次男がやりたいと言って始めたサッカー。幼稚園児だけ通わせると小2の長男が暇になるからお友達も誘って長男も始めたのに、年中の次男が泣いて嫌がるようになりサッカーを辞めた。長男の学年は上手い子が多く、本人も運動は得意でなく、やる気も見えない。下の子を連れて観に行く親の方が疲れてしまっているけど、長男自身は辞めるとは言わない。こんな時、本人の意志を尊重した方がいいの?とお悩みのサッカーママからご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<試合で起用されなくなって泣く息子をどう受け止めたらいいの問題<サッカーママからのご相談>未就園児、幼稚園、小学2年の男の子3人兄弟です。最初は次男がサッカーをやりたいと言ったことが、サッカーと関わったきっかけです。長男は全く興味が無かったのですが、幼稚園の子だけ通わせると暇になってしまうので、学校のお友達も誘ってやってみないかと話をしたところ、行ってみたいとなったので、5か月前からサッカーを始めました。しかし、1か月過ぎたころから次男が泣いてサッカーを嫌がるようになり、1か月間泣いてチーム練習に行け無くなってしまいました。まだ年中ですし、泣いてる子を無理やり行かせる自分にも疲れてしまってサッカーを始めて2か月で辞めることにしました。長男の方は、次男が辞めても「僕も辞める」とは言わないので通い続けていますが、その教室の2年生はとてもレベルが高く、長男とスクールの子たちの差は凄いものがあります。長男はもともと運動が得意ではない上に、家で練習をしようとも、練習と試合の時に一生懸命ボールを追いかけようともしません。生徒が20数人いてコーチは1人なので、初心者の長男に手取り足取り教えて貰えるわけもなく、親としても上手くなりたいと思っているようには見えません。まだ始めて5か月目ですが、下の子2人連れて練習と試合に行くのも負担になってきたのもあって、私が「どうしたものかな」と思っています。でも、本人に何度聞いても辞めないと言います。こういった場合は本人の意思を尊重した方が良いのでしょうか?<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。お母さんのとるべき道はシンプルで、二つにひとつですね。① 長男君が続けたいと言う限り、続けさせる。② お母さんから「ママはすごく大変だから送り迎えが難しい。今月限りでサッカーはやめてもらいたい」とお願いする。この二択です。■親がサポートを続けられることも大事だけど......子どもは親の庇護のもとで育っています。自身の意向で何かをしたいといっても、親の経済的、肉体的、物理的な条件がそろわなくては何もできない弱い存在です。例えば、200キロ離れたところにすごく良いサッカースクールがあって、そこに行きたいと言っても親はできませんね。そのようないくつもの条件のなかで私たち親は、自分たちのできる限りのことをして、彼らの成長を支える。それが親の役目でもあります。お母さんは「下の子2人連れて練習と試合に行くのも負担になってきた」とあります。が、頻度やスクールとご自宅の距離などは、最初からわかっていた条件ですよね。そのうえ、次男を入れるために、長男を学校のお友達を誘ってやってみないかとまで言って引き込んでいます。もし、私がご長男君であれば、お母さんからもし「送り迎えがしんどいからやめてほしい」と言われたら、「お母さん、そりゃ、ねえだろ」と食ってかかりますね。すでに何度も「弟はやめたのに、君はサッカーやめないの?」と尋ねています。長男君にすれば、こころのなかで「はあっ!?」ですよね。私なら抗議します。「誘ったのはお母さんじゃん。俺はやめたくないって言ってるのになんでそんなにしつこく言うの?そりゃ勝手すぎるだろ」と。もしそうされたら、お母さんはどうしますか?今のお気持ちを小学2年生に訴えますか?「だって、あなたはもともと運動が得意ではないうえに、家で練習をしようとも、練習と試合のときに一生懸命ボールを追いかけようともしないじゃない。生徒が20数人いてコーチは1人だから、初心者の君が手取り足取り教えて貰えるわけもなく、お母さんとしては上手くなりたいと思っているようには見えないのよ」いかがですか? ちと残酷だと思いませんか。長男君はまだ7歳や8歳です。まだサッカーというスポーツを観察しながらやっているような時期でしょう。■まだ7歳「温かい放牧」で見守ればグッと変わることも私が知っている低学年の子は1年間スクールに行っても、寝転がったり、どこかに走って行ったりしてなかなか練習に溶け込めませんでした。でも、ボールを蹴るときは楽しそうにしていて、辞めるとは言わない。コーチは叱ったりせず「おいでね~」と声掛けし、温かく見守ってくれました。したがってお母さんも、ピッチで寝転がる子を黙って1年間見守り続けることができました。結果、次の年は寝転がることも逃げることもなくなりました。彼はサッカーに目覚めたのです。その後仲間と一緒にサッカーを楽しく続けました。このように、子どもには大人から温かく見守られなくてはいけません。私はそれを「温かい放牧」と呼んでいます。結果を求めない。出来栄えで判断しない。子どもがやりたいと言うことを、親の経済的、肉体的、物理的な条件がそろえばやらせてあげてほしいと思います。ああ、島沢さんはイジワルだ。相談しなきゃよかった、と思われているかもしれません。でも、この連載をもし読んでいただいたうえでご投稿されたのならば、私が「子どもファースト」だとわかっていただけると思います。■今は頑張っているように見えなくてもこれから少しずつ変わっていく。親が信じてあげよう(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)それに、お母さんのお気持ちは痛いほどわかります。目の前で頑張っているように「見えない」息子に苛立ちますよね。私の息子も走るのが苦手なサッカー少年でした。みんなが動き始めているのに、ひとりだけ集中力が切れるのか地面を見ています。ボールから目を離しっぱなしなので、味方のキーパーからのパスが息子の後頭部に当たることなど日常茶飯事でした。ああ、いやだ。みっともない。やめてほしい。なんとかしてよ。恥ずかしい。そう思いますよね。 でも、その子を産んで育てているのは私なんです。ダメなところがあれば、成長できるよう見守らなくちゃ。中学年、高学年になると少しずつ変わっていきます。親が信じてあげましょう。せっかく、お母さんのおかげでサッカーという成長できる場所を手にしたのです。お母さん、がんばれ。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2019年09月11日認知症で判断能力が失われたと判断されたら、銀行口座は凍結される。それに備えるための後見人制度は、実はかなり面倒なシロモノ。そこで注目されている制度が「家族信託」なのです!2025年には、認知症になる人が700万人にもなるという(厚生労働省調べ)。認知症の本人に代わって、家族が銀行から預金を引き出そうとしてもストップがかかり、生活費や介護などのお金は家族が肩代わりすることになる。「キャッシュカードの暗証番号を知っていれば、ひとまずお金の出し入れはできますが、本人から事前に了承を得ていなければなりません。しかし、通常50万円以上のまとまったお金を引き出そうとすると窓口に行かなければならず、そこで本人の同意が確認できないと、銀行の口座は凍結されてしまい、お金は引き出せなくなります。定期預金の解約をしたくても、できなくなります」そう注意をうながすのは、相続・終活コンサルタントの明石久美さん。口座が凍結されると、生活費などのお金を家族が本人に代わって支払うことになるため、負担した家族の生活が行き詰ってしまう−−。そんな事態を防ぐ方法の1つとして最近注目を集めているのが、’07年に信託法が改正されて、個人でも利用しやすくなった「家族信託」だ。認知症による資産の凍結から財産を守る制度は、「法定後見」「任意後見」の成年後見制度と、「家族信託」の3つがある。「成年後見制度は、判断能力が低下したときに4親等内の親族や市区町村長からの申し立てにより、家庭裁判所が後見人を選ぶ『法定後見』と、本人の判断能力があるうちに、あらかじめ選んだ後見人と公正証書で契約をしておき、判断能力が低下したときにスタートする『任意後見』があります。一方、『家族信託』は、本人の判断能力が低下する前に、信頼できる家族に財産の管理や処分をしてもらう制度です」(明石さん・以下同)財産のなかで、家族信託を使って管理したい財産を「信託財産」といい、主に現金、不動産、未上場株式の3つが対象になる。財産を預けたい親が「委託者」になり、財産を預かり管理や処分をする子どもが「受託者」、財産から得られる利益を受け取れる親、またはほかの家族が「受益者」となり、委託者と受託者が書面を交わす。成年後見制度と違って、家庭裁判所に提出する書類がないので、財産の管理がしやすい。家族信託契約書を作成してもらう専門家への報酬はかかるが、後見がスタートしてから本人が亡くなるまで毎月、数万円かかる後見人や後見監督人への報酬の支払いが必要ない、といったメリットがある。認知症になっても自分や家族が安心して暮らせるように、さらに、死んだ後も自分の財産を自分の思いどおりに親族に渡すことができるように、家族信託を選択する人が増えてきたという。そこで、家族信託を使ったほうが、メリットが大きいケースを紹介してもらった。【ケース1】将来、自分が認知症になるかもしれない夫に先立たれ、一人暮らしのA子さん。「今は元気でも、少しずつ物忘れが増えてきて将来が心配」というときこそ、家族信託が役に立つ。「この場合、母のA子さんは委託者、娘さんが受託者、A子さんが受益者になります。信託財産はいま住んでいる自宅と現金1,000万円という契約にしました。仮にお母さんが介護施設に入り、実家が空き家になったら、娘さんは自宅を売却して、介護費用に充てるといった契約内容にすることもできます」A子さんが他界したとき、口座が凍結されて葬儀費用が出せずに困ることがないように、契約で葬儀費用などの支払いができるように決めておくこともできる。親から財産を委託された子どもは、何にいくら使ったのか記録することが義務づけられるが、家庭裁判所への報告義務はない。不正使用がないように専門家やきょうだい・親戚を監督人に指定して、チェックする仕組みにしたり、親が委託者の子どもに月々の報酬を払いたいと思えば、契約に盛り込んだりすることもできる。「法定後見、任意後見でも自宅の売却や介護施設への入居の手続きはできますが、家庭裁判所や後見監督人の許可などが必要です。ですから、空き家になったら賃貸にしてほしい、賃貸物件を売ってほしいなどと本人が元気なときに言っていたとしても、難しいのが実情です。家族信託では、行ってもらいたいことを事前に決めておけば、たとえ認知症になったとしても、その契約を行うことができるのが特徴です」このように、自分の死後の財産の行く先を事前決定しておくことができる便利な制度だが、気をつけたい点もある。自宅など信託財産にした不動産は、受託者の名義に変更する必要がある。手続きを司法書士へ依頼するため、報酬や登録免許税などの諸費用が必要になってくる。成年後見制度のように、成年後見人や監督人に毎月支払うコストはないが、契約書を作成する専門家への手数料が意外とかかる。手数料の相場は信託する財産の1%といわれているが、高額な手数料を取る専門家もいる。また、信託財産は相続財産ではなくなるため、信託財産と相続財産の割合や内容によっては、親族間トラブルにもなりかねない。両方の対策を同時に考えてくれる相続に詳しい専門家を選ぶことが大切だ。「死後のこと」を含めてどうしたいのか、法定相続人になる家族で話し合うと、後のトラブルを防ぐことができる。大事な財産と家族を守るために検討してみよう。
2019年08月22日治療が難しい認知症。正確な予防法をあぶりだすために、町の住民ほぼ全員の生活を長年追いかけた、画期的な調査がある。認知症発症の有無から見えてきたものとは——。「日ごろから、バランスのいい食事や適度な運動をすることを心がけ、積極的に社会参加することなどは、認知症発症リスクを下げるために有効かもしれません。久山町研究を含むさまざまな疫学調査データから示されています」そう話すのは、九州大学大学院医学研究院教授で医学博士の二宮利治先生。“久山町研究”は、福岡市の北部に位置する糟屋郡久山町(人口約8,900人)の住民を対象に、’61年から長年継続している生活習慣病の大規模な疫学調査だ。脳卒中や高血圧、糖尿病といった生活習慣病の調査に加え、’85年からは、65歳以上の住民を対象とした認知症の調査も開始した。6〜7年ごとに追跡調査を行い、日ごろの食事や生活習慣が認知症の発症とどのような関連があるかを調べているのだ。「久山町研究の特徴は、町ぐるみで調査に協力してくれているということ。そのため、65歳以上の住民における認知症の調査の受診率は90%以上と非常に高く、さらに、調査にご協力いただいた99%の方の健康状態を毎年追跡しています」このように精度の高い認知症の疫学調査は、世界でほかに例がなく、注目を集めている。久山町研究の成績を基にした推計によると、’25年には日本で認知症患者が約700万人にのぼり、65歳以上の5人に1人が認知症になるという。とはいえ、いまだ特効薬もなく、未解明な部分が多い認知症。そこで今回、久山町研究の研究責任者である二宮先生に、現在までの調査結果から得られた認知症の予防法を聞いた。■糖尿病にならないようにする「認知症には、いくつか種類があります。久山町で主に研究しているのは、脳梗塞や脳出血などによって発症する血管性認知症と、脳の側頭葉などが萎縮して起こるアルツハイマー型認知症の2種類。’88年および’02年の久山町の健診を受診された、65歳以上の住民を10年間追跡しました。その結果、’88年の対象者に比べ’02年の対象者では、アルツハイマー型認知症の発症率は倍増していました。血管性認知症の発症率は、高血圧治療の普及により大きな変化はありませんでした」アルツハイマー型が急増している要因の一つとして、近年、解明されつつあるのが“糖尿病”との関係だ。「糖尿病患者は、糖尿病でない人と比べて、アルツハイマー型認知症および血管性認知症の発症リスクが約2.1倍高いことがわかりました。つまり、糖尿病は、認知症発症のリスク要因であると考えられます」ということは、糖尿病の予防になる食生活を心がけることは、認知症を予防するうえで大切であるといえるだろう。■一汁三菜の和食スタイルが大事久山町研究では、認知症になりにくい食事パターンも検討している。その結果、糖尿病を予防する食事法とも類似していた。「’88年の久山町の健診で食事調査を受けた、認知症のない60〜79歳の住民1,006人を17年間追跡調査し、食事パターンが認知症発症に及ぼす影響を検討しました。すると、大豆・緑黄色野菜・海藻類・魚・卵・牛乳や乳製品・果実などをよく摂取する食事をしている人のほうが、認知症になりにくいことがわかったのです」牛乳・乳製品を例に挙げると、摂取量が1日あたり44グラム以下の人たちと比べて、97〜197グラム(約牛乳瓶1本分)摂取する人のほうが、血管性、アルツハイマー型ともに発症率が低かったという。九州大学農学研究院との共同研究では、鶏の胸肉に含まれる“イミダゾールペプチド”という成分に記憶力を改善させ、認知症に予防的に働く可能性があることなどもわかってきている。「注意してほしいのは、『これを食べていたら認知症を予防できる』という夢のような食材はないということです」二宮先生が推奨するのは、大豆を使ったお味噌汁などの汁物が一品と、主食の米、魚や肉などの主菜に加え、野菜などの副菜が2品つくバランスのいい“一汁三菜”の伝統的な和食スタイルだ。久山町研究に協力している中村学園短期大学准教授の内田和宏さんが、一日分の理想的な一汁三菜レシピを教えてくれた。【朝食】麦ごはん…白米、押し麦味噌汁…かぼちゃ、しめじいり豆腐…木綿豆腐、にんじん、葉ねぎ、サクラエビ、しらす干し、糸みつばコールスローサラダ…キャベツ、とうもろこし、ヨーグルト、ミニトマトいり豆腐や味噌汁で、大豆を摂取。サラダで緑黄色野菜を、ドレッシングにヨーグルトを使って乳製品もしっかり補給している点がポイント。白米をとってはいけないということではないが、少なめのほうがいい。【昼食】麦ごはん…白米、押し麦鶏肉の味噌焼き…鶏肉、じゃがいも、ブロッコリー五目あえ…にんじん、しいたけ、ほうれん草、絹さや、木綿豆腐きんぴらごぼう…ごぼう、にんじん、ごまリンゴそれぞれの料理にブロッコリー、ほうれん草、にんじんなど緑黄色野菜を含む。大豆、鶏肉のタンパク質は筋力や骨を形成するのに必須なので、しっかりとったほうがいい。足腰の強さを保つことは認知症予防に必須。【夕食】麦ごはん…白米、押し麦味噌汁…オクラ、ぶなしめじアジのエスカベッシュ(マリネの一種)…アジ、にんじん、たまねぎ、きゅうりエビとヤングコーンの炒めもの…エビ、ヤングコーン、さやいんげんトマトのマヨネーズグラタン…トマトアジ、エビといった魚でタンパク質をとるのもいい。アジなど青魚が豊富に含むEPAには血液をサラサラにして血行をよくし、脳機能維持効果がある。緑黄色野菜とトマトやきのこ類と、野菜を豊富に含むのがいい。認知症リスクを減らす一日のメニュー。さっそく実践してみよう。
