劇団ナイロン100℃の第38回本公演『百年の秘密』が、東京・下北沢の本多劇場にて上演中だ。劇作家、演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が自身の劇団に1年半ぶりに書き下ろした、ふたりの女性の半生を描いた物語である。『百年の秘密』チケット情報ティルダ(犬山イヌコ)とコナ(峯村リエ)。ふたりの12歳の出会いから物語は始まるが、その後、時間軸は縦横無尽に移り変わっていく。ふたりが生まれるはるか以前の、ティルダの屋敷の中央にそびえ立つ楡の木のエピソードから、ふたりの少女時代、結婚、出産、そして死後、ふたりの曾孫の登場までを描くなかで、ふたりと彼女らをとりまく人々の人生が慎ましく、時に不穏な空気を纏って展開する。時間がいっきに数十年先送りされたり、ある局面に巻き戻されたりする毎に、私たち観客は新たな事実に驚き、その発端を探りたくなる。次から次へと小さなドラマを目撃し続け、そこで生まれるひとつひとつの“秘密”の共有者になっていく。寓話的な楡の木の存在、KERA作品に欠かせない映像効果の巧妙さにオープニングから心を掴まれ、瞬時に劇世界へと没入させられた。登場人物の世代交代の度に俳優も入れ替わるので、頭の中で相関図を確かめながら観るのも楽しく、集中が途切れない。中心人物でいながらティルダとコナのたたずまい、そのやりとりは訥々として素朴。それが徐々に重みを増し、ふたりの関係性を観る者に強く印象づけるのは、犬山と峯村の呼吸の確かさゆえか。描かれているのは女同士の友情に違いないけれど、どうも友情というこそばゆい言葉が観ている間はしっくりこなく、もっと無骨でシニカルな味わいだ。萩原聖人、山西惇、近藤フク、田島ゆみかの客演陣がKERAワールドに浸透して、それぞれの魅力を遺憾なく発揮。ティルダの兄エースを演じる大倉孝二は今回は笑いを控えめに、シリアスな表情で観客を惹きつける。案内人の役割を担う女中メアリー役の長田奈麻の、落ち着いた声の響きが心地良い。また、みのすけ、村岡希美といった巧者が、ティルダとコナの人生ドラマの脇役でいながらも、色濃い印象を残す旨味を見せる。2013年に結成20周年を迎える劇団の底力を感じる布陣だ。観賞後に訪れるのは、人生の大きなうねり、深い追憶の旅に同伴したような充足感。ナイロン100℃の集大成とも感じ取れる秀作に痺れながら、こそばゆかった友情という言葉をあらためて反芻したくなった。公演は5月20日(日)まで本多劇場にて上演中。その後、5月26日(土)に大阪・イオン化粧品シアターBRAVA!、5月29日(火)にKAAT神奈川芸術劇場、6月2日(土)・3日(日)に福岡・北九州芸術劇場、6月9日(土)10日(日)に新潟市民芸術文化会館と各地を回る。チケットは発売中。取材・文:上野紀子
2012年04月27日2月16日、東京・渋谷の劇場「CBGKシブゲキ!!」にて、ナイロン100℃ side SESSION#11『持ち主、登場』の初日の幕が開いた。『持ち主、登場』チケット情報この公演は、大倉孝二が「ただ、ふざけた芝居をしたい」との思いから一念発起し、その声に応える形でキャストが集合。大倉が所属している、ナイロン100℃の劇団員が挑戦の場としている“ナイロン100℃ side SESSION”として実現した。大倉と劇作家のブルースカイが構想を練り、共演の峯村リエ、村岡希美や、振り付けも担当するKENTARO!!、そして音楽のThe Dublessが、稽古場で日々アイデアを出し合い、セッションを重ねながらひとつの作品に作り上げ、出演者全員が脚本・演出・出演を共同で担う形となった。舞台はガレージを彷彿とさせるセット。何か予測しないものが生まれてくるようなワクワク感がある。ストーリーは、ロードムービーのような様相を呈しながらも、破天荒で奇抜。KENTARO!!の振り付けによる出演者全員によるダンスや演奏シーンなども随所に盛り込まれ、ブルースカイが得意とする、ナンセンスコメディ炸裂の内容となっている。大倉を中心に、実力派パフォーマー達が本気で挑んだ、粋で壊れた“ふざけた芝居”を出演者、観客ともに楽しんでいる様子だった。公演は同所にて2月26日(日)まで上演。チケットは発売中。当日券は開演の1時間前より劇場受付にて販売する。
