買ったばかりのときとは違う、もう少し冷静な気持ちで香りと向き合うと、いつも不思議と母の顔が思い浮かぶ。
思春期が終わった頃から、夕食後に母と散歩するのが好きだった。少し歩くと汗ばむような季節の夜になると、散歩の途中に母親が「クチナシの香りだ」と、その香りの元を突き止めようとふらふらと歩くのに付き合ったものだ。
秋になると金木犀の香り。母は花の香りで四季を感じ、それを私に教えてくれた。もう詳しくは覚えていないけど、母と散歩するときは大体受験や就活で悩んでいたし、鬱屈とした日常の中で感じたことを、ただ聞いてもらっていたような気がする。
母はセレクトするモノのセンスが良い。洋服やアクセサリー、「自分の色」として20年以上変わらないネイルの色や香水。
選ぶものすべてに明確な理由があり、少なからず私もその影響を受けているところがある。母のことは基本的に尊敬しているし、とても大切な存在だ。今も仕事と子育てを両立しようと日々奮闘している私を支えてくれている。ただ、そういう関係を作り上げるまでは簡単ではなかった。
少し前までは、子どもがいながら仕事をすることに対して理解が薄く、ちょっとでも部屋が散らかっていると子どものアレルギーを引き合いに出し、子どもが痩せても太っても、私の用意する食事に問題があるのではないかと、やんわりとアドバイスをしてきた。