2019年08月14日成長、発達、認知――。教育関係の記事ではあたりまえのように使われる言葉ですが、その厳密な意味となると答えられない人も多いでしょう。お話を聞いたのは、『しまじろうのわお!』(テレビ東京)などの幼児教育番組や幼児向け教材の監修を行っている、静岡大学情報学部客員教授の沢井佳子先生。それらの言葉の意味に加えて、幼児教育の世界で流行語となっている「非認知能力(非認知的スキル)」という言葉がはらむ問題についても持論を語ってくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)成長、発達、認知という言葉の意味とは?成長、発達、認知という言葉のうち、その意味合いからも混同されるのが成長と発達ではないでしょうか。子どもの成長、発達といった場合、一般の会話においては大きなちがいはありません。でも、アカデミックな意味でいうと両者にはちがいがあります。「成長」とは、「数値」でわかる身体の量的な変化です。つまり、子どもでいえば身長が伸びたり体重が増えたりした場合に、「成長した」というのです。そして、「発達」とは「働き」や「質」に焦点をあてた心身の変化です。たとえば、「子どもが手指で柔らかいものを上手につまめるようになる」という動作の「器用さ」の変化や、そして「頭のなかで言葉や数や論理を理解する」というような、見た目だけではわからない心理的変化も「発達」に含まれます。この発達の過程において、生涯にわたってドラマチックな変化を見せるのが「認知の発達」です。「認知」とはごく簡単にいえば「ものごとがわかる」ということです。一般に認知能力というと、文字を書く、計算する……といった「学力」と同じ意味だと、非常に狭い意味でとらえられがちです。しかし、認知は人間のあらゆる「知覚」「運動」「学習」「判断」「記憶」などに関わります。たとえば、生活習慣の獲得。子どもが服を上手に着られるようになったなら、そこには、方向や位置関係がわかる……という空間認知や、見て触った情報をもとに動作を実行するという認知の発達がみられるのです。友だちとの付き合いにおいても、表情を認知し、視点を動かして相手の気持ちを察し、出来事のつながりから因果関係を推理し、行動の社会的な結果を予測して意思決定をする……といった認知の過程がたくさん含まれているのです。生活習慣から社会生活、おしゃべりから数の理解、砂場の遊びからスポーツの試合まで、子どもの頭のなかでは認知的な営みが忙しく繰り広げられているのです。子どもの教育から少し話はそれますが、この「認知」に関する言葉で、個人的に残念に思っているのが、2004年末に日本で「痴呆症」に代わるものとして「認知症」という名称が採用されたということです。「認知症」という名前は、そのままの意味でとらえると、「わかる病気」ということになってしまいます。当時、厚労省が行ったアンケートでも、ほとんどの有識者が「認知障がいという名称が適切」と答えていました。「認知」を「歩行」に置き換えて考えてみましょう。歩行器で歩く人も、車椅子を使う人も「歩行障がい」があるわけです。が、それを「歩行症」と呼んだらおかしいですよね。「うまく認知できないこと」は、本来なら「認知障がい」と呼びたいところです。「でも、厚労省側が『少しでも字数が少ないほうがいい」と判断して『認知症』という言葉に決まったんですよ」と、その検討会の座長を務めた医師の長谷川和夫先生から、直接お聞きしたことがあります。こうして「認知症」という名称が生まれて15年がたったいま、「うちのおじいちゃん、『ニンチ』になっちゃって……」といったふうに、ずさんに略されて使われるのを耳にします。認知という言葉が真逆の意味で使われるのです。わたしは「みんなの認知症情報学会」で、認知症や発達障がいの当事者の方々のお話を聞く機会があるのですが、そのなかのひとりの女性が「わたし自身の認知の特徴について正確に説明しようとしても、ニンチという言葉は、得体の知れない深海魚か怪物のように思われ、人の誤解を解くのは大変です」とお話しくださったことが忘れられません。「認知症」のように、名前と意味の関係をあいまいにした言葉は、誤解に悩む人を増やしてしまうのです。「社会情動的能力」を「非認知能力」と呼ぶべきではない「認知」の意味への誤解を広げている名称がもうひとつあります。現在の教育界で頻繁に聞かれる「非認知能力(非認知的スキル)」がそれです。米国の経済学者のヘックマン(J.J.Heckman)の著書『子どもたちに公平なチャンスを与える(”Giving Kids a Fair Chance”)』邦訳『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社)のなかに「非認知能力」は登場します。ヘックマンは米国の公教育が、子どもたちを到達度テストの点数で評価し、「学力優位の教育に偏っている現状」を批判しています。多くの人が社会で成功し、経済格差を解消するためにも、到達度テスト(認知テスト)では測れない、意欲や長期計画を実行する能力、他人と協働するのに必要な社会的・感情的制御という「非認知能力」を伸ばす教育が重要である。そして幼児期こそ「非認知能力」を育む最適期なので、幼児教育にかかる費用を、社会が家庭へ「事前に分配」すれば、効率的に社会的格差が解消される――。と、幼児教育への社会的投資を促しました。わたしは、この結論には賛成です。経済階層や家庭環境のちがいにかかわらず、どの子どもにも適切な幼児教育の機会が与えられるように社会システムを作ること。そして、学業のみならず、社会性や情動コントロールの能力を育む「幅広い領域の教育」の恩恵をすべての子どもが得られるように、社会が幼児期にお金と手間をかければ、子どもが年を取るまで望ましい効果が得られ、人生も社会全体も豊かになる……というヴィジョン。これは、わたしが30年以上前から、テレビ幼児教育番組のコンテンツ開発の仕事をしながら思い描いてきた理想と重なります。しかしながら問題は、社会性や情動コントロールの能力を「非・認知能力」と名づけ、学業に関わる能力だけを「認知能力」と名づけたことでした。わたしは、その意味する「事柄」ではなく、「名称」を問題視しています。ヘックマンは当初、「(研究者が)数値で量的に認知しやすい能力」と、「(研究者が)数値では認知しにくい能力」とを区別するつもりで、認知能力と非認知能力と命名したようですが、そんな名称では「子どもの頭のなかの認知能力」と区別がつきませんし、実際、混同されています。社会性や情動コントロールの能力のなかには膨大な認知過程があるにもかかわらず、それを「非認知」と呼べば、一般の人は「人付き合いや、我慢ができることなどに、認知は入っていないのだな」と誤ってとらえてしまうでしょう。そもそも、「非(Non-)」が頭について、「認知『じゃないもの』が大事だ」……という造語の仕方が誤解のもとです。大事な事柄は、否定ではなく肯定で、端的に表現すべきでした。ヘックマンは学業の能力(彼のいう認知能力)と社会情動性の能力(彼のいう非認知能力)の両立を重視したはずですが、教育者の間では「非認知能力」あるいは「非認知スキル(Non-cognitive skills)」という名称のみが流行語になり、両者のバランスは崩れていきました。さらに「非」という接頭辞が、続く「認知能力」を排除するか、または時間的に後回しにする解釈へと迷走させています。「<我慢ができて、友だちと仲良く協力し合い、自分の感情をコントロールする力>は非認知能力であり、これが育ったあとに認知能力を伸ばせばよいのです」と、幼児教育の現場で語られるのを聞きましたが、これは、ふたつの能力を同時に重視するヘックマンの論旨に反します。また、赤ちゃんのときからの「顔や声のパタンを見わける認知能力」がベースにあってこそ、特定の大人への愛着が深まり、観察と模倣の学習も進み、社会情動的能力が発達するのだという、心理学の知見ともかみ合いません。学術的な知見と「つじつま」が合わないまま、「非認知能力」という名称は、一般の人々の「認知」への理解をゆがめているのです。幼児期にこそ「認識の枠組み」を与えたい2011年の東日本大震災のとき、米国の『TIME』誌は、被災者の写真とともに「“Gaman”=ガマン」という言葉を「日本人独特の精神性」を象徴するものとして紹介していました。米国人のヘックマンが想定した「忍耐力や情動の抑制のレベル」をはるかに越えるマグニチュードの「被災者の我慢」に、米国のジャーナリストは驚いたのです。幼児教育の現場はもちろん、日常の現実やアニメでも「我慢強い子」のモデルを多く目にする日本は、「他者と協働するための社会性」への期待が重過ぎるほどです。ですから「非認知能力」と呼ばれる「社会・情動性」の教育の旗を振らなくても、日本の幼児教育の先生方はすでにそれをたっぷりと教育なさっていると思います。が、近年の「非認知能力」という流行語の副作用として「認知能力」が狭く解釈され、「文字や数を学ぶ認知能力は、小学校から伸ばす」とみなされ、幼児の幅広い認知能力が論じにくくなったのは問題です。他方、小学校はといえば、STEAM教育(科学、技術、工学、芸術、数学)を代表するプログラミング教育に加えて、英語の教科化で忙しく、6歳からの知識学習はどんどん増やされています。6歳を境に幼児教育と小学校の教育の内容には、崖のようなギャップがあります。それを不安に思う親は、非認知能力重視をうたう幼稚園に子どもを通わせつつ、さらに国語、算数、英語の「学業の先取り」を助ける塾へも通わせ、ダブルスクールの行き来で親子はヘトヘト。楽しいはずの幼児期がこのような疲労感で終わっては、「意欲」を育むどころではありません。そこで思い出すのは、わたしが2004年にハンガリーの保育園を訪ねたときの驚きです。保育士が「さあ、論理で遊びましょう!」と、3歳から6歳の子どもたちを集め、おもちゃや絵本、ボールなどを使って、仲間わけの論理遊びをはじめました。子どもたちは、異年齢同士で相談しながら、おもちゃを選び、ボールを転がして「考える遊び」を楽しんでいたのです。「考えること」は運動であり、友だちとのコミュニケーションであり、答えを探すための忍耐も遊びの内でした。ブダペストの明るい教室には、「子どもの思考」への洞察と、「考える遊び」を開発する技術があり、芸術的なバランスがあることに、わたしは心打たれました。ブダペストの小学校も見学しましたが、幼児教育から滑らかにつながり、校長は「幼児から児童への認知発達を考え、自分で論理的に考えられるように、遊びや学びを開発しているんですよ」とお話しくださいました。論理、社会性、物語、数学、運動、音楽などが、一体となった教育は、面白い幼児教育番組を見ているような印象を残しました。1973年にはじまった幼児教育番組『ひらけ!ポンキッキ』(フジテレビ)は、ガチャピンとムックが有名ですが、東 洋、永野重史、新田倫義、藤永 保という4人の発達心理学者が監修して、幼児期の認知発達を支援する目的でつくられました。わたしは1984年から1988年まで心理学スタッフとして制作に携わりました。放送がはじまった頃は、批判の電話がたくさんあったそうです。「幼児期はココロを育てる情操教育が重要なのに、『ポンキッキ』は知識の詰め込みの早期教育でけしからん」という批判です。「知性と情意性、どっちを重視するのか?」という、能力を分割する議論は、むかしもいまも変わらず繰り返されるんですね。『ポンキッキ』の監修者は、「幼児が主体的に情報を処理する能力を育て……質の良い知的構造の形成と深化を目指す」という理念を掲げ、論理概念すらも面白いアニメで見せ、社会性や情動性をテーマにした歌やダンスも開発しました。いま、わたしは『しまじろうのわお!』(テレビ東京)という幼児教育番組の監修者として、ピーマンの悲しみの理解から、転んでも立ち上がる意欲の歌、ジュースの量を比べる遊びまで、幼児の生活全体を対象に、『認識の枠組み』を与える映像を開発しようと、制作仲間と議論を重ねています。ハンガリーの「社会的な論理遊び」、そして「生活のなかで考える面白さ」を伝える『ポンキッキ』、こうした「認知と情意性の発達を丸ごと支援する教育」を、いろいろなメディアで増やしたいものです。大人のかたも、子ども時代の記憶を思い出して、「3歳のわたしが面白かったことは?大好きな人のなにを真似たのかな?」とご自分の発達を振り返ってみませんか?「認知=ものごとがわかること」について考えはじめると、高齢者になるという発達も面白くなるように思います。■ 静岡大学情報学部客員教授・沢井佳子先生 インタビュー一覧第1回:“○歳だからこれができないとダメ!”その思い込みから親を解放する「発達心理学」入門第2回:幼い子どもの言葉が格段に豊かになる、親から子への「実況中継」という方法第3回:「10まで言えるのに、5個が数えられない」?未就学児への“数”と“時間”の教え方第4回:「非認知能力」という名称の流行が生んでしまった“誤解”と“困った副作用”【プロフィール】沢井佳子(さわい・よしこSAWAI, Yoshiko)1959年生まれ、東京都出身。チャイルド・ラボ所長、静岡大学情報学部客員教授。認知発達支援と視聴覚教育メディア設計を専門とする。学習院大学文学部心理学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。同大学院人間文化研究科博士課程単位取得退学。専攻は発達心理学。幼児教育番組『ひらけ! ポンキッキ』(フジテレビ)の心理学スタッフ、文教大学人間科学部講師などを経て現職。他に、日本こども成育協会理事、人工知能学会「コモンセンス知識と情動研究会」幹事、日本子ども学会常任理事などを務める。幼児教育シリーズ『こどもちゃれんじ』(ベネッセコーポレーション)の「考える力」プログラム監修、幼児教育番組『しまじろうのわお!』(テレビ東京系列/2016年国際エミー賞子ども番組部門ノミネート、2019年アジアテレビ賞受賞)の監修など、多様なメディアを用いた幼児向け教材やテレビ番組の制作におけるコンテンツ開発に携わっている。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年07月12日「お互い、もう介護される年齢に近づいているわね」という話から始まった“認知症介護対談”。年を重ね歴史のある母娘でも、母が認知症になればその関係は変わってくる。いままで見せなかった弱さを見せるようになったヤマザキマリさん(52)の母は、これまで着ていた鎧を脱いで穏やかに。阿川佐和子さん(65)の母は家族のかせから逃れて、自由になった。母娘が向き合って、その距離がぐっと近くなった介護の時間はとても豊かなものだった――。阿川「うちはいま、認知症の母(91)をきょうだいとお手伝いの方とローテーションを組んで、在宅介護しています。その合間にショートステイで外泊サービスを利用しているんです」マリ「私の母(86)は北海道の実家の近くに住む妹が、在宅介護をサポートしてくれていました。それが、認知症に加え、パーキンソン病も併発して……。足元がおぼつかなくなり、今年1月、部屋で倒れているところを妹に発見されて、入院しました」阿川「高齢者専門の施設なの?」マリ「専門ではないですが、認知症患者が多い病院なんです。我が強い母ですから、同室の人と合うわけがないと思っていたのに、4人部屋で和気藹々と過ごしています。お互い、会話はまったく成立していないんですけど、ワイワイ楽しそうでした」小説家、エッセイストの阿川佐和子さんの母親は、昭和2年生まれで、現在は91歳。父は作家の阿川弘之さん(’15年没、享年94)。外では温厚だが、家庭内では絶対君主で、専業主婦だった母親は振り回されていたという。漫画家のヤマザキマリさんの母親は、昭和8年生まれの86歳。北海道に渡り、札幌交響楽団のビオラ奏者として、2人の娘を女手一つで育て上げた。親の介護が始まったのは、阿川さんが57歳、ヤマザキさんが49歳のときだった――。マリ「佐和子さんは、どうやって親の認知症がわかったんですか?」阿川「8~9年くらい前かな。あるとき、長年、実家で働いてくれた家政婦さんが電話で『こんなこと、私から申し上げるのも何ですが、奥さまがヘンです』って。もともとトボけてるからなあって言ったら『そういう問題じゃありません』って、ピシッと言われたんですね。それで“ついに来たか”と」マリ「母は、80歳を過ぎたあたりから、物忘れが目立ってきたんです。でも、犬の散歩も欠かさず、毎日、元気そうでした」阿川「うちも日常の家事には支障がなかったけど、同じことを繰り返し話したりして“ん?”っていうことが少しずつ……」マリ「あるとき、北海道の実家に帰ると、母が外に立って青ざめた顔で『変な外人さんがうちに来ちゃって!』って。あわてて家に入ると、外国人が出ている料理番組が放映されていて、それを見て、うちの台所に外国人が来たのだと勘違いしたようなんです。そうした症状が増えて、ようやくレビー小体型認知症(症状の1つに幻覚がある)だと診断されました」阿川「うちの母は、いまだに、自分でできることはいっぱいあるんです。お医者さんに行って、勝手にパソコンをのぞいたとき“アルツハイマー”という文字を見て、『誰のこと?』って聞いたりね」マリ「本人も認知症だって認めたくないですよね。母も『一過性のもの』『疲れているだけ』と抵抗していましたから」阿川「いままで、自分を見守ってくれていた親が、だんだん壊れていく姿は、子どもとしてもつらいもの。だから、初期のころは特に必死になるよね」現在でも、認知症の症状は少しずつ進んできているが、母たちは平和で穏やかな日々を過ごしている。阿川さんは、父を’15年に亡くしたが、母は、夫の死をどこまで理解できているのかわからないという。ヤマザキさんの母は、人生を支えてきた楽器演奏から離れて久しいが――。マリ「この間も病院に行くと、母が遠くに歩いている看護師さんを見て『今、コンサートホールの支配人を呼ぶから、挨拶しなさい』って言うんです。私もその“妄想”に付き合って『今日は何を演奏するの?』と聞くと、『プログラムを読んでいないの!』って怒られたり(笑)。母は元気なころ、コンサートのプロデュースもしていたんです」阿川「そういう物語には、乗っかるほうが楽しいよね。うちの母は、なぜかいないはずの赤ん坊の話をするんです。『赤ん坊どうしたの?』って聞かれると『さっき帰った』『ちゃんと寝かせているの』『うん、2階で寝てる』って、話を合わせたりして」マリ「認知症になっても、あえて否定するのもよくないし、羞恥心や感情面の尊重も大事ですよね」阿川「特に排せつに関してはね。以前、母が部屋で頭から布団をかぶっていたんです。どうしたのかと思って布団をめくると、片足だけ私のストッキングをはいているの」マリ「どういうことですか?」阿川「聞いても『んー』と言って答えないの。多分、自分の下着を汚してしまって、それが恥ずかしいと思ってはき替えようとしたのに、どうしていいのかわからなかったと思うんです。それで私のクローゼットから着替えを探したけど、パンツではなく、靴下の引出しを開けてしまったのだと」マリ「親の排せつの失敗は、娘もついつい情けない気持ちになったりするけど……」阿川「考えてみたら、隠すこと自体がカワイイじゃんて思うようになりました」マリ「認知症になって、とても自由に生きられている部分もありますからね」阿川「うちは圧倒的に父が強かったんです。絶対君主的で、それによって家族が振り回されていました。でも母は、『なんでそんなに言うことを聞けるの?』って思うくらい従順だったんです。だから私は、きっと7歳年上の父が早く死ぬだろうし、そうしたら母を旅行に連れていったりして、家庭の束縛から解放してあげようって、ずっと思っていたんです。それなのに、母が先にボケてしまって、悔しかったですよ」マリ「それは無念」阿川「でもね、ボケてみると、100%不幸だとはいえない。むしろ母は自己主張が強くなりましたよ。入院中だった父が『お前の作ったちらし寿司が食べたい』と言いだしたときも、さらっと『あーちらし寿司ですね、そこの百貨店に売っていますよ』って」マリ「素晴らしい!」阿川「いま、母はとても自由に愉快に生きているんです。私が『ねえ、母さん、ご飯作ってよー』って言うと『んー、明日』って先延ばし。マリちゃんのお母さんは、女手一つでずっと闘っていらしたわけでしょ?」マリ「闘魂そのままというイメージを持っていたんですが……。もともと物を書くのが好きな人で、日記帳を渡していたんですね。ところが、認知症に加えパーキンソン病も併発しているから、手が震えてうまく文字が書けない。それであるとき、母の部屋から、書こうと思ったのに、何度も何度も途中で諦めてしまっている書き損じの紙の束が出てきて……。それを隠していたんですね。手にしたときは、もう涙が止まりませんでした」阿川「切ないねえ」マリ「前の母とは違うんだと改めて感じて、喪失感を覚えました。いかに母が私の心の大きな支えになっていたかって痛感して……。50歳にして、初めて精神的自立を余儀なくされた焦りも(笑)。でも、認知症になって、肩肘張らず、強がらず、いまの母は穏やかです」阿川「よかったねえ」マリ「いままでの母なら『会いたい』なんて言わないタイプだったのに、お見舞いに行くと『今度はいつ来るの?』なんて聞いてくるんです。“なんだ、この弱々しい母は”って感じてしまうけど、『1人で娘2人を育て、世間と闘ってきたけど、ようやく甲冑を脱げたんだ』と、いまの姿が本当の母なんだと思えるようになりました」
