そう言って苦笑いをした新実さんは、ロックグラスを一気に煽った。
それから、ふと思いついたようなトーンで私に尋ねる。
「昨日、一緒にいた男は彼氏か」
スーパーの帰り道、新実さんに会ってしまった私は会釈だけしてその場を離れた。
そうするだけで精一杯だった。
「関係ないでしょ」
「汐里のタイプとは、全然違うように見えたけど」
「……」
そんなくだらない話をするなら、もう用は無い。
スツールから立ち上がり、荷物を持って帰ろうとした瞬間、腕を掴まれた。
「俺のところに戻ってこないか」
「……どういう意味?」
「そのままの意味だ。よくよく考えれば俺と汐里が別れる理由は無いだろ。
結婚と恋愛は別なんだから」
「ふざけないで」
「至って真面目に言っている。今でも心から愛しているのは汐里だけだ」
何よ……今さら。
どうして今になってそんなことを言うの?
愛しているなんて、付き合ってる時でも言ったことないくせに。
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動揺
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逃げるようにBARを後にして、駅に向かいひたすら歩く。
すれ違う人たちが驚いた顔をするのを見て、自分が泣いていることに気が付いた。