一方的に自分の言いたいことだけを話して、強引で。
でも、そこが良かったんだ。付き合っていた当時は。
終業後、私は新実さんに言われた通りアルフィルへ向かった。そこは2人でよく行ったBARで、新実さんから「付き合おう」と言われた場所でもある。
あの時は珍しくお酒に少し酔っていて、クールな彼とは思えないほど饒舌だった。
後で聞くと、私に告白しようとして緊張していた、と。
可愛いと思ったのを覚えている。
「来たか」
お店に着くと、カウンター席にいた新実さんが軽く手を上げた。
その奥で顔なじみの店員さんが会釈をしてくれる。
私たちの関係はもう終わっているのに、このBARのこの空間は何も変わっていないようで胸がズキッと疼いた。
新実さんと付き合っていた頃のことを、次々と思い出してしまう。
「荷物をもらったら帰るので」
「そう言わず、1杯付き合えよ」
「お断りします」
「頼むよ、俺の顔を立ててくれ」
相変わらず、ずるい人。
顔なじみの店員さんが「ご注文は?」と聞いてきたので、仕方なく「ミモザ」と答えた。
「こうして会うのは、久しぶりだな」
「そうね」
「そんな怖い顔をするなよ」