左胸に5センチほどの腫瘍があり、放っておくと悪性化する可能性があるので胸を切って腫瘍を取り除きます──と医師に告げられたとおりの説明をすると、当時付き合っていた恋人は、ファミレスの向かいの席で急に泣き出した。「胸を切るんだ?」と言われ、乳房ごと摘出するわけではないけれど傷とかはできると思う、と伝えると、「つらいな」と手を握られた。
手術を終えた半年後、私の胸にはまた別のしこりができた。もともと医師には、何度か再発する可能性が高いこと、繰り返すうちに悪性化するケースが多いということを聞いていた。検診に行き、しばらく様子を見ましょうねという結論が出た帰り道にそれをLINEで恋人に伝えると、電話がかかってきた。彼は思いつめたような声で「またか……」と言い、「どうしてシホばっかりそんな目に遭うんだ、お願いだから早く健康になってくれよ」と泣いた。
なんでそっちが泣くんだよ、というのが、そのときの率直な気持ちだった。
父にとってはわからないが、私があの言葉に感じた内臓が浮くような居心地の悪さは、「頭ないなって感じ」にとても近かったんじゃないか、と思う。
目の前の相手にとつぜん“健康”という見えない白線を引かれ、あなたはその外側にいますよ、轢かれる前に早くホームに戻ってください、と注意を受けたようなばつの悪い気分だった。