東京大学(東大)は12月9日、溶媒として水を用いてあえて“溶けない”状態を作り出すことにより、触媒的不斉合成が円滑かつ高立体選択的に進行することを発見したと発表した。同成果は、同大学大学院 理学系研究科 小林修 教授らの研究グループによるもので、12月8日付けの米科学誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版に掲載された。同研究グループは今回、水に溶けないキラル銅触媒を開発し、同触媒と脂溶性の基質を水中で攪拌することで、高い選択性を得る触媒的不斉合成を成功させた。従来、化学反応は、反応基質や触媒を溶解して行うのが常識とされており、多くの有機化学反応においては、反応基質を溶かすために有機溶媒が用いられてきたが、今回の研究では、溶媒として水ではなく有機溶媒を用いると反応は全く進行せず、アルコール中では反応が若干進行したものの立体選択性は発現しなかった。また溶媒を用いない条件でも反応の進行は見られなかった。また、水-テトラヒドロフラン混合溶媒系を用いて水の量がどのように反応に影響するかを調べたところ、溶けている反応では立体選択性がほとんど発現していないのに対し、触媒や基質の不溶性が高まるにつれて鏡像異性体過剰率の増加傾向が確認された。この触媒系はすでに報告されている触媒と比べて基質の適用範囲が広く、またグラムスケールでも問題なく進行する。反応後は遠心分離操作のみで生成物の単離と触媒の回収を達成することができ、触媒の再使用も可能であるという。同大学によると、なぜこのような現象が起こるかについては不明であり、今後は詳細な反応機構の解明が必要であるとしている。
2015年12月09日東京大学(東大)、国際電気通信基礎技術研究所、および北海道大学は12月9日、人間の脳における短期と長期の運動記憶を画像で捉えることに成功したと発表した。同成果は、Northwestern University Feinberg School of Medicine スムシン・キム 研究員、北海道大学大学院文学研究科 小川健二 准教授、University of Southern California Marshall School of Business ジンチ・レヴ 准教授、University of Southern California Division of Biokinesiology and Physical Therapy ニコラ・シュバイゴファー 准教授、東京大学大学院人文社会系研究科 今水寛 教授らの研究グループによるもので、12月9日付けのオンライン科学誌「PLOS Biology」に掲載された。試験前の一夜漬けのように、早く覚えたことはすぐ忘れてしまうが、自転車の乗り方のように時間をかけて練習したことはずっと覚えているといったように、短期と長期の運動記憶が脳内に存在することは、これまで理論的に示されていた。しかし、脳のどのような場所が短期と長期の運動記憶に関係しているのかはこれまで明らかになっていなかった。今回の研究では、21名の実験参加者がfMRI装置の中でジョイスティックを操作するという課題を実施。この行動データを、段階的にさまざまな時間スケールの記憶を備えた数理モデルを利用して解析した。また、モデルから得られたさまざまな記憶の時間変化と同じような変化をしていた脳の場所はどこにあるかを、回帰分析という統計手法を用いて調べた。この結果、数秒で学習して数秒で忘れる非常に短期的な記憶には、前頭前野や頭頂葉の広い場所が関係していること、数分から数十分で学習して忘れる中期的な記憶は、頭頂葉の中でも限られた部分が関係していること、1時間以上かけて学習し、ゆっくり忘れる長期的な記憶は小脳が関係することなどが明らかになった。今回開発された方法は、脳の内部状態を推定してどれくらい長期に残る記憶なのかを予測することができるため、脳の状態をモニターしながら、練習効果が長く残る効率的なトレーニングやリハビリを行うことが期待されるという。
2015年12月09日東京大学(東大)は12月7日、アルマ望遠鏡のデータベースを用いて、非常に希薄な分子ガスの存在を示す「分子吸収線系」を新たに発見し、銀河系の星間ガスの化学組成やおかれている環境を明らかにしたと発表した。同成果は、同大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 修士課程1年 安藤亮 氏、河野孝太郎 教授、国立天文台チリ観測所 永井洋 特任准教授らの研究グループによるもので、12月7日付けの日本科学誌「日本天文学会欧文研究報告(Publication of the Astronomical Society of Japan)」オンライン版に掲載された。宇宙空間に存在する星間ガスの中には、非常に希薄なためそれ自身が発する光を直接観測するのは困難なものがある。こうした希薄な分子ガスの性質を探るうえでは、遠方の明るい電波源を背景光として、手前側の分子ガスによる吸収線を影絵のように捉える「分子吸収線系」という手法が有効であることが知られている。同研究グループは、チリ共和国のアンデス山中に建設された巨大電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」での観測時において目標天体の“位置合わせ”に用いられる基準光源のデータを調査することで、新たな分子吸収線系の発見を試みた。今回、アルマ望遠鏡が観測した基準光源36天体のデータを調査した結果、3つの新たな分子吸収線系の発見に成功し、計4天体の方向で多様な分子の吸収線を検出。さらに2天体の方向では、非常に珍しいというホルミルラジカル(HCO)を検出し、従来知られていた中で最も希薄な星間分子ガスを捉えたとともに、その希薄なガスが大質量星などからの紫外線にさらされた環境にあることを明らかにした。アルマ望遠鏡のデータベースには、1000天体以上におよぶ基準光源のデータが収められており、全世界に公開されている。この中には新たな分子吸収線系が隠されている可能性があり、今後これらのデータの調査が進むことで、新たな分子吸収線系が発見され、それ自身光らない希薄な星間ガスに関する知見がさらに広がることが期待される。
2015年12月07日東京大学(東大)は11月9日、グラファイトを添加したアクリル系ポリマーを用いることで、高い感度と速い応答速度を両立したプリント可能なフレキシブル温度センサーの開発に成功したと発表した。同成果は、東大大学院工学系研究科電気系工学専攻 横田知之 特任助教、染谷隆夫 教授らの研究グループによるもので、11月9日付の米科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)」オンライン版に掲載された。グラファイトなどの導電性物質を添加したポリマー中で、温度の上昇に伴って電気抵抗が増加する材料は「ポリマーPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)」と呼ばれ、温度センサーや加熱防止のための保護素子への応用が期待されている。しかしこれまで、ポリマーPTCを使って人の体温付近における感度0.1℃以下の優れた温度応答性や、繰り返し温度を上げ下げすることに対する高い再現性を実現することは困難だったという。また、くにゃくにゃと曲げられる機械的な耐久性、印刷のような簡単なプロセスによる加工のしやすさを同時に実現する材料も報告がなかった。