2012年02月17日好んで聴くというチャットモンチーの曲が流れる中、フワリと優しい笑みを浮かべて、軽い足取りで彼女がスタジオに姿を現す。時間はすでに夜に差し掛かっていたが、疲れた様子も見せず…かといってバリバリに元気いっぱいでもなく(というところが何となく彼女らしいのだが)、音楽に合わせるようにカメラを前に軽やかにポーズを変えていく。いま、間違いなく最も多忙な女優のひとり、蒼井優。声での出演も含め、今年だけで5本の映画の公開が予定されているが、そのうち最も早い1月に公開された『おとうと』は、彼女が「憧れていた」という山田洋次監督作品。このたびDVDがリリースされたが、すでに撮影からは、かれこれ1年半ほどが過ぎた。この1年半は長かったのか?短かったのか?濃厚であったことは間違いないだろうが…。改めて彼女にふり返ってもらった。「良い出会いの連鎖に恵まれました」『おとうと』の撮影、プロモーションを含むこの1年半を、蒼井さんは「良い出会い」という言葉で表現する。「山田監督はずっと憧れていた監督で、その方と一緒にお仕事させていただき、それに伴って吉永小百合さんや(笑福亭)鶴瓶さんともお知り合いになれて。加瀬(亮)くんともこれまで共演したことはあってもなかなか喋る機会がなくて、今回、お互いにいろいろと喋るようになりました。そこから始まって、舞台(※『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜』生瀬勝久演出/小泉今日子、村岡希美、渡辺えり共演)もあって。仕事以外の部分でも、例えば、大好きな友達ができて、さらにその友達とも遊ぶようになって…という良い連鎖がたくさんあったなぁ、と思います。年末に仕事でロスに行くことになっていたんですが、空港のお寿司屋さんに入って、カウンター席に通されて、すぐそばにすごく綺麗な人がいるなと思ったら桃井かおりさんだったんです!私、桃井さんの大ファンで。そうしたら、桃井さんが一緒にいらっしゃった方とちょうど私の話をしてた、ってすごくびっくりされてて(笑)。それから、すごくよくしていただいて、本当に『良い出会いの1年だったなぁ』と」。信じることで開けた道「課題は…年下の子ですね(笑)」自らを「言葉にできない“感覚”で動く人間」という蒼井さん。こうした出会いも彼女の自然体のスタイルが呼び込んでいるように見える。「何でしょうね…決して活字にはならない自分なりの感覚。まぁ、そこまでかっこいいものじゃないんですが(苦笑)、『行く』か『止まる』か決める自分なりの見えない基準、自分なりに通している筋というものが確実にありますね、人付き合いでも仕事でも。ただ、自分が信じようと思える人、いとおしいと思える人との出会いを通して、『行く』っていうサインを出す感覚がすごく緩くなったとは思います。元々、人見知りであまり新しい友達を作ろうとか思わないんですが、信じられる友人の友人なら信じてみようって。ちなみに課題は…年下の子ですね(笑)。いままで先輩方とばかりお仕事させていただいていて、自分が最年少だったのが、年下の子たちがいっぱい出てきて…。一応、先輩って立場になったけど後輩の子たちの方がよっぽどしっかりしてて、私がモジモジしていたりします(苦笑)」。「企画をいただいて『こういう映画が観たかった!』って思った」まもなく25歳。山田作品が半世紀にわたって描き出してきた“家族”や古きよき姿の日本の日常は、彼女の目にどのように映るのか?