の「ジャズ羊羹classic」。その時々に塚田さんが選んだおいしいお菓子がメニューに。茶室の畳の上で、お抹茶と上生菓子を気軽に楽しむことができるのも魅力。写真のセットで1300円(税込)。2階はあえて暗く、重厚に3階建ての塚田邸は、1階がお店、2階と3階が夫妻の自宅というつくり。2階に上がると、1階の茶室の雰囲気とは異なるモダンな空間が広がっている。「2階は窓もあえて小さくして、少し暗く、目が落ち着くように設計者の方と考えました。コンパクトなリビングなので、以前の住まいで使っていた家具も全部処分したんです」と塚田さん。そんなシンプルな空間で存在感を放つのが、重厚な大谷石の壁だ。「主人がとてもこだわって選びました。2階の主役はこの壁だね、と話しています」(塚田さん)。2階のリビングはベッドルームも兼ねている。写真左が大谷石の壁。溝加工されているため、モダンな印象だ。大谷石の壁の向こうに収納や洗面室、浴室などの水回りが配されている。洗面室はシンプルなつくりながら、床のタイルにこだわりが光る。明るくて清潔感のある浴室。3階は明るく開放的に一方3階に上がると、ほの暗い2階とは対象的に、大きな開口部から光が差し込む明るい空間が広がっている。3階にダイニングキッチンだけを配置するというちょっと大胆なプランは、ご主人のアイデアなのだそう。「最初に土地を見に来た時から、『目線が抜ける3階にキッチンを持ってこよう』と言っていたんです」と塚田さん。周囲の建物より高い位置に窓があるため、障子を開け放つと遠くまで見渡せて開放感もある。中央に配されたアイランドキッチンは、トーヨーキッチンのもの。ダイニングテーブルも兼ねる特注のステンレスワークトップは、1260×2440mmという圧巻の大きさ。この大きさを生かして、和菓子づくり体験などワークショップの場としても使っているそうだ。また、マーブル模様が入ったヘキサゴンタイルの床もご主人のこだわり。「タイルショップを何軒も回って気に入ったものを見つけました」と塚田さん。1階の店舗は土間と畳、2階のリビングはフローリング、3階のダイニングキッチンはタイルと床の素材がすべて異なることも、階ごとに雰囲気の異なる空間を生み出している要因だろう。3階のダイニングキッチン。スタイリッシュなキッチンと床のヘキサゴンタイル、障子が絶妙な組み合わせ。大きなキッチンは、ふだんの食事だけでなく、お客様を招いたワークショップやデモンストレーションの場としても活用。開口部の障子は、上部を摺り下げれば視線を遮りながら採光ができる。人懐こくてかわいい4歳の愛犬ウールちゃん。圧迫感のない軽やかな印象の階段。気楽にお茶を愉しむ場にお店をオープンしてからもうすぐ1年。静かな和の空間で、落ち着いてお茶を愉しめる「神楽坂和茶」は、知る人ぞ知る存在に。茶室の畳の上でお抹茶と上生菓子をいただいたり、テーブル席で和紅茶と甘麹のスイーツを味わったり、訪れるお客さまは思い思いの時間をゆったりと過ごす。塚田さんの念願だった、初心者も気軽に楽しめる体験茶会を開催しているほか、1周年記念のお茶会も企画中とのこと。「お茶の愉しみをたくさんの人に伝えたい」という塚田さんの思いは、少しずつ実を結び始めている。2階と3階の窓の大きさが対象的。写真右側の奥に店舗入り口がある。敷石や竹垣などに和の趣が漂う「神楽坂和茶」へのアプローチ。
2019年11月11日面積広めの旗竿敷地笹沼邸が立つのは旗竿敷地。敷地自体は約190㎡と広く、そのため土地の値段は当初の予算をオーバーしていたという。しかし「西側が開けていて、駅からの距離感や駅の規模感なども含めトータルで考えた時にいい敷地だと思った」と笹沼さんは話す。そして予算のオーバー分をうまくやりくりする手段として賃貸併用のアイデアに思い至ったという。賃貸のワンルームを2戸併設した笹沼邸の設計を依頼したのは奥さんの旧友であった北澤さん。建築のデザインに興味をもっていた笹沼さんは、北澤さんが妹島和世さん、西沢立衛さんのお2人が主宰するSANAAで働いていたこともあり「会ってみたい」と連絡を取って知り合ったのが5年ほど前のことだったという。2階右端と1階左端が賃貸部分。外壁は小波のガルバリウム。箱がずれたような構成になっているが、それをあまり強調したくなかったため、全体として大きな一軒の家のような連続性を感じさせる素材ということで選択された。ダイニング側から「まえにわ」を見る。この壁の裏側に2階の賃貸スペースへと上る階段がある。旗竿敷地に建てられた笹沼邸のエントランス部分。3つのリクエスト笹沼さんが北澤さんにこの家の設計でまずリクエストしたのは「友だちが来て楽しくなるような家にしてほしい」「外と中の関係をあいまいにしてほしい」「天井の高い家にしてほしい」の3点だった。はじめの2点が明確に表れているのはエントランス部分だ。上部に賃貸部分がつくられた「まえにわ」と呼ばれるスペースとダイニングキッチンのスペースがガラスの開口を介してつながっていて通常の玄関のように内と外との関係が切れていない。