2019年06月29日「非認知能力」とは、テストの点数や偏差値など数字で測れる認知能力に対して、数字では測れない力のこと。そこには、回復力、やり抜く力、自信、自己肯定感、リーダーシップ、主体性、社会性、共感力……など、さまざまな力が含まれます。その非認知能力との出会いによって自身の人生を変えたのが、ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集め、出版された本は軒並みベストセラーになっています。もちろん、ボーク重子さんの子育ての軸となったのも、子どもの非認知能力を伸ばすことでした。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)はじめての失敗で心が折れた子ども時代子どもの非認知能力の有無によってどんなちがいが生まれるのか――。親であればとても気になるところですよね。ここでは、わたし自身を例にしてお伝えしましょう。子どもの頃のわたしは、「いい高校、大学、会社に入って、いい結婚をすれば一生安泰だから、とにかく勉強をしなさい」といわれて育ちました。わたしの親は少し教育熱心だったかもしれませんが、当時の「幸せへ向かうレール」に子どもを乗せようとする、ごく普通の家庭だったと思います。わたしはいわれるままに勉強をしましたから、最初は学校の成績も優秀でした。ところが、中学生のある日、急に数学ができなくなったのです。いつも100点だったテストがいきなり70点になってしまった。そして心が折れた。いまならその理由がわかります。それは、わたしの非認知能力がまったく育っていなかったからです。当時のわたしは、「やりなさい」といわれたことになんの疑問も持たずに従っていました。いわゆる「いい子」です。だからこそ、自分で考えるということをまったくしたことがありませんでした。勉強も親や先生にいわれたことをやって、とにかく暗記を繰り返すだけ。学習内容の本質を理解していませんから、学習レベルが上がると一気に成績が落ちてしまったのです。そこでわたしがどうしたかというと……勉強をやめてしまいました。というのも、賢くないと思われるのがすごく嫌だったからです。「勉強をしなければ、『やればできるのに』と思ってもらえる……」。そう考えたわけです。そのときのわたしに回復力ややり抜く力といった力があれば、そこで立ち止まって「どうすればいいか」と考えられたでしょう。でも、当時のわたしにはそれらの力はなかった。要するに、わたしには勉強での失敗経験がなかったのです。なにかをして失敗するという経験は、非認知能力を育てるためにはとても大切なものです。あたりまえですが、失敗しないことには回復力なんて育つわけがありませんからね。そもそも、それ以前に主体性が育っていれば、親や先生のいうことにただ従うのではなく、自ら考えて勉強に励むこともできたかもしれません。さらに、そういった主体的な勉強で成績が上がったのなら、自信をつかむこともできたでしょう。でも、当時のわたしはそうではなかった。だから、たったひとつのテストの結果でポキッと心が折れてしまったわけです。教育法のちがいが子どもの人生を大きく変えるそれからはどんどん成績は下がる一方で、自分は「なんてダメなのだろう」という気持ちを拭うことができませんでした。そこからわたしが回復するには、15年ほどの時間がかかりました。20代はそれこそ暗黒時代。ずっと「どうして自分はこんなに駄目な人間なんだろう?」「どうせわたしなんて……」と思いながら過ごしていました。その後、回復するに至ったのは、30歳になる直前に、当時お付き合いしていた男性にフラれたことが大きなきっかけです。そのとき、真剣な顔をしている彼を見たわたしは「プロポーズかな?」と思った。でも、彼は「君は僕と結婚したらどう生きたい?」と聞くのです。当時のわたしは、「え?そんなの決まってる」と思いました。その答えは、「あなたのお世話をして、あなたの子どもを生んで、一緒に年を重ねたい」です。わたしの返事を聞いて、彼はこういいました。「僕、それだけの人はいらない」と。幼い頃から凝り固まった人生観を刷り込まれ、自分というものを持てていないわたしに彼は愛想を尽かしたというわけです。そうして「幸せへ向かうレール」から外れたことで、わたしは一念発起しました。ずっと心のどこかで「いつかやりたい」と考えていたアートの勉強をするため、イギリス、続いてアメリカに渡ったのです。そのうち結婚して娘が生まれると、また強い不安に駆られました。「わたしに育てられたら、いつも自信を持てなくて誰かの指示を待つわたしみたいな人間に娘が育つのではないか」と――。そして、娘のための学校を探しているうちに出会ったのが非認知能力でした。当時のアメリカにおけるいわゆるエリートコースにある幼稚園や小学校は非認知能力教育に重点を置くようになりつつありました。そして、ある研究によって、その潮流は決定的なものとなった。従来の教育を受けるか、非認知能力を高める教育を受けるかによって、その後の子どもたちに大きなちがいが生まれることがはっきりとわかったのです。非認知能力を高める教育を受けた子どもたちの学習は、機械的にやらされるようなものではありません。学習内容に興味を持ち、自ら能動的に学ぶ。勉強したくないときも、責任感があるから「やらなくちゃ」と勉強をする。もちろん、学習成績も上がります。さらには、自分がやったことを肯定してもらえるため、自信を持つようにもなる。子どもたち一人ひとりが認められるから、いじめも減る。やる気、主体性、パッションがあって、自分がやりたいことをやるためにそれ以外のことも自然にできるようになるし、やり抜く力も身についていく――。まさにいいことずくめなのです。親は子どものロールモデルという役割から逃れられないさて、肝心の非認知能力を高める教育ですが、特別な学校でしかできないというわけではありません。むしろ、家庭教育のほうが重要だともいえます。娘を通わせた学校の先生からは、「いちばん小さいけれど最強のコミュニティーである家庭での教育、親との対話が子どもにもっとも影響を与える」といわれました。親は子どものロールモデルという役割から逃れることはできません。親の姿を見て育つ子どもは、ふとしたときに出るしぐさや口癖などまで親に似るものです。子どもは必死に生きて親を愛して、いずれ親のようになる。それだけ親という存在は子どもにとって大事なものなのです。そう気づいたとき、わたしは思い至りました。「だとしたら、まずわたし自身が自分の非認知能力を高めなければいけない」と。それから、わたしはいろいろと行動をはじめました。アートギャラリーを立ち上げたこともそのひとつでしょう。とにかく行動することが大切で、ずっと家にこもっていても心は強くなりません。家でご飯を食べてテレビを観ているだけなら、誰かに共感したり、失敗して回復したりする必要もないし、主体性やリーダーシップを発揮する場面もありませんからね。そして、「ママ、いまはこういうことをしてるんだよ」というふうに、自分の行動を子どもとシェアするのです。子どもは親を見て育つといいますが、見えやすくするのも親の役目です。子どもには、いわれなければわからないこともたくさんあるのですから。親の行動をシェアする際には、「失敗こそシェアする」と心がけてください。当時のわたしはなにもわからないままビジネスをはじめましたから、当然、失敗の連続です。それらの経験を娘に伝え、ときには娘からアドバイスをしてもらうこともありました。それは、失敗か成功かという結果ではなく、なにがどうしてどうなったかというプロセスを娘に見せるということです。そうすることで、子どもは、失敗は通過点であってやり直しができるということ、方法はひとつじゃなくてもしひとつの方法が駄目でも他の選択肢や可能性を試せばいいといったことを学んでいくことができます。それは、回復力ややり抜く力といった非認知能力そのものですよね。そう考えていたわたしは、娘には成功より失敗を重点的に見せてきましたから、娘にとってはじつは格好悪いママなんです……。はじめて「子育ての本を書くんだ」といったときに、いちばん驚いていたのが娘でしたね(笑)。娘のスカイさんと。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動(※近日公開)第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”(※近日公開)第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月08日セクシーな腹筋が見逃せないサッカー選手。専門家が、色気を感じるあれこれをピックアップして、その魅力を語ります。世界一周の旅をしながら、数々のイケメンたちをストリートスナップする“世界イケメンハンター”として、バラエティ番組『マツコの知らない世界』に出演もした窪咲子さん。もとはアイドル芸能雑誌の編集者で、日本トップクラスのアイドルや若手俳優を見てきた、いわばイケメンのプロ!そんな彼女が熱く語るテーマは、“男らしさが詰まっている”という、サッカー選手の腹筋と顔の関係性。「いちばん美しく感じられるシチュエーションは、プレー中、汗をぬぐう時にチラッと見えた腹筋。無防備な状態で見える腹筋がたまりません。真剣にプレーしているのに、つい腹筋に視線がいってしまう…。見てはいけないものを見ているような罪悪感めいた感情が刺激的。さらに、顔立ちと腹筋を見比べると、イメージ通りだったり、意外なギャップがあったりして、腹筋単体で愛でるよりも色気をより強く感じるんです」そもそもはサッカー好きの父親の影響で競技に興味を持っていた窪さん。‘02年日韓W杯で大ブームを巻き起こしたベッカムが人生を変えた。「思春期真っ只中の中学生の頃、お小遣いで買った写真集に上半身裸のカットがあって。王子様系の顔と見事な腹筋に、心を撃ち抜かれましたね。生徒手帳に切り抜いた写真を入れてました。実は、イケメンハンターとして世界一周旅行したゴールで、彼に会えたんですよ。汗だくのカラダから発せられる体臭さえいい匂いでした!」そんな彼女が紹介するのは、実力も兼ね備えたイケメン選手。窪さんの初恋相手でサッカー界の元祖スター・ベッカムと、現役の第一線で活躍中のトーレス、グリーズマン、期待の新星ディバラ。萌えポイントを解説します!元祖プリンス選手、殿堂入りの肉体美。デビッド・ベッカムイギリス代表として来日した‘02年の日韓W杯で、大旋風を巻き起こす。‘16年、H&M の広告では衰えぬ腹筋を見せ、世界的な話題に。「腹筋萌えの芽生えとなった人。鍛え抜かれた筋肉の神々しさに言葉を失いました。腹筋も王子様系の顔もふくめて、存在自体が尊いです!イケメン遺伝子を引き継いだ次男のロメオ君にも注目中」写真・ロイター/アフロ下がり眉がキュートな子犬系イケメン。アントワーヌ・グリーズマンフランス出身のフォワード。サッカー選手として小柄ながら抜群の得点感覚を持ち、‘18年W杯では、自国の優勝に貢献。「私が愛してやまないベッカムに憧れていた選手。愛されキャラで、ちょっぴり下がった眉が印象的。顔立ちも子犬を思わせるかわいらしさ。そこまで割れていない、あっさり系の腹筋とバランスがとれています」写真・AP/アフロメッシを超える!?やんちゃな“原石”。パウロ・ディバラスーパースター、メッシを超えるといわれる逸材で、“宝石”の愛称で親しまれる。ユヴェントス所属。「日本ではまだそこまでメジャーではないですが、育ち盛りの選手。気の強そうなやんちゃ系の顔も日本人ウケしそう。個性的な髪型がメディアでたびたび注目されます。腹筋は見事なシックスパック!まるで芸術作品のような美しさ」写真・ロイター/アフロ優しげな微笑みと腹筋のギャップにきゅん。フェルナンド・トーレススペイン出身。欧州の強豪チームを経て、昨年、サガン鳥栖に電撃移籍。「日本で生で観られる貴重な存在!王子様系の顔は私のドストライク。腹筋はバキバキですが、写真によってはぽっこりな時もあり和みます。8 歳で出会った女性と結婚し、しかも初キスの記念日を意味するタトゥーを入れてるエピソードも素敵」写真・ロイター/アフロ窪 咲子さん旅行ライター、イケメンハンター。70か国を訪れた。著書に『「世界イケメンハンター」窪咲子のGIRL’S TRAVEL』(ダイヤモンド社)。※『anan』2019年4月3日号より。取材、文・小泉咲子(by anan編集部)
2019年03月28日読者世代にとって「認知症」「軽度認知障害(MCI)」に関することは、常に身近な関心事。しかし、これまで関心はあれど、切実に問題に向き合う必要がなかった人も多いはず。ここでは「ある日突然、親の異変に気づいてしまったら……」を、本誌・海野幸記者(仮名・48。広島県出身で現在は東京都在住)の体験をもとにレポート。「そのときどう対処すればいいのか?」について考えてみました――。「あれ?母が、何かおかしい」初めて私がそう感じたのは、昨年12月。74歳の誕生日を記念して、久しぶりに母親と温泉旅行に出かけたときのことだった。記憶にあるしっかり者の母と、目の前の母の様子にギャップを感じること数度。ふだん離れて暮らしているからこそ、感じ取ることができた変化だったかもしれない。74歳という年齢。「もしかして認知症?」と気になりだしたら不安が止まらなくなった。帰省のたびに「耳が遠くなったな。見た目が老けてきたな」と、加齢による変化は確認していたけれど、行動やふるまいに「おかしい」を実感することはあまりなかった。90歳で亡くなった祖母も、最後の数年は認知症だったが、母はまだ74歳。「まだまだ親は元気」と悠長に構えていたぶん、初めて頭をかすめた「認知症」の3文字に動揺するばかりだった。「さて、どうしよう……」そんな不安に直面した私がまずしたことは、認知症に関しての知識を得ることだった。祖母の介護は父と母がしていたし、そのとき私はすでに東京で暮らしていたので介護経験はなく、認知症の実態をほとんど知らない。そこで、本やインターネットで情報を収集し、母親に感じた「何か変」を、一つひとつ照会していくことにした。すると、母の症状は認知症とはなんだか違うようだった。記憶自体がすっぽり抜け落ちているわけでもなければ、散歩へ出かけて迷子になるようなこともない。調べていくうちに、『軽度認知障害(MCI)』という言葉を見つけた。MCIとは、もの忘れのような記憶障害は出るものの、症状はまだ軽い「認知症の一歩手前」の状態を指すそうだ。母はこれに当てはまるのでは?そんな気がしてきた。’12年時点で、日本の65歳以上の認知症推定人口は約462万人、MCIは約400万人といわれている。確かなのは、認知症であれ、MCIであれ、早めに専門医を受診したほうがいいということ。そしてMCIについては、適切な取り組みにより認知機能の維持が可能であるとのことだった。「早期受診が急務」ということはわかったけれど、母を病院へどのようにして連れていけばいいのか。その難問を解決すべく、認知症やMCIに関する電話相談などを行っている「認知症の人と家族の会東京都支部」へ向かい、代表の大野教子さん、副代表の松下より子さんにアドバイスをもらうことにした。「認知症には『自分が自分でなくなっていくのでは?』というネガティブな印象があるため、病院へ連れて行くのに苦労されているご家族からの相談は多いです」(大野さん)やはりこれは、多くの人が悩む問題のようだ。自らも介護経験があるお2人が教えてくれたのは、“今後の介護のキーパーソンになる人物が、無理やり病院に連れて行くのはNG”ということ。「『娘までもが私の敵か!』という意識になり、信頼関係がなくなってしまいます。将来的に介護の主役となる方は、最初の段階で病院へ行こうと強くすすめる立場でないほうがいいのかも。お父さんやごきょうだいがいれば連れて行ってもらうのも一つの手です」(大野さん)キーワードは“信頼関係”。たとえば、健康診断などと本人に嘘を言って連れて行くのも、信頼を損なう恐れがあるので気をつけたほうがいいとのこと。そして、配偶者の存在は特に重要だという。「夫婦は当然、相手を大事に思う気持ちが強いもの。元気なほうが『最近、調子がよくないんだが、一緒に病院に行かないか?』と誘って一緒に行くという成功例はよく聞きます」(松下さん)なるほど。「父を説得してみる」のはいいかもしれない。ともあれ、お2人に相談し、胸のうちを話したことで、何より心がすっきりした。こうした電話相談などのサービスを積極的に利用するのはいいことだと実感できた。そして、今月某日――。「お医者さんにMCIと言われたよ」と、母から連絡がきた。「家族の会」で話を聞いた後、父に相談したところ、父も母の変化に心当たりがあったそうだ。そこで、私が専門医を探し、父が母を誘って2人で受診することになった。その結果。母はMCIと診断された。当初、母は落ち込んでいた様子だったそうだが、私がすぐに帰省して「MCIは改善が期待できる」と説明し、「一緒に向き合っていこう」と話したことで、前向きな姿勢も見せてくれるようになった。今後についてだが、まずは通院での治療を継続することが重要なのは言うまでもない。そのうえで、担当医の説明や取材で得た情報を参考にして、取り組むべき課題を簡単にまとめてみた。【1】“地域の人とつながる”こと【2】“孤立を避ける”こと【3】“ワクワクさせる”こと1については、幸い実家のある地域は交流が盛んなので、父と協力しながら、さらに積極的に関係を深めていこうということになった。2については、父と2人暮らしではあるものの、仕事を辞め、家に1人でいることが多いので、定期的に東京に遊びに来てもらうことにした。3に関しては、そもそも母が何に興味を持っているのかを知らなかったので、それを知ることから始めようと思う。そうして母にいろいろ聞いてみると、東京で行ってみたいところがたくさんあるようだ。ならば、そこへ一緒に行けばいい。その打ち合わせをするにも連絡が必要なので、結果、これまでより電話をする回数が増えた。これからは母だけでなく、父も含めてワクワクしてもらえることを考え、提案していこうと思う。「もしかして認知症?」という疑問を感じたときは不安でいっぱいだったが、考えてみると“再び家族に戻る”いい機会をもらったということなのかもしれない。とにかく、「あのとき、ああすればよかった」と後悔しないように、自分にできる限りのことをする。気づけば、そんな覚悟ができていたのだった。
