2023年2月27日 12:24
「姉ちゃん頼む!」と泣きながら頭を下げる弟 理由に、胸が締め付けられる
「姉ちゃん、いつ帰省する?久々に会いてえよ」
ああ、伯母さんから聞いてないんだな。弟の明るい声にそう思った。実を言うとこの時、私は入院が決まっていた。持病の腎臓病が悪化し、医師から腎移植をすすめられた。
そうは言っても移植にはドナーが要る。他人同士でその型が一致する確率は数万人に一人。まさに宝くじ。だが、これが兄弟間なら可能性は四分の一。
「雅史に頼みなさいよ」
ドナーになれない伯母が心配そうに言う。私も病院でもらった腎提供同意書をじっと見つめた。もし弟が腎臓を提供してくれたら私は助かる。
だけど弟には家族がいる。彼の人生も、腎臓も私のものではない。もしドナーになると言ったら奥さんは泣くだろうか。「いいことしたね」と喜ぶだろうか。
それでもメスを入れられた身体を見たら、喜ぶより泣いてしまう気がする。
たまらず同意書をクシャッと丸めた。
入院の日、医師は早々に「このままだと五年もつかどうか」と言った。それでもいい。それでいいんだと言い聞かせた。
入院中はひたすらカタログを取り寄せた。ひとりで墓を選び、ひとりで葬式の段取りを決める。検査の結果が悪かった日に、というのが切ないのだが。