今回の研究では、温度センサーのインクとなるPTCポリマーを合成する際に「オクタデシルアクリレート」と「ブチルアクリレート」という2種類のモノマーの重合割合を変化させる手法を用いることによって、温度センサーの応答温度を25℃~50℃といった人の体温付近に調整することが可能となった。また、従来のポリマーの分子量を変化させることによって応答温度を調整する手法では応答温度の制御性が良くなかったが、今回の手法により0.02℃という精度が達成できたとしている。またこのPTCポリマーを利用して開発された温度センサーは、1000回以上繰り返し温度を上げ下げしても高い再現性を示すうえ、曲率半径700マイクロメートルに曲げても壊れることなく、生理的環境でも動作するという。同センサーは抵抗値の変化が非常に大きいため、複雑な読み出し回路を用いずに精度の高い計測ができる。これを示す例として同研究グループは、ダイナミックに呼吸運動している状態のラットの肺表面に同センサーを貼り付けて計測を行い、外気温25℃と体温37℃の状況下において、呼吸の呼気と吸気における肺の温度差が約0.1℃と非常に小さいことを世界で初めて実測した。このように、今回の研究では皮膚を含む生体組織にセンサーを直接貼り付けて表面温度の分布を大面積で簡単に精度よく計測する技術が実現されたといえる。応用例として、今回開発された温度計を絆創膏にプリントすることによって、皮膚に直接貼り付けて体温を計測したり、赤ちゃんや病院の患者の体温、手術後の患部の発熱の有無をモニタリングするといった利用法も考えられるとしている。またヘルスケア・医療応用以外にも、服の内側の体温計測や体表面の温度分布を計測することにより、機能的なスポーツウェアの開発などへの利用も期待される。
2015年11月10日マナボは9月9日、「ミス東大」「ミスター東大」のファイナリスト10名を、自社が運営する教育サービス「スマホ家庭教師mana.bo」のチューターとして迎え入れた。全国の受験生や学生たちにスマートフォンによる個別学習指導を提供していくという。「スマホ家庭教師mana.bo」は、スマートフォンアプリでどこからでも気軽に講師に質問ができる新感覚の教育サービス。東大・早慶・医学部など難関大学の現役大学生による講師陣から、チャットや通話、ホワイトボードを使用して1対1で個別指導を受けることができるとのこと。
2015年09月09日日本IBMは7月30日、東京大学医科学研究所(東大医科研)と日本IBMが「Watson Genomic Analytics」(ワトソン・ジェノミック・アナリティクス)を活用して先進医療を促進するための、新たながん研究を開始すると発表した。「Watson Genomic Analytics」の利用は、北米以外の医療研究機関では初だという。がん細胞のゲノムには数千から数十万の遺伝子変異が蓄積しており、それぞれのがん細胞の性質は変異の組み合わせによって異なっているという。そこで、がん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異を網羅的に調べることで、その腫瘍特有の遺伝子変異に適した治療方法を見つけ、効果的な治療法を患者に提供することが可能となるという。インターネット上には、がん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異と関連する研究論文や、臨床試験の情報など膨大な情報があり、東大医科研では、「Watson Genomic Analytics」の活用により、特定された遺伝子変異情報を医学論文や遺伝子関連のデータベース等の、構造化・非構造化データとして存在する膨大ながん治療法の知識体系と照らし合わせる。そして「Watson Genomic Analytics」は科学的に裏付けられたエビデンスと共に、有効である可能性を持った治療方法を提示するという。今回のがん研究では東大医科研が有するスーパーコンピュータ「Shirokane3」と、クラウド基盤で稼働する「Watson Genomic Analytics」が連携し 、研究を進めていくためのビッグデータ解析基盤とする。また、 将来的には臨床応用への可能性を検証していくという。
2015年07月30日東京大学医科学研究所(東大医科研)と日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は7月30日、「Watson Genomic Analytics」を活用して個別化医療を促進するための新たながん研究を開始すると発表した。北米以外の医療研究機関で「Watson Genomic Analytics」を利用するのは初めて。患者ごとのがんに合った治療を提供する個別化医療を実現するためには、全ゲノム・シークエンシングによって得られる、ゲノム情報を解析する必要がある。また、インターネット上にはがん細胞のゲノムに存在する遺伝子変異と関連する研究論文や、臨床試験の情報など膨大な情報が存在する。こうしたビッグデータを「Watson」によって迅速に収集・分析することで、がんの原因となる遺伝子変異を発見し、有効な治療法の可能性を提示できると考えられており、東大医科研の宮野悟 教授は「私たちの研究チームは、全ゲノム解析に基づいた個別化医療を探求しており、『Watson』は私たちの研究を大幅に進める可能性を提供してくれます。」とコメントしている。
2015年07月30日東京エレクトロン デバイス(TED)と東京大学(東大)は7月29日、8ビット階調のモノクロ映像を最大1000fpsで投影することが可能な高速プロジェクタを開発したと発表した。同成果は、同大 情報理工学系研究科の石川渡辺研究室とTEDが2014年5月より行ってきたプロジェクタのフレームレートの高速化を目的とした共同研究の成果。今回は、その成果の一部として、高速プロジェクタの実用試作機「DynaFlash」を開発したほか、高速移動体へのプロジェクションマッピングシステムの試作も行ったという。そもそも人間が肉眼で1000fpsを見ることはほぼ不可能だ。しかし、今回のシステムは1000fpsをターゲットに開発されており、これについて、同大の石川正俊 教授はいくつかの要因が背景にあるとする。元々、同研究室では、高速ビジョンの研究・開発・事業化を目指した取り組みを行ってきており、これまでビジョンの高速化、アクチュエータの高速化を実現してきており、その流れでディスプレイの高速化が必要という判断が生じ、TEDとの共同開発に至ったという。では、1000fpsの高速表示が実現した場合、どういった恩恵が得られるだろうか。例えば、Kinectなどを使って、ヒトの動きを追随するアプリケーションがあった場合、カメラで動きを認識し、その動きをディスプレイ上に反映するまでにはシステム全体で150~200msの遅延が生じる。実際に、自分の動きと同じタイミングで表示画像が動かずに、とまどった経験を持つ人もいるだろう。また、3次元形状を認識するマシンビジョンの場合、照明を一瞬あてて、その投影パターンとあらかじめ登録された3次元情報を照会し、物体を認識する手法がよく用いられているが、光を照射して、カメラで撮影し、それを処理し、ロボットに把持の指令を出す、といった一連の作業にある程度の時間が必要であり、静止物であればともかく、生き物を捕まえる、といったことは困難であった。1000fpsが実現した場合、例えば、時速60kmで飛行するボールに対し、約1.7cmおきにパターンを投影することが可能となったり(ダイナミック・プロジェクションマッピング)、動き回る生物が何であるのかを3次元情報を使って識別することができるようになったりする。