2019年02月27日読者世代にとって「認知症」「軽度認知障害(MCI)」に関することは、常に身近な関心事。しかし、これまで関心はあれど、切実に問題に向き合う必要がなかった人も多いはず。ここでは「ある日突然、親の異変に気づいてしまったら……」を、本誌・海野幸記者(仮名・48。広島県出身で現在は東京都在住)の体験をもとにレポート。「そのときどう対処すればいいのか?」について考えてみました――。「あれ?母が、何かおかしい」初めて私がそう感じたのは、昨年12月。74歳の誕生日を記念して、久しぶりに母親と温泉旅行に出かけたときのことだった。記憶にあるしっかり者の母と、目の前の母の様子にギャップを感じること数度。ふだん離れて暮らしているからこそ、感じ取ることができた変化だったかもしれない。74歳という年齢。「もしかして認知症?」と気になりだしたら不安が止まらなくなった。帰省のたびに「耳が遠くなったな。見た目が老けてきたな」と、加齢による変化は確認していたけれど、行動やふるまいに「おかしい」を実感することはあまりなかった。90歳で亡くなった祖母も、最後の数年は認知症だったが、母はまだ74歳。「まだまだ親は元気」と悠長に構えていたぶん、初めて頭をかすめた「認知症」の3文字に動揺するばかりだった。「さて、どうしよう……」そんな不安に直面した私がまずしたことは、認知症に関しての知識を得ることだった。祖母の介護は父と母がしていたし、そのとき私はすでに東京で暮らしていたので介護経験はなく、認知症の実態をほとんど知らない。そこで、本やインターネットで情報を収集し、母親に感じた「何か変」を、一つひとつ照会していくことにした。すると、母の症状は認知症とはなんだか違うようだった。記憶自体がすっぽり抜け落ちているわけでもなければ、散歩へ出かけて迷子になるようなこともない。調べていくうちに、『軽度認知障害(MCI)』という言葉を見つけた。MCIとは、もの忘れのような記憶障害は出るものの、症状はまだ軽い「認知症の一歩手前」の状態を指すそうだ。母はこれに当てはまるのでは?そんな気がしてきた。’12年時点で、日本の65歳以上の認知症推定人口は約462万人、MCIは約400万人といわれている。確かなのは、認知症であれ、MCIであれ、早めに専門医を受診したほうがいいということ。そしてMCIについては、適切な取り組みにより認知機能の維持が可能であるとのことだった。母は本当にMCIなのか?そもそも、認知症とは何なのか?次々に湧いてくる疑問を解消すべく、私は認知症予防・治療の第一人者である朝田隆先生のもとを訪れ、取材することにした。「認知症とは、脳神経細胞の劣化によって起こる症状です。あとは脳血管障害、糖尿病を放置していたなど、複合的な要因も関係してきます。65歳以上、5つ年を取るごとに認知症になる危険性は2倍に。90歳を超えたら、6~7割の人は認知症になるといわれています」加齢と認知症発症リスクは比例していて、年を取るほど発症率が高くなってしまう仕方ないことのよう。では、認知症やMCIを、患者本人やその家族が見分ける方法はあるのかと聞いてみた。すると、「まず、自分たちで見分けようと思わないほうがいいです。すぐに病院へ行くことをおすすめします」とのお答え。しかし、参考までに、私が不安を感じた母の行動を朝田先生にチェックしてもらうことに。【不安な行動・1】目がうつろで、気づけばボーッとしていることが多くなった「うつ病の可能性もあるかもしれません。過去に甲状腺の手術をしているのであれば、甲状腺による認知機能の低下という可能性も考えられます」【不安な行動・2】祖母の代が使っていたような古い方言ばかりで話すときがあった「初めて聞くケースですが、日本語と韓国語を話す韓国の方が、認知症が進行するにつれて日本語を忘れていったということはありました。新たに獲得した言語を忘れていくのはMCIのサインといえるかもしれません」【不安な行動・3】料理上手なのは変わらないが、使おうと思った具材をよく入れ忘れていた。「単なるもの忘れなのかMCIなのか、グレーゾーンですね。注意力の欠如というのは確かに認知症やMCIの症状ではありますが、だからといって見極める決定的要因とはなりません」【不安な行動・4】仕事を辞めた2年ほど前から、身なりや化粧に無頓着になっている「“面倒くさい”は、認知症の兆候ではあります。身なりに無頓着になってしまうのは、MCI寄りといえるかもしれません」【不安な行動・5】顔に蜂が止まっているのに、手で追い払おうとせず刺されてしまった「加齢による反射神経の鈍りかもしれません。しかし、もの忘れなど記憶に関することばかりが認知症やMCIの症状ではなく、反射神経・運動神経の衰えにも影響していきますので、MCIの可能性は否定できないですね」以上、朝田先生の回答をまとめると、母は「MCIの可能性は否定できない」ということ。改めて、病院で適切な診断を受けることの必要性を実感する結果となった。「認知症は進行速度が遅くなることはあっても健常に戻ることはありません。しかし、MCIは改善が期待できます。MCIと診断された方の26%は健常に戻るともいわれていますので、早期に対策を始めることをおすすめします」健常に戻る可能性があると知って喜んだのもつかの間、“MCIと診断された人の50%は4年で認知症に進行する”というデータもあると知り、身の引き締まる思いも。いずれにせよ、なるべく早く対策を始める必要があるのは間違いないようだ。
2019年02月27日読者世代にとって「認知症」「軽度認知障害(MCI)」に関することは、常に身近な関心事。しかし、これまで関心はあれど、切実に問題に向き合う必要がなかった人も多いはず。ここでは「ある日突然、親の異変に気づいてしまったら……」を、本誌・海野幸記者(仮名・48。広島県出身で現在は東京都在住)の体験をもとにレポート。「そのときどう対処すればいいのか?」について考えてみました――。「あれ?母が、何かおかしい」初めて私がそう感じたのは、昨年12月。74歳の誕生日を記念して、久しぶりに母親と温泉旅行に出かけたときのことだった。記憶にあるしっかり者の母と、目の前の母の様子にギャップを感じること数度。ふだん離れて暮らしているからこそ、感じ取ることができた変化だったかもしれない。74歳という年齢。「もしかして認知症?」と気になりだしたら不安が止まらなくなった。帰省のたびに「耳が遠くなったな。見た目が老けてきたな」と、加齢による変化は確認していたけれど、行動やふるまいに「おかしい」を実感することはあまりなかった。90歳で亡くなった祖母も、最後の数年は認知症だったが、母はまだ74歳。「まだまだ親は元気」と悠長に構えていたぶん、初めて頭をかすめた「認知症」の3文字に動揺するばかりだった。「さて、どうしよう……」そんな不安に直面した私がまずしたことは、認知症に関しての知識を得ることだった。祖母の介護は父と母がしていたし、そのとき私はすでに東京で暮らしていたので介護経験はなく、認知症の実態をほとんど知らない。そこで、本やインターネットで情報を収集し、母親に感じた「何か変」を、一つひとつ照会していくことにした。すると、母の症状は認知症とはなんだか違うようだった。記憶自体がすっぽり抜け落ちているわけでもなければ、散歩へ出かけて迷子になるようなこともない。調べていくうちに、『軽度認知障害(MCI)』という言葉を見つけた。MCIとは、もの忘れのような記憶障害は出るものの、症状はまだ軽い「認知症の一歩手前」の状態を指すそうだ。母はこれに当てはまるのでは?そんな気がしてきた。’12年時点で、日本の65歳以上の認知症推定人口は約462万人、MCIは約400万人といわれている。確かなのは、認知症であれ、MCIであれ、早めに専門医を受診したほうがいいということ。そしてMCIについては、適切な取り組みにより認知機能の維持が可能であるとのことだった。「これは一刻も早く母を病院へ連れて行かなくては!」と思ったものの、母が簡単に病院へ行ってくれるとは思えなかった。認知症にせよMCIにせよ、その事実を目の前に突き付けられるのは嫌だろう。そこで私は、インターネット上で探した“認知症チェックシート”を印刷し、それを持って、年明けに帰省することに。認知機能の低下を診断できるというこのテストで、少し様子を見ることにしたのだ。そして、帰省当日。さりげなく近所の高齢者の話をしつつ、認知症の話題へ持っていき、「簡単なテストをしてみない?」と聞いてみた。しかし残念ながら、「何でそんなことしないといけないの?面倒くさい」と、一蹴。作戦は失敗に終わった。そこで、今度は単刀直入に「そろそろ年だし、一度病院へ行って診てもらわない?」と言ってみると、「病院?何で病院へ行かなくちゃいけないの?」と、取り合うそぶりもみせず。病院へ行く気はないらしい。だが、そうこうしている間にもどんどん認知機能は低下しているかも……。そう思うと、不安は募る一方だ。母は父と2人暮らしだが、一人娘としては放っておくこともできない。しかし、仕事もあるので、たびたび帰省することも難しい。そこで親の異変に不安を感じたときの“駆け込み寺”の一つとしておすすめなのが、各自治体から委託され、各市区町村に設置されている「地域包括支援センター」。全国に5,041(平成29年度時点)あるこの施設は、介護をはじめ、高齢者について知りたいことがあったとき、最初の窓口となるところ。利用できるのは、対象地域に住んでいる65歳以上の高齢者もしくはその支援者。相談者の内容によって適切なサービスを紹介してくれる機関だが、そこから認知症に関する医療や介護の専門職である「認知症初期集中支援チーム」を紹介してくれることも。悩んだら、ぜひ自身の住む自治体のホームページを確認するなどして、利用してみよう。
2019年02月27日読者世代にとって「認知症」「軽度認知障害(MCI)」に関することは、常に身近な関心事。しかし、これまで関心はあれど、切実に問題に向き合う必要がなかった人も多いはず。ここでは「ある日突然、親の異変に気づいてしまったら……」を、本誌・海野幸記者(仮名・48。広島県出身で現在は東京都在住)の体験をもとにレポート。「そのときどう対処すればいいのか?」について考えてみました――。「あれ?母が、何かおかしい」初めて私がそう感じたのは、昨年12月。74歳の誕生日を記念して、久しぶりに母親と温泉旅行に出かけたときのことだった。記憶にあるしっかり者の母と、目の前の母の様子にギャップを感じること数度。ふだん離れて暮らしているからこそ、感じ取ることができた変化だったかもしれない。74歳という年齢。「もしかして認知症?」と気になりだしたら不安が止まらなくなった。帰省のたびに「耳が遠くなったな。見た目が老けてきたな」と、加齢による変化は確認していたけれど、行動やふるまいに「おかしい」を実感することはあまりなかった。90歳で亡くなった祖母も、最後の数年は認知症だったが、母はまだ74歳。「まだまだ親は元気」と悠長に構えていたぶん、初めて頭をかすめた「認知症」の3文字に動揺するばかりだった。「さて、どうしよう……」そんな不安に直面した私がまずしたことは、認知症に関しての知識を得ることだった。祖母の介護は父と母がしていたし、そのとき私はすでに東京で暮らしていたので介護経験はなく、認知症の実態をほとんど知らない。そこで、本やインターネットで情報を収集し、母親に感じた「何か変」を、一つひとつ照会していくことにした。すると、母の症状は認知症とはなんだか違うようだった。記憶自体がすっぽり抜け落ちているわけでもなければ、散歩へ出かけて迷子になるようなこともない。調べていくうちに、『軽度認知障害(MCI)』という言葉を見つけた。MCIとは、もの忘れのような記憶障害は出るものの、症状はまだ軽い「認知症の一歩手前」の状態を指すそうだ。母はこれに当てはまるのでは?そんな気がしてきた。「親が認知症?」と思ったら、あらためて自分の気持ちを整理するためにも、まずは “私が不安を感じた母の行動”を書き出してみることが大事だという。【不安な行動・1】目がうつろで、気づけばボーッとしていることが多くなった無表情でボーッとしていることは以前からあったが、旅行中はさらにひどくなった感じが。きれいな景色が目の前に広がっていても、見ているようで見ていない感じの表情をする。【不安な行動・2】祖母の代が使っていたような古い方言ばかりで話すときがあった私と話すときは気を使って標準語で話してくることが多いのに、旅行中は聞いたことのないような方言で話してくることが多々あった。途中から祖母と話しているような気分に。【不安な行動・3】料理上手なのは変わらないが、使おうと思った具材をよく入れ忘れていた。旅行中、キッチン付きの部屋に宿泊。買い込んできた食材を料理に入れ忘れること数度。最近、特に多くなったように感じる。薬の飲み忘れも目立つ。後で忘れたことに気がつく。【不安な行動・4】仕事を辞めた2年ほど前から、身なりや化粧に無頓着になっている旅行中は普段着のようなものしか持ってこず、常にノーメーク。仕事を辞めてから白髪染めも手抜きをするようになり、老け込んだ印象。指摘すると「面倒くさいから」の返事が。【不安な行動・5】顔に蜂が止まっているのに、手で追い払おうとせず刺されてしまった旅行中ではないけれど、山で果物の収穫作業中に顔を蜂に刺されてしまい、通院することに。聞くと顔に止まっているのには気づいていたが、「手で払う前に刺されてしまった」と。’12年時点で、日本の65歳以上の認知症推定人口は約462万人、MCIは約400万人といわれている。確かなのは、認知症であれ、MCIであれ、早めに専門医を受診したほうがいいということ。そしてMCIについては、適切な取り組みにより認知機能の維持が可能であるとのことだった。もし母が認知症もしくはMCIだったらどうすればいいだろう?仕事は?自分の生活は?母の「もしかして認知症?」疑惑は、親の老いを実感するとともに、私のこれからの人生を考えるきっかけにもなった。
2019年02月25日2020年度に大きく変わる「大学入試共通テスト」では、知識の詰め込みだけではなく、思考力や判断力が問われるようになります。このような力を養うためには、机の前での「The 勉強」では身につきません。実は、日常生活の中の新しい経験や楽しい体験こそ、思考力や判断力が自然と身につけられるチャンスなのです。そこで今回は、その具体的な方法をご紹介します。日常や非日常の体験の中でこそ記憶に残る!子どもの考える力は、無限の可能性を秘めていると言われています。しかし、小さな子どもの思考力を引き出すには、親の手助けが必要です。なかでも日常生活と勉強をリンクさせる方法が、もっとも有効なようです。意識的に、日常生活に学校で学んだことを応用させることで、学習内容をより定着させることもでき、さらに思考力や判断力、さらには応用力も養うことができるのです。そこで実践したいのが、買い物やスケジュール管理、お出かけの計画などの経験や体験。大人にとっては当たり前のことでも、子どもにとっては初体験のことばかり。初体験というのは、子どもにとってすべてが学びであり、その経験から大切なことをどんどん吸収していきます。子どもは自分の体験で得た知識はそう簡単には忘れません。理科・社会は私たちの生活と関わる教科なので、日常生活の中でも様々な体験ができますが、いつもと違う場所でいつもと違う体験をするほうがより記憶に残ります(引用元:日経DUAL|中学受験にも生きる!冬のおでかけ学習【社会編】)子ども主体で考え、判断させる実例集それでは、実際にどんな方法があるのか実例をご紹介します。子どもの年齢や、学校で習っている学習内容に合わせて、どんなことに挑戦できるかをご両親が判断してみてください。■決まった金額内で買い物をする足し算や引き算、掛け算などを学校で勉強し始めたら、子どもに買い物を頼んでみましょう。慣れるまでは一緒に買い物に出かけて、後ろから見守ってあげるのでもいいですね。500円や1000円など、あらかじめ予算を決めておいて、その予算を越えないように買い物をするよう伝えます。余ったお金でお菓子を買っていいよとご褒美をあげれば、足し算と引き算を使って、いくらのお菓子が買えるのかを一生懸命計算するでしょう。ほかにも、一緒に買い物へ行って会計をする時に、お釣りの小銭が少なくなるように考えさせると、思考力が身につきます。小さなお子さんであれば、100円を渡して駄菓子を自分で計算させながら買うのもいいですね。<この体験で身につく力>思考力判断力計算力■お出かけの目的地や交通手段を考える親子でのお出かけは、子どもにとって新しい経験がいっぱい。いつもは親が決めてしまう休日のお出かけ先を、たまには子どもに決めさせてみましょう。子ども主導で計画を立て、家族で出かけてみることもよい経験です。ガイドブックやインターネットを見ながら、目的地を決めましょう。そのときに、日帰りでも行ける場所なのかを地図で確認しながら決めるといいですね。地図を学習している時期であれば、学習内で勉強した地名などを絡ませて、行き先を決めるのもおすすめです。行き先を決めたら、そこまでの交通機関を一緒に考えてみましょう。地図上で目的地を見ながら、電車で行きやすい場所なのか、駅からは徒歩なのかバスなのか、車で行く方が便利なのか、ご両親がアドバイスしながら経路を考えてみます。このような経験を通じて、子どもは自ら考える力や、交通手段などを比較して決定する判断力を養うことができます。また、実際にその場所に行ってみると、計画通りにいかないことも出てくるでしょう。その時に、どうして上手くいかなかったのか、どうすれば上手くできるのかをもう一度考えてみると、そこで応用力も育まれます。そして、地図を見ながら目的地までも、ぜひ子ども主体で動いてみましょう。親にとっても新しい発見があり、親子で新鮮な体験になるはずです。<この体験で身につく力>思考力判断力応用力地図を読む力■お出かけ先でのスケジュール管理時計が読めるようになったら、日常的な声掛けで、「○時に家を出るけど、あと何分ぐらいある?」などと、クイズ感覚で問いかけてみることで日常生活と勉強を“リンク”!子どもの「判断力」「応用力」「計算力」を鍛えるよい方法ですね。そして、日常生活の中で時間の管理がある程度できるようになったら、お出かけ先でのスケジュールを子どもに組み立てさせてみてはいかがでしょうか。一日のスケジュール表を紙に書いて、「○時にここに着くには、何時に出ればいいかな?」「お昼には何分ぐらい時間を取ろうか?」など、最初はご両親と一緒にスケジュールを組み立ててみましょう。慣れてきたら、自分で考えさせてみて、ご両親が無理のないスケジュールになっているかを確認してみるのもいいかもしれません。そして実際に現地へ行ってみて、スケジュール通りに回れたのか、回れなければどこで時間がかかったか、時間が足りなかったのかなどを、一緒に話し合ってみるのもおすすめです。子どもはその体験をもとに、次回は時間の管理を工夫することができるでしょう。時間の配分を予測したり、改善したりすることができるようになると、日常生活や学校生活の時間の使い方も上手にできるようになるでしょう。<この体験で身につく力>思考力判断力時計を読む力時間の使い方臨機応変に動く力3つのアプローチを親が意識しておく!買い物やお出かけの計画などを、ただ経験させるのではなく、以下のようなことを親御さんが意識しておくのがより効果的なようです。【「考える」とは】「自分の言葉で語れること(What)」「疑問に思うこと(Why)」「手段や方法を思いつくこと(How)」のいずれかのことをしているときに、「考えている」という状態になると考えます。通常の教育では、「これは何?」「どこ?」「いつ?」「どっち?」が多く、このようなインプットばかりのアプローチでは、考えるという行為は起こりにくいのです。(引用元:東洋経済ONLINE|「考える力がない子」を変える3つの問いかけ)意識しておきたいのが、この3つのアプローチです。集団で行う学校での学習では、自分の言葉で伝えたり、じっくり時間をかけて手段や方法を考える機会が少ないのが現状。しかし日常での経験の中であれば、その機会は親御さん次第でたくさん与えることができるのです。〇自分の言葉で語れること(What)〇疑問に思うこと(Why)〇手段や方法を思いつくこと(How)買い物やお出かけなどをきっかけに、自分の言葉でどうしたいかを人に伝えられたり、そこで疑問に思うことを言葉にしたり、手段や方法を考えたりという経験をたくさんさせて、自然と考える力を身につけさせましょう。***知識をインプットするような机の上の勉強だけではなく、日常の中の経験と学習内容をリンクさせることで、自らの力で考え、判断する力が自然と身につきます。これが親子での楽しい体験であれば、子どもは「またやってみたい!」「もっと何かしてみたい!」という意欲にもつながります。たっぷり時間が取れる長期休みなどに、ぜひ親子で実践してみてくださいね。文/内田あり(参考)ベネッセ教育情報サイト|親子で過ごす時間が子供の学習能力を底上げする!日経DUAL|中学受験にも生きる!冬のおでかけ学習【社会編】東洋経済ONLINE|「考える力がない子」を変える3つの問いかけ
