くらし情報『女の節目~人生の選択 (13) vol.13「初めての、詐称」【22歳】』

2015年3月20日 19:35

女の節目~人生の選択 (13) vol.13「初めての、詐称」【22歳】

赤の他人に向けて顔の角度をちょっと変え、彼らの望む姿を演じてやるのだけれど、それにきちんと対価が支払われ、私の元にも「嘘ではない」手応えが残る。小学生たちのキラキラした瞳に反射する「なんでも知ってる岡田先生」や、「君が店を持ったら遊びに行くよ」と微笑むバーの常連客の先に、今とは別の人生が豊かに広がっていくように思えた。就職活動をせずこのままバイト先に雇われ続けたら、いつか本当に「プロデューサー」の肩書が似合う管理職になる未来だって、あるのかもしれない。

なにか罪を犯した逃亡者が、落ちのびて行った先で新しい生活を獲得し、周囲には過去のことをまったく悟られずに別の顔をもってコミュニティに溶け込む、といった展開を小説でよく読む。たとえば『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンなどもそうだが、子供の頃はそれを「嘘をつき続けるのは、つらいだろうな」と思って読んでいた。すぐやめられるママゴト遊びと違って、いつ終わるともしれない一生を「本来の自分」を偽り、別の人間として生きるのは、つらいだろうなと。

22歳の頃、その感覚が変わった。「きっと彼らも、新しい生活の中で、今の私と同じような手応えを感じていたのだろう」

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