【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
懇願するような瞳で私を見つめる綾香の旦那は、「歩きながら話しませんか?」と駅の方を指さした。変なことになってしまったなぁ……。だけど、ホテル街で立ち話を続けるわけにもいかず承諾した。
「あの、さっきの女性は?」
「もう帰ったと思いますよ。ホテルに入るところまで同行する約束でしたから」
「わざと尾行できるようにって言ってましたけど、浮気の証拠を私に撮らせるつもりだったんですか?」
「そんなところです。でも、ホテルに入っただけじゃ証拠にならないですよね」
確かに、ホテルに入っただけじゃ証拠として弱い。相手の具合が悪くなり休憩していただけとか、言い逃れができるからだ。
「私が伊野さんの調査してるかどうか試したんですね」
「試すようなことをしてすみません。
綾香がどこまで本気で依頼をしたのか分からなかったので」
「クライアントの情報は漏らしませんよ」
「あなたが調査に失敗したことも、内密にするんですか?」
私を脅す気……?思わず綾香の旦那を睨み付けると、彼は眉尻を下げて泣きそうな顔をした。
「それだけ切実なんです」
「そう言われても、困ります」
「調査はこのまま続けてください。