もしかしたら彼女にとっては全く知らない風景なのか?と思いきや…。「ニュースとか見てて、『暗いニュースが…』ってよく言われてますが、私が子供の頃、家族内での殺人や事件なんてこんなにあったっけ?と思うんです。何なんだろう?って思っていたときにちょうど、この企画をいただいて、『こういう映画を観たかった』って思いました。誰もが持っている家族という縁、本当にやっかいな…切っても切れない絆の物語で『ありがたいな』って思えました」。ちなみに、鶴瓶さん扮する叔父が結婚式に乱入するシーンでは「見ていて本当に胃が痛くなった」とも。「普段はあまり、役を引きずることはないんですが、今回はウエディングドレス着て、3〜4人のスタッフさんが手伝ってくださってやっと身動き取れる状態で。しかも、鶴瓶さんがあまりにも自然に叔父さんを演じてるから、本当にそう思えて感情移入しちゃって、自分が休憩中で鶴瓶さんのカットを撮っている時点で胃がシクシクしてきました。鶴瓶さんがおかしければおかしいほど、本当に顔から火が出そうな思いになって、同時に身内としての絆も感じてて、結婚相手が叔父さんを馬鹿にしたような態度を取ると腹が立ってきたり。結婚式というスタート地点にいるのにすでにゴールが目の前にある気分を味わってました」。2001年の映画デビューから今年で10年目。先ほどの話ではないが、蒼井優を目標とする後進たちも続々と出てきている。蒼井優の今後は?「分からないですね(笑)。あんまり自分の中で執着がなくて、それが強みかな、とも思うんです。いまやっている作品しかないって気持ちで常にやっているので。元々、東京に遊びに来たいという気持ちでこの世界に入ったけど、実はその感覚っていまも変わってなかったり(笑)。でも、そのスタンスは嫌いじゃないです」。「仕事している自分と休んでる自分のバランス」先日より第3部に突入したNHK大河ドラマ「龍馬伝」に登場。2011年もすでに、江口洋介との共演作『洋菓子店コアンドル』などの公開が決まっている。目が回るような忙しい日々であることは想像に難くないが、この忙しさもまた彼女に中で「行ける」というサインが出ているということ?「ここ数週間はすごくよく働いてます(笑)。でも、ちょこちょこ連休もあったり。自分の中では仕事をしている時間とそうじゃない時間が同じくらいあるといいな、と思ってます。仕事している自分が息を吐き出して、休んでいる自分は息を吸い込んで…それが片方だけに偏っちゃうとダメですね。そのバランスをどうにかうまくやっていきたいと思います」。最後に、もう一度『おとうと』について尋ねると、自身の“家族”についてこんな話をしてくれた。「うちの兄は、私が出ている映画をほとんど観ない人なんですが、珍しく映画館に行って、大号泣したそうです。いつかまた、兄が観てくれるような作品に出たいって思いましたね(笑)」。(Hair&Make:Eri Akamatsu<esper.>/stylist:Junko Okamoto,Kana Iwatani/photo:Yoshio Kumagai)『おとうと』通常版[DVD]価格:3,990円(税込)『おとうと』豪華版2枚組[DVD]価格:6,090円(税込)『おとうと』[Blu-ray]価格:4,935円(税込)発売・販売元:松竹株式会社映像商品部発売中■関連作品:おとうと 2010年1月30日より全国にて公開© 2010「おとうと」製作委員会■関連記事:家族の絆に心温まる『おとうと』プレス&ポストカードセットを5名様プレゼント鶴瓶、外国特派員協会初会見で笑い取る!2度目の“出演”も決定山田洋次に“名匠”の称号日本発『おとうと』、ベルリン映画祭閉幕で拍手喝采日本映画が健闘した第60回ベルリン国際映画祭【読者レビューをウォッチ】『アバター』旋風に負けず、邦画勢に高ポイント続々
2010年08月10日