あの日、母は私に包丁をつきつけた。もし身近な人が更年期障害に苦しんでいたら
母はいつも真面目で明るく、ギャグばっかり言ってるいわゆる”関西のおばちゃん”だったのに、すっかり変わってしまって。当時、大学生の姉は一人暮らしをしていて、父も単身赴任でほとんど東京にいたから、私と母はふたり暮らしでした。さらに私は反抗期まっさかり。かたや女性ホルモンが上がって不安定だし、かたや下がって不安定。不安定どうしがひとつ屋根の下にいたらもう。
——かなりギスギスしますね……。
ぶつかりすぎちゃって。母もおかしくなってるから「もうお前を殺して私も死ぬ!」と包丁持ってぶわーっと追いかけてこられちゃったんですよ。
うわやばい! と思って友だちの家に避難する大騒動がありました。
ずっと「かわいいね!」と言われて育てられてきたのに突然「あんたなんか産まんかったらよかったわ!」と言われて。お母さんは私のことを嫌いになったんだ、もう愛されなくなったんだと、その後もずっと心に引っかかり続けていましたね。
もちろん母の行為の原因が、すべて更年期障害にあったとは限りません。女性でなくとも、ホルモンバランスの乱れがなくとも、イライラを募らせて過激な振る舞いをされる方はいます。けれど、もしもあのとき、母にとって適切なケアがなされていれば……とは思うんです。