【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
その日も朝から尾行、張り込み業務をこなし、夕方からは綾香に提出する調査報告書を作成していた。
「対象者・伊野悠真に不貞行為を思わせる動きは見られなかった」
不意に赤城さんがパソコンを覗き込み、興味深そうに読み上げる。”ゆうま”という名前の響きに、胸がざわついた。失恋の傷は癒えるどころか、どんどん酷くなっている気がする。
「友達の旦那はシロだったんだ」
「はい」
まさか自分自身のことを報告するわけにはいかず、嘘を吐くのは心苦しいけど。結果的に別れて、何もなくなったんだからいいよね……。
「赤城さんの妹さんは、どうなりました?」
「離婚することにしたみたい。やっぱり信用を失った人とはうまくいかないって」
「そうですか……」
「どうしたの? そんなしんみりした顔しちゃって」
「いえ、別に」
「怪しい。
彼氏と何かあったでしょ~」
からかうような口調で私のオデコを突いた赤城さんは、急に表情を変えた。
「ねぇ、もしかして熱あるんじゃない?」
「そうかな……」
「絶対あるよ、しんどくないの?」
言われてみれば、少しダルイような気がする。ここのところ寝不足だったからかな? それとも失恋のせいで熱が出たとか?私にもそんな繊細な一面があったんだ。