今回開発されたDynaFlashは、Texas Instruments(TI)のDLP DMDチップと高輝度LED光源を組み合わせて、最小遅延3msの1000fps/8ビット モノクロ階調(解像度は1024×768のXGA)の映像を投影することを可能としたもの。新たに画像処理用のFPGA(XilinxのVirtex-7とのこと)向けに開発した高速制御回路を搭載したことで1000fpsのフレームレートでの投影を実現したほか、独自開発の通信インタフェースを採用したことで映像が生成されてから、プロジェクタに投影されるまでの遅延を抑えることにも成功したという。なぜ、8ビット モノクロ階調ならびにXGAなのか、という点について石川教授は、「システムを構築することが第一で、実用的なレベルの最低条件として設定した性能」と説明する。そのため、まだシステム全体としてボトルネックがあるため、改良の余地があるとするが、将来的にはカラー化を進めていく方針とするほか、遅延の低減や高速ビジョンと連動した応用システムの開発も進めていきたいとしている。また、こうした石川教授の取り組みを受けて、TEDでも手ごたえを感じているようで、2016年夏をめどに、今回のシステムをベースに小型化などを図ったプロジェクタを発売する計画であるとする。仕様としては、0.7型XGA DMDを利用した1000fpsの8ビット階調をスクリーンルーメン500lm、投影遅延は最小3msで実現したいとするほか、ホスト側のインタフェースにはPCI Express(PCIe)の採用を予定。距離が離れた場所まで伸ばしたい場合は光ファイバによる通信を検討しているとする。さらに、撮影用カメラについては、プロジェクタ一体型にするか、分離型にするかはユーザーの反応次第としている。なお、価格は未定としているが、市場ニーズとしては、産業機器(FA)やロボットを中心に、リアルタイム3次元形状認識やダイナミック・プロジェクションマッピング、拡張現実(AR)などでの活用を期待するとしている。
2015年07月29日東京大学(東大)は7月13日、乳腺手術で摘出した検体に対して、試薬をスプレーすることで、数分で乳腺腫瘍を選択的に光らせる技術を確立したと発表した。同成果は東大大学院薬学系研究科・医学系研究科の浦野泰照 教授らの研究グループと、九州大学病院別府病院の三森功士 教授らの共同研究によるもので、詳細は英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。浦野教授らの研究グループは、これまでの研究で、がん細胞で活性が上昇している特定のタンパク質分解酵素によって蛍光性へと変化する試薬を開発し、がんモデル動物でその機能を証明していた。今回、九州大学病院の三森教授らとの共同研究で、乳腺手術において摘出した検体に対して同試薬を散布したところ、1mm以下の微小がんであっても、散布から5分程度で選択的かつ強い蛍光強度で試薬が光ることを確認した。また、同技術は、幅広い種類の乳腺腫瘍に対して有効であることもわかった。同技術を活用することで、乳がん部分切除手術中に切断断端に微小がんが残っているかを正確に知ることができるようになるため、局所再発の劇的な頻度低減につながることが期待される。現在、同スプレー蛍光試薬の臨床医薬品としての市販に向け、より多くの症例での実証試験ならびに、体内使用を目指した安全性試験が進められている。
2015年07月14日東京大学(東大)は7月10日、食物アレルギーを発症させたマウスを用いて、アレルギー反応の原因となる「マスト細胞」が細胞膜の脂質から産生する「プロスタグランジンD2(PGD2)」と呼ばれる生理活性物質に、マスト細胞自身の数の増加を抑える働きがあることを発見したと発表した。同成果は、同大 大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻の中村達朗 特任助教、同 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の前田真吾 特任助教(研究当時:応用動物科学専攻)、同 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程2年の前原都有子氏、同大 大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の村田幸久 准教授らによるもの。詳細は「NatureCommunications」に掲載された。食物アレルギーの患者数は全国で約120万人と言われているが、年々増加傾向にある。これまでの研究から、腸におけるマスト細胞の増加が、食物アレルギーの発症や進行に関与することが示唆されていたが、どのようにしてマスト細胞が増加するのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。そこで研究グループは、マウスに食物アレルギーを発症させ、その際の症状の悪化推移とマスト細胞の数の変化を調査。その結果、マスト細胞が造血器型のPGD2合成酵素(H-PGDS)を発現すること、H-PGDSを欠損させたマウスでは、マスト細胞の数が増加していることを確認。これにより、PGD2が、マスト細胞の増加を抑え、症状の悪化を防ぐ役割であることが示されたという。また、PGD2が産生できないマスト細胞などでは、血球細胞を強力に遊走させる生理活性物質「Stromal Derived Factor-1α(SDF-1α)」ならびに、細胞と細胞の隙間を埋めるコラーゲンなどを分解する酵素の1つで、炎症性生理活性物質を活性化する役割も持っている「Matrix metaroprotease-9(MMP-9)」の発現や活性が上昇していることが判明したほか、SDF-1αの受容体阻害剤や遺伝子欠損、MMP-9の活性阻害剤は、食物抗原に応答した消化管のマスト細胞増加と食物アレルギー症状を改善することが判明したとする。なお、今回の成果について研究グループは、SDF-1αやMMP-9といったマスト細胞の浸潤を促進する分子の発現を抑えることから、PGD2を標的とした食物アレルギーの根本治療への応用が期待されると説明しており、今後は、PGD2がどのようにマスト細胞の細胞内へ情報を伝達し、その浸潤を抑制するのか、その機序のさらなる解析を進めていく予定としている。