2019年01月15日認知症予防において、生活習慣の改善がとても大切であることは知られています。特に、食事、運動、睡眠は大きなポイントであり、多くの実験や成果が報告されています。今回は体と脳を一緒に動かす、認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」をご紹介してみたいと思います。■ 運動と頭を使う「コグニサイズ」とは?歳をとってくると、筋力低下や心肺機能の低下、関節の動きの低下などが起こります。運動によってこうした身体機能をある程度向上することができますが、運動にはもうひとつの効果として脳の活性化があります。プラナ / PIXTA(ピクスタ)認知症を対象としたデイサービスなどでは積極的に運動を取り入れ、身体と脳の活性を促そうという試みが日常的に見られます。こうした運動に熱心な施設で、最近よく取り入れているのが、運動+脳トレーニングを行う「コグニサイズ」という方法です。二つのことを同時に実施するほうが、脳への刺激がより強められ、活性化につながるという発想です。cognicise(コグニサイズ)とは、英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせた造語です。■ 計算や記憶にかかわる簡単なゲームがオススメ運動と一緒に行うものとして、計算や記憶に関する簡単なゲームがあります。あひる / PIXTA(ピクスタ)いわゆる脳トレーニングとして広く実施されていますが、これらを運動と同時に行うことでより効果が高まるといいます。コグニサイズの効果については数年前から国立長寿医療研究センターで実験が始まりました。2010年に軽度認知障害(MCI)のある方100人を対象にコグニサイズの調査をしていますが、調査の結果、約8割の参加者に記憶力の向上がみられました。■ 激しい運動より持続できる軽い運動を実験では、ウォーキングしながら簡単な引き算(例えば100から7を引いていくなど)をしたり、踏み台昇降をしながら数人でしりとりをする、といった計算や記憶に関わるエクササイズが行われました。千和 / PIXTA(ピクスタ)こうしたコグニサイズは一般の家庭でも手軽にできます。運動は激しい運動より、持続できる軽めの運動がオススメです。ただし、計算しながら歩くと集中しすぎて周囲が見えなくなることがあるので、公園など安全な場所で行うようにしてください。cba / PIXTA(ピクスタ)自宅であれば、庭を歩きながらパズルを解くなどの方法も可能だと思います。■ 自分にあったやりかたで楽しむことが大事!コグニサイズは自分なりにアレンジができるので、子どもと一緒にやったり、夫婦で散歩しながらやったり、あるいは独りで好きな時にやるなど、楽しみ方はさまざまです。つむぎ / PIXTA(ピクスタ)あまり難しく考えないで、楽しんで長く続けることが大切です。【参考】※国立長寿医療研究センター認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」
2018年12月03日これからの子どもたちに必要とされるのは、テストだけでは測ることができない力――「非認知能力」だとされています。もちろん、将来の夢を子どもが叶えるためには、いわゆる学力である「認知能力」も必要でしょう。ただ、子ども教育のプロフェッショナル育成に携わる増田修治先生は、「認知能力を育むためにも非認知能力が重要」だと語ります。まずは、現在の教育現場が直面する問題から語ってもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)日本の教育が抱える「見えない貧困」問題いま、日本の教育は「貧困」という大きな問題に直面しています。「世帯収入が高いほどその家庭の子どもの学力も高い」という調査結果は、ニュースなどを通して耳にしたことがある人も多いことでしょう。貧困にはふたつの種類があります。ひとつは「絶対的貧困」で、もうひとつが「相対的貧困」。絶対的貧困にあたるのは世帯年収が約60~70万円を下回る世帯。月収が5万円以下で、食べものや着るものにも困るほどです。一方の相対的貧困は、世帯年収が120万円ほどの世帯。この相対的貧困は「見えない貧困」ともいわれていて、わたしは大きな問題だととらえています。この世帯の子どもは、食べものは食べているし衣服に困るほどではない。つまり、見た目は普通なのです。でも、その世帯の子どもたちは、さまざまな機会を奪われている。どんな機会かといえば、サッカーをしたくてもサッカーシューズは買ってもらえないし、バレエを習いたくても月謝を払ってもらえない。当然、学習塾に行くこともできません。この相対的貧困にあたる世帯の割合が、いまの日本ではどんどん増加しているとされています。「子ども食堂」というものを聞いたことはありますよね。貧困世帯の子どもたちを集めて食事を与え、同時に勉強も見てあげるという社会活動です。そこに来る子どもたちは、やはり学力が低い傾向にある。貧困世帯の子どもは、先にお伝えしたように学習塾には通えません。となると、自分で勉強しなければならない。でも、学習教材など自分で勉強できる環境が整っているわけでもないわけです。となると、その子どもにとって勉強できる唯一の場所は学校です。ところが、子ども食堂に来る子どもたちのなんと約8割が学級崩壊を経験しているというではありませんか。学級崩壊したクラスでは、まともに授業を受けることができません。そういう子どもたちは、勉強する機会を完全に奪われているのです。逆に、学級崩壊によって勉強する場所がないから、子ども食堂に通っているとも言えます。非認知能力の育成に欠かせない、子どもの声に耳を傾ける姿勢では、貧困家庭に育つと学力を伸ばすことができないのかというと、そうではありません。貧困世帯の子どもにも、貧困ではない世帯の子どもと遜色ない学力を持つ子どもたちがいます。彼らの共通点はなにかというと、「非認知能力が高い」ことです。非認知能力には、「朝ごはんを毎日食べる」といった生活習慣、「毎日の勉強時間の目安を決めている」といった学習習慣、あるいは、つらいことや困ったことがあったときに学校の先生に相談できるなどのコミュニケーション能力といったものも含まれます。これらは、一般的には貧困ではない世帯の子どものほうがしっかりと身につけている傾向にあるのですが、貧困世帯に育ちながら学力が高い子どもも、こういった基本的な習慣、非認知能力を身につけているのです。これがなにを表しているかというと、「非認知能力が認知能力を発達させる」ということです。2000年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ジェームズ・ヘックマンらは、40年にわたる長期追跡調査の分析により、「非認知能力がその後の認知能力の発達を促し、その逆は確認できない」と結論づけました。非認知能力が高い子どもはテストの点数もあがるが、テストの点数がいいからといってその子どもの非認知能力が伸びるわけではないのです。となると、今後の乳幼児教育や小学校教育は大きく変わっていく必要があります。いつまでもテストで高得点を取ることだけが素晴らしいと評価する教育では駄目なのです。もちろん、これは学校などの教育現場だけの問題ではありません。家庭教育も、「非認知能力を伸ばす」ことを意識しておこなうべきでしょう。とはいえ、身構えるような必要はありません。大事なのは、「子どもの話をきちんと聞く」こと。教育に熱心な親ほど、子どもの言うことに耳を貸さず、「これが子どものためになるんだ」と勉強や習い事を押し付ける傾向にあります。それでは、まったくの逆効果。まずは、「なにかやりたいことある?」と子どもに聞いて一緒に考えること。そのなかで、互いに折り合いをつけていくべきでしょう。宿題ひとつ取っても、「●時になったから宿題をやりなさい」では駄目。「何時になったら宿題に取り掛かれる?」と子どもに聞いてください。そうして決めた時間は、親が決めたものではありませんよね?これはつまり、子どもに選択権を渡しているということ。そうすれば、親からすれば「あなたが決めたことでしょう?」と言えるし、子どもからすれば「自分で決めたのだからやらなくちゃ」と、自発性や意欲、責任感を養うことにもなる。多くの親は、その過程を省いてしまっているように感じます。そうではなくて、親と子どもそれぞれが納得する「一致点」をつくるコミュニケーションをたくさん取ってください。そういったことが、子どもの非認知能力を育んでいくのですから。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」(※近日公開)第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力(※近日公開)【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月02日こんにちは。ライターの和です。何年も前から話題になっている「女子力」というワード。筆者も「女子力」という言葉をテレビや会話で聞くたびに、「本当の女子力とは・・・?」と疑問に思っていました。今回はそんな誰しも一度は聞いたことがある、「女子力」について考えたいと思います。女子力を上げる方法が知りたい人も、そもそも「女子力」の実態が分からないと行動できませんから、じっくり読んでみてくださいね。■「女子力」は「見た目を磨くこと」だけじゃない「女子力」というと最初に思いつくのが、メイクやファッション、ダイエットなどの外見に力を注いで「かわいくなること」だと思います。もちろんこれも確かに女子力のひとつです。かわいくなると外に出たくなるし、実際に「モテる」というイメージはあります。でも見た目だけ努力することを「女子力」と呼ぶのかというと、それはちょっと違いますよね。■小手先の「女子力アピール」は、割とすぐバレる見た目がかわいくて良い香りがしたら、男性も「この子イイじゃん!」と飛びつきます。食事の席でおしぼりやお皿を配るのも、同じように「優しい!」と良い印象を与えますよね。でもそれも最初のうちだけなんです。話しているうちに「あれ?この子、性格悪いな」「自分じゃ何もできないじゃん」なんて思われてしまうと、彼らもすぐに離れて行ってしまう。しかもみんなが付き合いたいと思うような男性ほど「この子はハリボテだな」とすぐに察知するのです。なぜならモテる男性ほど、たくさんの女性を見てきているから。素敵な男性ほど、中身がしっかりしている。彼らは男女問わず、上辺だけの人には騙されないんですよね。つまりいくら外見を磨いたり、行動を見せつけたりしても、それは一時的なモテにしかなりません。でも私たちが望んでいるのって、一瞬だけ誰かにチヤホヤされることじゃないですよね?ひとりの男性に、長い間愛されたいと願っているんですよね?■女子力って結局のところ「人間力」なんです女子力の根本について考えてみると、結局のところ「人間力」にたどり着くのではないかと思います。つまり普通のことを普通にする。朝起きてご飯を食べて仕事へ行って、色んなことで悩んで、たまに楽しいことがあって。そういうごくごく日常的なことをすることに意味があると思います。逆にどんなにかわいくても、親のスネをかじって遊びまくっている人は、女子力が高いとは言わないと思うんです。話は戻りますがこういう普通のことをしていると、時には辛いことにも出くわします。そういう問題をひとつひとつ乗り越えたり、逆に「自分にできない」と判断する力を身に着けたりしていく。このように経験値が上がっていくと「これは違う」と思ったときに引き返せるようになるのです。そうすればダメ男と出会ったときも、たとえ好きでも「付き合わない」という判断ができますよね。わざわざ棘の道を進まなくて良いので、自分の心も穏やかになっていきます。そして「男子力」って言葉は聞かないけれど、いま書いたような「日常生活を送りながら学び、自分を成長させること」ができる男性って、やっぱりモテるんですよね。私たちがよく言う「誰か良い人いないかな~」「普通の人で良いんだけど!」に当てはまっている。だからやっぱり女子力だろうが男子力だろうが、結局のところ「人間力」につながっているんだと思うんです。■おわりにあくまで「かわいくなる女子力」がダメなわけではありません。でもたったひとりの人に長く愛される女子になりたいのであれば、こういった内面的な部分の「女子力」も並行して意識すると良いのではないでしょうか。(和/ライター)(ハウコレ編集部)
2018年12月01日テストで測ることができる力を「認知能力」、テストで測ることができない力を「非認知能力」と呼ぶことは見聞きしたことがあるかもしれません。でも、非認知能力が具体的にどういうものか、なかなか明確にイメージしにくいのも事実。それがどんなもので、なぜいま必要とされるのか――。教えてくれたのは、子ども教育のプロフェッショナルを養成している白梅学園大学の増田修治先生です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)非認知能力とは能動的な心情を自分のなかにつくり出せる力「非認知能力」がどういうものかを知ってもらうため、まずは次のクイズに挑戦してみてください。Q:次の野菜や果物は水に浮くか、沈むか。1.ピーマン2.キュウリ3.ナス4.バナナ5.リンゴ6.ニンジン7.ジャガイモこれは、わたしが4歳児に出したクイズです。水槽を用意して1から順に、実際に答えを確かめながら進めました。ピーマンは……水に浮きますよね。4歳児も多くが正解しました。ところが、次のキュウリは子どもたちの答えがけっこうわかれた。正解は次のナスも含めて浮く。大人であれば、料理中にこれらを洗うときに水に浮かぶ様子を見たことがある人も多いでしょう。それでは次のバナナとリンゴは?このふたつも浮くんですね。では、子どもたちはニンジンについてはどう答えたでしょうか。それは「浮く」でした。なぜそう思うのかと聞いたら「これまでの全部が浮くから」と。子どもたちはちゃんと考えているんです。これまでの正解を聞いて、「野菜や果物は水に浮く」と考えたわけです。でも、答えは「沈む」なんですよね(笑)。それでは、最後のジャガイモはどうでしょう?答えは……「沈む」です。「野菜や果物は水に浮く」という仮説は正しくありませんでした。でも、別の仮説が浮かんできませんか?そう、基本的に地下にあるものは水に沈んで、地上にあるものは浮くのです。そして、このクイズの後、子どもたちは家に帰ってお風呂にいろんな野菜や果物を浮かべてみた。これが、簡単に言えば非認知能力です。このクイズで、なにが浮く浮かないといった知識を教えようとしたわけではありません。子どもたちはクイズをとおして、自分の頭でうんと考えた。そして、「面白い」だとか「やってみよう」「調べてみよう」という気持ちになった。こういう能動的な心情を、自分のなかでつくり出せる力――それが非認知能力なのです。AIの発達が進むこれからに求められる非認知能力いま、この非認知能力が「子どもたちの人生を決める」とも言われています。というのも、時代が大きな曲がり角にきているからです。これからは人工知能、いわゆるAIが社会を大きく変えていきます。そして、そのAIをどういう方向で使っていくかを考えられる人間が必要とされる。AIの時代になるからこそ、これまでとちがった角度からものを見ることができる、あるいは新しいものや発想を生み出せる力が求められるのです。それこそ、テストでは測ることができない、非認知能力そのものでしょう。また、オックスフォード大学の研究によると、「AIの発達によって今後10年で現在の約47%の仕事が自動化する」との試算が出ています。たとえばですが、バーテンダーの仕事は77%の確率でなくなるとか。他にもスポーツの審判員やレジ係、データ入力係、集金人などもなくなる仕事だとされています。これは遠い未来の話ではありません。現在進行形ではじまっているものです。いま、「スマートガスメーター」の導入が全国で進んでいることをご存じですか?これは、ガスの使用量を無線通信回線で把握するというメーター。つまり、これまで検針員がやっていた仕事がなくなるということです。なくならない仕事は、教師や保育士など人間相手の仕事、それからデザイナーといった創造性が必要な仕事などに限られてきます。単純な仕事は基本的にどんどんなくなるので、これからは自ら仕事を生み出すような人間になっていかないとならない。それがいいかどうかはともかく、そうならざるを得ないのです。それこそ、他人とどう接するか、どういう新しい発想を持って創造性を発揮するかといったことは、なかなか点数にできるものではありません。それらはまさに、非認知能力だということです。重要性を増している幼少期における非認知能力を伸ばす教育ここで4歳の子どもを対象におこなわれた「マシュマロ・テスト」と呼ばれる実験をご紹介しましょう。その内容は、子どもにマシュマロをひとつ渡して「食べずに15分待てばもうひとつマシュマロをあげるよ」と告げるというもの。すると、2個目をもらえるまで我慢できる子どもと、我慢できずに食べてしまう子どもにわかれた。この実験でわかるのは、「自制心」が育っているかどうかということ。自制心も重要な非認知能力です。そして、実験はこれで終わりではありません。その後の追跡調査により、2個目をもらえるまで我慢できる自制心がある子どもは、少年期には学力が高くて誘惑に強い、青年期には教育水準が高くて肥満率が低い傾向にあることがわかりました。一方、我慢できずに1個目のマシュマロを食べてしまった子どもは、対照的に学力が低い、肥満率が高いといった結果が出たのです。【マシュマロ・テストの追跡調査結果】これは、4歳時点における自制心という非認知能力の有無が、その後の人生を大きく変えたということに他なりません。まだ幼い4歳でのちがいとなると、「非認知能力の優劣は遺伝的に決まっているのか」という疑問を持った人もいるでしょう。でも、そうではありません。