一人暮らしの母親からの電話 適当に返事していた男性が『気付いたこと』

2021年8~10月に開催された、エッセイコンテスト『grape Award 2021』。
『心に響く』というテーマを軸に、コロナ禍により変化した生活スタイルが続く中、自分の周りであった心温まるエピソードや、心が癒されるような体験談を募集しました。
寄せられた376本もの応募作品の中から、最優秀賞が1作品、タカラレーベン賞が1作品、優秀賞が2作品、選ばれています。
今回は、応募作品の中から優秀賞に選ばれた『母の宇宙ステーション』をご紹介します。
夕飯の支度を始めかけた時、電話が鳴った。ディスプレーには母の名前があった。
最近の母からの電話と言えば、一人暮らしをする孫娘達の心配ばかりだ。暗いニュースが続くせいで、心配はさらに膨らんでいる。
「どうしているんやろ」や「連絡はないの」ばかりを繰り返す。今回もそれだろうと思い、小さくため息をつきながら受話器を取った。
「もしもし、元気ですかぁ。」
母が明るい声で私の近況を問う。私は適当に返事をし、「連絡はない。ないのが元気な証拠だ」といういつもの言葉を準備した。しかし母は、
「今夜なぁ、宇宙ステーションが見られるんやって。」
と、全く予想外の話を始めた。