2015年07月13日東京大学(東大)は7月10日、超伝導回路を用いた量子ビット素子と強磁性体中の集団的スピン揺らぎの量子(マグノン)をコヒーレントに相互作用させることに成功し、ミリメートルサイズの磁石の揺らぎが量子力学的に振る舞うことを発見したほか、その揺らぎの自由度を制御する方法を開発したと発表した。同成果は、東大 先端科学技術研究センター 量子情報物理工学分野の中村泰信 教授(理化学研究所創発物性科学研究センター チームリーダー)、田渕豊 特任研究員(現 日本学術振興会 特別研究員)および同大 工学系研究科 物理工学専攻 修士学生の石野誠一郎氏らによるもの。詳細は米国科学振興協会(AAAS)発行の学術雑誌「Science」に掲載された。量子コンピュータや量子暗号通信といった量子力学の応用分野の1つに、情報処理と通信を統合した量子情報ネットワーク技術があるが、これを実現するためには、互いの間で量子情報を授受するためのインタフェースが必要となり、マイクロ波と光の活用が期待されている。しかし、量子状態をコヒーレントに転写する方法があり、その手法として、ナノ機械振動子や単独の電子スピン、常磁性電子スピン集団などを用いた研究が進められてきたが、強磁性体中のスピン集団に着目し、スピン波のエネルギー励起運動の量子であるマグノンを用いた研究はこれまでなかったという。研究では、強磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)単結晶球の中のマグノンと共振器の中のマイクロ波光子の結合について調査を実施。その結果、絶対零度に近い状態において、共鳴スペクトルに反交差が見られ、両者のコヒーレントな結合が示されたという。また、1つのマイクロ波空洞共振器の中にYIG球とミリメートルスケールの超伝導回路上で動作する量子ビットを配置した実験では、超伝導量子ビットとYIG球上のマグノンの間のエネルギー量子のコヒーレントな相互作用の証拠を、真空ラビ分裂と呼ぶエネルギー準位の分裂として観測することに成功したとのことで、これにより量子力学的な基底状態ある強磁性体中のスピン集団と、超伝導量子ビットの間でエネルギー量子をコヒーレントにやりとりできることが示されたとする。今回の成果について研究グループでは、今後、超伝導量子ビットとマグノンの結合を用いて、強磁性体中の集団スピン励起の自由度であるマグノンの量子状態を自在に制御し、観測することができるようになることが期待されるとするほか、並行してマグノンと光通信波長帯光子との相互作用の研究も進めているとのことで、マグノンを介したマイクロ波と光の間の量子インタフェースの実現やそれを用いた量子中継器への応用を目指すとコメントしている。
2015年07月10日東京大学(東大)は、ナノワイヤ量子ドットレーザの室温(300K)での動作に成功したと発表した。同成果は、同大ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦 教授、舘林潤 特任助教らによるもの。詳細は「Nature Photonics」に掲載された。ナノワイヤレーザは、従来の半導体レーザと同様の動作原理ながら、1万~10万分の1の体積でレーザ発振が可能なほか、出力先の方向・形状を制御しやすいため、次世代半導体技術として期待される光電子融合集積回路へオンチップで実装することが可能だ。これまで、さまざまな材料系でのレーザ発振が報告されてきたが、それらのほとんどがバルク材料の光利得を用いてきたが、今回、研究グループでは、量子ドットを活性層に持つナノワイヤレーザ(ナノ量子ドットレーザ)を作製し、共振器構造の最適化を行うことで室温でのレーザ発振を実現したとする。実際にデバイスの評価を実施した結果、光励起による室温発振を確認。性能の指標となる特性温度は133Kと、従来のナノワイヤレーザに比べても高く、これについて研究グループでは、量子ドット導入によるキャリアの効率的な閉じ込めが起きていることが示唆されると説明する。なお研究グループでは今後、ナノレーザ光源の高性能化や多機能化が見込めることから、成長・プロセス・評価技術のさらなる開発による低しきい値動作化や長波長化、実用化に向けた電流駆動によるレーザ発振動作を目指すとしいている。
2015年06月30日東京大学(東大)と東京工業大学(東工大)は6月26日、大腸菌が餌に反応する際に生体内で情報が果たす役割を定量的に解明することに成功したと発表した。同成果は、東大 工学系研究科の沙川貴大 准教授と東工大 大学院理工学研究科の伊藤創祐 日本学術振興会特別研究員らによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。物理学者マクスウェルが示唆した「マクスウェルの悪魔」は、熱力学第2法則を破ることができることを示したものだが、長い間パラドックスであると考えられていた。しかし、近年、実際に実験により、この悪魔を実現できるようになったほか、「情報量」の概念を熱力学に取り入れることで、悪魔が熱力学第2法則と矛盾しないことも明らかになり、そこが情報処理過程にも適用できるように拡張された熱力学「情報熱力学」の発展につながっている。この情報熱力学を用いることで、分子レベルでの情報処理をする際のエネルギーコストを明らかにすることが可能となる。一方、大腸菌は細胞内で情報を上手く処理することで、環境の変化に適応しながらエサを探す「走化性」というメカニズムの存在が知られている。こうした生命の情報伝達メカニズムは、正確な誤り訂正が常に行われているわけではないが、大腸菌の走化性におけるシグナル伝達にはフィードバック制御が組み込まれており、これが悪魔と類似の働きをしているとみなすことができると考えられてきた。今回、研究グループはこうした類似性に着目し、情報熱力学によって生体内の情報伝達のメカニズムを解明することに成功したとのことで、これにより大腸菌の細胞内を流れる情報量が、大腸菌の適応行動が外界からのノイズに対してどの程度安定であるのかを決める、という関係を明らかにし、その差異、情報量を定量化するために「移動エントロピー」を用いることが重要であることも分かったとする。また、大腸菌の適応のメカニズムは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることを突き止めたとする。なお、これらの成果について研究グループは、生体内でも定量化可能な物理量を用いて生体内の情報処理メカニズムを解明するための、新たなアプローチの第一歩になると説明しているほか、近年、マクスウェルの悪魔が実験的に実現されていることから、生体内の悪魔のメカニズムを人工的な情報処理に応用できる可能性があるとしている。
2015年06月26日東京大学(東大)は、カーボンナノチューブ(CNT)を用いて、レアメタルであるインジウム(In)を含まないフレキシブルな有機薄膜太陽電池を開発したと発表した。同成果は、同大大学院理学系研究科の松尾豊 特任教授、同大大学院工学系研究科の丸山茂夫 教授らによるもの。詳細は「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。従来、有機薄膜太陽電池には透明電極として酸化インジウムスズ(ITO)が用いられてきたが、レアメタルであるInは需要に対して供給量がひっ迫するリスクなどがあった。一方、CNTは元素として豊富な炭素を原料とし、かつ優れた特性を持つ材料として期待されてきたが、太陽電池分野においては、CNT薄膜による透明電極を用いた有機薄膜太陽電池の変換効率は2%程度と低かった。研究グル―プは今回、CNTを有機薄膜太陽電池の透明電極として用いるための方法論を確立した。具体的には、単層CNT(SWCNT)による薄膜に有機発電層からプラスの電荷のみを選択的に捕集して輸送する機能を付与することで、6%以上の変換効率を達成できることを確認したという。また、PETフィルムの上にCNT薄膜を転写して用いることでフレキシブルなCNT有機薄膜太陽電池を作製することにも成功したとする。なお研究グループでは今後、有機材料やデバイス構造の最適化を行うことで、さらなる高効率化研究に取り組む予定だとしている。
