作業服の男性客が「こんな格好でごめん」というと… 店員の『返答』に、胸が熱くなる
日中は店の仕込みで忙しく、夜は焼き鳥の店を開いているため、かまってはもらえなかった。家族で食卓を囲んだ記憶はなく、夕飯はお皿にラップがしてあり、各自が勝手に食べるルールだった。
夜の12時前にのれんを下ろす。やっと母と話せる時間がきた。私はお店のカウンターに行く。帳簿とお金を数える母を見ながら、今日のお客さんのことや、学校のこと、たわいもない話しをするのが楽しみだった。唯一、母とゆっくり話せる時間だ。
山形は雪が深く、冬は私服に長靴の方や、農家や工場の方は作業着でやってくる。
都会の人のように洒落た服や洗練されたスーツなど見たことない。
「ママやー、こんなカッコで飲みさ来てしまった。恥ずかしちゃー、悪いのー」
仕事帰りの作業着で晩酌しにきたようだ。照れながら謝るお客さんに、母は微笑み、おしぼりを渡す。
「どげだ立派だスーツや服よりもの、私は作業着が好きだー。なぁにも恥ずかしくね。その作業着で汗水流して稼いで、家族を養ってるんだがら、どげだ格好より最高にカッコイイ姿だ」
母の生まれた家は、宴会場の舞台やお祭りの舞台でショーをする家業だった。高校を休んで泊まり込みで、一座を引き連れてどさ回りをしたこともあると話す。