「そもそもスペースが限られた中で玄関をつくるのがもったいないと思い、縁側からスッと入るように外と中が連続するようなつくりにしました。正面にキッチンをつくったので1階は奥様がお店をやっているような感じになって、外と中とがつながりつつ楽しそうになっていいかなと」(北澤さん)エントランス側からダイニングキッチンを見る。2階はリビング。キッチンからエントランス側を見る。ハイサイドライトは朝日を入れるため施工途中で開けることに。このアイデアにたいして笹沼さんは「もともとふつうの家はいやだなと思っていたのと、建築によって生活が変わる楽しさみたいなのも許容しようと思っていたので楽しく受け入れました」と話す。外と中の関係があいまいということでは、2階上部にあるサンルームと呼ばれるスペースとテラスとのつながり、さらに、白い壁にところどころに開けられた開口を通して外部へと視線が気持ちよく抜けていく点も見逃せない。「リビングのハイサイドライトとか外からの視線が気にならないところは大きく開けてカーテンも付けていません。そうすると外の空気の動きとか天気の様子などが中にいてもすごく感じられて、体感として大きな外部環境にいるように感じられるのではないかと」(北澤さん)2階からダイニングキッチンを見下ろす。キッチンは奥さんの希望でアイランド式に。壁は塗装に見えるが薄手のクロスが貼られている。ずれつつ縦に展開天井の高さはダイニングキッチンが4745mmでリビングが4515mmとふつうの住宅よりも2mほど高い。笹沼さん曰く「どちらも住宅であまり経験したことがない高さでどんな感じになるのか全然イメージがわかなかった」。そしてまた天井が高いばかりでなく、ダイニングキッチンとリビングというプロポーションの近い箱状のスペースが2つ縦にずれながらつながり、さらにその上のサンルームへと、これもずれながらつながる構成も笹沼邸の大きな特徴だ。キッチンから2階へと上る階段を見る。ダイニングテーブルからの眺め。階段と2階部分の手すりにはさび止め効果のある常温亜鉛めっきが施されている。1階から見上げる。階段上部の梁だけが下の柱と揃えて白く天井が仕上げられている。2階リビングからサンルームに至る階段を見上げる。白の壁とそのほかの木の部分とのコントラストがきいている。2階のリビングからダイニングキッチンとその上につくられたサンルームを見る。サンルーム側からリビングを見下ろす。奥の木の扉を開けると左が書斎で、右はベッドルームに至る階段がある。奥さんは設計時には「子どももいるので階段が多いことなどに抵抗があった」というが、「住んでみたら各スペースの高さが違うことで室内でも見晴らしが良く、下に子どもがいても上の階から見えるので良かった」と思っているそうだ。笹沼邸では白い壁と天井などに使われた木のコントラストも特徴的だが、設計では当初、天井は梁を見せずに白い板を張って白い箱が連続しているようなイメージだったが、天井が減額対象となって、現状のような構造をそのまま見せるつくりとなった。抽象性の高いイメージから素材のコントラストを意識させるような構成へとシフトさせたということだろう。ダイニングキッチン上部につくられたサンルームからリビング方向を見る。湾曲した木の扉はトイレの扉。階段を上った先にはテラスがある。「いずれ、バーベキューパーティとかできたらいいなと思ってます」(笹沼さん)。テラスへと至る階段には家具的な佇まいも感じられる。「床がコンクリートということもあって、この1階のスペースには長い時間はいないかもと思っていたんですが、住んでみたら、人が来たときは皆ここに集まって、キッチンで何か作業をしながらでもお話がとてもしやすくて思っていたよりも好きな空間になりました。なので今はこの1階にいるのが長いですね」。奥さんはさらに、「夏は1階が涼しくて快適でしたが、冬は2階のリビングが長くなるのかな」と話す。季節により住む空間が変わる、というつくりも気に入っているようだ。奥さんはさらに「2階のリビングでゴロンとしてテレビを見るのも好き」と話すが、笹沼さんも「2階はプライバシーが他よりも保たれている場所なのでだらっとできる気持ちよさがある」としつつも1階の心地よさを強調する。「1階は天井が高いだけでなく光も溢れているし外気にも接することができて気持ち良く、いろんなことが体感できるので面白くて好きですね」と話す。「あとお風呂上りとかにテラスに出る階段に座って歯を磨くんですが、あそこは窓が3面開くので夜風がとても気持ちがいい」とも語る笹沼さん。「あそこでビールとか飲んだら気持ちいいだろうなって思ったりしますね」。これを実行するのは冷えたビールのうまい来夏あたりだろうか。奥さんが思っていた以上に好きになったと話すダイニングキッチンのスペース。どの方向にも視線が抜けて快適なスペースになっている。賃貸スペースを2つ併設した笹沼邸。北澤さんは「距離感がそれなりにありがながら関係性をうまくつくれる」ような構成を考えたという。敷地奥の1階にある賃貸スペースの前には「うしろにわ」がつくられている。内部は縦方向にずれながらつながっていたが、横方向でもずれつつつながる。笹沼邸設計北澤伸浩建築設計事務所所在地神奈川県横浜市構造木造規模地上2階延床面積159.6㎡(賃貸スペース含む)