2015年06月18日東京大学(東大)は6月16日、これまで存在が不確かであった、電池の充電を早くする「中間状態」を人工的に作り出すことに成功したと発表した。同成果は東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の山田淳夫 教授、西村真一 特任研究員らの研究グループによるもので、6月12日に独化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。電池には充電状態でも放電状態でもない「中間状態」があり、これが反応中に現れることで充電を早く行うことができるとする学説については、そもそもそのような状態が存在するのか、存在したとしてどのような場合に現れるのかという漠然な議論に留まっていた。今回の研究では、電気を蓄える物質の元素の構成比や熱処理の条件を最適化することで、室温で長時間安定に存在する「中間状態」が人工的に得られることを発見し、その存在を証明した。また、「中間状態」を分析した結果、電子の並びが縞状に規則正しく模様を描き、これを邪魔しないようにイオンが自発的にその位置を柔軟に変えていることがわかった。このような状況下では、通常観測される充電状態や放電状態よりも電子やイオンがはるかに高速に移動できることも判明。これにより、「中間状態」を発現させることが、充電速度を早くする上で重要な方向性となることが明らかとなった。同研究グループは「電池の充電速度を速くするための一般的な指標が得られ、これをもとに材料の開発を行い、充電条件を最適化することで、充電時間の短縮が効率的に行われる。電池の充電時間が短縮されることで、生活の様々な局面での利便性が向上することが期待される」とコメントしている。
2015年06月17日東京大学(東大)は6月16日、遺伝子の改編操作(ゲノム編集)を光を用いて自在に制御することを可能とする技術を開発したと発表した。同成果は、同大 大学院総合文化研究科広域科学専攻の二本垣裕太 大学院生、同 佐藤守俊 准教授らによるもの。詳細は米国科学誌「NatureBiotechnology」オンライン版に「Photoactivatable CRISPR-Cas9 for optogenetic genome editing」というタイトルで掲載された。ゲノム編集を行うためには、ゲノム上の狙った塩基配列をDNA切断酵素(Cas9タンパク質)で切断する必要があるが、従来の技術ではこのDNA切断酵素の活性を制御できないという課題があり、その結果、特定の効果を狙ったゲノム編集を行うことができなかった。今回、研究グループでは、独自に開発した青色の光に応答して互いに結合する光スイッチタンパク質を、分割して活性を失ったCas9の断片に連結。青色の光を照射することで、分割したCas9が、分割前のようにDNA切断活性を回復し、標的の塩基配列を切断できるようになることを確認した。また、光の照射を止めると、結合力が亡くなり、DNA切断活性が消失することも確認したという。さらに、これらの技術をツール化(光活性化型Cas9:paCas9)することで、狙ったゲノム遺伝子の塩基配列を改変、その機能を破壊したり、別の塩基配列に置き換えたりできること、光照射のパターンを制御することでゲノム編集を空間的に制御できることなども確認したとするほか、paCas9に変異を加えてDNA切断活性を欠失させることで、ゲノム上の狙った遺伝子に結合して当該遺伝子の発現を光で可逆的に抑制できることにも成功したとする。なお、今回の成果を受けて研究グループでは、例えば脳における神経細胞のように、組織の中で狙った細胞単位でのゲノム編集が実現できるようになるとコメントしており、この技術が、ゲノム編集の応用可能性を広げることにつながることが期待されるとしている。
2015年06月16日東京工業大学(東工大)や東京大学(東大)、放射線医学総合研究所(放医研)などで構成される研究グループは6月10日、日帰りがん治療の実現に向けたナノマシン技術を開発したと発表した。同成果は、東大大学院工学系研究科/医学系研究科・教授の片岡一則氏(ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)・センター長兼任)、東工大 資源化学研究所・教授、ナノ医療イノベーションセンター・主幹研究員の西山伸宏氏、ナノ医療イノベーションセンター主任研究員のMI PENG氏、放医研 分子イメージング研究センター・チームリーダーの青木伊知男氏らによるもの。詳細は米国化学会発行のナノテクノロジー専門誌「ACS Nano」に掲載された。今回開発された技術は、骨の成分であるリン酸カルシウムの内部に、造影剤として用いられるガドリニウム(Gd)-DTPAをナノ化し、取り込み、ドラッグデリバリシステム(DDS)としてがん組織に送り込むというもの。Gdは中性子線が当たると核反応によりガンマ線やオージェ電子を放出、これでがん細胞などを破壊することでがんの治療を実現する。具体的には、がん細胞に確実に届けるために、リン酸カルシウムの表面にポリエチレングリコールやアスパラギン酸を組み合わせた直径55nmのナノ結晶集合体(ナノマシン)を構築。この大きさは、正常な血管の場合、血管周辺の組織につながる孔では狭く通らないが、がん細胞が周辺にある血管の場合、100nmまでその孔が拡大するため通り、がん細胞の近辺に到達するサイズだという。また、リン酸カルシウムは正常の細胞ではほぼ中性のpH7.4程度では比較的安定しているが、pHが酸性になると溶ける性質があり、がん細胞は部位によって異なるがpHが6.5~5程度であり、さらに細胞内に取り込まれた場合は酸性度が向上するため、内部のGd-DTPAががん細胞およびその周辺組織にダイレクトに届けられることとなる。Gd-DTPAはこれまでの研究から、がん組織に選択的に集積されることが確認されており、実際に研究グループの研究でもMRIを用いて、固形がんを選択的に造影できていることが確認されているほか、ナノマシン化により、Gd-DTPA錯体のMRI造影剤としての性能を表すT1緩和能をGd-DTPA錯体と比べて、5~6倍に増大させる効果を有することも確認したという。研究では、大腸がん細胞を皮下に移植したマウスを複数例作成し、ナノマシンを投与した結果、ナノマシンが血中に長期滞留し、がん組織に選択的に集積することを確認。これらの結果を受けて研究グループでは、この技術を応用していくことで、MRIによるがんのイメージングの容易化、熱中性子線の照射によるがん組織のみのピンポイント治療の実現の可能性が示されたとしており、将来的な切らない手術の実現と、入院不要の日帰り治療も可能になると期待されるとコメントしている。なお研究グループでは、今後は関係機関などとの調整、ならびに中性子線を発生させるための加速器の設置、病院で実施する場合の設備の検討などを行う必要があるとするが、数年以内にそういった次の段階に進みたいとしている。
2015年06月10日東京大学(東大)と国立天文台は6月9日、アルマ望遠鏡と重量レンズのかけ合わせで、117億光年の距離にある銀河の内部構造を解明したと発表した。同成果は東京大学理学系研究科の田村陽一 助教と大栗真宗 助教および国立天文台の研究グループによるもので、6月9日付けの「日本天文学会欧文研究報告」に掲載された。重力レンズとは、質量が時空の歪みを介して光を曲げる減少で、非常に重い天体の周囲で生じ、その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質がある。今回の研究では、今年2月にアルマ望遠鏡がとらえた117億光年の距離にあり、爆発的に星を生み出しているモンスター銀河「SDP.81」の画像を、同研究グループが提案した重量レンズ効果モデルを用いて解析した。その結果、「SDP.81」では差し渡し200~500光年の塵の雲が、およそ長さ5000光年の楕円状の領域に複数分布していることがわかった。この塵の雲は、巨大分子雲と呼ばれる、恒星や惑星が生まれる母体だと考えられるという。また、重力レンズ効果を引き起こしている手前の銀河に質量が太陽の3億倍以上におよぶ超巨大ブラックホールが存在することも判明した。今後、アルマ望遠鏡と重力レンズの組み合わせで、なぜモンスター銀河が形成されるのか、どのように超巨大ブラックホールが成長するかの解明につながることが期待される。
