2015年3月20日 19:35
女の節目~人生の選択 (13) vol.13「初めての、詐称」【22歳】
と思うようになった。「誰にも嘘はついていない、ただ、訊かれていないことを言わずにいるだけだ、みんなをちょっと錯覚させるだけだ」と己に言い聞かせながら、赤の他人たちによって「本来の自分」とは違うキャラクターをするする引き出され育て上げられていく過程に、バルジャンだって幾許かの喜びをおぼえていたのではないか。
○昼間のパパはちょっとちがう
NHKの教育番組『ピタゴラスイッチ』に「ぼくのおとうさん」という歌がある。「会社へ行くと会社員、食堂入るとお客さん、歯医者に行くと患者さん、うちに帰ると僕のお父さん」という調子で、子供の目線から、父親にあたる人物が持つさまざまな姿を歌っている。忌野清志郎「パパの歌」に、平野啓一郎の分人主義のエッセンスを足したような歌である。
大学時代お世話になった恩師の作った歌で、卒業して社会人になってからテレビでこの歌を初めて聴いた朝、私はなぜだか部屋で一人、号泣してしまった。「ぼく」がその人物の「おとうさん」以外の側面についてもちゃんと知っていて、その人物が四六時中「ぼく」の「おとうさん」でいるわけではないことも理解して、それでも、自分との関係性からは遠く離れたあちこちで大半の時間を過ごす彼を「おとうさん」