「幼少期における教育」の重要性が高いということです。そして、今後は非認知能力を伸ばすための教育がより重要となるとわたしは考えています。このマシュマロ・テストで2個目をもらえるまで我慢できた子どもというのは、「先を見通して考える」ことができたということ。言い換えれば、ものと時間などの「つながり」が見えているということです。ところが、いまはそういった「つながり」がどんどん見えなくなっている、あらゆるものが「ブラックボックス化」している時代なのです。たとえば、自動車もそう。むかしの自動車はいまのものより構造がはるかに単純で、整備士にはなにがどうなって自動車が動くということがすべて見えていた。でも、数多くの複雑な電子部品が使われているいまの自動車だとそうはいきません。整備士にも理解できていない部分が多く、調子が悪い部分を基盤ごと取り替えるということになる。こういうことがあらゆるものにおいて起きているため、「つながり」というものが見えにくくなっているのです。読者のなかに、子どものころに時計やいろいろなものを分解してもとに戻すのが好きだったという人はいませんか?わたしがそうで、たいてい部品が余っちゃって捨てることになっていましたけどね……(笑)。ただ、それは子どもにとって大切なことなのです。非認知能力なんてものが知られていなかったむかしは、そういうふうに自然に「つながり」を知って非認知能力を伸ばす環境にありました。ところがいまはそうではない。だからこそ、意図的に非認知能力を伸ばすよう働きかけをしていく必要があるのです。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?(※近日公開)第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」(※近日公開)第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力(※近日公開)【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月01日診断されるとお金がおりる認知症保険。高齢になると子どもに迷惑をかけたくないと加入を考える人も多いようだ。そんな認知症保険に加入する際の注意点を、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれた――。病気やけがで認知症の方が入院した際、45%もの方が体を拘束されたことがある。そんな調査結果が今月18日、発表されました(国立がん研究センター)。ショッキングですが、人ごとではありません。認知症は、’12年には65歳以上の7人に1人でしたが、’25年には5人に1人になるといわれています(’17年・内閣府)。そんななか、「認知症保険」が注目されています。業界初の認知症保険は、太陽生命が’16年に販売を開始。今年10月までに、約40万件の契約があったといいます。最近は種類も増えました。それぞれの特徴を見ていきましょう。まず、太陽生命の「ひまわり認知症予防保険」です。以前の保険は、認知症状態が180日続いた後、保険金が出るものでした。ですが「それでは遅い」という声を受けて、認知症と診断されたときに最大100万円と、180日後に最大200万円の保険金が出るようになりました。また、加入から1年たって認知症になっていない方には、3万円の「予防給付金」が出ます。予防給付金はその後、2年おきに支給され、これを使って認知症検査を受けることを推奨しています。次は、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険の「リンククロス笑顔をまもる認知症保険」です。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と診断されると保険金の一部が出て、その後、認知症に進むと、残りの保険金がおります。MCIの段階で保険金が出るのは、今のところこれだけです。さらに、朝日生命の「あんしん介護」には、公的介護保険で要支援2と認定されると、一時金が出るタイプがあります。認知症でも体に不自由のない方は、要介護判定が低くなりがちです。要支援2という軽い段階で保険金が出るものは、業界初です。確かに認知症は介護も大変ですし、不安が大きいでしょう。ですが、保険はお金の問題。支払う保険料と、どんなときに保険金が出るかをきちんと納得してから、加入しましょう。注意点は3つです。【1】すべての認知症に、保険金が出るわけではない認知症のなかで、保険金を出す認知症を保険会社が指定しています。対象外の認知症になった方は、保険金が出ません。また、保険会社によって対象はさまざまです。【2】加入当初に、保険金が減額される「削減期間」がある認知症になっても、加入から1年以内だと保険金は半額、加入から180日間は出ないなど、保険会社ごとに削減期間が決まっています。【3】保険料は高め太陽生命の「ひまわり認知症予防保険」に60歳女性が加入すると、認知症の診断で100万円、180日後に200万円、入院日額5,000円や、骨折や入院時の一時金などもついて、保険料は月々1万8,660円。認知症以外なら持病があっても入りやすいのですが、保険料は高めです。子どもに迷惑をかけたくないからと加入される方が多いようです。でもその前に、家族でよく話し合ってみてください。
2018年11月30日ふだん、あまり気に留めない“嗅ぐ力”。知らず知らずのうちに衰えている可能性がある。この嗅覚こそ、病気と密接な関係にあり、きたえることで病気を予防できることも証明済み。鈍った鼻にはカツを入れよう!「認知症研究の第一人者である浦上克哉先生(鳥取大学教授)は、アルツハイマー型認知症の予兆として嗅覚低下の症状を挙げています」こう話すのは、入浴剤メーカーで調香師歴17年の荘司博行さん。3年前に脳動脈瘤が見つかり緊急手術したことをきっかけに、自分の専門である「嗅ぐ力」を人の健康に役立てようと決意したという。その結晶として『最新論文等から香りのプロが考案!嗅ぎトレ』(KADOKAWA)を出版し、話題になっている。嗅覚低下は、アルツハイマー型認知症の予兆として挙げられる症状だという。しかし、それは逆の視点から見ることもできると荘司さん。「認知症専門医の長谷川嘉哉先生は『においを嗅ぐことは脳に刺激を与え、認知症を予防する効果があると考えられる』と著書の中で紹介しています」(荘司さん・以下同)なんと、嗅ぐ力をアップさせることは認知症予防につながるのだ。では、どうしたら嗅ぐ力をきたえることができるのだろうか?「とにかく、日常生活で意識してにおいを嗅ぐことです」そこで荘司さんが考案したのが、次の「嗅ぎトレ」だ。【ステップ1】鼻クン嗅ぎトレ「ふだんの生活で、人は意外とにおいを嗅ごうとしていないもの。嗅ぎトレの第一歩として、室内、バッグ、本、石けん、衣服……手当たり次第になんでも犬のようにクンクンとにおいを嗅いでみましょう。嗅ぐ前に「今からにおいを嗅ぐよ」と唱えると、脳の意識が高まり効果的。実際にいろいろ嗅いでみると、今まで意識せずにいたモノに意外なにおいがあることに気づくはず。日常生活でにおいを嗅ぎまくるだけで、嗅ぐ力はぐっと高まります」【ステップ2】見てクン嗅ぎトレ「次は、食事の場面で、食べる前にお箸に取ったものを目で確認し、クンクン嗅いでみて。ふだんはテレビを見ながらなど、無意識に食べ物を口に入れている人も多いはず。目で確認してにおいを嗅ぐことで、脳に食材とにおいを直結させることができます。このとき、そのにおいが『何かに似ているか』を考えると、より効果的。いきなりはじめると周囲に奇異に映るので『嗅ぎトレをしている』と宣言してからすることをおすすめします」【ステップ3】チェンジ嗅ぎトレ「モノのにおいを嗅ぐことが習慣化したら、ふだん使っているモノのにおいを定期的に変えて、新しい刺激を鼻に与えてみましょう。鼻は同じにおいをずっと嗅いでいると慣れてしまい、においがわからなくなってしまうもの。そこで、化粧品、入浴剤、石けん、歯みがき粉、シャンプーなど、自分の生活で定番になっている『香りのあるモノ』を定期的に変えてみることも大事なトレーニング。鼻にときどき刺激を与え、リフレッシュさせてください」「ステップ1」で嗅ぐことを習慣づけ。「ステップ2」で視覚と嗅覚を一体化して脳により強くにおいを意識づける。そして「ステップ3」で、においに変化をつけることで鈍りがちな嗅覚に刺激を与える。この3つで、劇的にあなたの嗅ぐ力は向上するはず。「最後に、オレンジ、レモンなどのかんきつ系のにおいに、認知症を改善する効果があることが専門医の実証実験で報告されています。かんきつ類は、むいたときに皮のにおいを『見てクン嗅ぎトレ』してから食べることもおすすめです」ぜひあなたも鼻をクンクン利かせて、認知症を予防しよう。
2018年11月21日話題のスポットに本誌記者が“おでかけ”し、その魅力を紹介するこの企画。今回は、’16年に『Mr.サンデー』で放送され大反響だった、認知症の母を追ったドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』の完全版が映画化ということで、高齢の両親を持つ記者は、少しドキドキしながら身に行ってきました。■映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』ポレポレ東中野にて上映中。順次全国公開テレビディレクター信友さんは45歳のとき乳がんが見つかり、明るい母親に支えられていたが、今度は母親が認知症に……。社交的で多才だった母親が変わっていくさまが描かれ、時に涙し、時には笑い、そして感動します。駄々をこねたり、突然怒ったりと困惑させられるのですが、母親の笑顔は少女のように無邪気でかわいい。そんな母を支える95歳の父。耳が遠いながらも初めての家事に挑戦したり、一生懸命奥様をサポートする姿に「夫婦ってこうあるべき」と感心させられます。信友監督も「認知症の介護はつらいことばかりじゃない、ということもわかってもらいたい」と語っているとおり、思わず「認知症になってよかった?」と思ってしまうほど、夫婦の感動的な姿も。誰もが直面する可能性がある高齢社会と認知症。でも、この映画を見たら、「両親が認知症になっても、どうにか対処できるのかも」とも思わせてくれます。高齢の家族がいる人にはぜひ、見てもらいたい作品です。
2018年11月12日認知症は日常生活に大きな影響を及ぼし、時には寝たきりの原因にもなります。自分自身や身近な人が認知症になってから慌てる前に、早いうちから認知症の予防を心がけましょう。難しいことをしたり大金をかけたりしなくても、日々の生活習慣に注意するだけで認知症を防ぐのに役立ちます。認知症は予防可能な病気認知症は誰でも発症しうる病気ですが、認知症の多くは一度発症すると完治できないと言われています。そのため、近年まで認知症を防ぐことはできないと思われていました。しかし最近の研究によって、生活習慣への配慮によって認知症発症のリスクを下げられることが明らかになりました。認知症予防に役立つ要素として、バランスの取れた食事・適度な運動・質の良い睡眠・生活習慣病のコントロールなどの健康的な生活習慣が多く挙げられます。このほか、高等教育を受けたり知的活動を行ったりすることも認知症予防に役立つと考えられています。認知症の前段階「軽度認知障害(MCI)」認知症患者の多くは、認知症の前に「軽度認知障害(MCI)」を発症します。MCIはいわば正常と認知症の中間であり、記憶力・注意力などが低下しているがおおむね普通の日常生活ができる状態を指します。現在、日本にはMCIに該当する人が約400万人いるとみられています。国立長寿医療研究センターによると、MCIと診断された人を4年追跡調査した結果46%は正常に戻り、14%が認知症に進んだことがわかりました。このことから、MCIの段階で対策を立てれば認知症の発症を防げる、または遅らせることができる可能性が高いことがわかります。自分自身や身近な人の様子がおかしいと思ったら、早めに専門機関に相談しましょう。 認知症の種類と原因三大認知症と言われるアルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・血管性認知症は、国内における認知症の8~9割を占めています。アルツハイマー型認知症日本人の認知症の約6~7割は、アルツハイマー型認知症と言われています。アルツハイマー型認知症は脳内に発生した異常なタンパク質などが神経細胞の働きを妨げることで発症し、進行すると神経細胞が破壊されて脳が萎縮します。アルツハイマー型認知症は軽いもの忘れなどから始まり、ゆるやかに進行します。病状が進むと新しいことを記憶できなくなり、日付・曜日や今いる場所などもわからなくなります。早い段階で認知症に気づいて適切な薬物治療などを受ければ、進行を抑えることができます。レビー小体型認知症認知症の約5%を占めるレビー小体型認知症は、脳内にレビー小体(異常なタンパク質)ができて脳の神経細胞が破壊されて起こります。このタイプの認知症では、幻視(存在しないはずのものが見える)・錯視(見えているものを全く違うものとして認識する)・睡眠中の大きな寝言や激しい動作・パーキンソン症状(動作が遅くなる・筋肉がこわばる・転びやすくなるなど)などが特徴的です。レビー小体型認知症の治療は、薬で症状を抑える対症療法がメインになります。血管性認知症脳梗塞や脳出血などの後遺症として起こる血管性認知症は、認知症の2割程度を占めています。脳の血管が破れたり詰まったりすると周辺の神経細胞がダメージを受け、認知症状が現れます。血管障害の部位によって症状が大きく異なり、記憶障害のほかに言語障害や歩行障害などが起こることもあります。脳血管障害を繰り返すと、血管性認知症も階段状に悪化していきます。言い換えれば、脳血管障害の原因となる高血圧・糖尿病・動脈硬化の予防や治療によって血管性認知症の進行を抑えることができます。その他三大認知症を除く認知症の中には、正常圧水頭症(脳室にたまった脳脊髄液が脳を圧迫する病気)、慢性硬膜下血腫(外傷などで頭蓋骨と脳の間に血腫ができて脳を圧迫する病気)、脳腫瘍などが原因で起こるものもあります。これらの認知症は、原因となる病気を治せば症状が消えることもあります。 認知症を防ぐ3つの方法認知症を防ぐ第一歩は、毎日の食事・生活習慣・活動に気を配ることです。最初から無理をすると挫折しやすいので、できることから少しずつ実行していきましょう。必要に応じて、医師などの専門家に相談しましょう。1.認知症を防ぐ食事毎日の食事は、わたしたちの身体をつくる大切なものです。栄養バランスや食事の摂り方に配慮して、認知症のリスクを下げましょう。食材について魚と野菜を多く摂る和食や地中海食が近年注目されていますが、これらの食事は認知症予防にも良いとされています。青魚青魚に多く含まれるDHAは脳の神経伝達を助け、脳の活性化に役立ちます。同じく青魚に含まれるEPAは血管を拡げて血流を良くし、生活習慣病のリスクを下げます。赤ワイン赤ワインに含まれる抗酸化物質の一種・ポリフェノールを十分摂ると、認知症や生活習慣病を防ぐ効果が期待できます。葉物野菜、果物ほうれん草や小松菜、いちごなどには葉酸が豊富に含まれています。葉酸を豊富に摂ることで、動脈硬化の原因となるホモシステイン(悪玉アミノ酸)の増加を抑えるのに役立ちます。緑黄色野菜、ナッツ類抗酸化物質であるビタミンA・C・Eやポリフェノール類が豊富なものが少なくありません。抗酸化物質は、動脈硬化のリスクを下げるのに役立ちます。炭水化物メインの食事や糖分の多い食品炭水化物や糖分を摂りすぎると、糖尿病の原因となります。糖尿病になると、脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症のリスクも上がります。炭水化物・糖分とともに食物繊維の多い野菜・海藻・きのこ類などをしっかり摂ると、血糖値の上昇を抑えることができます。ショートニング、マーガリン、動物性脂肪(魚以外)ショートニング、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸や魚以外の動物性脂肪を摂りすぎると、血中のLDL(悪玉コレステロール)が増えやすくなり動脈硬化のリスクが上がります。塩分を多用するメニュー塩分過剰な食事は高血圧の原因にもなり得ます。高血圧をどを防ぐため、味付けや調理法を工夫して減塩を心がけましょう。食べ方について身体に良いからと同じものばかり食べると、栄養バランスが崩れて逆に不健康になってしまいます。朝は卵料理を食べたから昼食は魚がメインというふうに、いろいろな食材を摂りましょう。食事のたびによく噛むことで、脳を刺激できます。たとえ高齢でも、必要以上にやわらかいものばかり食べていると脳への刺激が減ってしまいます。むやみに食事制限をしてしまうと、脳への刺激だけでなく食事の楽しみも減ってしまいます。様々な食材をまんべんなくとることが重要です。 2.認知症を防ぐ生活習慣認知症を防ぐには、運動・睡眠をしっかり摂って健康維持につとめることも大切です。運動ただ歩くだけでも、脳から身体の各部に「右手を前に出す」「左足で地面を蹴る」といった複雑な司令が送られています。つまり、体を動かすことで自然に脳を刺激できます。さらに運動で全身の血流が良くなれば、脳の血流もおのずと良くなるでしょう。睡眠習慣慢性的に睡眠時間が足りない人や睡眠の質が良くない人は、認知症のリスクが高まることがわかっています。熟睡できない状態が続くと、アルツハイマー型認知症の原因となる異常なタンパク質が脳にたまりやすくなるためです。睡眠の質を上げるためには、まず起床後に日光を浴び朝食をしっかり摂るよう心がけましょう。これらの行動によってすっきり目覚めやすくなり、昼間に脳をしっかり覚醒させることで夜に眠気を感じやすくなります。また、睡眠を妨げる病気(睡眠時無呼吸症候群など)がある人は早めに治療しましょう。生活習慣病予防上でも触れましたが、糖尿病・高血圧・心疾患などの生活習慣病になると血液や血管に異常が出やすくなり認知症のリスクも上がります。日頃の食事や運動習慣に注意しつつ定期的に健康診断を受けて、生活習慣病を防ぎましょう。すでに生活習慣病になっている人は、しっかり治療して進行を食い止めましょう。歯周病予防歯周病などによって多くの歯を失うとしっかり噛めなくなり、脳への刺激が減ってしまいます。また、歯周病菌が原因で動脈硬化のリスクが上がることもわかっています。毎日の正しいブラッシングや定期的な歯科検診で、歯の健康を守りましょう。すでに歯を失ってしまった場合は、入れ歯やインプラントを使えばまた噛めるようになるでしょう。 3.認知症を防ぐ活動日々の活動や趣味を工夫して、脳にほどよい刺激を与え続けましょう。多くの人と交流するなるべく家に引きこもらず、社会活動や趣味などのコミュニティに参加して多くの人と交流しましょう。地域のホームページや情報誌などで、中高年向けのボランティア活動やカルチャースクールなどの情報が見つかることも多いですよ。脳を鍛える知的活動や指先を細かく使う作業をするとき、脳は複雑に活動します。以下のような趣味を持つことで、手軽に脳トレーニングができます。・文章の読み書き(新聞を読む、俳句・短歌を作るなど)・博物館や美術館に行く・頭を使うゲーム(将棋、囲碁など)・新聞・雑誌に載っているパズルやクイズ(クロスワードパズル、数独など)・指先を使う趣味(裁縫、編み物、陶芸など) 認知症予防で大切なことまだ若いからと油断せず早いうちから生活習慣に注意すれば、将来認知症になるリスクを1/3ほど下げることができます。また認知症になる前のMCIの段階で症状に気づいて対策すれば、治る可能性は十分にあります。認知症を防ぐため毎日の食生活と生活習慣に注意するのはもちろん、人との交流や知的活動にも積極的に取り組みましょう。趣味を多く持つことで人生がより豊かになり、認知症のリスクを下げて健康寿命を延ばすのに役立つでしょう。 【参考】医療法人 東内科医院「認知症について」医療法人泯江堂 油山病院「軽度認知障害(MCI)について」厚生労働省認知症の基礎~正しい理解のために~「認知症施策の現状について」政府広報オンライン「もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン」富山市「認知症ガイドブック」8020推進財団「歯周病対策で健康力アップからだの健康は歯と歯ぐきから」一般社団法人認知症予防協会「認知症を予防しよう」公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「認知症の予防」「認知症予防のための食事とは」「地中海食の特徴」