2015年06月09日東京大学(東大)や理化学研究所(理研)などで構成される研究グループは、スピントロニクス材料として期待される巨大磁気抵抗を示すコバルト酸化物「SrCo6O11」に、スピン配列の周期として理論的に考えられるすべての状態が存在し、それらが磁場の変化とともに磁化が階段状に増加していく様子「悪魔の階段」を確認することに成功したと発表した。同成果は、東大 物性研究所の和達大樹 准教授、同大学院工学系研究科の石渡晋太郎 准教授、同大学院工学系研究科の十倉好紀 教授(理化学研究所創発物性科学研究センター センター長)、京都大学化学研究所の齊藤高志 助教、独Leibniz Institute for Solid State and Materials Research Dresde とHelmholtz-Zentrum Berlin らによるもの。詳細は米国科学誌「Physical Review Letters」の6月8日オンライン版に掲載される予定。実際の観測は、ドイツの放射光施設「BESSY II」において共鳴軟X線回折実験として行われ、その結果、ほとんどすべてのスピン配列の周期性に対応する分数値の回折ピークが観測され、各々の温度でさまざまな周期の磁気秩序が共存している様子が確認されたとのことで、これについて研究グループは、磁気的な相互作用の正負が距離によって変化するモデルを理論的に解くことで得られる「悪魔の階段」の状態が、実際の物質で実現している事が示されたとしている。また、さらなる解析により、磁化の測定で見られたステップを生み出す磁気構造の様子の解明にも成功したとのことで、これにより、「悪魔の階段」を生み出す磁気構造の詳細が判明したとしている。なお研究グループでは今後、こうした「悪魔の階段」型の磁気構造をさらなる系統的な研究により他の物質にも見つけることを目指し、単純に磁場により電気抵抗を増減させるだけでなく、電気抵抗や磁化が階段状にとびとびの値をとることを活かした、新しいタイプのスピントロニクス材料の開発などにつなげたいとしている。
2015年06月05日東京大学(東大)とベネッセホールディングスは6月4日、2014年1月に立ち上げた「子供の生活と学び」の実態の解明に向けた共同研究プロジェクトの第1回調査を2015年7月に実施すると発表した。同調査は、小学1年生から高校3年生までの親子約2万1000組に対し、10年程度の長期にわたり、追跡調査を行い、その結果から、子供の生活や学習の状況、保護者の子育ての様子などにより、子供の成長がどのように変わるのかを明らかにしようというもの(毎年、小学1年生が補充されていく予定)。調査の内容については、子供(小学4年生~高校3年生)に向けては、日頃の生活(生活時間、生活習慣、遊び、ICTの利用状況、学校生活)、人間関係(親子関係、友だち関係)、学習(学習実態、学習習慣、受験、勉強についての意識)、意識・価値観(悩み、社会観、職業観)、身につけている力などとなっており、保護者に向けては、子供への働きかけ(子育て・しつけの実態、家庭のルール、親子の会話)、子育て・教育に関する意識(教育方針、教育観、子供に対する希望、将来像、受験)、教育費(習い事、学習塾)、保護者自身の生活(仕事や生活の状況)などとなっている。プロジェクトの代表者は、東京大学社会科学研究所の石田浩 教授ならびにベネッセ教育総合研究所の谷山和成 所長となっており、研究結果については東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所にて広く公表する予定としているほか、元データについては東京大学社会科学研究のデータアーカイブ(SSJDA)に寄託し、研究・教育目的で公開を行う予定だとしている。なお、第1回目の調査結果については2016年2月に公表される予定だという。
2015年06月05日東京大学(東大)は5月28日、悪性度の極めて高い小細胞肺がんを移植したマウスに、がん細胞にのみ結合する抗体「90Y標識抗ROBO1抗体」を投与したところ、腫瘤が著明に縮小することを確認したと発表した。同成果は、東大医学部附属病院 放射線科/東大大学院 医学系研究科核医学分野 准教授の百瀬敏光氏、東大医学部附属病院 放射線科 特任助教/東大大学院 医学系研究科核医学分野 博士課程学生(当時)の藤原健太郎氏、東大先端科学技術研究センター 計量生物医学 教授の 浜窪隆雄氏、東大先端科学技術研究センター システム生物医学 特任教授の児玉龍彦氏らによるもの。詳細は「PLOS ONE」に掲載された。肺がんは、がんの中で最も罹患率・死亡率が高く、その内、成長が早く、転移しやすい小細胞肺がんが約15%を占めているが、身体の他の部位までがんが広がってしまっている段階の進展型小細胞肺がんは、悪性度が高く、有効や治療法が確立されていない。今回、研究グループは、放射性同位元素で標識した「がん細胞にのみ結合する抗体(90Y標識抗ROBO1抗体)」を開発し、実際に、小細胞肺がんを移植したマウスに投与したところ、がん細胞を殺傷し、腫瘤を縮小させる効果があることを確認したという。また、こうした抗体を投与して、がんに集積させることで、小細胞肺がんを移植したマウスの体内から放射線治療をする「放射免疫療法」が、進展型小細胞肺がんの根治や余命の改善に向けた治療法の確立につながることが期待できるとしており、今後は、同薬剤の治療効果と副作用に関する詳細な評価に加え、治療効果や副作用のさらなる改善を目指して、化学治療との併用治療や、別の治療用放射性同位元素の導入、抗体の小分子化などを検討していくとするほか、抗体の体内動態を可視化することで、SPECT/PETイメージング用診断薬の開発にもつなげたいとしている。
2015年06月01日宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学(東大)は4月20日、理論的には金属だと考えられていたホウ素が、実は金属ではなく、半導体的性質を強く持つことを明らかにしたと発表した。同成果は、JAXA宇宙科学研究所の岡田純平 助教、石川毅彦 教授と東大の木村 薫 教授を中心とする研究グループによるもので、米国物理学会誌「Physical Review Letters」に掲載される予定。元素は大きく分けると金属と非金属(半導体、絶縁体)に分類され、ホウ素やケイ素(シリコン)などは金属と非金属の境界に位置しているとされる。こうした元素は固体と液体とで性質が異なり、例えばシリコンや炭素は固体では半導体だが、溶けると金属になる。ホウ素も溶けると金属になると考えれられていたが、融点が2077℃と非常に高く、極めて反応性が高いため、安定して保持できる容器が存在しないことが研究の障害となっており、実際に金属になるかどうかは確認されていなかった。同研究では、国際宇宙ステーションでの実験に向けてJAXAが開発した静電浮遊法という技術を採用することでこの課題を克服。同技術では静電気によって材料を浮かせて保持するため、容器を用いる必要がなく、溶融状態のホウ素でも他の物質と反応することがない。同研究グループは、大型放射光施設SPring-8内に静電浮遊溶解装置を設置し、ホウ素融体中の電子の挙動を観測・解析することで、ホウ素融体中の電子の分布を求めた。その結果、大半の電子が原子間に拘束されていたことから、ホウ素融体は金属ではなく、半導体であることがわかった。今回の研究で2000℃以上の超高温状態のホウ素を調べることに成功したことで、今後、これまでは調べることが困難とされていた超高温状態における物質の性質を調べることが可能になる。また、超高温状態の性質がわかっていない物質を正確に理解し、利用することで新たな材料開発につながることが期待される。