2019年11月04日平屋ならではの一体感に魅せられてこの鎌倉のお宅は、濵さんにとって3軒目の平屋の住まいなのだそう。1軒目が横浜市内の平屋、2軒目が鎌倉の賃貸の平屋、そしてここが3軒目。「すべてを見渡せるのが平屋の魅力です」約築60年の建物のリノベーションは建築家の宮田一彦さんにお願いした。「鎌倉の物件を探していた時にグーグルマップ上に『宮田一彦アトリエ』という案内が出てきたんです。検索するととても素敵なリノベーションを手掛けてらしたのですぐに連絡致しました。この物件の下見にも一緒に行っていただきました」約築60年の家は10cmほど傾いていたそうだがジャッキアップして直し、土台の下にコンクリートを流し込んで床下全体に土間を打ち、断熱材をしっかり入れた。底冷えのない暖かく過ごせる家にしてもらったのだそう。そして、以前のオーナーがリフォームでアルミサッシに替えたほとんどの窓を、木枠のものに交換。「6連の木枠の窓がオークションに出ていたのを見つけてリビングの窓を交換することができました。障子は新しく作っていただきました。建具も大部分をネットで見つけてます。トイレのドアは、もともとあった建具を移動して使いました」「キッチンの白いタイルは、宮田さんに昭和っぽくなりすぎるかもと心配されたのですが、おばあちゃんちのような台所を目指していたので狙い通りに仕上がりました(笑)」ひとつひとつの道具が美しい。ステンレスの天板によく似合う。リンゴ箱を重ねた棚の上に鍋敷きや鍋つかみなどを並べて。ガスコンロは壊れたらいつでも替えられるように独立型を選択。明るく眺めのいいキッチン。濵さんのお宅は目の前に一面の緑が広がり、周囲からの視線はまったく気にならない。キッチンの棚の下段はリンゴ箱にキャスターをDIYでつけた。引き出しにはプラスティックのケースも。「プラスティックは素材的に最初はどうかなと思ったのですが、使ってみるとそれほど違和感ありませんでした。左側のはFOUND MUJIで、右の棚の収納に使っているのは近くのケーキ屋さんが移転するときにいただきました」。真ん中のコールマンのクーラーボックスの中にはぬか床が!イメージは"おばあちゃんちの台所”キッチンは壁で少し囲って天井を下げ、独立した小部屋のようにした。「白い飾り気のないタイルを選んで、”おばあちゃんちの台所”を目指しました」最近はキッチンの天板とガスレンジが一体になっているものが多いが、あえて独立型を選択。”壊れても簡単に交換できる”を最優先にしたそう。「キッチンに棚を作っていただこうかとも思ったのですが、住みながら少しづつ変えていくのもいいかなと思い、リンゴ箱やワインの箱にキャスターをつけて引き出しを作って楽しんでいます」「天井ははがして状態を見てから、ラワン合板を貼ることに決めました。耐震補強のため、新しい柱や壁も追加しています」。テーブルの上のライトはイサムノグチ。正面奥が子ども部屋。本棚はリンゴ箱。「足りなくなったら同じサイズのものをいつでもネットで買い足せます」。上のロフトには漫画コーナーも。ミシンを載せたテーブルの下の柳行李には、趣味の裁縫に使う布地がぎっしり入ってるのだそう。「柳行李の収納力の高さには驚かされます」緑豊かな抜群の環境以前のオーナーが増築した部分も同時にリノベーションした。寝室や洗面バスルームは主に増築部分を使っている。洗濯物を乾かすためのドライルームも作った。「鎌倉は湿気が多いのと、僕らが共働きということもあって、洗濯物を干しながら乾かせる場所を造りたかったんです」濵さんの住まいは、道路から外階段を20段ほど上がった場所にある。緑たっぷりの庭と、庭の横の斜面も敷地の一部なのだそう。「手入れを怠るとどんどんジャングル化します(笑)。テラスにイスを出して外にいる時間が増えました。今まではアウトドア派ではなかったのですが、俄然興味が出てきました」洗面所は天窓をつけたので気持ちのいい明るさ。建具はネットオークションで。「鎌倉彫の手鏡は祖母が彫ったものです」庭で使うためのアウトドア用チェアがドラム缶の中に入っている。子ども用の小さな下駄箱がかわいい。寝室とウォークインクローゼットを仕切っているカーテンは、なんと布オムツをはいで作ったのだそう。透け感が美しい!外壁は杉無垢板の押縁仕上げと漆喰左官仕上げに。「吉村順三建築をイメージしました」。屋根はガルバリウム鋼板で葺き替えた。濵 邸設計宮田一彦(宮田一彦アトリエ)所在地神奈川県鎌倉市構造木造規模地上1階
2019年10月30日