くらし情報『【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第6話)』

【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第6話)

一方的に自分の言いたいことだけを話して、強引で。

でも、そこが良かったんだ。付き合っていた当時は。

終業後、私は新実さんに言われた通りアルフィルへ向かった。そこは2人でよく行ったBARで、新実さんから「付き合おう」と言われた場所でもある。

あの時は珍しくお酒に少し酔っていて、クールな彼とは思えないほど饒舌だった。

後で聞くと、私に告白しようとして緊張していた、と。

可愛いと思ったのを覚えている。


「来たか」

お店に着くと、カウンター席にいた新実さんが軽く手を上げた。

その奥で顔なじみの店員さんが会釈をしてくれる。

私たちの関係はもう終わっているのに、このBARのこの空間は何も変わっていないようで胸がズキッと疼いた。

新実さんと付き合っていた頃のことを、次々と思い出してしまう。

「荷物をもらったら帰るので」

「そう言わず、1杯付き合えよ」

「お断りします」

「頼むよ、俺の顔を立ててくれ」

相変わらず、ずるい人。

顔なじみの店員さんが「ご注文は?」と聞いてきたので、仕方なく「ミモザ」と答えた。

「こうして会うのは、久しぶりだな」

「そうね」

「そんな怖い顔をするなよ」

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