泣いている女性の前に停まった、タクシー 運転手の行動に心打たれる
もう一歩も歩けなくなってしまった。私はガードレールにもたれかかって、ただ、立ち尽くしてしまった。ついに涙も決壊した。
その時、1台のタクシーが私の目の前に停車した。表示は「回送」。ドアが開き、優しそうなおじさんの声が中から聞こえる。
「タクシー、ないんでしょ。回送だけど、いいよ。
乗りな。」
車内はとても暖かかった。冷えた体も、気持ちも、じんわりと溶けていくようだった。安堵からはらはらと涙を流す私に、運転手さんはただただ優しい言葉をかけてくれる。
「僕もね、今日は酔ったお客さんばかりで疲れてたけど、最後に君みたいな頑張ってる子を乗せられて、嬉しいよ。」
涙が余計に溢れ出て止まらなかった。
家に到着して、厚くお礼を言って降りようとした時。運転手さんが私を引き止めた。
「これ、よかったらもらって。買ったけど、結局食べなかったから。
お疲れ様。」
渡されたのは、1箱のチョコレートだった。口の中に入れたチョコレートはとても甘く、疲れた体に染み渡っていった。
運転手さんにとっては、どれも些細なサービスだったのかもしれない。それでもこんなにも救われる気持ちがある。世界は小さな優しさたちでできているんだと、実感した夜だった。