2015年04月20日東大発のベンチャー企業・エルピクセルは4月20日、生命科学分野の学術論文の画像を中心に、人工知能を用いた研究画像不正検査サービス「LP-exam Cloud」の販売を開始すると発表した。同サービスでは、研究画像に対する加工の有無を自動で推定するために画像自動分類の特許技術を採用。大学や研究機関が画像をアップロードするだけで安易な不正・加工の有無を検査することが出来きるという。加工が推定された画像についてはライフサイエンス研究と画像解析の専門家が確認・解析し、レポートを作成する。料金は定額制で月額約3万円、1画像約500円から解析ができ、研究室単位で導入することも可能だ。エルピクセルは「LP-exam Cloud」を提供することで、これまで膨大な時間がかかるとされ敬遠されていた不正加工の検査にかかるコストを削減し、画像不正が生じない環境の構築を支援するとしている。
2015年04月20日東京大学(東大)は4月16日、フロー精密合成という新しい手法によって医薬品有効成分であるロリプラムを高収率、高選択収率で合成することに成功したと発表した。同成果は東大大学院理学系研究科の小林修 教授らの研究グループによるもので、4月16日付け(現地時間)の英科学誌「Nature」に掲載された。医薬品原薬・化成品・農薬などの化学製品は、その99%以上がバッチ反応法という手法で合成されている。同手法は複雑な構造の化合物を作製できる一方、各段階で中間体の単離・精製操作を繰り返すため、余分なエネルギーが必要となり、廃棄物も大量に排出されるという課題があった。より省エネルギーで無駄の少ない流通法という手法もあるが、こちらは合成が難しく、アンモニアなど簡単な気体の合成に利用されるにとどまっていた。小林教授らは流通法によって高収率、高選択収率を実現する合成手法を「フロー精密合成」と提唱し、その実現のために触媒や合成手法の開発を進め、さらに、個々の反応を組合せて、多段階流通システムを構築し、構造的に複雑な化合物を合成することを目指して研究を行ってきた。今回の研究では、新たに開発した触媒を充填した4本のカラムに、市販の原料を順次通すだけで高純度のロリプラムを得ることに成功。同手法は中間体の単離や精製などが一切不要で、物質の反応に必要なエネルギーもバッチ反応法に比べて低く、触媒と生成物の分離操作が不要という特徴がある。また、医薬品に限らず、香料や農薬、機能性材料などの付加価値の高いファインケミカルの合成に適用できる可能性もある。ファインケミカルの合成は日本の得意分野であったが、近年中国、インド、東南アジアに多くのシェアを奪われており、今回開発された手法はこれらの国との価格競争にも対抗しうる高度技術となることが期待される。
2015年04月16日東京大学(東大)などは、リチウムなどの希少元素を使用しない次世代電池の候補であるナトリウムイオン電池のマイナス極を開発したと発表した。今回の成果は、東京大学 大学院工学系研究科化学システム工学専攻の山田淳夫 教授、同大 大学院工学系研究科化学システム工学専攻の大久保將史 准教授、同大 大学院工学系研究科化学システム工学専攻の王憲芬 特任研究員、同大 大学院工学系研究科化学システム工学専攻の梶山智司 特任研究員、同大 工学部 化学システム工学科の飯沼広基 学部生、長崎大学 大学院工学研究科の森口勇 教授、同大 大学院工学研究科の小路慎二 大学院生らによるもの。同研究の詳細は「Nature Communications」に掲載された。リチウムイオン電池は、希少元素であるリチウムやコバルトを使用しており、さらなる低コスト化などを図るためにはリチウムをナトリウムに置換したナトリウムイオン電池の実現が求められている。しかし、その実現のためには、ナトリウムイオンを吸蔵・放出する化合物の対(プラス極/マイナス極)が必要であった。プラス極は、これまでの研究からナトリウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる化合物が多数報告されるようになっているが、マイナス極については、急速充電、長時間の電流供給、充放電の繰り返しに対する安定性などの条件を満たす化合物が見つかっていなかった。今回、研究グループは、新たにチタンと炭素で構成されるシート状の化合物を合成し、それをマイナス極に応用したところ、多量のナトリウムイオンを吸蔵・放出する特性を示し、ナトリウムイオン電池の長時間の電流供給を可能とするマイナス極であることが確認されたほか、急速充電にも対応できることが示されたという。実際にすでに研究グループが発見していた安価な鉄と硫黄で構成されるプラス極と組み合わせることで、ナトリウムイオン電池のプロトタイプを試作。長時間の電流供給が可能であり、充電・放電を繰り返すことによる劣化もないことが確認されたとする。なお、研究グループでは、今回の成果について、試作したナトリウムイオン電池はナトリウム、鉄、硫黄、酸素、チタン、炭素などの汎用元素のみで構成され、まったく希少元素を使用する必要がないものであり、この結果を受けて、低コストな電池の実用化が加速していくことが期待されるとコメントしている。
2015年04月06日東京都・駒場の日本民藝館は、思想家・柳宗悦の蒐集した民藝品の中から、「愛らしさ」を感じる品々を展示した「愛される民藝のかたち -館長 深澤直人がえらぶ」を開催している。会期は6月21日まで(月曜休館、但し祝日の場合は開館し翌日休館)。開館時間は10:00~17:00。入場料は大人1,100円、高大生600円、小中生200円。同展は、日本民藝館の収蔵する、1万7,000点あまりの柳宗悦による蒐集品の中から、顕著に「愛らしさ」が滲み出す150点あまりの品を展示するもの。柳宗悦の蒐集品を眺めていると感じられる、人を拒絶しない愛くるしさ、「かわいさ」に焦点を当てた展示となっている。一見軽率な意味に聞こえる「かわいい」であるが、柳氏の説く「平和思想」や「愛」とも密接に関係している言葉だという。同展の開催に際し、日本民藝館五代目館長の深澤直人は次のように語っている。「蒐集品を眺めていると人を拒絶しない愛くるしさが滲みでてくるのがわかります。ゆるい、素朴、飾らない、研ぎ澄まされない、暖かい、そして愛くるしい。これらは雅で荘厳な美とは異なります。Cool/かっこいい、に対して、Warm/暖かい、なのです。Cherishということがありますが、これは希望や感情を心に抱く、胸にしまっておく、あるいは人や物を可愛がる、大切にする、愛情をこめて世話をするという能動的で感情的な意味があります。またPreciousという言葉には大切な、希少な、かけがいえのない、宝物、大事な、いとしい、かわいい、あるいは、ぎこちないといった、物から感じ取れる感覚的な意味があります。柳の蒐集熱にはこの三つの言葉、Warm、Cherish、Preciousが当てはまるのではないかと思います。」写真提供:日本民藝館
