2017年7月20日 21:15
悲しくないのに「頬を伝う涙」…|12星座連載小説#122~水瓶座11話~
会社を辞める者、会社に残り続ける者。思惑は様々だな。
だけど私は、辞めることを選んだ。これからは自分の責任で働いていかなくちゃならない。
事務課の窓口に、無言で退職届を出す。
―――待つ事、ものの数分。
あっけないほど簡単に受理された。
こんなもんか……。
19歳の時、そんなに好きでもない年上の男と“初体験”したのを覚えている。その時も「こんなもんか……」って印象だった。
『ははっ、笑える……』
廊下を歩きながら、乾いた笑いが漏れる。
でも、これで良い。これからは自分の責任で、好美と新たに仕事を初めていくんだ―――。
それから私は無味乾燥な書類や、引継ぎのためのデータ作成に取り掛かった。いつもより時間が長く感じられた。
ここの会社は、出社時間は決まっているが、退社は17時以降なら自由だ。
こんなに帰りが待ち遠しいのは初めてのことだよ、まったく。
時計の短針が5時を指すと同時に、会社を出る。
タクシーに乗ろうかと一瞬思い、止めた。これからは出費も抑えていかなきゃな……今日は電車に乗って帰ろう。
5時上がりの電車は満員だ。皆、本当はこうして大変な思いをしながら通勤していたんだな……。