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会いたかった
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「もしもし、お母さん」
『あんた、さっきはよくも途中で電話を切って……』
「ごめん。ねぇ、大和のおばあちゃんが骨折したって本当?」
『そうよ、大変だったんだから』
「どこの病院に入院してるの?」
『○○記念病院よ』
「分かった、ありがとう。じゃぁね!」
大和のおばあちゃんは自宅で書道教室をしていて、私も子供の頃に通っていた。優しくておおらかで笑顔が素敵なおばあちゃん。私はキク先生と呼んでいた。
「キク先生!」
病室のドアを開けると、ベッドの上に座っていたキク先生が目を丸くした。ベッドサイドには……やっぱりここにいた。大和だ。
「あら、汐里ちゃんじゃない。わざわざ来てくれたの?」
「怪我は大丈夫?」
「平気よ。ほら、ここに名医がいるでしょう?」
茶目っ気たっぷりの笑顔でそう言ったキク先生は、大和の肩をポンッと叩いた。キク先生に負けず劣らず驚いた顔をしている。
「しおちゃん、出張は……?」
「行くのやめたの」
「どうして?」
どうして、だって?そんなの聞かないと分からない?1週間も放置して、電話に出ないで、挙句の果てにも消息不明になって、私がどれだけ不安になったか……。