【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
と連絡がきたのは、日曜日の夕方だった。その頃、私はお見合いパーティーに参加していたので、会場であるホテルまで来てもらった。ロビーで落ち合って、カフェに移動する。
「パーティーには、よく参加するんですか?」
「今回が初めてです。話のネタになるかと思って」
冗談で言ったのに、伊野さんは感心したように頷く。
「何事も経験をしておくのは良い事ですね。好奇心は猫をも殺すと言いますが、経験と知識は人生を豊かにしますから」
「それ、うちの所長も言ってました」
「ケビン・エドラーの名言です。僕は本で読みました」
「そうなんですか? じゃぁ所長も同じ本を読んだのかも」
「あと、こういう名言もあって……」
伊野さんの話は、ミステリ小説のように引き寄せる力があって面白い。
他愛のない雑談は、2杯目のコーヒーが無くなる頃まで続いた。
「もうこんな時間か。すみません、本題ではない話をだらだらとしてしまって」
「いえ、興味深かったです」
「僕たち気が合うかもしれないですね」
伊野さんはそう言って笑った後、思い直したかのように「すみません」と謝った。
「失礼ですよね。でも……こんなに話しが弾む相手は久しぶりなので」