2018年10月24日《認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の女性は、男性よりも認知症になりやすい――》今年7月、東京大学の研究チームがアメリカの科学誌に発表した論文が反響を呼んでいる。「MCIとは、正常な状態と認知症の中間にあり、物忘れが主な症状です。日常生活には支障がないのですが、たとえば銀行のATMで暗証番号を忘れてお金が引き出せないことがときどきあったり、同じ物を何個も買ってしまったりと、生活するうえで細かい失敗が出てくる状態を指します。認知症に進行しやすいので注意が必要ですが、現在の医療では、あまり有効な手段がないのが現状です」そう解説するのは、研究チームの1人で、東京大学医学部附属病院・神経内科講師で医師の岩田淳先生。厚生労働省によると、約3,000万人いる65歳以上の高齢者のうち、15%の462万人が認知症を患い、13%の約400万人がMCIの状態だという(’12年度調査)。人生100年時代を迎えたが、日常生活を支障なく送ることができる“健康寿命”を延ばすためには、認知症を発症させない、発症しても進行させないことが求められる。「MCIの背景にはさまざまな疾患があり、アルツハイマー病が潜んでいると進行は早くなります。高血圧や糖尿病など生活習慣病を患っていると認知症になりやすいということも過去の研究で明らかになっていますが、その進行の過程は未解明な部分があり、また日本人のデータもなかったので、2~3年間かけてデータを採ってきました」(岩田医師)研究では全国の38医療機関で診察を受けMCIと診断された男女234人(平均72歳)に1年に1度、認知機能テストや脳の画像検査を続けて3年間追跡調査を行った。その結果、3年以内に認知症へ移行した人は、男性が40%だったのに対し、女性は60%だった。「認知機能の悪化が早い女性には、ほんのわずかな腎機能の低下がみられました。同じ方法で実施されたアメリカの研究では、認知機能の悪化に男女差はありませんでした。なぜ、日本人では男女差が生じたのか。その理由として、日本の女性は男性よりも体が小さいため血管が細く、生活習慣病などによって引き起こされる動脈硬化が起こりやすいためではないかと推測しました」(岩田医師)脳内の血管がダメージを受けると、動脈硬化が起こり、神経細胞が壊され、認知機能の悪化を招きやすくなるという。見過ごされがちだが、全身の血管のうち、健康を維持するためにとても大切なのは約9割を占める毛細血管。全身の隅々まで酸素や栄養、熱を送り、老廃物を流す役割があるからだ。「毛細血管は放っておくと加齢とともに徐々に消滅してしまい、無機能化(ゴースト化)が進みます。血管が細い日本人女性が特に気をつけなければならないのが、この“血管のゴースト化”です」こう語るのは、『血管の強化書-破れない!詰まらない!澄み切った血液は万病を治す』(ワニブックス)の著者で、金沢医科大学総合内科学准教授の赤澤純代先生。女性ホルモンの一種、エストロゲンには血管の保護作用があるため、エストロゲンが減少すると血管にダメージを受けやすくなる。40代以降は、特に注意が必要だという。
2018年10月18日厚生労働省によると、約3,000万人いる65歳以上の高齢者のうち、15%の462万人が認知症を患い、13%の約400万人が認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の状態だという(’12年度調査)。人生100年時代を迎えたが、日常生活を支障なく送ることができる“健康寿命”を延ばすためには、認知症を発症させない、発症しても進行させないことが求められる。《認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の女性は、男性よりも認知症になりやすい――》今年7月、東京大学の研究チームがアメリカの科学誌に発表した論文が反響を呼んでいる。「MCIとは、正常な状態と認知症の中間にあり、物忘れが主な症状です。日常生活には支障がないのですが、たとえば銀行のATMで暗証番号を忘れてお金が引き出せないことがときどきあったり、同じ物を何個も買ってしまったりと、生活するうえで細かい失敗が出てくる状態を指します。認知症に進行しやすいので注意が必要ですが、現在の医療では、あまり有効な手段がないのが現状です」そう解説するのは、研究チームの1人で、東京大学医学部附属病院・神経内科講師で医師の岩田淳先生。研究では全国の38医療機関で診察を受けMCIと診断された男女234人(平均72歳)に1年に1度、認知機能テストや脳の画像検査を続けて3年間追跡調査を行った。その結果、3年以内に認知症へ移行した人は、男性が40%だったのに対し、女性は60%だった。「認知機能の悪化が早い女性には、ほんのわずかな腎機能の低下がみられました。同じ方法で実施されたアメリカの研究では、認知機能の悪化に男女差はありませんでした。なぜ、日本人では男女差が生じたのか。その理由として、日本の女性は男性よりも体が小さいため血管が細く、生活習慣病などによって引き起こされる動脈硬化が起こりやすいためではないかと推測しました」(岩田医師)脳内の血管がダメージを受けると、動脈硬化が起こり、神経細胞が壊され、認知機能の悪化を招きやすくなるという。見過ごされがちだが、全身の血管のうち、健康を維持するためにとても大切なのは約9割を占める毛細血管。全身の隅々まで酸素や栄養、熱を送り、老廃物を流す役割があるからだ。「毛細血管は放っておくと加齢とともに徐々に消滅してしまい、無機能化(ゴースト化)が進みます。血管が細い日本人女性が特に気をつけなければならないのが、この“血管のゴースト化”です」こう語るのは、『血管の強化書-破れない!詰まらない!澄み切った血液は万病を治す』(ワニブックス)の著者で、金沢医科大学総合内科学准教授の赤澤純代先生。女性ホルモンの一種、エストロゲンには血管の保護作用があるため、エストロゲンが減少すると血管にダメージを受けやすくなる。40代以降は、特に注意が必要だという。「加齢のほかにも、喫煙、運動不足、ストレスなどの習慣が血管に負荷を与えてしまいます。そして、血管の老化を加速度的に進行させてしまうのは、塩分や糖分をとりすぎる悪い食習慣です」(赤澤先生・以下同)次の生活習慣を確認してみよう。当てはまる項目があれば血管のゴースト化が懸念される。丈夫な血管を保つためにも、すぐに改めよう。【喫煙】喫煙は血管を収縮させ、血液の粘度が高まりドロドロになる。さらに、動脈硬化が進みやすくなる。【過度のアルコール摂取】お酒を飲むと一時的に血圧が下がり脈拍を速めるが、長時間飲み続けると血圧が上がり高血圧症の原因に。【塩分&糖質過多の食事】血管力を高めるのは薄味の食事。外食や加工食品を減らし、野菜やタンパク質を意識的に取るようにしたい。【肥満体形】コレステロール値が高い状態が続くと動脈硬化が進み、血管が狭くなる。標準体重を維持しよう。【運動不足】少し息が上がるくらいのスピードで1日30分歩く習慣をつけたい。ハードな運動は関節を痛めることがあるので注意。赤澤先生によれば、マッサージで血管の循環を促すことで、血管は鍛えることができるという。赤澤先生が推奨するのは次の2つのマッサージだ。【血流を促す「ふくらはぎマッサージ」】1)マッサージオイルを使い、ふくらはぎを両手で包み込むように、アキレス腱から膝裏のリンパ節までやさしくさすりあげる。2)膝の裏は、少し力を入れて特に念入りにマッサージする。3)親指でツボを押しながら、鼠径部までマッサージ。反対の脚も同様に。血海(膝の内側から指3本分上)、足三里(膝下の外側)、三陰交(くるぶしの内側から指3本分上)の、3つのツボを意識する。【リンパの流れをアップさせる「首・鎖骨のプッシュ」】1)あごの先から耳の下に向かって手でさすり、後頭部に向かって頭蓋骨のすぐ下を押す。さらに鎖骨に向かって首をさする。左右5回。2)肩の骨の付け根あたりから、鎖骨の上側の骨に近い部分を指で押す。左右5回。「必ず行ってほしいのがふくらはぎのマッサージです。ふくらはぎは“第二の心臓”といわれるほど、血流に大きな影響を与える大事な部分です。静脈には一方向に流れる弁があり、末梢の血液を戻す流れを作るには、ポンプの役割を果たす筋肉が必要です。ふくらはぎが硬くなっていたら微小循環が悪いことが考えられます。心臓に戻す方向でさすり、少し太い静脈に血液を戻しましょう」さわってみて冷たく感じたり、硬かったり、むくんでいたりしたら血行が悪く冷えているサインだという。また、相手と楽しみながら行う「足指じゃんけん」も、末梢血管の血流を促進させる効果があるそうだ。「首・鎖骨のプッシュ」はリンパの流れをよくするマッサージ。鎖骨の周辺には老廃物を運んでくる静脈がめぐり、リンパ管もたくさん張りめぐらされている。このあたりをほぐして血流をよくすることで、肩こりや頭痛も改善できて、一石二鳥だそう。手軽にできることから始めて、血管のゴースト化を防ぎ、健康寿命を延ばしていこう!
2018年10月18日在宅介護では暴言や暴力が絶えないともいわれています。このいわゆる虐待は大きな問題でもあります。認知症の人に接するうえで最も大切なことは何か。このような悲劇を招かないために、一度立ち止まって考えてみる必要がありそうです。■ 最も暴力に発展しやすいのは子が親を介護するケース!?平成27年度、家族や親族による虐待数は15,976件でした。これは前年と比べて237件増えています。sakai / PIXTA(ピクスタ)介護者と要介護者の関係を大きく分けると、子が親を介護、妻が夫を介護、夫が妻を介護、妻が姑を介護、という4つのケースがあります。この中で最も感情を乱しやすいのは、子が親を介護するケースです。また認知症の人は感情のコントロールがうまくできないため、何かと怒ったり頑固になったりします。しかも言うことを聞かないうえ、暴言や暴力までふるうこともあります。その結果、介護者がストレスを抱え、今度は介護者による虐待が始まることも少なくありません。■ 虐待で最も多い!息子が親に対して行う暴力平成27年度の虐待事例15,976件のうち、息子が全体の40.3パーセント(7,099件)を占めています。Ushico / PIXTA(ピクスタ)以下、夫の21.0パーセント(3,703件)、娘の16.5パーセント(2,906件)の順に続いています。では、なぜ息子の暴力が多いのか。それは、もともと力の差があるうえ、身内という遠慮のない関係が災いし、暴力をふるいやすいのではないかと思われます。■ 在宅介護で虐待が起こる最大理由はストレス!息子や娘は、自分を育ててくれた親をいつまでも気丈で尊大な人と思いたいものです。しかし、幼児のようにわがままや身勝手な振る舞いをする親に、我慢できなくなり、つい手を挙げてしまうのではないでしょうか。厚生労働省の調査によると、在宅介護で虐待が起こる最大の理由は「介護疲れ・介護ストレス」とのこと。shimi / PIXTA(ピクスタ)徘徊や異常行動を起こす親に振り回されると、疲れ、ストレスが溜まり、やがて冷静に対処することができず、大声で怒鳴ったり、手が出たりします。■ 病に対する理解不足は悲劇を生む根源同じ質問を一日に何十回もされると、多くの人は冷静さを失うでしょう。でも、それが認知症なのです。言ったこと、聞いたことをすぐに忘れる病が認知症なのに、性格が悪いとか頭がおかしいとか、本気で思ってしまう人もいます。shimi / PIXTA(ピクスタ)認知症で最も悲しいことは、こうした誤解による関係性の崩壊です。では、どうすればいいのでしょうか?最大の防止策は、認知症を理解することです。多くの介護者が認知症を理解しないまま介護をしていると考えられます。介護方法は知っていても、病気についての理解がないため基本的な接し方ができない人が多いのです。これは悲劇の根源でもあります。認知症の人は病人である前に人なのです。汚い言葉には汚い言葉で返します。優しい言葉には優しい言葉で返します。■ 認知症を理解し受け入れる寛容さが大切認知症は治らない病気、認知症になったら家庭は崩壊する、などの言葉が独り歩きし、誤解を信じ込んでいる人はたくさんいます。認知症を理解することは相手を理解することであり、それによって憎まない・怒らないにつながります。しげぱぱ / PIXTA(ピクスタ)病を憎んで人を憎まず。難しいことかもしれませんが、病気を理解し真正面から受け入れる寛容さが私たちには必要なのだと思います。【参考】※イリーゼ高齢者虐待を防止するには?介護現場の実態と今後の解決策※厚生労働省医療経済研究機構「家庭内における高齢者虐待に関する調査」概要※厚生労働省平成27年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果
2018年09月18日少しずつ認知症の症状が現れるアルツハイマー型認知症とは異なり、脳梗塞、脳出血などの脳血管が原因で認知症になる人は少なくありません。しかも、脳梗塞は40代、50代でも発症します。とはいっても、脳梗塞は生活改善などで防ごうと思えば防げる病気です。ここでは脳梗塞で認知症を発症した人の介護について、一例を紹介します。参考になれば幸いです。■ ある日突然、父が倒れて自宅で介護することに…同居している義理の父親(78歳)が脳梗塞で倒れ、退院したら自宅での介護を考えているという主婦A(48歳)さん。KY / PIXTA(ピクスタ)Aさんのご主人は営業部で出張も多いため、主介護者となるのは必然的に自分だろうと感じていました。Aさんは事務職で比較的休暇が取りやすく、仮に会社を辞めてもご主人の収入でなんとかなるとも考えました。当初、Aさんは自宅で介護(在宅介護)するか、介護施設に入所させるかで悩んでいました。しかし、父の意識はしっかりしているため、施設入所はやはり気が引けました。■ 離職せず介護休業を利用して介護に専念Aさんは結局、自宅で介護という方法を選択しました。そして、現在の仕事について、次の4つの選択肢を考えました。勤務時間を短くして早く帰宅し、介護できるようにする地元のスーパーなどでのパートに切り替える自宅でできる仕事をする仕事をしないで介護に専念するAさんが選択したのは1でしたが、上司に相談すると、しばらく介護休業をとればいいとアドバイスされました。ふじよ / PIXTA(ピクスタ)介護休業は雇用保険から介護休業給付金が支給され、1回の介護休業期間は最長3か月です(介護休暇は最長5日間)。言われるまま介護休業をとり、父の介護に専念することにしました。■ 自宅でリハビリと介護に追われる日々に3か月ほど入院して自宅に帰ってきた父は、左半身麻痺と言語障害がありましたが、自分でご飯を食べたり、トイレに行くことはできます。KY / PIXTA(ピクスタ)リハビリ通院によって父親も機能回復を目指して頑張っていました。あまり回復はしないものの、現状を維持しながらそれなりに自立した生活が続きました。Aさんの介護は食事づくりと食事介助、歩行訓練の手助けや見守り、薬の管理、トイレ介助などです。歩行中に倒れると自分では起き上がれないうえ、下手をすると命の危険性もあります。自宅であっても目が離せないのです。しげぱぱ / PIXTA(ピクスタ)■ 「デイケア」に通い介護者も負担が軽減Aさんは父親に、より質の高いリハビリを受けさせようと考え、デイケアを利用することにしました。Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)要介護3の父は毎日楽しくデイケアに通うようになり、Aさんの負担も一気に軽減されます。そして、仕事にも復帰しました。仕事の時間を短縮して、デイケアから帰ってくる父親を迎え入れることにしたのです。ところが、事態は急変しました。昼間大人しくしていた父が夜中に起きて動き回るという異常な行動をするようになります。昼夜逆転現象の始まりでした。Aさんの疲労はこれまで以上となり、睡眠不足の日が続きます。Ushico / PIXTA(ピクスタ)■ 認知症の19%にも及ぶ!脳梗塞が原因で認知症に発展するケースも多い脳梗塞や脳出血などによって発症する認知症のことを「脳血管性認知症」と呼び、認知症全体の19%にも及んでいます。主な症状としては、何に対しても意欲や自発性がなくなるとともに、感情の起伏が激しくなり、些細なことで怒ったり落ち込んだりします。NOV / PIXTA(ピクスタ)ただ、判断力や記憶力は比較的保たれています。また、手足に麻痺や感覚の障害、言語障害などの症状が現れることもあります。日中に活動する意欲が少ないため、不眠や昼夜逆転につながり、その対応に振り回される家族も睡眠不足や大きなストレスを抱えてしまいます。■ 「介護施設」に入所して落ち着きを取り戻した父その後、Aさんの父は「脳血管性認知症」を発症してしまいます。夜中に窓を割って出て行こうとしたり、家の中を歩き回るようになりました。Aさんは毎晩のように繰り返す父の対応に追われ、ついに疲労で倒れ入院してしまいます。それを見かねたAさんのご主人は、父親をグループホーム(認知症の人を対象とした介護施設)に入所させることにしました。IYO / PIXTA(ピクスタ)施設では父親に応じた介護プランが作られ、介護士が日々のケアを行います。異常行動を繰り返していた父もよやく落ち着きを取り戻し、面会に訪れるAさんとも笑顔で会話できるようになりました。Aさんの父親の場合、最初からデイサービスか施設か、という選択ではなく、自然の流れで最終的に施設に入所したケースです。自宅で介護する人が増えていますが、介護の負担が大きいか小さいかによって、最初から施設入所という選択もあり得るでしょう。脳血管性認知症の人が必ずしもこのような流れを辿るわけではありません。あくまでも参考として、一つの流れを知っておくと良いでしょう。【参考】※厚生労働省Q&A~介護休業給付~※認知症ねっと認知症とは?原因・症状・対処法から予防まで
