エリート医師が選んだ自給自足「マシーンから人になれたよう」
医師で、栃木県那須烏山市にある「七合診療所」の所長・本間真二郎さん(51)は、寝る間を惜しんで西洋医学を究めるも、一転、栃木県での農業と自給自足を選んだ。里山に居を構え、家族と土を耕す。自家製野菜を育てながら、笑顔で暮らしている――。
「将来、医者をしている姿以外、イメージが湧かなくて。物心ついたころから、自分は医者になるって、直感的に思ってました」
札幌医大で勤務していた本間さん。優秀だった彼は32歳で、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に招聘(しょうへい)される。ノーベル賞受賞者を100人以上出している、世界ナンバーワンの研究機関だ。
渡米を1週間後に控えた日の夜。
同僚たちが、札幌医大初のNIH留学を勝ち取った本間さんの壮行会を開いてくれていた。
「あれは二次会の店に移動してすぐでしたね。誰かが『たいへんなことが起きてるぞ!』とテレビを点けたんです。そこに映し出されたのが、飛行機が高層ビルに突っ込む映像。アメリカ同時多発テロの瞬間でした」
画面を食い入るように見つめながら、本間さんはこんなことを考えていた。
「世界がひっくり返るようなことって本当に起きるんだな、と。いわゆる常識というものも、必ずしも正解ではないのかもしれんぞ、そんな思いがこみ上げてきました」