2015年04月06日東京大学(東大) 生産技術研究所の竹内昌治 教授と李源哲 特任助教の研究グループは、無機ナノマテリアルがグラフェン上に自発的に規則正しく整列する(自己組織化する)現象を応用して、単層グラフェンの帯状構造(グラフェンナノリボン)を独自の手法で形成することに成功したと発表した。同手法によるグラフェンナノリボンの作製は、シリコンに代わる半導体素材として注目されているグラフェンの利用可能性を大きく高めると期待される。竹内教授らは、まず、常温の水溶液中でシアン化金がグラフェン上にナノサイズの繊維状構造(ナノワイヤ)を自己組織化することを発見した。従来、グラフェン上に有機物を自己組織化させることは可能だったが、無機物を自己組織化させるにはグラフェンの表面を加工するか、高温下で無機物を蒸発させて付着させるなどの特殊な方法を用いる必要があった。今回、竹内教授らは、金を含む室温の水溶液に表面を加工していない純粋なグラフェンを浸すことで、温和な条件下でグラフェン上にシアン化金が自発的に整列し、ナノワイヤが自己組織化されることを見出した。作製されたナノワイヤは、グラフェンの結晶構造に沿って整列しており、これを観察することで間接的にグラフェンの結晶構造を知ることができる。ナノワイヤはグラフェンに比べて簡単に観察できるため、これを利用することでグラフェンの結晶構造解析にかかる手間と時間を減らすことができると期待される。次に、このナノワイヤをもとにしてグラフェンをエッチングすることで、ナノリボンを作製することに成功した。ナノリボンは幅が約十nm、厚さが炭素原子1個分の極めて薄い帯状の構造体。グラフェンナノリボンは、半導体デバイスやバイオセンサなどとして利用できる可能性があり、次世代の半導体素材として期待されているグラフェンの応用可能性を大きく広げるものとして期待される。同成果は、学術誌「Nature Nanotechnology」にて公開される。同研究は、カリフォルニア大学バークレー校、蔚山科学技術大学校、ハーバード大学、建国大学校、ローレンス・バークレー・ナショナル・ラボラトリーとの共同研究により行われた。なお、同研究は科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「竹内バイオ融合プロジェクト」の一環として行われた。
2015年03月26日東京大学(東大)、キリン、小岩井乳業は3月12日、カマンベールチーズの摂取にアルツハイマー病の予防効果があることを確認し、その有効成分を同定したと発表した。同成果はキリンR&D本部基盤技術研究所、小岩井乳業、東大大学院農学生命科学研究科の中山裕之 教授らの研究グループによるもので、米科学誌「PLOS ONE」に掲載された。これまでの研究で、チーズなどの発酵乳製品を摂取することで老後の認知機能低下が予防されることは知られていたが、それがどのような成分とメカニズムによるものかはわかっていなかった。同研究グループが今回、市販のカマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への作用を検証した結果、アルツハイマー病モデルマウスにカマンベールチーズから調製した餌を摂取させると、アルツハイマー病の原因となる脳内物質であるアミロイドβの脳内沈着が減少し、脳内の炎症が緩和されることがわかった。さらに、オレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールとう物質が、脳内で異物の排除を担うミクログリアという細胞のアミロイドβを除去する機能と抗炎症活性を促進していることを特定した。これらの物質は乳の微生物による発酵過程で生成されたと考えられている。
2015年03月13日東京大学(東大)とアメリカ航空宇宙局(NASA)は3月12日、土星の衛星であるエンセラダスに原始的な微生物が発生し得る環境が存在すると発表した。同成果は東大大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の関根康人 准教授らの研究グループと、米コロラド大学のSean Hsu 博士を中心とする研究グループによるもので、3月12日付けの科学誌「Nature」に掲載された。エンセラダスは直径500km程度の天体で、地表の割れ目から地下の海水が間欠泉のように宇宙に噴出していることで知られ、生命存在の期待も高まっていた。NASAの探査機カッシーニはこれまで、海水に塩分や二酸化炭素、アンモニアなどのガス成分、有機物が含まれていることを明らかにしてきたが、地下海に生命が利用できるようなエネルギーが存在するかどうかはわかっていなかった。今回、関根准教授らは、エンセラダスの間欠泉に含まれていたナノサイズメートルのナノシリカ粒子に注目した。研究を進めたところ、エンセラダス内部の反応でナノシリカ粒子が生成されるためには、90℃以上という熱水環境が必要であること、熱水のphが8k~10のアルカリ性であることが判明した。また、ナノシリカ粒子は数年以内に大きな粒子に成長してしまうことから、こうした粒子が長くても数年で宇宙に噴出していることが分かった。地球上の生命は太陽からの光エネルギーや地球からの熱エネルギーに依存して生命活動を送っている。太陽光の届かない深海の海底熱水噴出孔では、地球の熱エネルギーを使って生きる原始的な微生物が存在しており、初期の地球において生命が誕生した場所の有力候補とされる。今回の結果は、エンセラダスでは地球の海底熱水噴出孔に似た熱水環境が広範囲に存在し、現在でも活発に活動していることを示すもので、同研究グループは「今回の成果は『生きた地球外生命の発見』という自然科学における究極のゴールに迫る大きな飛躍である。これまで火星に集中していた太陽系生命探査は、エンセラダスという新たな候補天体を得て、今後大きな広がりを見せることが期待される」とコメントしている。
2015年03月12日東京大学(東大)と科学技術振興機構(JST)は2月23日、室内の光で発電し、音で発熱を知らせる有機集積回路を用いた腕章型フレキシブル体温計を開発したと発表した。同成果は東大の桜井貴康 教授、染谷隆夫 教授らの研究グループによるもので、2015年2月22日~26日の間、米サンフランシスコで開催されている「国際固体回路会議(ISSCC)2015」で発表される。この腕章型体温計は、有機集積回路、温度センサー、フレキシブルな太陽電池とピエゾフィルムスピーカーで構成されている。上腕部に取り付け、体温が設定値を超えると周囲に音で知らせる機能を持つほか、電力を太陽電池で賄うことができるため、電池交換などのメンテナンスが不要だ。フレキシブルな有機集積回路とスピーカーを用いて音を発生させたこと、部屋の明るさに応じて電圧を調整する有機電源回路を有機トランジスタだけで実現したことは世界で初めてだという。今回の研究成果は水分や圧力などさまざまなセンサーへの応用が可能で、ブザー音だけでなく数値などの情報を音に乗せて送ることも原理上は可能としており、発熱したかどうかだけでなく体温などの測定結果を送信する技術への応用も期待されるという。一方、太陽電池の電力だけで動作するため、夜間や暗い環境では使用できないという課題があり、フレキシブルな充電池やキャパシタが将来的に開発されることで夜間でも動作することも可能になると考えられている。
2015年02月23日