2018年09月14日風邪やインフルエンザは、それぞれの体験を通してどんな病気かわかります。ところが認知症は頭で理解していても、本当のところは発症した人しかわからない病です。そんなよくわからない病について、実際に発症した方の意見を紹介してみたいと思います。■ すべてのことが不明確でぼやっとした感じ認知症医療の第一人者で精神科医の長谷川和夫氏は昨年、自身が認知症を発症していると明かしました。長谷川氏は1974年に認知症診断の物差しとなる「長谷川式簡易知能評価スケール」を公表し、今日まで多くの医療現場で使われています。氏の場合は、それほどひどい症状でなく、正常な状態と認知症とを行ったり来たりするという比較的軽度な認知症です。そんな氏が語ったのは、認知症って実はこういうことだった、という自分なりの体験でした。氏が痛切に感じているのは、確かさが欠如するということでした。freeangle / PIXTA(ピクスタ)今がいつなのか、今どこにいるのか、目の前の人が誰なのか――。そうしたすべてのことが不明確ではっきりしないということです。■ 不明確なことは何度も確かめたくなる病気のようで病気でないような、単なる物忘れと思われがちな初期の認知症のころは、同じ行為を何度も繰り返すことがあります。たとえば家を出て行くとき、ドアに鍵をかけたかどうかが不安になり、途中で引き返して確かめる。あんみつ姫 / PIXTA(ピクスタ)あるいは、昔の同級生や先生の名前がわからなくなり名簿を調べたり、学校に電話することも。cozy / PIXTA(ピクスタ)わからないままだと不安が募り、それが原因でパニックになることもあります。■ はっきりしないことが大きな不安と恐怖になる認知症の人は、よく「怖い、怖い」と口にします。何が怖いかと聞くと「よくわからない」と答えます。B612 / PIXTA(ピクスタ)おそらく何事もはっきりしないというのは、とても恐いことだと思われます。もし自分が急に知らない町で目覚めたとします。しかも、そこに至った経緯さえもわからない。え、ここはどこ?最初は不思議に思うでしょうが、やがて怖くなる。それが常に起きている状態が、認知症ではないでしょうか。■ 笑顔とやさしい声がけで安心感を与える長谷川氏は週に一回、デイサービスに通うようになり、そこでの体験はとても心地良いとも語っています。自分には馴染みのない職員でも、彼女らは自分のことをよく知っていてくれ、とても安心感があると言います。ボーッとしていると、長谷川さんどうしたの、何か困ったことでもあるの?と声がかかる。それがとても嬉しいと感じているそうです。kou / PIXTA(ピクスタ)こうした声がけはどこのデイサービスでも行うものですが、こんな一言だけで安心して過ごせるそうです。■ やさしく接すれば相手もやさしくなれる不安に苛まれる人が多い認知症ですが、誰かが常にそばにいて声をかけてあげるだけで安心できるのです。時には手を取って、笑顔とやさしい言葉で話しかけてあげましょう。kou / PIXTA(ピクスタ)多くの認知症の人はこちらの対応次第で笑ったり、怒ったりします。言葉もそうですが、相手の顔の表情をよく見ています。やさしい言葉でも顔がこわばっていれば、不安になってしまいます。それはあたかも人と接することの基本的な行動であり、心のクスリのようなものなのかもしれません。常にやさしい気持ちで接することができるといいですね。【参考】※認知症ねっと長谷川式認知症スケール
2018年09月07日現在、認知症高齢者数は500万人とも600万人ともいわれています。また、認知症の年齢層は50~40歳代にも下がってきており、若いからといって決して安心はできません。介護をテーマに、誰にでも起こりうるさまざまな問題についてご紹介していきます。■ 65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症!内閣府によると、平成24(2012)年の認知症高齢者数は462万人で、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症といわれています。しげぱぱ / PIXTA(ピクスタ)2025年には約5人に1人になるとも予測しています。参考までに平成25年にガンと診断された人は約86万人でした。この数字が示すのは、認知症は誰でもなりうる病気だということです。そしてそれと同じ数だけ介護する人(介護者)もいるということです。amadank / PIXTA(ピクスタ)■ 若年性の発症年齢は平均51歳!認知症は老人だけじゃない最近は64歳以下の「若年性認知症」の人も増えているようです。平成21年(2009)の若年性認知症者の方は約3万8000人もいるのです女性よりも男性がなりやすく、若年性の発症年齢は平均51歳といわれています。50代で認知症やアルツハイマーと診断されたらショックは大きいでしょう。しかし、それを引き延ばすと、取り返しのつかないことになります。若いために進行するスピードも速く、重病化する可能性が高まります。家族のことを思うなら、早めに病院で診察して、少なくとも進行を食い止める手立てを打つべきです。mits / PIXTA(ピクスタ)高齢者に比べて若年性認知症は本人に理解力があり、治療法を選択できるという判断力があります。■ 認知症の初期症状を単なる物忘れだと思い、放置してしまう人がほとんど!認知症の初期症状を単なる物忘れだと思い、放置してしまう人が大半です。そうして数年が経過し、ある日突然、家に帰ることができなくなったり、会社に行けなくなるなどの症状に見舞われることがあります。それまでも認知症の信号を多く出していたにもかかわらず、知識がないために見落としてしまうことが多いようです。それ以前に様子がおかしいと気づいたら、診察を受けることが重要です。Ideya / PIXTA(ピクスタ)ガンと同じように早期発見で改善したケースは多々あります。初期の軽度な認知症は自立した生活も可能ですので、その段階で進行を止めることができれば、仕事も家事も続けられる可能性はあるのです。■ 若年性認知症は多くの人を巻き込む可能性が大!一般の病気は病院に行くなど自分ひとりでも対応できます。しかし認知症の場合、親、配偶者、兄弟、子ども、さらには親戚をも巻き込んでしまうことがよくあります。80代の親を介護するのと、50代の夫や妻を介護するのとでは大きく異なります。70~80代に発症することが多い認知症ですので、それに応じた介護サービスが整っています。例えば日中はデイサービス(通所型の介護施設)、それ以外は自宅で過ごすことで介護者の負担は軽減できます。amadank / PIXTA(ピクスタ)ところが、40~50代で発症すると、仕事や育児に影響が出てしまいます。ふじよ / PIXTA(ピクスタ)子育てをしながら、夫の介護をするという難しい問題に直面することもあります。■ 認知症かもしれないと思ったら、すぐに病院に!いざ介護が必要になり、すべて自分ひとりで親や夫の面倒を看ようと頑張る方がいます。ひとりで24時間つきっきりの介護は共倒れになりやすく、最悪の場合、自殺や介護放棄といった事態になることもあります。現在は介護制度が整っており、さまざまなサービスを利用して介護の負担を軽くする方法が増えています。できれば、まず病院で診察して、その際に介護保険や介護サービスについて相談すると良いでしょう。CORA / PIXTA(ピクスタ)気軽に相談できるのは地域包括支援センターです。市区町村が運営しており、役所で聞いてみるのが手っ取り早いでしょう。ISO8000 / PIXTA(ピクスタ)介護のことならどんな些細な相談にものってくれますので、一度訪ねてみてください。問題なのは、知識がまったくないまま認知症や介護に直面することです。介護は誰にでも起こる問題と考え、今から少しずつ知識を吸収しておくことが大切です。【参考】※内閣府統計高齢化の状況認知症高齢者数の推計※厚生労働省若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について※認知症介護情報ネットワーク若年性認知症について※国立がん研究センターがん情報サービス最新がん統計
2018年08月11日今月6日、大手医薬品メーカーのエーザイは、認知症新薬の効果が確認されたと発表した。すると、株価は急騰。認知症に対する関心の高さを物語っている。確かに、親が認知症になるのを、心配しない人はいないだろう。そうなると介護はもちろん、経済的な問題も。そこで、経済ジャーナリストの荻原博子さんが対策を解説してくれた——。皆さんがよく困るのは、親名義の銀行口座が多くの場合、凍結状態になることです。キャッシュカードなら出金できますが、窓口での出金は、たとえ実の子でもできません。出金や解約には「成年後見人」の指示が必要だからです。成年後見人とは、認知症などで判断能力が十分でない方の財産管理を援助する人で、家庭裁判所が選任します。現在、約21万人がこの制度を利用していますが、きっかけは、先述のような預貯金の管理や解約のためが最多なのです(’18年・厚生労働省・以下同)。ただ、あわてて家庭裁判所に申し込んでも、成年後見人が決まるまで数カ月かかります。また、親が元気なうちなら、自分で自由に後見人を選べる「任意後見制度」が利用できます。ですが、認知症発症後は親族が後見人になりたくても、親族間のもめごとがあったり候補者が遠くに住んでいるなどの理由で、家裁が弁護士などを選ぶことが多いのです。現在、成年後見人の73.8%は親族以外の弁護士などが占め、報酬の目安は月2万円です。ところが成年後見人による横領等の不正は、後を絶ちません。昨年の被害額は約14億円にも上ります。こうした事態を避けるためには、早めの対策が肝心。金融機関を利用するのも一手です。そのひとつ、西武信用金庫(東京都)の「家族預金信託(ファミリー安心信託)」をご紹介しましょう。一般に、財産を信託すると、自由に使うことや処分などができません。家族預金信託は、高齢者本人が判断できるうちは自分で自由に使えて、認知症になったら、ほがらか信託(東京都)が財産を預かり管理するのが特徴です。契約時に、認知症発症後のお金の使い方を指定すれば、生活費など一定額を定期的に受け取ることができます。また、妻や子などから、財産管理の指示者を決めておきます。そうすると、老人介護施設の入所金などまとまったお金も、指示者の判断で出金できます。本人が振り込め詐欺などにあっても、指示者の了承がなければ送金できません。利用できるのは、西武信金に預金口座を持つ人で、預金額などの条件はありません。しかし、信託手数料が、信託開始時に数十万円、定期出金などの利用方法によって毎月数千円かかります。これは信託手数料としては標準的ですが、注意が必要です。財産信託の申し込みは、通常、金融機関の店頭か自宅で行います。興味のある方は、親が住む地域の金融機関などを探してください。もうすぐお盆です。帰省の際に、親の財産管理について、家族で話してみてはいかがでしょうか。
2018年07月27日ナイキ(NIKE)から、サッカーをテーマにキム・ジョーンズ(KIim Jones)とコラボレーションしたコレクション「NIKE X KIM JONES “FOOTBALL REIMAGINED”」が、2018年6月7日(木)に発売される。ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)のメンズ部門を経て、2018年3月にディオール オム(DIOR HOMME)のアーティスティック・ディレクターに就任したキム・ジョーンズ。今回のナイキとのコラボレーションでは、サッカーの試合のフィールドではなく、過去にマルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)によるブティック「セックス」が店舗を構えるなど、パンクの聖地としてロンドンのキングスロードが栄えた時代に思いを馳せたコレクションを制作した。自分で服を切り、仕立て直して新しいものを作るという、パンク全盛期のDIY精神に着想を受けたというデザインを象徴するのは、ジョーンズが好きな3足のスニーカーを組み合わせた一足。サッカー用のスパイクである「マーキュアル」をベースに、「フットスケープ」「ヴァンダル」「エア マックス 97」の要素を取り入れた、ハイブリッドなスニーカーとなっている。また、スポーティーなTシャツやショーツ、ジャージなど、モダンでクリーンな印象なウェア類も、異素材の切り返しを始めとするディテールで、キム・ジョーンズ流のパンクを表現。アバンギャルドな服作りにスポーツの要素を融合させたコレクションとなっている。【詳細】「NIKE X KIM JONES “FOOTBALL REIMAGINED”」発売日:2018年6月7日(木)取扱店舗:ナイキラボ MA5、ナイキラボ公式オンラインストア、ドーバー ストリート マーケット ギンザほか【問い合わせ先】NIKE カスタマーサービスTEL:0120-6453-77
2018年06月07日Suchmos(サチモス)が、「2018 NHKサッカーテーマ」を担当。新曲「ボルテージ(VOLT-AGE)」がテーマ曲として起用される。これまで、NHKサッカー中継テーマ音楽は、2010年にSuperfly「タマシイレボリューション」、11~12年にRADWIMPS「君と羊と青」、13年にサカナクション「Aoi」、14~16年に椎名林檎「NIPPON」、17年にONE OK ROCK「We are」が起用されてきた。 「ボルテージ」は、6月に開幕する2018 FIFAワールドカップ ロシア大会をはじめ、Jリーグや天皇杯などの国内大会、日本代表の試合やヨーロッパを中心とした海外サッカーなど、サッカー中継や関連番組のテーマ音楽として使用されるという。この決定を受けて、ボーカルのYONCE(ヨンス)は、「世界中の視線を集めるピッチはどんな景色だろう。11人とサポーターで燃え上がるボルテージといかしたアイデアがあれば、感動的なシーンがきっと生まれる。心揺らすチャンスメイクを期待しています。」とコメントしている。2018 NHKサッカーテーマ起用を受けて、6月19日(火)にNHKホールで行われる「NHK フットボールフェスティバル」への出演が決定。Suchmosや前園真聖、徳田耕太郎などが参加するイベントでは、パブリックビューイングも行われる予定だ。イベント内で、Suchmosはパフォーマンスを披露。日本対コロンビア戦の中継番組内で放送される予定で、Suchmosにとって初めての地上波での歌唱となる。なお、Suchmosは2018年2月にホンダのCMでもおなじみの「808」をリリース。2018年5月11日(金)以降、自主企画ライブツアー「Suchmos The Blow Your Mind TOUR」も控えている。
2018年04月21日「好不調の波はありますが、母の認知症は少しずつよくなってきています」 こう語るのは、ブログ「婚活しながら両親介護」の筆者で、認知症の母親(74)の介護をしている映像ディレクター・黒澤うにさん(38)。 黒澤さんの母親に異変が現れたのは’15年10月ごろ。病院でアルツハイマーの薬を処方してもらうが、副作用がひどく中断。なすすべもないまま、昨秋には食卓の用意や買い物も難しくなり、手に持っていたものを忘れることも。連日、母親は泣きながら黒澤さんに電話を入れるようになった。 仕事に支障が出るようになったことで、黒澤さんはアメリカで医師をしている友人に相談。すると、認知症の世界的権威であるデール・ブレデセン医師の著書を薦められたという。 同書は全米で20万部を突破。日本でも2月に翻訳本『アルツハイマー病真実と終焉』(ソシム)が出版され、わずか2週間で2万5,000部というベストセラーになっている。 「さっそく本に書かれていた『リコード法』を、やれることから取り組みました。まず、野菜と天然の魚が中心の食事にし、できるだけ炭水化物を減らしました。また、ココナツオイルをコーヒーやサラダなどにかけ、夕食から朝食まで12時間は絶食。積極的に歩く習慣を11月下旬から始めたんです」(黒澤さん) 気がつくと、母からのSOSの電話も減り、食事も1人で作れるように。買い物でパニックになることもなくなったという。 「今や、4人に1人が認知症になる時代。うち6割がアルツハイマー型認知症です。今までは進行を抑えることはできても回復ができないということが、患者や家族を脅かしていました。しかし、ついにブレデセン医師がアルツハイマー型認知症発症の原因を突き止めたのです。世界で初めて、症状が回復することを、この本で明言しています」 こう語るのは、同書の日本語版の監修を務めた白澤卓二先生だ。 「これまでアルツハイマー型認知症は、アミロイドβという異常なタンパク質が脳にたまることで神経細胞が死に、記憶をつかさどる海馬から脳の萎縮が始まることで発症すると考えられてきました。しかし、ブレデセン医師の研究により、アミロイドβはむしろ脳を守る物質ということが判明したのです。ただし、このアミロイドβが過剰に蓄積されることで暴走し、守るべき脳細胞を破壊するということがわかりました」(白澤先生) そしてアミロイドβが過剰に蓄積される原因が、次の“NG生活習慣”。1つでも当てはまれば、アルツハイマー型認知症になる可能性大! □炭水化物や甘いものが好き□胃酸を抑える薬をよく飲む□夕食時間が遅い、または夕食後に間食をする□定期的な運動習慣がない□睡眠時間が7時間未満□家にカビが生えている 炭水化物や甘いものを食べると、糖分などが血糖値を上げることで、脳の炎症を誘導する。 そして胃酸を抑える薬には亜鉛やマグネシウム、ビタミンB12など、認知機能にとって重要な栄養素の吸収を阻害する働きがあるという。 また、不規則な食習慣は糖尿病の発症を促すが、この糖尿病こそがアルツハイマー型認知症の最大の原因の1つ。さらに、カビや金属などの有害物質の摂取も、アルツハイマー型認知症のリスクを高めるという。 このような生活習慣により、脳のなかで増えすぎたアミロイドβを取り除くために考案されたのが「リコード法」だ。昨年12月の時点で500人以上の患者が実践し、効果が認められているという。そこで、白澤先生に教えてもらった今すぐ実践できる「リコード法」を紹介。 【1】炭水化物を極力減らす【2】1日45mlのMCTオイル、または15ml×3のココナツオイルを取る【3】夕食から朝食まで12時間以上絶食する【4】睡眠は1日7〜8時間【5】1週間で150分以上の運動をする 「肝臓が脂肪を分解してケトン体と呼ばれる物質を生み出すプロセスのことを“ケトーシス”と言います。そして、軽いケトーシス状態を維持することが認知機能を高めるのに最適の状態だとわかったのです。ケトーシス状態にするためには、低炭水化物食、適度な運動、1日に12時間以上の絶食、中鎖脂肪酸100%のMCTオイルなどの摂取が効果的で、これがリコード法のベースです」(白澤先生) できることから、さっそくトライしてみよう!
2018年03月19日